「成績がストンと落ちる」「脳に甚大な影響を与える」-。日常生活や健康に深刻な支障が出る「ゲーム依存症(ゲーム障害)」について、「尾木ママ」の愛称で知られる教育評論家の尾木直樹氏(72)は、こう警鐘を鳴らす。世界保健機関(WHO)がゲーム障害を病気に認定したことには「依存の子どもたちの立ち直りにつながる」と期待感を表した。
-ゲーム障害が新たな疾患に認定されたことについての感想を
尾木 日本だけでなく、世界的な課題になっていた。アルコールやギャンブル依存と同様、脳の灰白質に甚大な影響を及ぼし、脱出が難しくなる。認定は治療対象にもなるということで「大英断」と言える。また、社会に対する「警告」の意味も大きい。学校や地域でも認識が変わり、依存で困っている子どもたちの立ち直りを全力で支援していけるようになるはずだ。
-ゲームの問題点とは
尾木 最近主流になっているオンラインゲームは対戦相手がいるので「眠いからやめる」「一抜けた」がしにくい。韓国ではオンラインゲームにはまってエコノミークラス症候群となり、複数の死者まで出ている。また、学力が急激に下がるという調査結果もある。学年上位にいた中学生が、あっという間に最下位あたりまで落ちたというような例は珍しくない。「やめなくてはいけないと分かっていても、やめられない」―。これが依存症の怖さだ。
-「ゲームをしないと仲間外れになる」と子どもに言われると、親が強く注意できないとの話も聞く
尾木 私の経験ではこの10年来「ゲームをやっていないせいで友達がいない」という子は1人も見てこなかった。むしろ、ゲームに頼らない子は自立できているとも言える。
-どういう子どもがゲーム依存になりやすい
尾木 「家庭に居場所がない」「家庭が楽しくない」など、端的に言えば親子関係が良くないケースだ。親がゲーム機を没収したとしても、根本的な解決にはならない。ゲームがなくても「楽しい」と思える家庭環境や友達関係をつくることが、依存の未然防止には重要だ。
-家庭で守るべきことは
尾木 あるアメリカの家庭で、母親が13歳の子どもにスマートフォンを与える際「18の約束事」を作成したのが日本でも話題になった。その中では第一に「スマホの所有権は親にある」ということを明確にしている。また、使用時間などについて話し合い、違反した時のペナルティーも決めている。このように家庭でルールを作ってほしい。内容は全て紙に書いて、家の中に貼り出しておくといい。
-ゲームから離れるためのアドバイスを
尾木 やっぱり体を動かすことかな。それとゲーム以外の楽しさを見つけること。日常の中で、バーチャルではない楽しさ、奥深さ、予測不可能な“どきどき感”を体験してほしい。そのためには、学校や自治体、国などがリードして注意喚起やガイドラインを作成し、個人や家庭を支援することが望まれる。
-コンピューターゲームの腕前を競う「eスポーツ」についてどう思うか
尾木 あれはスポーツとは言えない。大人が楽しむのはいいが、子どもたちにとってはデメリットばかり。オリンピックの競技に入れるというのは論外だ。
-ゲーム以外に気を付けることは
尾木 SNS(会員制交流サイト)の使いすぎに注意を。思春期になると子どもたちは仲間と群れて行動したり、おしゃべりを楽しんだりする。一方で、一人になり自分と向き合う時間は絶対に必要。自分を客観的に見つめ、葛藤することができるのは一人のときだけだから。24時間SNSでつながってしまうと精神的な自立ができない。10年後、自立できていない若者ばかりの日本になることを危惧している。
尾木 直樹(おぎ・なおき)
教育評論家、法政大特任教授、臨床教育研究所「虹」所長。1947年滋賀県生まれ。高松一高、早稲田大卒。私立高校や公立中学校教諭、大学教員などとして計44年間教壇に立つ。やさしい語り口と笑顔から「尾木ママ」の愛称で親しまれ、メディア出演や講演、執筆なども多数。
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