京王の歴史になかった外観デザインと「5000」の意味
京王電鉄が16年ぶりに投入する新型車両5000系が2017年7月19日(水)、報道陣へ公開されました。
同社は2018年春から、通勤利用などを想定した有料の座席指定列車を初めて運行する予定で、この5000系はそれに向けて製造された車両。京王電鉄の新しい時代を担うべく、さまざまな新しい特徴を持っているのがポイントです。
京王電鉄の新型車両5000系。有料の座席指定列車などに使われる(2017年7月19日、恵 知仁撮影)。
この新型車両が持つ「5000系」という車両形式は、1963(昭和38)年に登場し鉄道友の会から「ローレル賞」が贈られるなど、京王電鉄を代表する“名車”ともいわれる初代5000系の名を受け継ぐもの。首都圏の各私鉄で着席需要の取り込み、沿線価値の向上を目指し、有料の座席指定列車が増えるなか、このたび多数の「新しさ」「京王初」を携えて登場する新型車両5000系にかける京王電鉄の意気込みが、その「5000」にもうかがえます。
まず外観について、新型車両の5000系は先頭車両の長さが従来より500mm延長され、これまでの京王車両にはなかった流線形風のシャープな先頭形状に。既存車両との違いが明確化された、新しい時代の到来を想起するものになっています。
京王電鉄の初代5000系電車。写真は一畑電車に譲渡された車両(画像:photolibrary)。
シャープな先頭部分に合わせられた前照灯の形状。
新型車両5000系の運転台。
スカート(車両前面の下部にある、線路上の障害物を車輪部分へ巻き込むのを防止するもの)も、そうしたやや流線形をした車体に合う丸みを帯びた立体的な形状で、京王電鉄のコーポレートカラーである鮮やかな「京王レッド」が目を引きます。前照灯も、シャープな先頭部分に合わせた形状にされました。正面のカラーリングに用いられている「黒」は、スマートな列車を表現しているそうです。
前照灯にはLED、行先表示器には視認性の高いフルカラーLEDを採用。また車体には、ステンレス板をレーザー溶接でつなぎ合わせる総合車両製作所の軽量化構造ステンレス車両「sustina(サスティナ)」が使われており、従来のステンレス車両で見られた「つぎはぎ感」を解消、滑らかに美しく仕上げるとともに、車体の強度も向上させたといいます。
快適性か収容力か 車内にも多い「京王初」
京王電鉄の新型車両5000系は、車内でも「同社初」のものが多数採用されています。「転換座席」はそのひとつで、進行方向を向いた2人掛け座席が並ぶ「クロスシート」状態と、窓を背にする「ロングシート」状態とを切り替えることが可能です。
一般的に、ロングシートは車内の立てる場所が広くなるため混雑時に効果的で、2人掛けのクロスシートは通路が狭くなり混雑時にはあまり向かないものの、快適性が高いとされます。
クロスシート状態。
ロングシート状態。
ボックスシート状態。
新しい5000系は状況に応じて「クロス」「ロング」を切り替えられ、有料の座席指定列車として走る場合は座席を「クロス」、通常の列車として走る場合は「ロング」にして運行される予定。また「クロス」のとき、乗客の手で向かい合わせのボックスシートにすることも可能です。
京王電鉄がこの「転換座席」を導入するのは初。近年、首都圏私鉄が進める着席需要の取り込みにあたって、状況へ柔軟に対応でき効率がよい「転換座席」の導入例が増えており、東武鉄道の「TJライナー」に使われる50090系や、西武鉄道の「S-TRAIN」に使われる40000系電車などにも採用されています。
また京王電鉄の新型車両5000系には、向きが変わらない3人掛けの固定座席も一部にあります。
座り心地も向上 高尾山や八王子をイメージした座席とは?
