靴の手入れ「めんどくさい」をなくす法

06.29 08:00 PRESIDENT Online

「一流のホテルマンは客の足元(靴)を見て客のレベルを判断する」という話は有名だが、ビジネスの世界でも同じことがいえる。つい手を抜きがちな足元に気を配ることが、成功への近道だ。

靴には持ち主の人柄が表れる

スーツやネクタイには多少気をつかっても、靴には無頓着なビジネスマンが多い。街を歩くと、安物の靴をろくに手入れもしないまま履き続けている男性をよく見かける。しかし、多くの人が思っている以上に、「靴」は重要な存在である。

「あるレベル以上のビジネスの世界になると、TPOに応じた身だしなみができるかどうかが、その人の評価につながります。そこで失敗すると、いくら本人の実績やスキルが優れていても、次のビジネスのドアが開かないのです。とりわけ靴は、履いている人物の評価に直結します」

こう語るのは、経営コンサルタントとして3500社超の経営者を見てきた石原明氏。ビジネスマンは靴のよし悪しで値踏みされるというのだ。

<三流の安物の悪い靴>

(1)革質が悪いため、磨いても光沢が出ない。
(2)シューキーパーを入れていないため、見苦しい「折りジワ」。
(3)一体型のゴム製ソール(靴底)をアッパー(甲の部分)に接着剤でくっつけただけ。ヒールもソールも交換できない。

<一流の履き込まれた良い靴>

(1)革質が良いため、磨くと美しい光沢が出る。
(2)シューキーパーを入れて保管しているため、「折りジワ」が美しい。
(3)ソール(靴底)とアッパー(甲の部分)を糸で縫い付けている。ソール交換でき、長く履き続けられる。

さらに石原氏は「靴を見ればその人が出世するかどうかもわかる」と言い、次のようなエピソードを紹介する。

「長く活躍する芸人さんは、テレビ局でAD(アシスタントディレクター)の靴を見るそうです。汚れた靴が多いなか、綺麗な靴の人がいたら仲良くしておく。その人はほぼ確実にディレクターになり、一部は経営幹部にもなっていくそうです」

ものを大切に扱う人は、人への心配りもできるので周囲から自然に引き上げられ、出世していくというのだ。

東京・南青山で靴磨き専門店、Brift H(ブリフトアッシュ)を経営している長谷川裕也氏も、「社会的な地位のある人で、靴に気を配っている人はとても多いですね」と断言する。同店は、多くの企業経営者や資産家から高級靴の磨きや修理を依頼されている。長谷川氏によると、一流と呼ばれる人たちの靴へのこだわりは並外れているという。

また、よく手入れされた靴を履く人は所作にも品が漂うと長谷川氏は言う。

「常に足元に気を配っていると、自然に行儀がよくなります。反対に、電車でだらしなく足を投げ出している人の靴は、たいてい汚れていますね」

石原氏によると、一流の人なら、靴に持ち主の人柄が表れることを知っている。だから他人の靴をそれとなくチェックしているというのだ。

革の光沢を引き出し、長持ちさせる磨き方

では、これまで靴に無頓着だった人は、何から始めればいいのか。

「今持っている靴を、磨くことから始めるのがいいでしょう。まずは綺麗な靴を身につける心地よさを体感することが大切です」(長谷川氏)

道具は何を揃えるべきか。靴磨きというと、よくスーパーのレジ横で売られているスティックタイプの液体クリーナーでひと塗り、という人も多い。だが「あれだけは、使わないほうがいい」と長谷川氏は警告する。

「綺麗になったように見えて、実は薬品で表面に膜をつくって光らせているだけ。革本来の光沢ではありません。何度も使用すると膜が分厚くなり、やがてボロボロと剥がれてきますし、革も傷みます」(長谷川氏)

<靴を長持ちさせる正しい磨き方>

(1)道具の用意

馬毛のブラシ、保湿・栄養

(2)汚れ落とし

馬毛のブラシで、靴に付着している泥やホコリなどの汚れを払い落とす。

(3)保湿・栄養を与える

ローションを布に取り、ムラなく全体に塗り込む。最後に同じ布で乾拭きする。

(4)型崩れ防止

磨き終えた靴に、シューキーパーを入れて靴棚に保管する。

写真は、長谷川氏に教えてもらった正しい靴の磨き方だ。革本来の光沢を引き出し、靴を長持ちさせる。また一度は、プロに磨いてもらうこともお勧めしたい。プロの仕上げを知ることで磨き上げられた革靴の美しさを知り、靴磨きの意欲も増すからだ。

