「壊す部分」を選んで早期に復旧
道路や鉄道を建設する場合、川を渡る部分には橋を架けます。自動車や列車が通る橋では、当然ながら自動車や列車の重さに耐えられる構造で設計しなければなりません。頻繁にやって来る台風や、ときどき発生する小さな地震でも橋が壊れないよう頑丈に建設し、大規模な修繕を行う必要がない程度の強度を持たせる必要があります。
川をまたぐ橋が寸断されると物流に大きな被害が発生する(2010年4月、草町義和撮影)。
しかし、「数千年に一度」といわれるような大規模地震でも「全く壊れない橋」を設計して建設することは一般的ではなく、むしろ「全く壊れないのは危険」といいます。なぜ壊れないと危険なのでしょうか。
内山久雄監修、原隆史著『土木構造物の設計』(オーム社)によると、「どこも損傷しない構造物を設計した場合、どこが損傷するのかわからない」ためといいます。
地震のメカニズムは完全には解明されていません。仮に「数千年に一度」といわれるような大規模地震を想定して「全く壊れない橋」を設計、建設したとしても、比較的近い将来に「数千年に一度」を上回る規模の「超大規模地震」が発生する可能性もゼロではありません。
そのような地震に遭遇すれば、「全く壊れない橋」も壊れる可能性が高くなります。しかも「全く壊れない」ことを想定して設計されているため、実際にどの部分が壊れるのかも、よく分からないのです。そのために損傷した部分の発見が遅れ、かえって危険な事態に陥るかもしれません。
こうしたことから橋の設計に際しては、大規模地震が発生したときに壊れる部分を選定し、その部分を補修しやすい構造にするのが一般的です。「壊れる」というよりは「壊す部分」をあらかじめ選んでおくのです。このように設計すると、地震の発生後に損傷の有無を発見しやすくなるといいます。また、修繕しやすい部分を「壊す部分」に選ぶことで、早めに復旧することも可能になるのです。
道路橋の場合、橋脚の基部が「壊す部分」として選ばれることが多いようです。これは1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災での経験に基づくもの。『土木構造物の設計』は選定理由として「(損傷の)発見のしやすさや復旧時の容易さ」などを挙げています。
【写真】爆撃で破壊された鴨緑江の鉄道橋
中国と北朝鮮を隔てる鴨緑江に建設された鉄道橋(鴨緑江第1橋りょう)。朝鮮戦争時に国連軍の爆撃によって破壊された(2010年4月、草町義和撮影)。