[東京 26日 ロイター] - 経営者の高齢化で先行き不安を抱える中小企業が、PE(プライベートエクイティ)ファンドの後押しで新たな成長策に乗り出すケースが相次いでいる。後継者難に悩む創業者の危機感と、古い企業体質を改革し利益と投資リターンを拡大しようというPE側の狙いが一致した動きだ。
巨大ファンドから独立し「事業承継」をターゲットにしたPEも登場するなど、中小企業に対するファンドの投資機運は大きく高まっている。
西日本のもやし生産大手のGGCグループ(岡山県小田郡)を経営する水本勝清氏(65)。売り上げは毎年、順調に伸びており、今年は79億円に達した。しかし、会社を成功に導いたトップダウンの経営は社内に「指示待ち体質」を広げ、有力な後継者が育たないという副作用も生んだ。
個人に依存しない組織的な経営体制をどう確立するか。体力の衰えを感じ始めた同氏にとって、日増しに悩みは深まっていた。
水本氏が勝負に出た「奇策」は、米投資会社カーライル(CG.O)との提携だ。カーライルは3月に同社に出資。外部から幹部を採用するなど、これまでの経営体制の一新に着手した。組織力を高め、東南アジアを中心に海外で事業を展開したいと考えていた水本氏にとって、海外でのネットワークを持つ外資系の投資ファンドはうってつけのパートナーだった。
同社だけでなく、経営者の高齢化問題は日本企業全体に広がりつつある。東京商工リサーチによると、全国の企業で70代以上の社長を持つ会社の割合は2010年の18.4%から毎年上昇、2015年には23.3%に達した。
中小企業にとって、後継者不足は死活問題となる。中小企業庁によると、昨年の中小企業の経営者の年齢分布で最も多かったのは66歳。47歳だった20年前から世代交代がないまま着実に高齢化が進んでいる実態が浮き彫りになった。
多くの経営者が今後5年程度で引退を迎えるとみられており、この間に集中的に事業承継が進まなければ、廃業が相次ぎ、全国で多くの雇用の場が失われることも懸念される。「事業承継の問題は待ったなしの状況にある」と中小企業庁の事業環境部の川田進一郎氏はみる。
しかし、こうした中小企業の窮状が、PEファンドにとっては新たな投資機会と映る。経営体質は古いが、事業自体に潜在力のある中小企業も少なくない。みすみす廃業させるのではなく、資金と経営ノウハウを投入して継続的な成長を実現、投資リターンを確保しようというのがファンドの戦略だ。
国内の中堅ファンド、アドバンテッジパートナーズ(東京都港区)は今年の2月、142年の伝統を持つズワイガニの加工販売会社のイチボシ(福井県坂井市)の全株式を取得した。
「日本でのカニの捕獲が困難になっている中で、カニの需要の伸びを期待できるため」と、アドバンテッジの市川雄介氏は年商約30億円のイチボシを買収した理由を語る。今後は中国やタイ、米国にも販路を広げ、成長に弾みをつけたい考えだ。
「事業承継は投資のメーンテーマ」と話すのは、別の中堅ファンド、アント・キャピタル・パートナーズ(東京都千代田区)の飯沼良介社長。同社が2014年以降に行った4件の投資はすべて事業承継の案件だった。中小企業の経営は創業者やオーナーたちの感性と勘だけに頼りがちだが、合理的な経営手法と組織を導入すれば、業績拡大の余地は大きくなる、と飯沼氏はみる。
成長余力のある地方企業を発掘するために、巨額ファンドから独立して自らのファンドを立ち上げた例もある。米投資ファンドのTPGキャピタルの日本法人の代表だった津坂純氏は2014年に日本産業推進機構(東京都港区)を設立した。
官民ファンドの地域経済活性化機構の幹部だった櫻田浩一氏は、同じく地方企業の事業承継をターゲットにした日本協創投資(東京都千代田区)を立ち上げ、現在約100億円を目標に投資家から資金を集めている。
投資ファンドが地方案件の掘り起しを強化するようになった背景には、PE投資家として地方銀行の割合が増えているという事情もある。高リターンの投資に取り組むと同時に、「地銀は地域経済の成長のための役割を果たすことを求められている」とユニゾン・キャピタルの林竜也パートナーは話す。ユニゾンはファンドの投資家となっている複数の地銀と地方案件の発掘をしている。
中小企業の経営者の中にはいまだにファンドに身売りはしたくないという人が多いが、その抵抗感はかなり少なくなっている。
「以前はR&D(研究開発)や設備投資をすれば企業は成長できたが、今はそれだけでは十分でない。M&A(合併・買収)も中小企業経営の大事な選択肢となってきた。人口減少に伴い、ますますこの傾向に拍車がかかかだろう」とM&A仲介会社、ストライク(6196.T)の荒井邦彦社長は話している。
(藤田淳子 編集:北松克朗)