一般車両通行止めの有料道路をバスに開放した「BRT」
2018年7月上旬の西日本豪雨では、中国・四国地方を中心として多くの鉄道路線に被害をもたらしました。それぞれ復旧作業が進められてはいますが、路線や区間によっては数か月から1年近くの長期にわたる運休が見込まれています。
広島から呉方面へ向かう通勤通学バス。国道31号走行区間では、朝のみ呉方面行きにバスなどの専用レーンが設定される(画像:呉高専 神田研究室)
広島県の瀬戸内海沿いを走るJR呉線も、そうした路線のひとつです。2018年8月20日現在、海田市~坂間を除く大半の区間で運休が続いており、現在のところ復旧は秋ごろから年明けと見込まれています。そうしたなか、約22万6000人の人口を擁する呉市では、JR呉線ばかりか並行する国道31号、そして有料道路である広島呉道路(クレアライン)も被災。一時は孤立状態に置かれ、広島港と松山港を呉港経由で結ぶフェリーが唯一の公共交通機関となった時期もありました。
その後、国道31号が一部区間で応急的な迂回路経由ながらも復旧し、広島市と呉市を結ぶバスの運行が始まりましたが、道路の渋滞が激しいためにバスの所要時間が読めない状態が続きました。そこで、7月17日から導入されたのが、「災害時BRT」です。
このシステムは、JR呉線の定期券・回数券を持った利用者向けに設定された、広島市方面への通勤通学向け直行バスの運行開始にあわせて導入されました。BRT(Bus Rapid Transit)とは本来、専用の走行空間を有して速達性と定時性、大量輸送を確保したバスによる輸送システムで、東日本大震災により被災した東北のJR気仙沼線および大船渡線では、線路用地を専用道路に転用してバスを運行するといった取り組みが行われています。今回の場合は、被災し一般車両が通行止めとなった広島呉道路の一部区間を、バスも通行可能とすることで、国道31号の混雑を回避し、定時性や速達性を確保するというものです。
効果絶大「災害時BRT」 命名に込められた想いとは
「災害時BRT」の導入効果は絶大でした。7月17日の運行開始日に呉工業高等専門学校の神田佑亮教授らグループが実際に計測した結果では、呉駅前から広島駅前までの所要時間は、バスの場合速い便では40分程度、遅い便でも70分程度。一方、国道31号経由で同じ区間、ほぼ同じ時間帯を自家用車で実走したところ、2時間以上を要しています。
具体的なルートは、被害が大きく復旧に時間を要する坂南IC~天応西IC間は国道31号を、それ以外はおもに広島呉道路を経由します。ところが、天応西ICは広島方面だけに出入り口がある構造のため、呉方面からの出入りができません。そのため、広島寄りの本線上でバスをUターンさせるという“奇策”によって、同ICの利用を可能にしました。
運行開始後も、広島から呉へ向かうバスは朝ピーク時に2時間を要していましたが、7月26日からは坂北ICの本線料金所にバス専用レーンを設置(呉方向のみ)。また8月9日からは朝のみ国道31号の一部区間にもバス専用車線を設置する対応が行われています。なお、専用レーンは災害関係車両やバイクなども通行可能です。
広島~呉間の通勤通学バス運行経路。JR呉線の代行輸送を担う広島駅発着と、広島バスセンター発着の2ルートがある。濃い青は広島呉道路で特に被害が大きい箇所(画像:広島県)
この「災害時BRT」のアイデアを行政に提案したのも、先述した呉高専の神田教授です。交通や地域計画、公共政策を専門とする神田教授からの提案は7月13日になされ、3連休のあいだに関係各所による検討を経て、翌営業日である17日の実現にこぎつけました。
神田教授によると、「災害時BRT」という名称には渋滞緩和につなげるだけでなく、あえてこうした言葉を使うことで一般の方に関心を持ってもらい、この事例を今後の災害発生時にも役立ててほしい、という意図が込められているといいます。
いま、呉線の代行バスは、幅広い地域の事業者から応援に駆けつけたバスで運行されています。災害が起きないことがもちろん望ましいのですが、災害発生後に公共交通手段を確保する策として、「災害時BRT」は今後の参考例となるかもしれません。