京王電鉄の新型車両5000系、その座席は転換できるだけでなく、座り心地が高められているのもポイント。幅が従来車両の450mmから460mmに拡大されているほか、ヘッドレスト、肘掛けも用意されています。特に3人掛けの固定座席は、座席幅が505mmへと大きく広げられました。ちなみに新幹線N700系の座席幅は、普通車が440mm(B席は460mm)、グリーン車が480mmです。
シートのデザインは、沿線にある「高尾山」の木々の深いブラウンと、「繊維の街・八王子」の絹糸がモチーフになっています。背ずりに上品な織物を採用し、座面に色の明暗と凹凸を施すことで、立体感のある見た目と手触りにしたそうです。
調光機能付きの照明。写真上が暖色、下が昼白色状態。
車端部にある3人掛け座席。
沿線がモチーフになっているシートのデザイン。
車内の照明にも注目です。同社で初めて調光機能を持つLEDの間接照明が採用され、通常列車として走る場合は昼白色、座席指定列車として走る場合は落ち着いた暖色といったように、シーンに合わせた演出が行えます。
また、床面を落ち着きのある木目調にすることで上質さを演出し、隣の車両とのあいだにある扉へ大型ガラスを採用することで開放的な車内空間を創出したそうです。
全席にコンセント 異常を検知したら自動で開くドアも
京王電鉄の新型車両の5000系は、車内の装備にも「京王初」が多くあります。
まず電源コンセント。使えるのは座席指定列車として走るときのみですが、すべての座席に用意されています。無料のWi-Fiも同社初で、すべての車両で利用可能。そして空気清浄機(nanoe〈ナノイー〉)の搭載も同社初。全車両に設置されています。
前の座席の後ろ側にある電源コンセント。ランプ点灯時に使用可能
3人掛け座席は肘掛けにコンセントが。
車いす・ベビーカースペースに用意された腰当て。
またバリアフリーに対応すべく、すべての車両に車いす・ベビーカースペースを用意。京王初となる腰当ても備えられました。
案内面も進化しており、車内ビジョンはドア上と天井部に1両あたり28画面。天井部への設置は京王初です。放送装置は、アナウンスや座席指定列車として走るときの到着前メロディーを聴き取りやすくするため、ステレオで高音質のものを使っているそうです。
安全性も向上しています。乗降用ドアに挟まれることによるケガや事故を防止するため、ドアへの挟まれを検知すると自動でドアが途中まで開き、その後、閉じる電気式側引戸システムを採用。これも京王初です。防犯カメラも全車両に1両あたり4台を設置し、痴漢やテロといった犯罪の防止を図るといいます。
電気で動く電車だけど停電時でも走行可 そのメカニズムとは?
京王電鉄の新型車両5000系は、省エネでも「京王初」が導入されています。「車上蓄電池システム」です。
電車がブレーキをかけた際に発生する回生電力を蓄電池へ充電し、電車が走行する際に、そこからモーターへ電力を供給することができます。
またこのシステムを採用することにより、もし停電して駅と駅のあいだに停車してしまった場合も蓄電池の電力で自走し、駅へ向かうことが可能です。
電気関係を制御するVVVFインバータ制御装置にも省エネ性能の高い新型を用いたそうで、「車上蓄電池システム」と合わせ、消費電力は昭和40年代の車両の3割以下といいます。
「車上蓄電池システム」の概要(画像:京王電鉄)。
赤いものが蓄電池。5号車の床下に搭載されている。
「クロス」「ロング」転換途中の場面。
「名車とうたわれた初代5000系のデビューは1963(昭和38)年。翌年、東京オリンピックが開催されました。くしくも3年後に2回目の東京オリンピックが開催されます。その5000系のDNAを引き継ぎ、さらなる進化を遂げた車両をご提供させていだだき、皆様に愛される車両として活躍してまいります」(京王電鉄)
多くの「新しさ」「京王初」を携え、京王電鉄を代表する“名車”の形式「5000」を受け継ぎ登場する、新型車両の5000系。10両編成が5本、合計50両が導入され、投資額は100億円とのこと。
座席指定列車としては2018年春から、平日と土休日の夜間帰宅時間帯に新宿発京王八王子行き、新宿発橋本行きで運転が始まる計画で、その列車の愛称、停車駅、料金は2018年1月に発表される予定です。また状況に応じて土日の日中の運行なども検討するとのこと。
ただ、営業運転はそれに先行する形で2017年9月29日(金)から、ロングシート状態の通常列車として始められます。
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