下り線に続いて上り線が完成
相模鉄道(相鉄)は、横浜市保土ケ谷区内を通る本線の線路のうち約1.8kmの区間を全面的に高架化します。相鉄と横浜市は全面高架化に先立つ2018年11月17日(土)の午前、星川駅で「全線高架化式典」を開催。報道陣に新しい高架ホームを公開しました。
下り線の高架ホームがすでに使われている星川駅。上り線のホーム(右)もまもなく使用を開始し、全面的に高架化される(2018年11月17日、草町義和撮影)。
式典は10時ごろから高架下のスペースで始まり、相鉄の滝澤秀之社長や横浜市の林文子市長らがあいさつ。その後、新しい上り線の高架ホームに移動して、くす玉割りとテープカットが行われました。
この高架化は、横浜市が中心になって進めている「連続立体交差事業」(連立事業)の一環。線路と道路の平面交差(踏切)を連続的に立体化するプロジェクトです。高架化の区間は保土ケ谷区の西久保町(天王町駅付近)から星川駅を経て星川3丁目(横浜新道との交差地点)まで。区間内に天王町駅と星川駅があることから「星天プロジェクト」とも呼ばれています。
すでに下り線の線路のみ2017年3月に高架化されており、残る上り線の線路も11月24日(土)の始発から高架化される予定です。線路を高架橋に切り替えたあとも、地上に残る線路を撤去したり、線路に並行する道路を整備したりするなどの工事が引き続き行われます。事業の完了は2021年度の予定です。
連立事業は踏切を一挙に解消することから、「踏切待ち」で発生する道路渋滞も一度に解消できるなどの利点があります。「星天プロジェクト」の場合、区間内にある9か所の踏切のうち8か所が「開かずの踏切」で、ラッシュ時間帯には1時間あたり40分以上遮断されていました。
また、踏切事故が発生する確率がゼロになるため、鉄道事業者は踏切対策の費用を節約できます。踏切事故による列車の遅れや運休も発生しなくなりますから、鉄道の利用者にとっても便利になるのです。
長期化のさまざまな理由
しかし、連立事業は計画の着手から完成まで、非常に長い時間がかかります。
全面高架化に先立ち行われた式典の様子(2018年11月17日、草町義和撮影)。
かつて横浜市会議員だった菅義偉内閣官房長官は、式典で「いまからちょうど30年前(1988年)、私のところに高架化の陳情が来ました」と話していました。要望が実現するまでに30年の歳月がかかったわけです。これは「星天」だけではありません。全国各地の連立事業でも長い時間がかかっています。地質が悪くて工事が難航することもありますが、長期化の理由はそれだけではありません。
線路を高架化する場合、通常は地上に設置された既設の線路の脇に建設用地を確保する必要があります。しかし、渋滞が発生する踏切は多くの場合、人口が集中していて地価が高い都市にあります。用地の買収に相当な費用がかかるだけでなく、大勢の人と交渉しなければなりません。そのため時間がかかるのです。
騒音や振動を懸念した反対運動が起きることもあります。小田急小田原線・梅ヶ丘~喜多見間の高架化では連立事業の認可取り消しを求める訴訟が提起され、最高裁が「近隣の住民も原告適格を有する」などとした判断を示しています。地権者だけでなく周辺住民にも配慮しながら進める必要があることも、時間がかかる理由のひとつになりました。
ちなみに、地上にある既設の線路の上に高架橋を建設する手もあります。これなら新たに土地を確保する必要がほとんどありません。ただ、地上の線路を走る列車の安全を確保するのが難しく、実際は列車が運行していない深夜の短い時間にしか工事を行うことができません。昼間よりも騒音や振動に気を遣う必要もあり、結局は時間がかかってしまうのです。
相鉄本線ではこれ以外にも、西谷~二俣川間で連立事業を行うことが考えられています。横浜市は地下化で踏切を解消したい考え。さまざまな課題を克服して早期に実現できるかどうか、注目されます。
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