[ココモ(インディアナ州) 7日 ロイター] - カレン・ピーターズさんは、勤労者世帯が中心の静穏な住宅街で人生の大半を過ごしてきた。こぎれいに整えられた自宅前の歩道に、黒のスプレーで書かれた文字は、筆跡こそ乱暴な走り書きだったが、侮辱のメッセージは明白だった。
「KKK ビッチ」(白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)の略称と雌犬の意)
こうした人種的偏見に満ちた落書きは、10月半ばから、インディアナ州の小都市ココモの自動車、家屋、電柱などに出現している。ピーターズさんのような被害者の多くはアフリカ系米国人だが、そうでない人もいる。多くの人は芝生に、今週の大統領選挙で民主党を支持するプラカードを立てていた。複数の家庭のカードには悪名高き「KKK」のイニシャルが吹き付けられていた。
「これは政治的な問題だと思う。手に負えなくなりつつある」とピーターズさんは言う。大統領選挙における対立の過熱、それも特に共和党ドナルド・トランプ候補の攻撃的な移民排斥主義の論調が、過激主義者を大胆にさせているのだと彼女は考えている。
「(候補者が)無教養なことを口にしていると、たぶん他の人々もそういうことをやっても問題ないのだと考える。本当に悲しいことだ。私たちの国は逆戻りしつつあるように思う」
こうした攻撃について、警察は容疑者を特定していない。市長や地元の党職員を含む民主党関係者は、政治的な動機による犯罪だと考えている。地元の共和党関係者はこれに懐疑的で、無知なチンピラのしわざであり、共和党とは無関係であると主張する。
米国各地で、煽動的で対決色の強い政治的論調が市民どうしの会話にまで染みこんできており、有権者を分断している。
その影響を数値化することは難しい。政治的動機による犯罪や煽動的な言論を把握するような全国規模のデータは存在しないからだ。
だが、無党派のピュー・リサーチ・センターの調査によれば、政治的な敵対者を中傷することが「適切な場合もある」と考える有権者の比率は、3月には30%だったのが、10月には43%にまで上昇している。どちらの党を支持する有権者でも、他党について「非常に否定的な」見解を持っている人が過半数を超えている。これは1992年の調査開始以来、初めての結果だ。政府に対する不信感は過去最悪のレベルで推移している。
「こうした指標はグループ間の対立が高まっていることを示しており、品のない言葉のやり取りから軽度の攻撃、さらには非常に過激な行動に至るまで、あらゆる事象につながりかねない」。カリフォルニア州立大学の憎悪・過激主義研究センターのブライアン・レビン所長はそう分析する。
敵意の多くは、移民やアフリカ系米国人その他のグループ、典型的には民主党ヒラリー・クリントン候補を支持する人々に対して向けられているものの、共和党員もトゲのある言葉や敵意に直面している。
過激主義に関する議論の多くはいわゆる「オルタナ右翼(Alt-Right)」に注目している。トランプ候補の選挙運動に共感する政治的な暗部から浮上してきた、白人ナショナリスト、反ユダヤ、反移民主義者による緩やかに結びついた運動だ。
メキシコ国境に壁を築く、不法移民数百万人を強制送還する、テロとの関係がないかムスリムを厳しく取り調べるといったトランプ氏の公約は、オルタナ右翼のコミュニティを活気づけてきた。
マイケル・ヒル氏は、トランプ候補のこうした表現が、米国における白人キリスト教徒ら多数派の地位が侵食されるというオルタナ右翼の懸念を正当化したと指摘する。ヒル氏は白人至上主義者、反ユダヤ主義者、外国人嫌いを自称し、独立した「白人の国」の創設をめざす「南部ナショナリスト」グループである「南部同盟」のリーダーである。
「トランプ氏の選挙運動を取り巻く全般的な政治環境は、私たちだけでなく、他の右翼団体にとっても非常に有意義だ」とヒル氏は言う。
