レールとセットで開発された「スカイレールタウン」
広島市安芸区の東端に位置し、周囲を山に囲まれた山陽本線の瀬野駅。東側の八本松駅にかけては急勾配が続き、鉄道ファンのあいだで「セノハチ」(瀬野~八本松間の通称)と呼ばれる区間ですが、北側は東側よりもすぐそばまで山が迫り、その山肌にびっしりと張り付くように住宅が立ち並んでいます。
駅からその住宅地に向かって、モノレールの線路(軌道)に似た高架線が続いており、高架線にぶら下がる形でロープウェイのゴンドラのようなものが上り下りしています。この乗りものは「スカイレール」と呼ばれ、法律上は鉄道の一種として位置付けられているものです。
住宅地の上空を上り下りするスカイレールの車両。路線全長は1.3.km(高橋敏昭撮影)。
スカイレールは住宅地の分譲開始と同時期の1998(平成10)年に開業。住宅地の名前も、この路線にちなんで「スカイレールタウンみどり坂」と名づけられています。傾斜地を利用して南側へ大きく開かれた住宅地は、日当たりのよさや、広島駅まで30分圏内という交通の利便性といった特徴がありますが、そのような傾斜地を徒歩で移動するのはひと苦労です。そこで、住宅地へのアクセス鉄道(新交通システム)としてスカイレールが建設されました。
街の造成と一体的に新交通システムが整備されたという経緯は、千葉県佐倉市にある「山万ユーカリが丘線」と共通しますが、人口がその半分弱である「スカイレールタウン」では、定員がユーカリが丘線の3分の1という25人乗りのゴンドラ(車両)が行き来しています。最速では37.5秒ごとの発車が可能ではあるものの、2018年現在は10~15分間隔で運行。スピードも15km/hとゆっくりで、片道の所要時間は5分、運賃は大人170円です。
このスカイレールは三菱重工業と神戸製鋼によって共同で開発され、この路線で初めて実用化、営業用としては現在も日本唯一の存在です。走行用の桁(けた)から吊るされた車両は、桁に沿うように設置されたロープの動力で進みますが、駅に入ると、車両がロープからいったん外れ、リニアモーターによる駆動に切り替わります。ロープウェイのゴンドラと違い、桁をしっかりつかんでいるため風に強く、駅部ではロープの推進から離れリニア駆動にすることで、減速、停止、発信を可能にしているのです。
いわば車両の見かけはロープウェイ、上部の桁はモノレール、走行の方式はロープウェイとリニア、それぞれの良い所を取ったようなシステムなのです、しかし、なぜこの「スカイレールタウン」に採用されたのでしょうか。
強みは勾配だけじゃない!
スカイレールはロープウェイと同様に勾配で力を発揮します。この路線でも、みどり口駅を出発してすぐに263パーミル(1000m進むと263m登る勾配)を駆け上がりますが、これはケーブルカー以外の鉄軌道では日本一の急勾配。たった1.3kmの路線全体で180mもの高低差があります。
また、駅から北に延びた軌道は、そこから東西方向に長い住宅街を縦貫するように大きくカーブしますが、スカイレールは半径30mの曲線まで対応しています。傾斜に強いケーブルカーなども、このようなカーブのある線形にはできません。高低差とカーブ、ふたつの要素をカバーできるスカイレールは、この住宅地にぴったりだったのです。
そして、もうひとつの強みが、運転士が要らないということ。車両の管理は地上設備で行われているほか、駅などの設備も監視カメラなどのシステムで管理されており、人的経費が最低限に抑えています。この点、たとえば愛知県小牧市の住宅地を走っていたゴムタイヤ走行方式の「桃花台新交通」は、「スカイレールタウン」の3倍近い沿線人口がありながら、人件費などの営業経費が最後まで重荷となり、2006(平成18)年に廃止を余儀なくされています。
「スカイレール」は一般的なロープウェイと同じく一方通行。奥のループ線で折り返す(OleOleSaggy撮影)。
開発元である三菱重工業や神戸製鋼も普及に取り組んではいるものの、現在のところスカイレールは、この「みどり坂線」以外での導入実績はありません。近年も長崎市で観光用に導入が検討されていましたが、最終的にはスロープカー(法律上はエレベーターに分類される簡易的なモノレールの一種)が採用されました。傾斜地が多い日本で、今後このスカイレールがどのように活用されていくのかが注目されます。
※記事制作協力:風来堂、OleOleSaggy
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