石原さとみが主演を務め、現在放送中のドラマ「アンナチュラル」(毎週金曜夜10:00-10:54、TBS系)。本作は、ドラマ「重版出来!」(2016年)や「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年、共にTBS系)など、数々の話題作を手掛けた脚本家・野木亜紀子のオリジナル法医学ミステリー。
“不自然死究明研究所(通称:UDIラボ)”で働く法医解剖医・三澄ミコト(石原)が、仲間と共に、日々運び込まれてくる遺体の死因究明に奮闘する物語だ。
そんな主人公・ミコトの先輩にあたる法医解剖医・中堂系を演じるのは、映画「光」(2017年)や、3月17日(土)より全国公開となる映画「ニワトリ★スター」の主演を務める井浦新。
井浦演じる中堂は、中堂班の筆頭医であり、解剖実績3000件を誇るベテラン。態度や口が悪いため、ミコトたちと衝突することも多い。秘められた過去を背負い、ある目的のため、裏で葬儀屋の木林(竜星涼)と手を組んでいるという謎多きキャラクターだ。
今回、井浦にインタビューを行い、作品に懸ける思いや撮影の裏側について語ってもらった。
――中堂を演じての感想を教えてください。
中堂の過去にまつわる物語が明らかになってくるのはドラマの後半部分なので、中堂が何を背負っているのかというのは、事前にざっくりと気持ちに落としながらやっていました。
でも、実際に過去の中堂のシーンを撮った時は「これほどのものを中堂は背負って生きてきたんだな」って感じました。細かなディティールまで知らないでやっていくからこそ、すんなりとできたんだと思います。
もし最初から中堂の過去を知っていたら、ためらってしまったり、「中堂はこんなことしないんじゃないか」と思ってしまったりしたかもしれないので。口や態度が悪いことを正当化するつもりはないんですけど(笑)、その行動には、そういう意味があったのかと知ってから中堂の見方が変わってきましたね。
自分の人生を全て捨ててでも、目的のために生きている男の強さのようなものを感じました。
自分の想像で芝居をやっていた時は、明らかに何かを抱えているというのが出てしまっていたんです。撮影中も監督にずっと「あまり(感情を)出さないでください」と、言われました。
強く出し過ぎると、1話から中堂がどんな人なのか分かってしまうので、それはドラマとしての面白さが欠けてしまうと思いました。
さとみさん、(市川)実日子さん、窪田(正孝)くんの3人が、いわゆる野木さんらしい軽快な会話を繰り広げるんですけど、中堂はそこには入っていけない。野木さんのもう一つの側面であるダークな部分を中堂が背負っている気がするんです。
――撮影していて、印象に残っているシーンはどこですか?
感動的で劇的なシーンももちろんやりがいはあるんですけど、一番はたわいのないシーン。劇的なシーンは、ゆっくり丁寧に撮っていくんですけど、いわゆる会話劇の真骨頂のシーンは、止めないで一連でそのシーン撮っていくんです。
その緊張感は、やっていて『生きてるなぁ~』って実感がありましたね。そのたわいのないシーンが、後半に効いてきたりしてすごく大事なんです。
本当に何げないシーンを撮っている方が、5人のチームワークが生きて、特に印象に残りました。「楽しいな」と感じますし、芝居の難しさも同時に感じます。
そういうシーンの方がみんなで作っている感じを味わえますね。毎回、ドラマの最初の方にみんなでああだこうだと話すシーンがあるんですが、中堂は言葉をつらつらと語るのではなく、突然ボソッと一言嫌がらせのように発言するので、話すタイミングが難しくて自分の番が近づいてくると妙に緊張してしまいます(笑)。
――UDIラボのメンバーのチームワークはどうやって作っていったんでしょうか?
今回、僕は窪田くん以外の方たちとは共演経験があって。皆さんもそれぞれ共演経験があって、バランスがよくて“初めまして”の方があまりいなかったんです。
撮影の合間にみんなでふざけ合っていたりしているのを見ていると、こういう光景がUDIラボの中にもあるんだろうなって思うんです。その場で無理やり関係性を作る必要がないというか、裏のテンションそのままで表にいく。
みんなの裏での関係性をうまく表に落としていったから、作っていけたのではないかなと思います。
――オン・オフの激しい役を演じるときはどんな気持ちですか?