磨き方を覚えたら、相応の質と製法でつくられ、長く履き続けられる革靴を新たに購入することもお勧めしたい。

安物の靴は革質が悪いうえに、アッパー(甲の部分)とソール(靴底)を接着剤でくっつけただけの「セメント製法」でつくられている(悪い靴の写真)。この製法は摩耗したり破損したりしたソールを交換できず、最初から使い捨て仕様になっている。

修理をしながら長く履き続けられるのは、アッパーとソールを糸で縫い付けるグッドイヤー・ウェルトという製法の靴で、革も上質なものが使われている(良い靴の写真)。ソールが摩耗や破損しても糸をほどいて交換でき、5年、10年と長く履き続けられる。

「3万円も出せば、グッドイヤー・ウェルト製法の靴を手に入れることができます」とは長谷川氏。この価格帯だと「リーガル」や「スコッチグレイン」といった日本メーカーのものが揃っている。日本製の靴はつくりが丁寧で長持ちするわりに、手頃な価格なのだ。

靴を長持ちさせる習慣のない人に、特に注意を促したいのは踵の減りだ。ここは人から一番見られるポイントで、減ったままにしていると、だらしない人だと思われる。「見た目が悪いだけでなく、減りすぎるとヒール本体まで傷つけて修理できなくなる危険性もある」(長谷川氏)。日頃から靴の踵をよくチェックしておいて、減ったらマメに交換する習慣をつけたい。

[ジャーナリスト 大島 七々三 撮影=榊 智朗]

外部リンク

年収2000万vs500万学習法比較

06.29 08:00 PRESIDENT Online

いつ、どこで、何が違うことで、年収の違いは生まれているのか。アンケート調査の結果から意外な結果が見えてきた。

2000万円は資格勉強をしない

入試、就活、資格、出世競争――。生涯年収に関わる人生の「ターニングポイント」では、効率良く学習できるかどうかが結果を大きく左右する。では、年収の高い人の学習法はどう違うのか。プレジデント誌では年収500万円台と年収2000万円以上のビジネスマン1000人にアンケート調査を実施した。

経営コンサルタントの神田昌典氏によると、アンケート結果を読み解く際には「単純な学習法の違い」に加え、「仕事のステージごとに学習法は変わる」という視点を持つことが大切だという。

たとえば「何を勉強していますか」という質問に、「資格」と回答した人は2000万円以上で11.0%、年収500万円台で22.3%。一方、「政治」「経済」「歴史」などの教養と回答した人は、年収2000万円以上が多い。だが、この結果を「収入を上げるために資格勉強は意味がない」と読み解くのは早計だ。

「40代、50代で年収2000万円以上の人は、若い頃に勉強して資格を取得しているかもしれません。私自身、大学生のときに外交官試験に合格して外務省に入り、アメリカの大学院でMBAや経済学修士を取得したことが、現在のキャリアにつながっています。年収2000万円以上の人は、社会的に影響力のある立場になり、バックグラウンドとして必要な政治や経済、歴史の勉強をしていると考えられる。反対に、若いときから政治や経済をよく勉強するのはいいことですが、年収を上げることには直結しづらいでしょう」

神田氏は学習プロセスには、独学で情報を学ぶ時期(イン・フォーメーション)、人との交流で学ぶ時期(インター・フォーメーション)、学んだ知識を外に向けて発信する時期(エクス・フォーメーション)、専門分野を持った人たち同士が連携する時期(トランス・フォーメーション)の4つのステップがあるという。この考え方に従うと、若い頃は自分を高めるための学習が大切になってくる。

「しかし、どの段階においても、収入の高い人と低い人では『行動量』が圧倒的に違います。今回のアンケート結果を見ても、『勉強時間』『読書量』『会食の回数』『旅行の頻度』と明らかに開きが出ています」

後述のアンケート結果は、設問ごとに「意欲」「行動」「情報源」「読書」に分けて掲載した。行動量の違いはそれぞれの項目でどのように表れているか。神田氏の解説とともに見ていこう。

