地元産のレンガで造られた東京駅を、地元に
ホームや線路の上に造られた駅舎を橋上(きょうじょう)駅といいますが、荘厳すぎる橋上駅が埼玉県に存在します。
線路をまたぐ橋の上に駅舎が建てられている(2008年3月、恵 知仁撮影)。
それは、「深谷ネギ」で有名な深谷市にあるJR高崎線の深谷駅です。駅舎は、大正時代に造られたJR東京駅丸の内駅舎、通称「赤レンガ駅舎」にそっくり。しかも橋上駅であることから、見る角度によっては宙に浮いているかのようです。
東京駅丸の内駅舎そっくりの深谷駅(2012年4月、恵 知仁撮影)。
なぜこのような駅舎が造られたのでしょうか。深谷市に聞きました。
――深谷駅の駅舎は東京駅を模しているでしょうか?
はい。東京駅丸の内駅舎を模した橋上駅舎として1996(平成8)年に造られました。それまでは1934(昭和9)年築の木造平屋の駅舎が北口にのみ建っていたのですが、駅南側に住宅が増えたことから、南北どちらからも利用できる橋上駅舎に改築されました。
――なぜこのような駅舎を造ったのでしょうか?
東京駅丸の内駅舎に使われたレンガのうち、大部分にあたる752万個ものレンガが、市内にあった日本煉瓦製造という会社の工場で製造されたこと、そして明治時代にその会社を設立したのが、現在の深谷市で生まれた実業家・渋沢栄一(編注:1840~1931。第一国立銀行(現在のみずほ銀行)設立などに関わり、「日本資本主義の父」とも呼ばれる)であったことにちなんでいます。
東京駅そっくり、でも深谷は「レンガのようなもの」!?
――東京駅丸の内駅舎は総数で800万個以上のレンガが使われていますが、深谷駅は何個使われているのでしょうか?
建築基準法の関係でレンガは使うことができず、レンガに見えるものはレンガ風タイルです。ドームや窓枠、尖塔なども再現し、全体的に東京駅に近いものとなっています。
――駅構内はいたってふつうの駅に見えますが、2階(改札階)の上の部分など、コンコース以外の駅舎内部はどうなっているのでしょうか? 東京駅のように貴賓室などがあるのでしょうか?
2階のコンコース以外の部分は一部、市民ギャラリーになっています。3階部分は立ち入り禁止で、通路や窓はありますが、特に用途のある部屋は設けられていません。私たち市の職員も、窓から懸垂幕を掲げる際に立ち入る程度です。
――市民や観光客の反応はどのようなものでしょうか?
市民インタビューなどでも、この「東京駅に似ている駅」が深谷の特徴のひとつとして挙がっており、市の玄関口として認知されています。近年はドラマやマンガに登場することもあり、それらのファンなど、駅を目的に訪れる方もいらっしゃいます。
北口のロータリー付近から見た深谷駅(2008年3月、恵 知仁撮影)。
北口には渋沢栄一の像が立っている(2012年4月、恵 知仁撮影)。
北口に立つ渋沢栄一(雅号「青淵(せいえん)」)の像(2012年4月、恵 知仁撮影)。
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ちなみに、日本煉瓦製造の工場から深谷駅に通じていた線路跡は現在、遊歩道になっており、その途中にはレンガ造りのアーチ橋や鉄橋など、明治時代の鉄道施設が所々に残っています。
【地図】深谷駅と旧・日本煉瓦製造の位置
日本煉瓦製造の工場から深谷駅に通じていた線路跡は遊歩道になっているが、工場のあった場所は現在、別の施設になっている(国土地理院の地図を加工)。