「路線バスが高速走行」の秘密
名古屋市交通局(名古屋市営バス)は、1012両のバス車両を持ち、総延長764.9kmの路線バスを営業しています。そのなかでも特殊なのが「高速1」系統。路線バス車両が高速道路を走る、珍しい路線です。
一般的な路線バス車両を運用。市章の「まるはち」マークが前面についている(写真:名古屋市交通局)
「高速1」系統は、名古屋市の栄バス停から南下し、緑区にある森の里団地バス停まで、およそ25kmを結びます。経由するのは、名古屋高速の一部である3号大高線です。円上バス停から有松町口無池バス停まで、約10分だけこの道を走ります。
「高速道路」を経由しますが、高速バス仕様の車両ではなく一般的な路線バス車両を使用しています。本来なら高速道路を走行する場合、すべての座席にシートベルトが必要で、立客がいてはいけません。にもかかわらず普通の路線バス車両で走行できる理由は、名古屋高速の法律上の位置付けにあります。
東名高速、中央道、東北道といった道路は高速自動車国道法に定められる高速自動車国道ですが、名古屋高速は道路法に規定される自動車専用道路。どちらも一般的には「高速道路」と呼ばれるものの、このような違いがあります。名古屋高速や首都高などの都市高速では合流やカーブも多いため、制限速度も基本的には60km/hです。
このように名古屋高速は高速自動車国道ではなく自動車専用道路であるため、高速バス仕様の車両でなくとも走行できるというわけです。ただし、この系統を走る車両には座席にシートベルトが取り付けられています。
「高速1」系統は、1979(昭和54)年に名古屋高速が開通したことを受け、名古屋の都市部と周辺地域を直結するという目的で開設されました。なお、名古屋高速の走行区間内にバス停はなく、ノンストップで走ります。
人呼んで「10円高速バス」そのワケは
名古屋市営バスの運賃は均一制で、系統や乗降するバス停にかかわらず210円(小児100円)です。しかし「高速1」系統だけは例外で、高速道路区間を利用する場合のみ10円の追加料金がかかります。220円ということになりますが、「10円の追加料金で高速区間に乗車できる」という意味で「10円高速バス」と呼ばれることもあるようです。
高速区間を利用する場合は220円と運賃箱に明記されている(写真:名古屋市交通局)
10円の追加料金はもちろん名古屋高速の通行料のぶんですが、該当区間の料金は大型車で1540円。ひとつの車両に154人乗っていないとペイできない計算です。これは、路線開設時に国土交通省の通達に基づいて計算したもので、現在まで据え置かれているのです。ちなみに、「高速1」系統の2016年度における営業係数(100円の収入を得るのにかかる費用)は133と、赤字路線となっています。
また、名古屋市営バスの料金は基本的に先払いです。ICカードで乗車する場合、運賃は最初から220円に設定されているので、高速道路区間に乗車しない場合は先に運転手に伝え、210円に設定してもらったうえでカードをタッチする必要があります。払い戻しなどができないので、実際に乗車する際には気をつけましょう。
ちなみに、このように一部区間のみ高速道路を走る一般路線バスは、埼玉県や神奈川県、福岡県にもあります。