【稼げない人の習慣】

1. 引きこもりがちで人と会わない
2. スキマ時間にやることが決まっていない
3. 会社と家が遠い
4. 紙媒体をあまり読まない
5. 行動的でなく、旅行にあまり行かない

【稼ぐ人の習慣】

1. 社交的で人から情報を得る
2. 政治・経済のニュースを気にする
3. 少しの時間もムダにしない
4. エネルギッシュで行動量が多い
5. 読書量が多く、雑誌を定期購読

浮き彫りになった「行動量」の違い

学習意欲について、「最も学びとなるものは何か」と質問したところ、年収2000万円以上と500万円台の約6割が「人との交流」と答えた。年収の低い人のほうがパーティや会食などの機会は少ないはずだが、このような結果が出たのはなぜか。

「人との交流と一言でいっても、最近は『読書会』や『朝活』など、気軽に参加できる新しい交流の機会が増えてきています。そのような場に参加し、学び合えることを実感した人が増加したことが、アンケート結果に反映されているように思います」

ただし、実際に勉強している人の数は収入によって大きな開きがある。

「仕事以外の時間に勉強している」と答えた人は、年収2000万円以上で69.2%、年収500万円台で41.2%だった。また3カ月に1回以上セミナーや勉強会に参加する人は、年収2000万円以上で過半数の53.2%だが、年収500万円では31.5%だった。収入の高い人と低い人の行動量の差が浮き彫りになった結果といえよう。

「学ぶ習慣を持っているかどうかが、行動量の差、そして収入の差につながっています」

→拡大画像はこちら

富裕層8割が行う「To Do」作成法

収入を上げるために、まずは行動量を増やしたい。

「スキマ時間に何をするか決めている」と答えた人は、2000万円以上で約半数の49.2%、500万円台で33.0%だった。日々のわずかな勉強時間の差の蓄積が、生涯年収に大きな差を生む。

意外だったのは年収の高い人でも、先々まで勉強のスケジュールを決めている人が少なかったことだ。「スケジュールを決めていない」と答えた人は、2000万円以上で54.3%、500万円台で50%だった。

「ただし、年収の高い人はTo Doリスト作成が習慣になっているはずです。米国のアンケート調査(※)では、毎日To Doリストを作っている人は富裕層が81%、貧困層が9%と差が出ています」

※年収16万ドル以上で資産総額が320万ドル以上の富裕層と、3万5000ドル以下の低所得層の習慣を比べた調査 出典:トーマス・コーリー著『Rich Habits: The Daily Success Habits of Wealthy Individuals (1st Edition)』

では、To Doリストを効果的に活用する秘訣はあるのだろうか。

「毎日やるべきことを10項目思いついたら、全部書き出してください。そして、後でリストを見返したときに、いらないものにはバツを付けて、3つだけでもいいのでその日にやるべきものだけを残す。優先順位をつけて必要なものを実行するのです」

500万円台はあまり会食しない

「仕事に役立てる情報源」について、2000万円以上は500万円台と比べて、「新聞」「雑誌」「書籍」などの紙媒体を活用し、「友人・知人」「旅などの体験」から情報を得ている人が多かった。一方、500万円台の人は、「ネット・SNS」「テレビ」を情報源とする人が多い。

「最も費用対効果の高い情報収集の方法は、雑誌や書籍などを読むことです。紙の情報と比べると、どうしてもインターネットやテレビでは、情報が歪められていることが多い」

年収別で大きく差が開いたのが「会食の回数」だ。アンケート結果を読み解くと、1カ月に社外で5人以上と会食している人は、2000万円以上で38.2%、500万円台で10.6%。さらに、そもそも会食自体しないと答えた人が、500万円台では66%となった。

旅行に行く頻度にも開きがある。2000万円以上は「年に2回以上旅行に行く」という回答が78.2%、500万円台では52.2%。

稼ぐ人は「社交的で人から情報を得る」、稼げない人は「引きこもりがちで、社交性が乏しい」という人物像が浮かび上がってきた。

一石三鳥の方法で付加価値を高める

読書が費用対効果の高い方法であることはわかった。では、習慣づけるためにはどうすればいいか。

「読書習慣のない人は、まずは現在取り組んでいる仕事の結果に直結する本を読みましょう。営業であればお客様の業界研究ができる本を読む、といった具合です。通常の仕事にプラスαで負荷をかけることで、仕事を通じて本の内容が身につくのでオススメです」

