車外だけじゃない、運転手に向けたカメラも
無事故を目指すため、各バス会社やメーカーが一体となって、安全な車両づくりを進めています。近年多く活用されているのはカメラ。一般的に想像されるのはドライブレコーダーですが、それだけではありません。
2018年7月に改良型が発売された日野の大型観光バス「セレガ」。ドライバーが異常をきたした際、乗客がバスを強制的に停止させる装置を商用車で世界初導入した(画像:日野自動車)。
まずは、バスのフロントガラスに取り付けられるカメラ。代表的なのは「モービルアイ」です。車間距離の詰まりやふらつき運転などをカメラが検知し、警報音で運転手に危険を知らせます。また、ウィンカーを出さずに車線を逸脱した場合や、歩行者と衝突する危険がある場合もそれぞれ検知できます。価格は約22万円(本体価格と取り付け工賃の合計)ですが、国土交通省による事故対策費補助制度の対象機器となっており、1社あたり80万円を上限として、導入金額の半額が補助されます。
バスは車体が大きく死角が多いこともあり、単純に車外の映像を運転席のモニターに表示するシステムも普及しています。多くは左右のミラーなどにカメラが取り付けられ、駐車時の事故や左折時の巻き込みなどを防ぐのに一役買っています。また、「ミリ波レーダー」という技術で障害物を検知する方法もあります。車外へ発した電波の反射を利用して障害物の位置や距離を測るもので、霧、雨、逆光などの影響を受けにくく、その点ではカメラよりも秀でているといえるでしょう。
車外に向けたカメラではなく、運転手側を“監視”するものもあります。「注意力低下警報システム」などと呼び、運転手の顔の向きや目線をカメラで検知、集中力が低下していると判断された場合に画面表示や警報でドライバーへ知らせます。
こういった機器の開発が進んでいますが、これらはあくまで運転を「サポート」するものです。やはり、バスの安全な運行は最終的には「人」が守るものだといえるでしょう。
車内の移動も多い路線バス、構造の工夫で安全確保へ
バスの場合、車外だけでなく車内の安全にも注意しなければなりません。
高速バスでは基本的に全員が着席し、シートベルトをしていますが、一般路線バスでは乗客の車内移動やバスの停止・発進が多く、特に高齢者の転倒事故が発生しています。各バス会社では利用者への注意喚起を行っていますが、おそらくそれだけで事故をゼロにするのは不可能。車両の構造自体を改善したり、運転手が車内の状況を確認しやすくしたりする方策が必要でしょう。
国土交通省が推進し、実用化が進められているのは、車内の車椅子スペースなどの拡大、ステップ部の傾斜除去、運賃箱の薄型化による通路の拡大などです。また、大きく変わってきたのが優先席の向き。バスの優先席は従来「横向き」(進行方向に対して平行)なのが普通でしたが、ほかの座席と同じく進行方向に向いた車両が増えています。
これは2015年に実施された国土交通省標準ノンステップバス認定制度の変更を受けての動きです。同省によると、横向きの優先席では立ち上がり時の転倒事故が多いことから前向きにしたとのこと。しかしながら、足の不自由な人などは横向きのほうが座りやすく、かえって不便になっているという声もあるようです。
メーター上に運転手を見るカメラが取り付けられ、ディスプレイ表示で注意喚起する「注意力警報システム」(画像:ジェイアールバス関東)。
夜間や霧中でも前方を検知できる「ミリ波レーダー」を利用した安全システム「PCS」(画像:日野自動車)。
日野「セレガ」の改良型には全座席ELR付き3点式シートベルトが備わる。ELRは衝突や急制動を検知し自動でロックする装置(画像:日野自動車)。
乗客が立っているのに発進してしまうことを防ぐため、車内ミラーも地味ながら変わっています。一般的に平面鏡と曲面鏡がありますが、前者は車内の状況を把握しやすい代わりに見える範囲が狭く、後者は見える範囲が広い代わりに、歪んで見えてしまうため実際の状況が把握しづらいという欠点がありました。国土交通省は標準ノンステップバス認定制度の変更以降、車内ミラーは従来より大きく、かつ曲率の大きくないものの導入を推進しています。細かな変化ですが、車内事故を減らすための努力が続けられているのです。
※記事制作協力:風来堂
【画像】路線バス車内はこう変わった 国交省認定「標準仕様」とは
国土交通省認定標準仕様ノンステップバス、2015年におけるおもな変更点(画像:国土交通省)。