これに似たナショナリスト的な底流は、ロシアから日本、英国に至る他の諸国でも発生している。この夏、英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる議論がヒートアップするなかで、EU残留派の国会議員ジョー・コックス氏が路上で銃撃を受け、刃物で刺された。トーマス・メア容疑者は、「裏切り者に死を、英国に自由を」と主張していた。
米国では、敵意にあふれる政治的な表現、破壊行為、暴力に関するニュースが定期的に報じられている。
ミシシッピ州では、黒人教会が放火され、「トランプに投票を」と落書きされた。ノースカロライナ州では共和党の郡事務所が炎上し、近所のビルには「ナチ共和党員は街を出て行け」とスプレーでペイントされていた。オハイオ州では民主党の選挙事務所に大量の肥料が投棄された。
ユタ州では中庭にトランプ候補支持のプラカードを掲示していた男性が、車に「KKK」の落書きを受けた。ウィスコンシン州では、大学フットボールの試合で、首に絞首刑の縄をかけられたバラク・オバマ氏のマスクを着用するファンが見られた。
<過激派が主流に>
トランプ氏の立場は「白人からの資産略奪にブレーキをかける」というオルタナ右翼の目標と合致していると白人ナショナリストのジャレド・テイラー氏は言う。彼が運営するウェブサイト「アメリカン・ルネッサンス」は、オルタナ右翼運動のなかで人気を博している。
だがテイラー氏によれば、メディアは「トランプ氏の信用を落とそうとして」オルタナ右翼のあいだでトランプ氏が支持されていることを誇張しているという。
トランプ氏は、政治的右翼のうち過激な部分について非難することを躊躇(ちゅうちょ)しているとして、民主党及び共和党の一部から批判されている。だが先週、KKKの代表的な機関紙がトランプ支持の記事を1面に掲げたときは、さすがにトランプ陣営も「ひどく不快な」記事であるとして、これを拒否する声明を発表した。
テイラー氏、ヒル氏その他のオルタナ右翼の関係者は、自分たちは破壊行為・暴力行為を支持・許容しないと言う。彼らは、自分たちの発言がヘイトスピーチであるという考えを否定し、彼らに対する左翼による悪口のほうがはるかにヘイトだと主張する。
合衆国憲法第一修正に見られる言論の自由に関する規定は、煽動的な言葉遣いに対しても幅広い保護を認めている。だが各州・連邦の法令は、法執行機関に対し、人種・民族・宗教・障害・性的志向に対する偏見に基づく「ヘイトクライム」を捜査・訴追する権限を与えている。
カリフォルニア州立大学の研究者らの記録によれば、昨年のヘイトクライム件数は6%増加しているが、ほとんどの少数派グループに対する攻撃という点では、基本的な変化は相対的に小さいことが分かる。だが、ムスリムに対するヘイトクライムは86%も増加している。
政治分野の研究者・実務家のなかには、今回の大統領選挙が始まるずっと前から、全般的に礼節の低下が始まっていると考える人もいる。
インディアナ州ハワード郡で共和党郡会長を務めるクレイグ・ダン氏は、少数派の過激な意見がインターネットやソーシャルメディア上で増幅され「全般的な礼節の崩壊」に拍車をかけていると語る。
地元の当局者は、自分たちのコミュニティにどのような影響が出るのかと懸念している。
地元の雰囲気は「より危険で、緊張が増している」と語るのは、ココモ市の民主党に所属するグレッグ・グッドナイト市長。落書きによる攻撃は非常にやっかいだ、と彼は言う。「この街でこんなことが起きるのは記憶にない」
自宅の庭に置いた民主党プラカードに「KKK」とスプレーで書かれたモニカ・ファウラーさん(43)は、こうした攻撃に苦しんでいる。「反対すること自体は構わない」と彼女は言う。「だが、他人を怖がらせたり、苦しめたりする行動を取ることは、考えられない」
(翻訳:エァクレーレン)