2時間を超える長大路線が5系統、どこまで乗っても200円
全国の自治体で「コミュニティバス」が運行されています。その多くは、自家用車の普及が進み、利用者の減少で採算が合わなくなったバス路線を、市町村が補助金を出して維持するという経緯のもの。一般的に、病院やショッピングモール、学校、役場などを結んでいます。
高森町民バス草部南部線、芹口バス停そば。隘路の続く路線のなかでも特に狭い区間(沖浜貴彦撮影)
熊本県高森町の「高森町民バス」もそのひとつ。どれも発着は町の中心部で、役場前や(南阿蘇鉄道の)高森駅、スーパーマーケットを起終点としていますので、典型的なコミュニティバスの形態といえます。おもに中心部を循環する1系統と、曜日によって運行日が決められている郊外線5系統があるのですが、高森町民バスは、この郊外地域の規模がかなり大きいのです。
どれほどの規模なのでしょうか。高森町の面積は175平方キロメートルで、東京23区のなかでも広い大田、世田谷、足立3区を足した面積とほぼ同じです。この3区の人口は合計で200万人をはるかに超えますが、高森町の人口はわずか約6000人。つまり、それくらい広い面積に点在する集落を、ひとつひとつ拾いながらバスは走るのです。
しかも高森町があるのは阿蘇山のふもと。役場や駅のある中心地は平坦ですが、町域は外輪山の周縁部にまで広がっており、峠を越えてやっと辿り着く集落も多く存在します。各系統の営業距離は平均して60kmにも及び、所要時間が2時間を超えるものも。にもかかわらず、運賃はどこまで乗っても大人片道200円均一というから驚きです。
車窓に広がる絶景、山村の風景… 運転士おすすめの路線は?
コミュニティバスでは定員10人程度のワゴン車で運行されるケースもあるなか、高森町民バスは利用が比較的旺盛な便もあり、定員30名ほどのバス車両が使われています。運行は熊本県内で路線バスを運行する産交バス(九州産交バス)が受託しており、白と青の塗装色は周辺を走っている同社の一般路線バスと同じです。
前述のとおり、高森町民バスは全6系統で、おもに中心部を走る色見循環線のほか、郊外線が5系統あります。月・木曜日に走るのが草部南部(くさかべなんぶ)線と河原線、津留・野尻(つる・のじり)線、火・金曜日に走るのが草部北部線、尾下(おくだり)線です。観光でそのすべてに乗車するのは難しいかもしれませんが、どれかひとつおすすめを選ぶならば、と高森営業所の運転士さんにお聞きしたところ、複数の方が草部南部線を選ばれました。
草部南武線には、阿蘇五岳が一望できる峠、バスの車幅ギリギリの狭い道、暗い森、地図にすら記載されていない橋を渡る区間もあり、車窓は絶景と驚きに満ちています。高森中央バス停にある観光案内所の職員さんによると、福岡市や北九州市からも、定期的に乗りに来る観光客もいるそうです。
集落をゆく高森町民バス。草部南部線の水迫バス停から(沖浜貴彦撮影)
そのように高森町民バスを目的として訪問するのは、ほんのわずかなマニアだけかもしれません。しかし、九州を代表する観光地である阿蘇地域を走るバスなのですから、地元住民以外の利用を喚起し、路線の維持につなげることもできるのではないでしょうか。もしかすると、現在テレビ番組でも散見される「レジャーとして路線バスに乗る」というコンセプトが高森町民バスでも活用され、今後注目されるようになるかもしれません。
※記事制作協力:風来堂、沖浜貴彦