災害発生から運行開始までに1か月半以上
JR貨物は2018年8月28日(火)から、「平成30年7月豪雨」(西日本豪雨)の影響で一部不通になっている山陽本線を迂回(うかい)する貨物列車の運行を始めました。
西日本豪雨の影響で山陽本線が一部不通になったため、日本海側の山陰本線を通る迂回貨物列車の運行が始まった。写真は山陰本線でかつて運行されていた貨物列車(画像:photolibrary)。
8月29日(水)時点で不通になっている山陽本線の区間は、広島県内の三原~白市間と八本松~瀬野間、山口県内の柳井~下松間です。この影響で関東、関西方面と九州方面を結ぶ貨物列車も運行できない状態が続いていました。
そこでJR貨物は山陽本線を迂回する貨物列車の運行を検討。名古屋貨物ターミナル~福岡貨物ターミナル間を伯備線、山陰本線、山口線経由で1日1往復運行することにしました。下り列車が8月28日の夜に名古屋貨物ターミナル駅を発車。上り列車も8月31日の未明に福岡貨物ターミナル駅を発車する予定です。
山陽本線の各区間が不通になったのは7月6日ですから、迂回貨物列車の運行が始まるまでに1か月半以上かかっています。2004(平成16)年に発生した新潟県中越地震の影響で上越線が不通になった際、東京と新潟を磐越西線経由で結ぶ迂回貨物列車が運転されましたが、このときは地震発生から20日後に運転が始まりました。
今回の迂回運転は、なぜ開始までに時間がかかったのでしょうか。JR貨物の広報室に話を聞きました。
――迂回運転の検討はいつから始めたのでしょうか。
災害が発生した直後から検討を始めました。
――迂回運転の開始までに時間がかかったのは、なぜでしょうか。
迂回ルートの山陰本線と山口線では、貨物列車を走らせるために必要な国からの許可を受けていませんでした。この許可を受けるための確認を行う必要があったため、時間がかかりました。
――具体的にはどのような確認を行いましたか。
通常は旅客列車しか走っていない区間で貨物列車を走らせられるかどうか、線路などの施設の状態を確認しました。確認作業は(線路を所有する)JR西日本にやっていただきました。施設の修繕が必要になった部分もJR西日本が工事を行ったと聞いています。
迂回貨物列車の増発は?
――ほかに貨物列車を走らせるために行ったことはありますか。
通常は貨物列車が運転されていない路線で貨物列車を運転するため、運転士の養成やJR西日本とのダイヤの調整などを行いました。
――現在は1日1往復ですが、増発する考えはありますか。
検討は続けますが、増発の準備が整う前に山陽本線が全線復旧(10月中の予定)するかもしれませんし、いまのところは何とも言えません。
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現在のJR線は、基本的には地域ごとに分かれたJR旅客会社が線路を保有し、各地域で旅客列車を運行。これに対してJR貨物は、各地のJR旅客会社から線路を借りて貨物列車を運行しています。ただし、すべてのJR線で貨物列車を運行できるわけではありません。貨物列車は旅客列車に比べて重いためです。
貨物列車を走らせるには、重い車両が走っても事故やトラブルが発生しないよう、線路を強化しなければなりません。旅客列車専用の路線は貨物列車の重さに耐えられる構造になっていない場合がありますし、かつて貨物列車が走っていた路線も、貨物列車の運行終了後に旅客列車しか走れない構造で造り直されたケースがあります。このためJR貨物も、基本的には貨物列車を毎日のように走らせている区間や、臨時の貨物列車を運転することがある区間などに限り、貨物列車の運行許可を国から受けています。
今回の迂回ルートのうち、伯備線は貨物列車が毎日運行されています。山陰本線と山口線は2015年までに貨物列車の運行がすべて終了。JR貨物は貨物列車を走らせるための許可も国に返上していました。このため、今回の貨物列車の運転では改めて国から許可を受ける必要がありました。
ちなみに、磐越西線は定期運行の貨物列車が運転されていませせんが、貨物列車の運行許可は国に返上していません。このため、新潟県中越地震の迂回貨物列車は改めて許可を受ける必要がなかったのです。2011(平成23)年の東日本大震災でも、地震発生から2週間後には南東北エリアに石油を運ぶための臨時貨物列車が運行されています。
【地図】迂回貨物列車の走行ルート
名古屋~福岡間を結ぶ貨物列車の迂回ルート。倉敷から伯備線を北上して日本海側の山陰本線を西進し、山口線で山陽本線に戻る(画像:JR貨物)。