収入額が年間12億円の系統も
東京23区内を中心に、全129系統ある都営バス。なかでも最も繁盛しているのは、どのような系統でしょうか。
都営バスでトップクラスの乗車人員を誇る「王40」系統(2018年4月、中島洋平撮影)。
東京都交通局は2015年度、2016年度について、受託運行路線を除く127系統の収支を公開しています。それに基づき、2016年度の1日あたり乗車人員トップ5系統を挙げると、次のようになります。
●乗車人員トップ5
1位:「都07」錦糸町駅前~亀戸駅通り~東陽町駅~門前仲町、1万9992人
2位:「王40」池袋駅東口~王子駅前~荒川土手~西新井駅、1万9840人
3位:「都02」大塚駅~春日駅前~蔵前駅前~錦糸町駅、1万8985人
4位:「東22」錦糸町駅~東陽町駅~門前仲町~東京駅丸の内北口、1万6989人
5位:「都01」渋谷駅前~六本木駅前~溜池~新橋駅前、1万5186人
※カギカッコ内は系統名。以下、主要系統の運行区間(支線や出入庫系統除く)、1日あたり乗車人員。
同様に、2016年度の運賃収入トップ5系統を挙げてみると、次のようになります。
●収入額トップ5
1位:「王40」池袋駅東口~王子駅前~荒川土手~西新井駅、約12億5615万8000円
2位:「都02」大塚駅~春日駅前~蔵前駅前~錦糸町駅、約11億9011万5000円
3位:「都07」錦糸町駅前~亀戸駅通り~東陽町駅~門前仲町、約11億6230万5000円
4位:「都01」渋谷駅前~六本木駅前~溜池~新橋駅前、約10億8308万4000円
5位:「東22」錦糸町駅~東陽町駅~門前仲町~東京駅丸の内北口、約10億2236万9000円
乗車人員トップ5系統が、収入額でもトップ5です。ちなみに2015年度も収入額トップ5は同順位で、高い需要があることがわかります。しかし、この5系統を収入額から支出額を引いた損益額、つまり黒字額の面から見ると、様相が大きく異なってきます。
●乗車人員および収入額トップ5系統の損益額(黒字額)
1位:「東22」錦糸町駅~東陽町駅~門前仲町~東京駅丸の内北口、約3億8623万7000円
2位:「都07」錦糸町駅前~亀戸駅通り~東陽町駅~門前仲町、約2億5041万6000円
9位:「都01」渋谷駅前~六本木駅前~溜池~新橋駅前、約1億914万6000円
10位:「都02」大塚駅~春日駅前~蔵前駅前~錦糸町駅、約1億548万7000円
29位:「王40」池袋駅東口~王子駅前~荒川土手~西新井駅、約2006万8000円
「王40」以外の4系統は127系統のなかで10位以内に入りますが、「王40」は29位と大きく後退します。ちなみに2015年度における「王40」の収入は11億8482万1000円、これに対し支出が12億1305万円で、損益では2822万9000円の赤字でした。需要が高いにもかかわらず、赤字になることもあるのはなぜでしょうか。
なぜ黒字額小さい? 「王40」、その実態は
東京都交通局は「王40」の支出額が多い理由について、「運行距離が長く、運行に必要な人件費などの経費が多くかかるためです」といいます。それに対し、たとえば江東区内を走る黒字額トップの「東22」、2位の「都07」については、「江東区内における南北方向への移動はバスが中心となっており、1運行あたりのご利用されるお客様が多いです。路線も『王40』に比較して短く、効率的な運行が可能で、収支がよいといえます」とのこと。ちなみに5系統を距離の長い順に並べると、「王40」約11.1km、「都02」約10.4km、「東22」約8.1km、「都07」約6.8km、「都01」約5.5kmです。
都営バスは一部の路線を除き、基本的に大人210円(ICカード206円)の均一料金ですので、運行の途中で乗客が入れ替われば入れ替わるほど収入が増えます。途中の鉄道駅や主要スポットで入れ替わりがあるほか、たとえば「東22」などは、錦糸町駅~東京駅丸の内北口間の全区間を走る便よりも、江東区内を南北に結ぶ錦糸町駅~東陽町駅間のみを走る便のほうが多くなっています。このように、同じ系統のなかで地域の需要に応じた運行をし、効率的に収入を増やすこともできるのです。
一方「王40」はどうでしょうか。この系統のダイヤは、全区間運行が基本です。実際に池袋駅東口から乗ってみると、京浜東北線と東京メトロ南北線、都電荒川線が接続する王子駅前(北区)でやや入れ替わりはあるものの、その後は各停留所で近隣住民と思しき人がぽつぽつと降りていく程度。終点3つ手前の西新井大師前(足立区)か、終点である東武スカイツリーライン(伊勢崎線)と大師線の西新井駅まで乗り通す人も少なくありませんでした。
北区の豊島3丁目バス停における「王40」の時刻表。ここでは、これよりも本数の多い「王57」(豊島五丁目団地~王子駅前~赤羽駅東口)も走っている(2018年4月、中島洋平撮影)。
池袋駅と西新井駅は、鉄道で移動する場合に最低でも2回乗り換えが必要です。それをショートカットするルートとしても、沿線住民の足としても機能している一方で、長距離のわりに途中での乗客の入れ替わりが少ないこともあり、ほかの路線と比べるとやや効率が悪いのかもしれません。
ふだんからこのバスを利用している王子地区在住の30代女性は、「どの時間帯に乗ってもたくさんの人が乗っています。本数も多いのですが、池袋駅前の乗り場にはいつも長い列ができているので、座って帰りたい場合は1本見送ることが多いです」といい、需要の高さがうかがえます。仮にこの系統が、途中で乗客がひんぱんに入れ替わっているならば、乗車人員も収入額もいまよりさらに跳ね上がっていることでしょう。
【地図】乗車人員および収入トップ5系統はここを走る
都営バスにおける乗車人員および収入トップ5系統の路線図(乗りものニュース編集部作成)。