[東京 28日 ロイター] - ドル/円JPY=EBSの上昇スピードが速い。心理的節目として意識されていた105円を突破するのは、米大統領選後との見立てが多かった中で、市場では「想定外の早さ」との声も漏れる。海外金利の急上昇が直接のきっかけになったが、108円程度まで円安が進むのか、それとも円高圧力が再燃するのか、市場のリスク心理の動向によって、先行きは大きく振れる可能性がある。
<注目された米長期金利の上昇>
「こんなにあっさり105円を上抜けるとは、想定していなかった」と、国内金融機関のディーラーは指摘する。27日の海外市場で、ドル/円は104円半ばから105円前半まで上昇した。
ドル/円上昇を演出したのは、米金利の上昇とみられている。10年米国債利回りUS10YT=Rは5月以来、約5カ月ぶりに一時1.86%台に上昇した。
105円台回復は、日銀の7月金融政策決定会合で105円を割り込んで以来、3カ月ぶりとなる。節目では国内輸出企業による戻り待ちのドル売りが重しになりやすいとみられただけに「虚を突かれた」(国内金融機関)との声も漏れる。
野村証券・チーフ為替ストラテジスト、池田雄之輔氏は、ドル/円について「104円までの上昇は、ショートカバーが主体だった可能性がある。強気なポジションの構築はまだ若い局面にあり、利食いに動く投資家は少ないのではないか」と指摘している。
<円売りの影にポンド、英国債の思惑>
ここ数日間で勢いづいたドル/円の上昇。今回その起点となったのは、意外にも英国だ。
まず、下落が続いていたポンドの動きに変化が出た。FXプライムbyGMOの常務取締役、上田眞理人氏は「(英国民投票後の)英ポンド下落が一段落し、投機筋のポンド売りが一時的にワークしなくなっている。その代替として『攻めの円売り』が広がっているようだ」と指摘している。
そこに英国債という「役者」も加わってきた。金融大手ロイズ・バンキング・グループ(LLOY.L)が26日、第3・四半期決算発表と同時に「最近の低金利環境」を受け、保有する英国債の売却を示唆。
それを受けて英国債金利が急騰し、利回り上昇は欧米国債へと次第に波及。結果として日米金利差が拡大して、外為市場でドル買い/円売りが発生しやすくなったという構図だ。
大幅な英金利の上昇は、欧州連合(EU)離脱決定後に進んだ強烈な金利急低下の反動でもある。ブレグジットで一気に過去最低水準を更新した英金利は、悲観論が過剰すぎたとの見方が増えるとともに、今月に入り切り返しの動きを強めていた。
イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁が、通貨安が「かなり著しい」と警戒姿勢を示したことや、第3・四半期の英国内総生産(GDP)速報値が予想を上回ったことなども、追加緩和観測を後退させる形で金利上昇を促した。
債券市場関係者の中には、米資産運用会社ダブルライン・キャピタルを率いる著名投資家のジェフリー・ガンドラック氏が「3─4年以内に(債券市場へ)台風が来襲する」などと、重ねて悲観論を強調したことに興味を示す声もある。
<ドル/円の行方、リスクオフ心理が左右>
一方、年内のドル高/円安継続をみる向きが増えている。シティグループ証券・チーフFXストラテジスト、高島修氏は、年初来一方向の下落を続けてきたドル/円は、調整局面に入った公算が高いとみている。
通常、こうした調整局面は52週線や週足一目均衡表の雲まで届くことが多いという。「現在は110円を超えている両線は、年末には108円前後へ下がってくる見込み。年内、このあたりまでの上振れリスクが、警戒されるようになってきた」(高島氏)と、指摘している。
もっとも、目先のドル高/円安のモメンタム継続には懐疑的な見方も出ており、いったんは調整局面が来る可能性もある。
SMBC日興証券・為替・外為ストラテジスト、野地慎氏は「市場参加者の多くが、米長期債利回りが一段と上昇すれば、高値圏にある米国株の下落をもたらすトリガーになりかねないとみており、リスク回避心理が一気に広がるリスクを意識している」と指摘する。
27日の米ダウ工業株30種は、0.16%安と小幅な下落にとどまった一方、投資家の不安心理の度合いを示すとされるボラティリティ・インデックス(VIX指数)は15.36にじわり上昇している。
こうしたリスクの側面を考慮すれば、「米長期債利回りの上昇がドル買い/円売りをもたらすという現在の構図が、今後も定着するとは考えにくい」(SMBC日興の野地氏)という見方もある。
米大統領選は、11月8日に迫ってきた。「直前になれば、投機的な円売りポジションがいったん巻き戻され、円高に振れる余地も十分にある」と、FXプライムの上田氏はみている。
野村証券の池田氏も、大統領選の前後でポジション調整の可能性があるとみている。「市場がクリントン候補の勝利を織り込みながら『うわさで買う』動きを続けるなら、調整局面は『事実で売る』形で、選挙後に持ち越される可能性がある」と話している。
(平田紀之 基太村真司 編集:田巻一彦)