移動時間がもったいない? 長距離は夜行が主流
東京と羽田空港を結ぶような短距離路線から、東京~博多間約1100kmという夜行の長距離路線まで、高速バスは日本全国を結んでいます。本数で見てみると、昼間に走る「昼行高速バス」が圧倒的に多いものの、300kmを超えるような長距離となると、夜行の割合が増加します。
東京~大阪間の昼行便「グラン昼特急号」。夜行の「グランドリーム号」用3列シート車で運行される(須田浩司撮影)。
たとえば、約350kmの東京~名古屋間を走る高速バスを「楽天トラベル」で調べてみると、昼行がおよそ20本に対し夜行はおよそ60本。約500kmの東京~大阪間では、昼行がおよそ10便に対し夜行はおよそ190本と、夜行の割合が顕著に。それ以上の距離では、昼行がゼロの路線もあります(いずれも2018年2月1日出発分)。
夜行とは違い、「夜移動し時間を有効に使える」「宿代を浮かせられる」などといったメリットを活かすことができない長距離の昼行高速バス。「夜行で移動すればよいのに、なぜ昼間の便で移動するのか」「移動時間がもったいない」などと思う人もいるかもしれませんが、長距離の昼行高速バスにも一定数の利用者がいるのです。どのような魅力があるのでしょうか。
昼行ならではの楽しみとは? 昼寝派に朗報も
長距離昼行高速バスのメリットを以下に挙げてみました。
道中が楽しい!
夜行高速バスでは夜間にカーテンが閉められるため、外の景色を楽しむことができませんが、昼行高速バスでは車窓を思う存分楽しめます。場所によっては絶景にも出会えるほか、途中のSA(サービスエリア)やPA(パーキングエリア)ではほとんどのお店が開いていますので、食事や買い物などもできます。ご当地のお土産やおいしいものを買い込んで、車内で食べながらのんびりと景色を見て過ごせることは、長距離昼行高速バス最大のメリットといってもよいでしょう。
夜行バスよりも運賃が安い場合も
路線やバス事業者によって異なりますが、夜行バスよりも運賃が安い場合があります。例としてJRバスの東京~大阪間で比較すると、3列シートの夜行「グランドリーム号」「ドリーム号」が最安5800円であるのに対し、同じ3列シートの「グラン昼特急号」「東海道昼特急号」は最安4500円と、夜行より1300円安く移動できるのです(2018年1月の運賃で比較)。昼行バスが夜行よりも安いケースは、ジェイアールバス東北の東京~仙台線や、福岡~鹿児島線「桜島号」(西鉄高速バスほか)などでも見受けられます。
ジェイアールバス関東「グラン昼特急号」車内。独立3列シートで、通路側に仕切りカーテンが備えられている(須田浩司撮影)。
東京~新潟線などで運行される西武バスの車両(須田浩司撮影)。
東京~新潟線の西武バス車両も独立3列シート(須田浩司撮影)。
夜行バスと比較しても遜色ない設備
これも路線やバス事業者によって異なりますが、使用される車両も夜行バスと比較して遜色ない車両が投入されているケースが多いです。JRバスの「昼特急号」シリーズでは、基本的に夜行「ドリーム号」シリーズで使用されている3列または4列シートの車両が投入されているほか、西武バスなどによる池袋~新潟、富山、金沢の各路線や、北海道中央バスなどによる札幌~釧路、函館、網走の各路線などでも3列独立シート車が投入されています。
九州では、2+1配列(通路を挟んで2人掛けと1人掛け)で幅が広いシートを搭載した車両も活躍しており、一部では座席に電源コンセントも装備されています。夜行バスと同様にくつろげることから、普段の寝不足を解消しようと、昼寝を決め込む利用者もちらほら見かけます。
東京~大阪9時間の「昼行」、実際に乗ってみた!
