「鉄道の補完」として誕生し、まもなく50年
旧国鉄からJRバスに引き継がれて運行されている「東名ハイウェイバス」。名古屋駅と京阪神を結ぶ「名神ハイウェイバス」に続く東京駅~静岡駅・名古屋駅間を結ぶ高速路線として、東名高速(東名)が全通した翌月の1969(昭和44)年6月10日に運行を開始し、来年2019年で50周年を迎えます。
「東名ハイウェイバス」の「スーパーライナー」に充当された国鉄復刻塗装車。現在は運行を終了している(須田浩司撮影)。
「東名ハイウェイバス」の正式名称は「東名高速線」といい、当時の国鉄はこれを、「東海道本線の輸送を補完」「急行列車を代替」するものとして位置付けていました。運行開始にあたって、サブエンジン冷房、トイレ、固定窓、電気式スピードメーターなどを搭載した「国鉄専用形式」車両を投入したことでも有名です。おもに東名高速の本線上やIC付近へこまめに停留所を設け、各停や速達便などを含む合計43往復で登場しました。現在、停留所の数は50以上を数えます。
現在の「東名ハイウェイバス」は、ジェイアールバス関東、ジェイアールバステック(ジェイアールバス関東の子会社)、ジェイアール東海バスの3社が共同で運行しています。使用車両は3社ともに4列ワイドシートの38~40人乗りハイデッカー車がメイン。一部の便は、夜行便「ドリーム号」と運用が共通になっており、ジェイアール東海バスが運行する「新東名スーパーライナー」の一部の便には2階建てバスも投入されています。なかでも、「プレミアムシート」搭載車および「ビジネスシート」搭載車で運行されている便(各1往復)は、座席がゆったりとしており、「乗り得」感が高いといえるでしょう。
そして、ここ数年来で「東名ハイウェイバス」が大きく変化している点が、運行ダイヤです。2012(平成24)年に新東名高速(新東名)御殿場JCT~浜松いなさJCT間が開通して以後、東京駅~静岡駅間が減便される一方で、東京駅~名古屋駅間の「直行増」の増加が目立ちます。
停車パターンや経由でちがう5種類の運行形態 最速便が最大勢力に
現在「東名ハイウェイバス」は「各停」から「新東名スーパーライナー」まで5種類で運行。停車停留所によって区分される運行種別は、「急行」「特急」「超特急」「直行」の4種類となっています。各運行形態については次の通りです。なお、停車停留所については特記以外下り便(東京駅発)を想定しています。
●各停(種別:急行)
・運行概要(所要時間):東京駅~静岡駅間4往復(約3時間10分)、静岡駅~名古屋駅間1往復(約3時間40分)
・途中の停車停留所:全て
・備考:かつては東京駅~静岡駅間におおよそ1時間おきに運行されていたが、2007(平成19)年に新宿・渋谷~静岡線(京王バス東/ジェイアールバス関東/しずてつジャストライン/ジェイアール東海バス)が運行を開始し、その後増便を重ねた(利用客の増加)影響で、東京駅~静岡駅間は減便された。現在は通勤・通学用としての意味合いが強いといえる。
●東名ライナー(種別:特急、超特急)
・運行概要(所要時間):東京駅~浜松駅間5往復、うち特急3往復、超特急2往復(4時間20分前後)/東京駅~静岡駅間3往復、いずれも超特急(約3時間)
・途中の停車停留所:東名江田~東名伊勢原の各バス停、東名足柄、東名御殿場、東名裾野、東名富士、東名清水、東名静岡~浜松駅間各バス停(超特急は東名裾野、東名清水を通過)
・備考:かつては東京駅~名古屋駅間にも運行されていたが、東京駅~名古屋駅間の超特急または直行への変更に伴い、現在の東京駅~静岡駅・浜松駅間に変更された。
JRバステックが運行する「スーパーライナー」(須田浩司撮影)。
ジェイアール東海バス担当便の「新東名スーパーライナー」は、「プレミアムシート」搭載の2階建て車両で運行されることも(須田浩司撮影)。
ジェイアール東海バスの「新東名スーパーライナー」。4列シートのハイデッカー車が標準(須田浩司撮影)。
●スーパーライナー(種別:超特急)
・運行概要(所要時間):東京駅~名古屋駅間9往復、金・土休日は下り1本増(約6時間)
・途中の停車停留所:東名江田~東名伊勢原の各バス停、東名足柄、東名御殿場、東名裾野、東名富士、東名清水、東名静岡、東名焼津西、東名掛川、東名浜松北、東名豊川、東名本宿、東名岡崎、東名豊田、東名日進~名古屋駅間の各バス停
・備考:停車停留所については、沿線主要都市近隣のバス停からも利用できるように考慮されている。
●東名スーパーライナー(種別:直行)
・本数(所要時間):金・土休日に名古屋駅発・東京駅行き1本(約5時間50分)
・途中の停車停留所:名古屋駅~名古屋インター間の各バス停(乗車専用)、霞が関(降車専用)
・備考:曜日限定の1便のみ。レア的存在の便。
●新東名スーパーライナー(種別:直行)
・本数(所要時間):東京駅~名古屋駅間12往復(約5時間)
・途中の停車停留所:バスタ新宿(一部の便のみ)
・備考:2012(平成24)年の新東名部分開通(御殿場JCT~浜松いなさJCT)を受けて3往復で新設され、利用客の増加で増便を重ねる。所要時間は東名経由の「スーパーライナー」「東名スーパーライナー」より約1時間短く、速達性を好む利用客に好評で、今後も利用客増加が見込まれる。
