イーロン・マスク氏の発想からスタートした「ハイパーループ」
韓国の政府系研究機関は2017年7月21日、米ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(Hyperloop Transportation Technologies)社からの技術協力を得て、「ハイパーループ」の開発を進めると発表しました。
ハイパーループの基本的な原理は、減圧された「チューブ」のなかを「ポッド」という車両が浮上しながら移動するというもの。その移動速度は1200km/hと、JR東海が建設を進めている超電導リニアの約500km/hだけでなく、一般的な旅客機の巡航速度である約900km/hよりも速くなる構想です。2017年8月現在、サンフランシスコ~ロサンゼルス間や、アラブ首長国連邦のドバイにて建設が計画されています。
ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズによるポッドのデザイン(画像:ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ)。
ハイパーループの構想は、アメリカでオンライン決済システムのPayPalや電気自動車のテスラ、そして宇宙開発企業のスペースXを立ち上げたイーロン・マスク氏によるもの。
数年前よりカリフォルニア州では、サンフランシスコ~ロサンゼルス間を結ぶ高速鉄道の計画が持ち上がっていますが、その建築費用は700億ドル(約7.7兆円)と極めて高価。ならば自分はもっとうまくできるとばかりに、マスク氏は2013年8月にハイパーループの構想を明かしたのです。ハイパーループは約640kmあるサンフランシスコ~ロサンゼルス間を約30分で移動でき、建設費も60億ドルから100億ドル(約6600億円から約1.1兆円)に収まるとされています。
ただし、実際にハイパーループの開発や路線の展開を行うのはマスク氏の会社ではありません。現在は上記のハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズと、同じくアメリカのハイパーループ・ワン(Hyperloop One)社が、独自に開発を進めています。2017年8月の記事執筆時点では、ポッドの開発やデモ走行などの点においてハイパーループ・ワンが一歩リードしているようです。
移動方式は超電導リニア風
ハイパーループが浮上し移動する仕組みは超電導リニアと似ており、磁力が引きあったり反発しあったりする力を利用してポッドを浮上・推進させる「磁気浮上方式」が採用されています。当初はポッドの先頭で空気を取り込み、車体から噴出すことで浮上する「空気圧浮上方式」も検討されていましたが、この案は破棄されました。
「磁気浮上方式」といっても、超電導リニアが極低温に冷却した超電導コイルを利用するのとは異なり、ハイパーループはポッドの浮上に「永久磁石」を利用することが計画されています。
ハイパーループの走行システム(画像:ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ)。
それによれば、ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズがローレンス・リバモア国立研究所(アメリカ)からライセンスを得た「インダクトラック方式」という方法で永久磁石を配置すると、通常より50倍も強力な磁力が利用でき、この力でポッドを浮上させるとのことです。
このように永久磁石を利用することで、ハイパーループのポッドは浮上するための電力が必要なくなると期待されます。そして、超電導リニアより省電力な運行ができるかもしれないのです。ポッドやチューブに採用される推進方式、あるいは浮上方式は今後もさまざまな案が検討される予定ですが、いずれにしろ既存の高速鉄道とは異なる、高効率かつ低コストな手法の採用が期待されています。
300km/hは達成済み 今後の課題とは?
ハイパーループはすでにアイデアの段階を脱しており、2017年2月にはスペースXの本社近くで、大学などが独自に作成したポッドの技術コンペ「ハイパーループ・ポッド・コンペティション(Hyperloop Pod Competition)」が実施されました。
また、ハイパーループ・ワンは2017年4月に実物大のテストコースをラスベガス郊外に完成させており、2017年5月には初めて走行テストを実施、ポッドが5.3秒間浮上し、約30mを移動しました。のちに、全長約8.7m、高さ2.7mからなる実物大のポッド「XP-1」も披露しています。さらに2017年7月には、テスト走行で310km/hを達成。ハイパーループ・ワンは「加速距離を伸ばせばさらに走行速度を伸ばせる」と表明しています。
ハイパーループ・ワンが公開した、実物大の車両「XP-1」(画像:ハイパーループ・ワン)。
ただし、ハイパーループの計画には問題点がいくつも指摘されています。
まず、ポッドの加速や減速に乗客が耐えられるかどうかが問題です。乗客に負担をかけずに1200km/h近くまで加速するには、かなり長い加速時間が必要でしょう。またこれだけの高速移動体ですから、軌道はいかにカーブを避けて設置できるかも重要です。それだけでなく、ポッドとチューブの運行に必要な電力をどのようにして調達するのか、そして小さなポッドが数多くチューブ内に存在した場合の管理はどうするのか、などが指摘されています。
今後ハイパーループ・ワンは、減圧されたチューブとポッドを接続し、乗客の乗り降りに利用される「エアロック」の開発を進めるとしています。なんとも夢のあるハイパーループの計画ですが、実用化までに乗り越えなければならない問題点も多そうです。
【写真】ラスベガス郊外に設置されたテストコース
ハイパーループ・ワンがラスベガス郊外に設置した、ハイパーループのテストコース(画像:ハイパーループ・ワン)。