毎秒20ギガビットの高速通信も可能に?
情報や電波に関する研究・開発などを行う国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)は2018年4月26日(木)、500km/hの高速列車などでも毎秒20ギガビットの高速通信を可能とする方式の実験に成功したと発表しました。
高速移動中でも途切れない通信方式のイメージ(画像:情報通信研究機構)。
スマートフォンなどの普及により、新幹線などで高速移動している際にも通信する機会が増えていますが、無線局が頻繁に切り替わるときに通信が途切れることがあります。
また、建設が進むリニア中央新幹線は、500km/hの営業運転が計画されており、山梨実験線で行われているJR東海の体験乗車も最高500km/h走行を行っています。
このような現状などを踏まえ、NICTは、線路に沿って無線局を設置して直線状にカバーエリアを構成していく「リニアセル方式」と、無線信号を光ファイバで伝送する「ファイバ無線技術」を組み合わせた通信技術として次の方式を開発しました。
ひとつ目は、ファイバ無線技術を用いた高速無線局切り替え方式。これは無線局ごとに異なる波長の光信号を割り当てて、列車の走行位置に合わせて、配信する光信号を高速で次々と切り替えていく方式です。
「ファイバ無線技術を用いた高速無線局切り替え方式」にのおける無線局の切り替えイメージ(画像:情報通信研究機構)。
「ふたつの無線局からの無線信号の干渉を低減する方式」の実験構成とその結果(画像:情報通信研究機構)。
ファイバ無線技術でミリ波を送信するイメージ(画像:情報通信研究機構)。
ふたつ目は、無線局からの無線信号の干渉を低減する方式。これは、隣り合うふたつの無線局に送信する光信号を制御して、無線信号の干渉を低減する方式です。具体的には、「アンテナ1」と「アンテナ2」から到来する電波のタイミングをそろえて、両電波の波形が重なってもゆがまずに元の波形を再生できるようにします。
また、ミリ波を利用した大容量無線通信技術も使用。光信号の周波数差と無線信号(ミリ波)の周波数差をそろえて周波数の揺らぎが少ない光信号を光ファイバで伝送します。
列車に「伴走」させるように信号を配信
大容量通信が可能な周波数の高い電波は到達距離が短く、そのため無線局をこまめに設置する必要がありますが、そうすると無線局の切り替えが頻発するデメリットが生じます。光ファイバは、金属ケーブルと比べて伝搬損失が少ないため、「ファイバ無線技術」は、周波数の高い電気信号を長距離伝送できる特長があります。
また、一般的に高速鉄道は、列車の走行位置が運転指令所で集約管理されるシステムであるため、その位置情報に基づいて、信号を配信する無線局を決められます。走行する列車に対して、沿線の無線局から信号を“伴走させるように配信”していくことで、途切れない通信システムの構築が可能になるとしています。
NICTは、「リニアセル方式」と「ファイバ無線技術」を組み合わせて大容量無線通信を実現させた場合、無線局の切り替えによる通信断絶を極小化できると説明。仮に、1km間隔でミリ波無線局を配置し、500km/h(無線局間をおよそ7秒で通過)で走行しても、無線局を切り替えながら毎秒20ギガビットの信号が送信可能になるといいます。
今後は、鉄道総合技術研究所など他企業・機関と共同で、実際の鉄道路線で実証実験を行い、産学官連携の共同開発研究と社会実装を加速していくとしています。
【図】現在と新方式のネットワーク、どう違う?
現在と新方式それぞれの通信ネットワークの構築イメージ(画像:情報通信研究機構)。