九州北部豪雨で橋りょう流失
JR九州は2018年7月14日(土)、2017年の九州北部豪雨で一部不通になっていた久大本線の運転を全線で再開しました。JR九州は博多駅で久大本線・由布院行きの特急「ゆふいんの森1号」の出発式を開催。同線の全線復旧を祝いました。
本来のルートで運転を再開した久大本線の特急「ゆふいんの森1号」。博多駅で出発式が行われた(2018年7月14日、草町義和撮影)。
久大本線は、福岡県久留米市の鹿児島本線・久留米駅と、大分市の日豊本線・大分駅を結ぶ、全長141.5kmの鉄道路線です。2017年7月に発生した九州北部豪雨の影響により、大分県日田市内の光岡~日田間で列車を運転できない状態になりました。
JR九州は光岡~日田間で代行バスを運行。久大本線経由の特急列車は「ゆふいんの森」が小倉経由で博多~由布院間を結ぶ臨時列車として運転を再開し、「ゆふ」も日田~大分、別府間のみ臨時列車として再開しました。今回、光岡~日田間の復旧により代行バスの運行が終了し、「ゆふ」「ゆふいんの森」も水害が発生する前の久留米経由のルートで再開しています。
光岡~日田間の営業キロは2.4kmと短く、復旧もそれほど時間がかからないように思えます。しかし、この区間には花月川を渡る、全長約80mの花月川橋りょうがありました。5本の橋脚と6本の鉄桁で構成された橋でしたが、九州北部豪雨の影響で花月川の水量が急激に増加。橋脚が倒壊してしまったのです。
花月川橋りょうは完全に新しい橋を作り直すしかなく、復旧に1年という長い時間がかかりました。それでも橋りょうが流失した直後は3年かかると言われていましたから、むしろ早く復旧できたといえます。ちなみに、新しい花月川橋りょうは橋脚の数が3本減って2本になり、川の流れの影響を受けにくくなりました。
福岡県知事「日田彦山線も」と話すが…
出発式に出席したJR九州の青柳俊彦社長は「1年という短い期間で復旧できましたが、沿線の皆さんにとっては長い1年だったと思います」とあいさつ。一方、福岡県の小川洋知事は「日田彦山線につきましても、1日も早い復旧に向けて協議を進めていきたいと思います」と話しました。
日田彦山線の添田~夜明間も九州北部豪雨で大きな被害を受けた(画像:JR九州)。
小川知事が話した日田彦山線は、北九州市の日豊本線・城野駅と日田市の久大本線・夜明駅を結ぶ、全長68.7kmのローカル線です。久大本線と同様に九州北部豪雨で大きな被害が発生。いまも不通になっているのは添田~夜明間の29.2kmですが、運転再開の目標時期は示されておらず、それどころか復旧工事に着手するめども立っていません。
この区間は久大本線以上に被害が大きく、路盤の崩壊や橋りょうの破損など63か所で被災。復旧の費用は70億円と見込まれていて、JR九州は自社単独での復旧は難しいと考えています。福岡県と大分県は、災害復旧事業の補助制度を活用するなどしてJR九州の負担を抑える案を示しています。
しかし、問題はこれだけではありません。添田~夜明間は沿線の過疎化や自動車へのシフトで利用者が減少。久大本線と異なり特急列車は運行されておらず、訪問者が多い観光地もありません。1日1km平均の通過人員(輸送密度)は1987(昭和62)年度が665人だったのに対し、2016年度は131人に減少。仮に復旧費用の問題を解決して運転再開にこぎ着けたとしても、すぐに運営が立ちゆかなくなる可能性があるのです。
復旧後の運営方式で沿線自治体が難色
ちなみに、経営の悪化を受けてローカル線の整理を進めているJR北海道の場合、輸送密度が2000人未満の路線を単独維持が困難な路線としており、このうち200~2000人の路線は「上下分離方式」の導入を軸に沿線自治体と協議する方針を示しています。
この場合の上下分離方式は、沿線の自治体が線路を保有し、鉄道会社は自治体から線路を借りて列車を運転する運営方法のこと。自治体が線路を保有することで鉄道会社の負担が少なくなり、利用者の少ない鉄道路線でも維持しやすくなるというメリットがあります。
JR九州と沿線自治体は、2018年4月から復旧の方法などに関する協議を開始。JR九州は上下分離方式の導入も視野に入れて沿線自治体と議論したい考えのようです。その一方、日田市など沿線自治体は上下分離方式の導入には難色を示しています。線路を保有することで財政負担が大きくなるためです。
もし沿線自治体が上下分離方式の導入を最終的に受け入れなかった場合、添田~夜明間は鉄道を廃止してバスに転換される可能性が高くなります。今後のJR九州と沿線自治体の協議が注目されます。
ちなみに、2018年6月28日以降の台風7号や梅雨前線による「平成30年7月豪雨」でも、西日本を中心に北海道や東海地方でも一部の鉄道路線が被災。そのなかには利用者が少なく厳しい経営を強いられているローカル線もあります。災害による不通を機に上下分離方式を導入したり、あるいは鉄道を復旧せず廃止してバスに転換するケースは、今後さらに増えていくとみられます。