直行便重視への変貌なぜ? 運行会社に聞く
このように、現在の「東名ハイウェイバス」は途中停留所へこまめに停車する便が減っています。運行会社のジェイアールバス関東によると、「速達性というお客様ニーズに応えるために直行便を増便させています」といい、約10年前には各停が主力だったのが、現在は「新東名スーパーライナー」に代わっていると話します。
現在、停車停留所の多い各停や「東名ライナー」は、おもに朝夕の通勤時間帯に設定されています。これについては、「神奈川県内の近距離で利用されるケースが多いことから、(東京駅発の便は)静岡駅行き、浜松駅行きにシフトしています。それ以外の時間帯で直行便を増やし、名古屋駅までのお客様の利便性を向上すべく取り組んでいます」(ジェイアールバス関東)とのこと。また、東名の渋滞を鑑みて、新東名経由とすることで改善を図ることや、名古屋市内の渋滞を考慮した経路変更なども行っているそうです。
この背景には、競合する東海道新幹線の利便性向上に加え、他社競合路線の増加といった側面も見逃せません。特に、2000年代初頭に運行を開始した他社競合路線の多くは、東京~名古屋間をほぼノンストップで結んでおり、これら競合路線に対抗するためにも、直行便を増やすことで、東京駅~名古屋駅の定時性向上と利便性向上を図っていると考えられます。
一方で、東京駅~名古屋駅間直行の「新東名スーパーライナー」のほか、途中停留所のある「スーパーライナー」なども多く設定されているのはなぜでしょうか。ジェイアールバス関東によると、「スーパーライナー」は「準直行」としての位置づけで、通勤の利用も想定したうえで、停車停留所については途中乗車や鉄道駅との接続を考慮しているとのこと。「ライナー」で停車するバス停と、各停でしか停車しないバス停は、利用率を考慮して決めているそうです。
「東名高速線」の旧国鉄専用形式。のちにJR東日本へ引き継がれた(須田浩司撮影)。
1980年代から90年代に東名高速線を走った「エアロクイーンW」。夜行「ドリーム号」にも充当された(須田浩司撮影)。
ジェイアールバス関東による国鉄復刻塗装車のひとつ(現在は運行終了)。1960年代の高速試験車両のカラーを復刻したもの。(須田浩司撮影)。
「東名ハイウェイバス」については、2011(平成23)年10月から実施されている、東京駅行き(上り便)に限っての首都高用賀PA(東京都世田谷区)における降車扱いも注目したいところです。首都高の渋滞時に限って乗務員の判断で実施しており、徒歩数分の場所にある東急田園都市線の用賀駅から渋谷駅までの乗り継ぎ切符を100円で降車時に希望者へ販売しています。徒歩移動の必要はありますが、渋滞回避策として用賀PAバス停を利用する価値は高いのではないでしょうか。
直行便を増やしたのには「安全面」の理由も?
直行便の増加は、乗客ニーズの高まりだけでなく、別の理由もあるようです。ジェイアールバス関東は次のように話します。
「10年くらい前は、お客様が回数券を使用して近距離バス停をご利用になることが多かったのですが、ここ数年は、都市から都市への移動と、その速達性を重視する声が多くなっていました。一方で、安全面を>考慮するうえでも、停車と発車を繰り返すことによる乗務員への負担を軽減する面から、お客様のニーズと安全面を両立できるダイヤを作成しています」(ジェイアールバス関東)
現在のダイヤは、単に乗車ニーズの変化だけでなく、乗務員の負担を軽減し、安全を両立することも考慮したうえで設定しているようです。
「東名ハイウェイバス」の今後についてですが、まず考えられるのは、新東名の延伸による直行便「新東名スーパーライナー」の所要時間短縮と、直行便需要のさらなる増加です。現在工事が進められている厚木南IC~御殿場JCT間は、2020年度までに開通する予定で、これにより東京~名古屋間の所要時間は4時間台に短縮されることが予想されます。並行する東海道新幹線が同区間を1時間半前後で結んでいるとはいえ、高速バスは利便性が向上し、渋滞による遅延のリスクも減ることから、元々のブランド力が高い「東名ハイウェイバス」の利用客はさらに増加するのではないでしょうか。場合によっては、「新東名スーパーライナー」のさらなる増便もありうるかもしれません。
一方で、東京~静岡間、東京~浜松間といった区間便については、新宿・渋谷~静岡線、新宿・渋谷~浜松線など他系統が本数、利便性ともに充実してきたこと、利用者が「東名ハイウェイバス」から他系統への利用に移っていることなどから、運行形態の現状維持もしくは縮小が考えられます。利用者の推移次第では、通勤・通学時間帯のみの運行や、曜日限定の運行に切り替わる可能性も考えられます。
競合路線がひしめく東京~静岡・名古屋間において、数多くの利用者から一定の評価を得ている「東名ハイウェイバス」、2019年6月に運行開始50周年を迎え、さらに2020年東京オリンピック・パラリンピックや新東名の延伸を控えるなか、今後どのようなサービスを提供するのか、是非とも注目したいところです。
【路線図】「東名ハイウェイバス」の停留所一覧
青は下り便で降車専用、上り便で乗車専用のバス停。赤は上り便のみの降車専用。白は途中の休憩を行うSA/PA。一部の便はバスタ新宿にも停車する(画像:ジェイアールバス関東)。