「モヒカン族」ではなく「モヒカン刈り」のほう
ANA(全日空)のコーポレートカラー(企業を象徴する色)といえば青ですが、ひと口に青といっても、濃い青と薄い青の2色が使われています。メインは濃い青のほうですが、同社の飛行機の塗装やロゴマークを見ても、必ず薄い青が控えめに添えられています(特別塗装機などの例外もあります)。
ANA機では、機体から尾翼にかけて濃い青と薄い青が塗られる(2016年3月、恵 知仁撮影)。
この薄い青は「モヒカンブルー」と呼ばれ、かつては広く知られていたといいます。ただし、JIS規格における「物体色の色名」にその名前はありません。「モヒカン」といえば髪型の名前か、北米の先住民であるインディアンの部族名ですが、なぜANAはコーポレートカラーにその名前を使っているのでしょうか。ANAに聞きました。
――なぜ「モヒカンブルー」と呼んでいるのでしょうか?
現在コーポレートカラーの基調としている濃い青色が登場する以前に、機体のラインカラーとして使用していた色で、そのラインの引き方にちなんだ名称です。当時の当社機は、機首から尾翼にかけて薄い青色のラインが引いてあり、これがモヒカン刈りのように見えることから「モヒカン塗装」「モヒカンジェット」などと呼ばれていました。
「モヒカン塗装」の復刻機。正面から見るとモヒカン狩りのように見える(画像:pixta)
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ちなみに一般的な色の名称としては、「モヒカンブルー」はセルリアンブルーになるそうです。
「モヒカン」から「トリトン」へ なぜ変わった?
――濃い青のほうは何と呼んでいるのでしょうか?
「トリトンブルー」といいます。一般的にはコバルトブルーと呼ばれる色ですが、嵐を鎮める「安全の神」として崇められていたギリシャ神話の海神トリトンにちなみ、「安全運航」をかけて「トリトンブルー」と名付けました。ただ、機体の塗色変更にあたってはそれまで約20年にわたり親しまれてきた「モヒカンブルー」を生かしつつ、「トリトンブルー」を基調としたツートンカラーにしています。
――塗色変更はいつ、なぜ行われたのでしょうか?
「トリトンブルー」を基調とした塗装の機体は、当社が創立30周年を迎えた1982(昭和57)年12月に1号機が登場しました。翌年6月のボーイング767就航を契機にブランドイメージを刷新するという目的があり、1号機登場と同時にスタッフのユニフォームも一新しています。新塗装には、「全日空の将来的な発展を示唆すること」「高速の飛行にマッチし、しかも威厳があり、バランスがよいこと」「遠距離からでも、またどのアングルからでも同一の視認性イメージを保てること」といったデザインコンセプトがありました。
1969年登場のボーイング737-200。「モヒカン塗装」はまずこの機材に導入された(画像:ANA)。
「モヒカン塗装」のボーイング727-100。ANAでは1964年から1974年にかけて運航された(画像:ANA)。
1974年登場のロッキードL-1011「トライスター」。後にトリトンブルーの機体も登場し、1995年まで運航された(画像:ANA)。
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ちなみに、「モヒカン塗装」1号機の登場から40年目にあたる2009(平成21)年、ANAはボーイング767でこの塗装を復刻。尾翼にはANAの旧社章である「ダヴィンチのヘリ」も描かれ、2014年まで運行されました。
復刻塗装機で乗務したこともあるというANAの担当者は、「とても好評でした。お客様からは『これを狙ってたんです』とおっしゃっていただくこともあり、機体の写真を撮られる方も多くいらっしゃいました」と話します。ただ現時点で「モヒカン塗装」再復刻の予定はないそうです。