500km越え長距離昼行高速バスの代表格ともいえるJRバスの「東海道昼特急号」、そのハイグレード便である「グラン昼特急号」に乗車してみました。
私(須田浩司)が乗車したのはジェイアールバス関東のバスで運行される「グラン昼特急9号」で、東京駅を10時10分に発車し、約9時間かけて大阪駅を目指します。車内は新型クレイドル(ゆりかご)搭載した3列独立シート28人乗りとなっており、夜行便「グランドリーム号」と同じく座席には電源コンセントや、通路側の仕切りカーテンも備えられています。
道中美しい景色を眺めながら、ゆったりとした時間が流れていきます。途中、東名高速足柄SA(下りは静岡県小山町)、浜名湖SA(同・浜松市)、新名神高速甲南PA(滋賀県甲賀市)の3か所で15分から30分の休憩がとられます。なかでも最後の休憩場所である甲南PAでは30分停車するので、フードコートで食事をとることも可能。ただし「グラン昼特急号」は、利用者のプライバシー確保などの観点から発車前の人数確認を実施しないため、乗り遅れないよう注意が必要です。
東京駅を発車して約7時間30分後、京都駅烏丸口に到着。もしも運行が遅れている場合には、こちらで下車して新幹線や在来線で目的地へ急ぐことも可能です。その後、名神高槻(大阪府高槻市)、千里ニュータウン(同・吹田市)の両バス停で降車扱いを行い、終着の大阪駅JR高速バスターミナルには19時過ぎに到着しました。
「グラン昼特急9号」の車窓。東名高速足柄SA付近(須田浩司撮影)。
「グラン昼特急9号」で約30分の休憩がとられる新名神高速甲南PA(須田浩司撮影)。
京都駅烏丸口に到着した「グラン昼特急9号」(須田浩司撮影)。
新幹線で約2時間半の東京~大阪間を、約9時間かけて走破する「グラン昼特急号」ですが、実際に乗車してみると想像していたよりもあっという間に感じました。この路線の魅力は、「流れゆく車窓の美しさ」「気分転換にもなる途中休憩」「充実した車内設備」の3つだと思います。ゆったりシートに身を委ね、時間を忘れてのんびりできるのは、ある意味贅沢なバスなのかもしれません。
日本最長の「昼行」は、なんと11時間!
最後に、代表的な長距離昼行高速バスを4路線紹介します。
札幌~釧路「スターライト釧路号」(北海道中央バス、くしろバス、阿寒バス)
北海道の札幌~釧路間を結ぶ老舗の高速バスで、昼便は4往復運行。所要時間は約5時間半です。全便3列独立シート車で運行され、途中休憩は1回。道東道トマムIC~十勝清水IC間で広がる雄大な十勝平野の景色がおすすめです。
東京(上野)~青森「スカイ号」(弘南バス)
上野~青森間約700kmを10時間50分で結ぶ日本最長の昼行高速バスです。トイレ付き4列シート車で運行されますが、途中3、4回の休憩停車があり、うち1回は食事休憩として長めに停車します。途中の車窓も素晴らしく、運賃も片道最安4000円と格安です。
新宿・池袋・大宮~長岡・新潟(西武バス、新潟交通、越後交通)
東京、埼玉と新潟を結ぶ老舗の高速バス路線です。池袋~新潟線は日中ほぼ1時間おきに発車し、全便3列独立シート車にて運行。一部の便は池袋から運行区間を延長してバスタ新宿に発着するほか、都内に入らない大宮駅発着の便もあります。運賃も片道最安3100円と格安で、沿線の風景もおすすめです。池袋発着はどの時間帯も利用者が多いですが、便数が少ない大宮発着は比較的空いています。
福岡~宮崎線「フェニックス号」(西鉄高速バスほか4社)など
「高速バス王国」ともいわれる九州のなかで、1988(昭和63)年から運行されている老舗路線です。一部の便では2+1配列の3列シートと、2+2配列の4列シートが選べ、後者は片道最安3000円と格安。途中には2か所で休憩があります。九州道八代IC(熊本県八代市)以南で広がる九州山地やえびの高原、霧島連山はぜひとも見ておきたいところです。
北海道中央バス「スターライト釧路号」(須田浩司撮影)。
日本最長距離を走る昼行バス、弘南バス「スカイ号」(須田浩司撮影)。
西鉄高速バス「フェニックス号」(須田浩司撮影)。
長距離昼行高速バスには、「道中の楽しさ」「安さ」「充実した設備」といった、ほかの交通機関とは違った魅力があります。今回紹介した路線以外にも、日本全国各地に長距離昼行高速バスがいくつも存在します。速くて便利な新幹線や飛行機もよいですが、たまには時間を忘れてバスで旅してみてはいかがでしょうか。自分だけのバス旅行を組み立ててみるのも面白いかもしれません。