役にもよりますが、僕は極端なお芝居の方がやりやすいです。真ん中の部分で芝居する方が難しく感じますね。撮影の合間に、裏でみんなと話している時の方が難しかったりします(笑)。どんな声でどんな態度でみんなと話していったらいいのか分からなくなっちゃっている自分がいました(笑)。
――中堂は、ミコトのことを認めているんでしょうか?
中堂がある目的をもってUDIに入ってきたので、中盤まではUDIラボのメンバーのことはきっと眼中になかったと思います。でもUDIラボがいろいろな事件に巻き込まれていったり、ミコトがもがきながらも、一生懸命頑張っている姿を横目で見たりして、少しずつ変わっていく。
ミコトが中堂と仕事をする上で、「良きパートナーになっていきたい」って、思ってくれていなかったら、中堂はずっと変われなかったと思います。
――中堂の共感できる部分はどんなところでしょうか?
根暗なところかな(笑)。特に後半は、今の中堂を演じながら10年前の中堂も演じたんですけど、芝居を変えた方がいいかなって思ったんです。でも実際演じてみるとあまり変わらなくて。
中堂は、事件があったから人が変わったわけではなく、そもそも中堂の人間性や本質は、根暗なんだろうなと思います。感情をコントロールできず、ぶっきらぼうで、人との付き合いができないような男が、ある事件によって、より殻に閉じこもっていったのが今。
そう考えるとずっと10年前でも今でも一貫しているのって、根暗なところなのかなと思いますね。自分にも近いところはあると思います(笑)。
――今の中堂と過去の中堂の作り方は、監督と話し合って作っていったんですか?
毎日、撮影当日のことで僕も監督も頭がいっぱいになっているので、「どうしようか」なんて言いながら、過去の中堂を演じる日になってしまって(笑)。でも、思い切り芝居を変えることはせず、新鮮な気持ちを取り戻してもう一回1話より少し前から始めるくらいのテンションでやろうかなって話しました。
――石原さんとは3度目の共演になりますね。石原さんが演じるミコトの魅力とはどんな部分でしょうか?
今回さとみさんが演じるミコトは、普段のさとみさんにすごく近いというか、現実味があるキャラクター。想像して作っていったキャラクターではあるけれども、全てのしぐさやせりふの言い回しなど、ちゃんとそこに生きている人がいる、ということをすごく感じました。
主人公はミコトだけれど、本当の主人公は遺体なのかもしれないですね。
ミコトは主人公である遺体にどんな物語があるのかっていうのを語っていく、ストーリーテラーなんですよね。ミコトはUDIラボのメンバーである5人の中で、一番普通の女性。
変わった部分があってはいけなくて、そこを今回さとみさんはちゃんと理解してやっていたから、ミコトのようなキャラクターが生まれたんだと思います。
少しでもそこがブレたら中堂も近づいていけなかったと思うし、ミコトは“普通”であるからこそ、変わり者のメンバーたちの中心にいられる。“座長だから”ではなく、こちら側から集まっていきたくなるようなそんなさとみさんの雰囲気や芝居が、僕らをミコトに引き寄せていったんだろうなと思います。
――中盤以降の展開に向けて、見どころをお願いします。
中盤から後半に向かっていく中で、1話から中盤にかけて作って行ったメンバーとの関係が変わっていきます。また、中盤からは随所に“金魚”にまつわる物語が出てきます。そこでミコトが、中堂が何に縛られているのかを知っていくんです。
そして中盤戦からは、UDIのメンバーが究明に挑む事件がどんどん難しくなっていきますし、事件性も強烈になっていきます。
今、現代で起きている事件とリンクする物語がすごく多くて…。現代だからこそ生まれる人の心の闇ですとか、現代の高度な技術を用いた事件など、後半は見ている人の心をえぐような内容になっていると思います。
UDIのメンバーたちがどうやって、その事件の真実を解明していくのか注目してほしいです。