雪に強い新幹線、弱い新幹線
「鉄道」という交通機関は、雪に強いと思うでしょうか、それとも、雪に弱いと思うでしょうか。このイメージの違いは、住んでいる地域によって大きく変わるかもしれません。
雪のなかを走る北陸新幹線E7系電車(画像:PIXTA)。
「雪に弱い鉄道」の代表格は、数cmの積雪でも大混乱に陥ってしまう大都市の鉄道網でしょう。一方、「雪に強い鉄道」の代表格として取り上げられるのが新幹線です。北陸新幹線は、2018年2月の大雪でもほぼ運休することなく走り続けました。札幌まで到達していない北海道新幹線も、新千歳空港が大雪で閉鎖された際は代替ルートとしての存在感を示すまでになっています。
しかし、すべての新幹線が雪に強いわけではありません。東海道新幹線は岐阜羽島~京都間の「関ヶ原・米原地区」で大雪が降ると、速度規制を行うため遅れが生じます。新幹線の速度が上がると、舞い上がる雪が車体に付着して氷の塊となり、これが線路に落ちてバラスト(砂利)を跳ね上げ、車両の窓ガラスを破損させたり、沿線家屋を損傷させたりする危険があるからです。新幹線に本格的な雪対策が施されたのは、世界的な豪雪地域を走る東北・上越新幹線以降のことでした。
首都圏の鉄道を「雪に強く」できるのか?
雪が鉄道の運行に及ぼす影響は様々です。重大な事故に至る可能性としては、線路上の雪だまりに乗り上げての脱線や、山間部では雪崩に巻き込まれる危険も考えられます。また氷雪の付着や凍結により、車両または地上の設備が故障して運行できなくなったり、運転を継続できたとしても、降雪による視界や音の反響の悪化、積雪による走行抵抗の増大、濡れたレールの滑走などが要因となったりして、通常ダイヤでの運行が困難になるのです。
これらの問題を解決するためには、除雪が有効です。降る雪は止められないとしても、線路へ積もる前に取り除いてしまえば影響を最小限にできるからです。雪国を走る新幹線では、シェルターなどを設置して雪の侵入を防いだり、除雪した雪を線路脇や線路下に溜められる構造にしたりするなどの対応をしています。雪が非常に多い地域や、分岐器(ポイント)が設置された箇所ではスプリンクラーで温水をまいて、雪を溶かしてしまいます。
では、こうした設備を首都圏に導入して雪に「強い鉄道網」に変えることはできるのでしょうか。例えば雪国の在来線は、新幹線ほどではないにしても、東京とは比べ物にならない雪のなかでも運行が可能ですが、これも同様に除雪体制の構築や、積雪や凍結によるポイント不転換(ポイントが切り換わらないこと)を防ぐ融雪カンテラの設置、架線の凍結対策、雪でも利きやすいブレーキを採用するなどして実現しています。
しかし、こうした設備面の対策で根本的に解決できないのが、首都圏の雪対策の難しさです。降雪時に首都圏の鉄道で起こる問題とは、積雪そのものに起因するものではなく、雪の影響で過密ダイヤが機能しなくなるため生じているからです。
降雪時「間引き運転」の背景
気象庁の調べによると、東京では過去30年間(1988年冬~2017年冬)に年平均8.5日、雪が降っていますが、1cm以上の積雪は年平均1.6日でほとんどの場合、積雪に至りません。積雪が運行に影響を及ぼし得る10cm以上の積雪となると、年平均0.37日、つまり3年に1度あるかないかです。もっともこれは、2013(平成25)年から2014(平成26)年にかけての冬の記録的大雪によってかさ上げされた数字で、実際には1999(平成11)年から2013(平成25)年までの14年間、10cm以上の積雪は1度もありませんでした。
首都圏でも2014年の大雪を教訓に、ポイント不転換を防ぐ融雪機の増設が進んでおり、通勤車両も耐雪ブレーキの装備が一般的になりました。また降雪時はレールの積雪や架線の凍結を防ぐために、深夜も1時間おきに列車を運行するなど、様々な対応がとられていますが、それでも雪の影響によりブレーキ力が低下することや、何らかの理由で運行がストップしたとき、列車の本数が多く駅間に停車せざるを得なくなる事態を防止するために、いわゆる「間引き運転」が行われています。
降雪時に行われる間引き運転は、通常の7割から5割、場合によっては3割程度まで運行本数を減らすことがありますが、1時間あたり20本(3分間隔)の路線であれば5割減で10本(6分間隔)、3割まで減らしても6本(10分間隔)も運行しています。これだけの本数がある雪国の路線は、ほとんどありません。首都圏の鉄道が雪に弱いのは、設備上の対策だけではなく、そもそもの運転本数が全く異なるという大きな違いがあるのです。
【写真】水しぶきのなかを走る東海道新幹線
米原付近でスプリンクラーの水を浴びながら走る東海道新幹線700系電車(2015年12月、恵 知仁撮影)。
外部リンク