死者は出ず F-35が初めて墜落大破
2018年9月28日(金)、アメリカ海兵隊の短距離離陸垂直着陸型(STOVL)戦闘機ロッキード・マーチンF-35B「ライトニングII」が、アメリア東海岸サウスカロライナ州ビューフォート海兵隊航空基地近辺において墜落、大破するという事故が発生しました。パイロットは緊急脱出(ベイルアウト)したと見られ死者はありませんでした。
原因は調査中であり現在のところ明らかとされていませんが、F-35の墜落事故は今回が初となります。
クラッシュリカバリー(墜落復旧)訓練のためクレーンによって吊るされるF-35。損傷しても胴体着陸などダメージが小さい場合は飛行状態に戻せる(画像:アメリカ空軍)。
F-35は2006(平成18)年に初飛行。2015年には今回事故を起こしたSTOVL型F-35Bが海兵隊において実戦配備されました。今年2018年までに通常離着陸型F-35A、艦上戦闘機型F-35Cと合わせて300機が生産され、20万飛行時間無事故の記録を達成していました。
今回のF-35B墜落によって無事故記録は途絶えてしまいましたが、それでもなお、これは開発されたばかりの戦闘機としては異例中の異例ともいえるほど大記録であると言えます。
これまでの戦闘機は開発中または実用化間近においてはどうしても事故が多発しやすい傾向がありました。実際F-22「ラプター」も最初の10万飛行時間において3機が墜落しています。
飛行時間と事故の悩ましい関係
F-22は2017年度時点において28万9035飛行時間に到達しており、2018年現在はおそらく30万飛行時間を超えていると見られますが、直近20万飛行時間においては1件しか墜落が発生していません。総計で見た場合は10万飛行時間あたり約1.3機が失われている計算となります。
一方F-35は現在のところ1機墜落のみですので、10万飛行時間あたり0.5機と、墜落事故が発生しやすい時期にも関わらずすでにF-22の半分以下であることは驚異的と言えます。
墜落したF-35Bの同型機。STOVL型で、アメリカ海兵隊にて運用されている(画像:アメリカ海兵隊)。
F-35は2019年度第11期低率初期生産において、年産141機を計画されており、総飛行時間は今後大幅に増大します。ピーク時は3000機以上が現役となる見込みであり、1機の戦闘機は年間におおむね200飛行時間から300飛行時間ほど使用されるため、年間60万から100万飛行時間使用されることになります。
したがって、仮に今後10万飛行時間あたり0.5機で推移した場合も、年に5機近くは墜落します。今後かなりのF-35が失われることになるのは避けられません。よって、すでに過去に例がないほど低いF-35の事故発生率をさらに低下させることが、重要な課題となるでしょう。
F-35はなぜこれほど落ちなかったのか、そのひとつのワケ
かつてF-22は、パイロットが意識障害に陥るという原因不明の欠陥に悩まされ、それに起因する墜落も発生。2011(平成23)年にはアメリカ空軍の歴史上最長となる、4か月半にも及ぶ飛行停止処分が下されました。
空中給油を受けるF-22(画像:アメリカ空軍)。
これは新開発されF-22で初めて実用化された「フルカバー対Gスーツ」が、呼吸を阻害したものであると後に判明しました。欠陥は修正され飛行停止は解除されています。同じフルカバー対GスーツはF-35のパイロットも使用しており、もしF-22がこれを使用していなかった場合、F-35において同様の墜落事故を含む問題が発生していたかもしれません。F-35の極めて優秀な事故率の低さは、これまで無数に積み上げてきた欠陥の修正と運用ノウハウの上に成り立っていると言えます。
F-35の開発はスケジュール遅延との闘いでした。従来の戦闘機では開発難航といえば墜落など事故や機体上の欠陥に起因するものが多くを占めていましたが、現代戦闘機は乗りものとしてはほぼ完成されきっており、むしろそうしたハードウェア上の問題よりも、高機能なセンサーの制御や情報処理するためのソフトウェア開発に手間がかかるようになってしまっています。
今回の事故や開発遅延の事実をもって、F-35を欠陥機であるとみなすことはできません。
【画像】F-35A最新ロットは9000万ドル割れ
F-35第11期低率初期生産(LRIP)のファクトシートより。5.4%コストダウンを実現しており、ABC型計141機が生産される予定(画像:ロッキード・マーチン)。
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