「アレグラ」の由来はヨーロッパの山国
観光地として知られる神奈川県の箱根。同地で行楽客の輸送などを担っている箱根登山電車(箱根登山鉄道)に2017年5月、新たな車両が登場します。
箱根登山電車の新型車両、3100形「アレグラ号」(2017年4月、恵 知仁撮影)。
その名は3100形「アレグラ(ALLEGRA)号」。箱根登山電車が姉妹提携するレーティッシュ鉄道の地元、スイス・グラウビュンデン州における希少言語であるロマンシュ語のあいさつ言葉が「アレグラ」の由来です。
箱根登山電車ではすでに、3000形「アレグラ号」が2014年11月より走っていますが、このたび登場する3100形「アレグラ号」は、それと基本仕様を同じにしつつも、大きく変わった点があります。
さらに「箱根」を楽しめるようになった3100形「アレグラ号」 すでに運行されている3000形は、車両の両端に運転席を持つ、1両(単行)運転ができるタイプ。対し新しい3100形は、車両の片側にだけ運転席がある2両編成タイプになっています。1両の3000形と2両の3100形を連結した3両編成での走行も可能です。
2両編成の3100形「アレグラ号」。
3100形「アレグラ号」車内には日本とスイスの国旗が。
2両編成だが、車両間の移動は不可。異常時のみ可能。
箱根登山鉄道によると、名前も基本仕様も同じ「アレグラ号」ながら、2両編成タイプの3100形は、さらに「箱根登山電車の特徴」を楽しめるようになったといいます。
「天下の険」を実感できる箱根登山電車3100形「アレグラ号」
2両編成化により、車両端の運転席が片側で不要になるため、3100形では連結部分の窓を乗客用に大型化。そこから箱根の車窓、そして半径30mという急カーブの走行シーンをより楽しめるようになったそうです。
「半径30mのカーブ」というのは、半径30mの円の弧と同じカーブという意味で、一般的な鉄道としてはかなり急。険しい地形を行く“登山電車らしいもの”といえます。
大きな窓がある3100形「アレグラ号」の連結部分。
床付近から天井近くにまでおよぶ連結部分の窓。
スカートをよく見ると、連結器の下にライトがふたつある。
2両編成の3100形「アレグラ号」では、この急カーブを「く」の字状に折れ曲がりながらクリアしていく場面を、2両の車両が連結している部分、すなわち“列車の折れ曲がった部分”から大きな窓で眺めることが可能。車体をうねらせ、車輪をきしませて「天下の険」箱根を行く旅の情景を、臨場感万点で楽しめるよう配慮されています。
またこの3100形では、新たに車両前面のスカート部分(車体の下)にライトが搭載されました。急カーブでの視認性向上を目指したものといい、「箱根登山電車らしい装備」といえるかもしれません。
「水」をまきながら走っている箱根登山電車、その理由は?
箱根登山電車では「水」をまきながら走行しています。かんたんにいえば、車輪とレールが強くこすれる急カーブで、レールの摩耗を抑えるためです。一般的にはそのような場合、油を使う場合が多く見られますが、箱根登山電車は80パーミルという一般的な鉄道では日本一急な坂道があるなど、油を使うと安全上の懸念があるため、水をまいて摩耗を抑えつつ、走っているのです。「80パーミル」とは、水平距離1000mあたり80mの高低差がある坂道、という意味になります。
このたび登場する3100形「アレグラ号」も、約350リットルの水タンクを2両編成の4か所に搭載。状況によって異なるものの、箱根湯本~強羅間(片道8.9km)の往復で、およそ半分の水を使うそうです。
左に水タンク。車輪の左下付近に、水が出るホースがある。
車輪間にレール圧着ブレーキ。急坂での安全性を確保するための、登山鉄道らしい装備。
3100形「アレグラ号」の車内。
箱根登山鉄道によると、3100形「アレグラ号」は次世代の標準車両という位置づけで、その導入により輸送力増強などが実現するそうです。
また3000形、3100形「アレグラ号」のデザインは、箱根観光における“顔”のひとつである小田急電鉄の特急ロマンスカー50000形「VSE」などと同じ、岡部憲明アーキテクチャーネットワークが担当しています。箱根登山鉄道は小田急グループです。
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