「20年くらい使える車両」を改造
九州・福岡県内を走る大手私鉄の西日本鉄道(西鉄)が2019年3月23日(土)、天神大牟田線の西鉄福岡(天神)~大牟田間で観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO(ザ・レール・キッチン・チクゴ)」の営業運転を始めます。通勤用の6050形電車を改造し、専用車両を用意しました。
6050形の6053編成を改造した「ザ・レール・キッチン・チクゴ」(2019年2月1日、草町義和撮影)。
天神大牟田線では2014(平成26)年3月、太宰府観光向けの列車「旅人―たびと―」の運行を開始。翌2015年10月にも、柳川観光向けの列車「水都―すいと―」の運行を始めています。いずれもラッピングシールなどで車体の外装や内装を装飾したもので、車両自体の改造は行われていません。
その後、西鉄は沿線地域の活性化を目指し、本格的な観光列車の導入を計画。特急列車が約1時間で走っている西鉄福岡(天神)~大牟田間を2倍以上の時間をかけてゆっくり走り、車内で食事を楽しめる列車にすることが決まりました。車両は新造ではなく、既存の車両を改造することに。今後リニューアルしながら20年くらい使える車両として、6050形が選ばれました。
8000形に柳川をモチーフにした装飾を施した「水都」。登場時は写真の8000形を使っていたが、現在は3000形に置き換えられている。
天神大牟田線の6050形。
6053編成の改造は筑紫車両基地内の筑紫工場で行われた。
6050形は、1995(平成7)年にデビューした天神大牟田線の通勤形電車です。これに先立つ1993(平成5)年には、西鉄初の片側4ドア車として6000形電車がデビュー。この6000形をベースに省エネルギー化などの改良を加えたのが6050形になります。1997(平成9)年までに、4両編成5本と3両編成1本の合計23両が製造されており、デビューからすでに20年以上が過ぎていますが、西鉄のなかでは比較的新しい車両です。
改造前より1両減って3両編成に
「ザ・レール・キッチン・チクゴ」用の車両として改造されたのは、6050形の6053編成です。
1両減って3両編成になった6053編成(2019年2月1日、草町義和撮影)。
この6053編成は、ク6053+モ6253+モ6353+ク6553の4両編成で、1996(平成8)年に川崎重工業で製造されました。両端のク6053とク6553が運転台の付いた車両で、中間のモ6253とモ6353はモーターを搭載している車両です。「チクゴ」への改造にあたってはモ6253を抜いて、ク6053(1号車)+モ6353(2号車)+ク6553(3号車)の3両編成に変更されました。車両番号は変更されていません。
車体の改造は、骨組みだけを残して外板を張り替えるという、大規模なものとなりました。先頭部の窓は改造前と同じ配置ですが、中央の貫通ドアがなくなっています。側面のドアも減少。元々、1両に片側4か所の両開きドアがありましたが、1号車と3号車は両開きドアが片側2か所、2号車は片開きドアが片側2か所にされました。ドアの脇にあるボタンで開け閉めできる半自動式を採用しています。
外装のデザインはテーブルクロスをイメージしてまとめたといい、白をベースに赤色のチェック柄を入れたのが特徴。窓も格子状になりました。
編成両端の1号車と3号車は、大きなテーブルを設けたダイニング席。座席定員は各22人です。車内は沿線の伝統工芸品で装飾されており、天井は八女の竹を使った竹編みを使用。テーブルやいす、建具は「家具の街」として知られる大川で製作されました。壁や床の一部には城島瓦や、線路に敷かれている石(バラスト)を砕いて作ったタイル、筑後川の流れなど沿線の情景をモチーフにしたデザイン画が用いられています。
1号車のダイニング席。テーブルやいすは大川の家具が使われている。
天井は八女の竹編みで装飾されている。
1号車のトイレはバリアフリーに対応。
このほか、1号車と3号車には西鉄の鉄道車両としては初めてとなるトイレを設置。このうち1号車は、バリアフリーに対応した大型多目的トイレで、車いすでも利用できるようになりました。
走行装置も大幅に変化
2号車はダイニング席が8人分設けられたほかは、スペースの大半がオープンキッチンにあてられました。このオープンキッチンが「ザ・レール・キッチン・チクゴ」最大の特徴といえる部分。大きな窯を中心に、様々な調理器具が設置されました。鉄道車両の車内では原則として火を使えないため、すべての調理器具が電磁・電気式です。
2号車のオープンキッチン(2019年2月1日、草町義和撮影)。
車内とデッキ、トイレの照明は全てLED方式で、3000Kの暖色系で統一されました。このうち客室の照明は、直接照明と間接照明を使い分けて配置。調光機能も追加されています。
このように、車体の外観と内装は大きく変わりましたが、それだけではありません。2号車に集中している走行装置も大きく変化しました。
6050形は、かご形三相誘導電動機という交流モーターを採用。制御装置はVVVFインバーター方式を採用しています。抵抗器を使ってモーターを制御する6000形に比べて電気を節約でき、省エネルギー化が図られていますが、今回の改造に際して、次世代半導体素子のSiCを用いた新しいVVVFインバーター制御装置が導入され、さらなる省エネ化が図られました。
オープンキッチンには大きな窯をはじめとした、様々な調理器具が設置されている。
2号車の床下には新しいものに交換された制御装置や補助電源装置が並ぶ。
また、改造前はひとつの制御装置が4個のモーターを制御する「1C4M」でしたが、改造後は「1C2M×2群」に変更。すなわち2個のモーターを制御する制御装置をふたつ搭載しました。照明や調理器具などで使う電気を供給する補助電源装置も、二重系によるバックアップ機能を持つ静止形インバーター(SIV)を採用。西鉄はこれらにより故障時の冗長性を確保したといいます。
6053編成「ザ・レール・キッチン・チクゴ」は今後、訓練運転などを行い、2019年3月からの営業運転に備えます。