もう一つ、読書習慣をつけるためには「定期購読」という方法がある。今回のアンケートでも「定期購読している雑誌の冊数」を尋ねたところ、2000万円以上で約半数が定期購読していることがわかった。

「毎日届く新聞と同じで、定期的に雑誌が送られてくれば、それに目を通す習慣がつきやすい。私も、海外のマーケティング雑誌を定期購読しています。ほかの人と違う情報源を持つことは、自分の付加価値を高めていくうえで非常に有効な手段です。雑誌を読むために、英語に目を通すことにもなるので、一石三鳥です」

収入の高い人ほど、限られた時間で効率良く学べるよう、行動しているという結果になった。

概要●楽天リサーチの協力を得て実施対象●ビジネスマン1000人(20~60代、各年収層5:5、500万円台は男450人:女50人、2000万円以上は男462人:女38人)調査期間●2016年5月9~11日

[撮影=安井信介 スタイリング(厚切りジェイソン氏)=松川 茜]

外部リンク

"地方公務員年収ランキング"ワースト500

06.29 08:00 PRESIDENT Online

ワースト上位は「村」や「島」

5月11日、地方自治体の非常勤職員への期末手当の支払いを明記した地方公務員法の改正案が国会で可決された。この数年、地方自治体では「非正規化」が急速に進んでいる。総務省によると、地方自治体職員の3人に1人は「非正規公務員」だという。法改正はこうした現状に対応するものだが、そもそもどれくらいの給与が適正なのだろうか。

地方公務員年収ランキング

ワースト500位まで大公開

プレジデントオンラインでは、今回、総務省が発表した2016年(平成28年)の「地方公務員給与実態調査」に基づいて、自治体ごとの平均年収を推計した。対象は「一般行政職」で、諸手当(寒冷地手当を除く)を含む平均給与月額に、期末手当と勤勉手当を加えて算出した。なお、一般行政職とは、教育職や警官といった専門職ではない、いわゆる役所で勤務する公務員を指す言葉だ。

全国市区町村(1722自治体)のワースト上位には村や島が目立つ。こうした傾向は毎年変わらない。

2016年のワースト1位となった東京都青ヶ島村は、伊豆諸島南部にある人口はわずか153人の小さな島だ。地元の酒造会社が製造する焼酎「青酎」や、「島寿司」と呼ばれるヅケの握りが名産品。島全体が二重カルデラになっており、ヒット映画『君の名は。』に登場する聖地のモデルではないかと公開後には話題を集めた。

今回、青ヶ島村役場に平均年収の低さについて問い合わせたところ、「職員の平均年齢は高いが、人員の入れ替わりが多く、中途採用なども多いため、勤続年数が短い人が多いからではないか」(青ヶ島村役場・担当者)という回答だった。

地方公務員の給与は、業務内容の複雑さや責任の度合いに応じた職務の「級」と、それをさらに経験年数で細分化した「号級」の組み合わせで決定される。級の上昇が昇格、号級の上昇が昇給にあたるが、勤続年数が短い人が多ければ、どちらも低く留まり、平均年収は上がらない。

「ラスパイレス指数」は国家公務員を100とした場合の、各自治体の給与水準を示すものだ。2012年以前は全国市区町村の平均値が100を上回り、地方が国より高い状態が続いていたが、東日本大震災の復興財源を目的に国からの給与削減要請があったことから、年々低下。2016年は全国平均で98.1ポイントで、国よりも低い状態となっている。

[プレジデントオンライン編集部]

外部リンク

「座れる通勤列車」が週末に変身する理由

06.26 08:00 PRESIDENT Online

着席できる通勤列車が増えている。その真打ちとも言えるのが、西武鉄道発案の「S-TRAIN」だ。平日は通勤用として所沢と豊洲を結び、休日は観光用に変身して、秩父と横浜中華街を結ぶ。このために西武鉄道はわざわざ新型車両まで開発した。そこまでして前例のない「4社線直通有料指定席列車」に挑んだ理由とは――。

■「S-TRAIN」 の気になるポイント

・東京メトロ副都心線、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線で初の指定席
・4社直通、休日は最長113.6km、2時間33分の長距離運行パターンもある
・平日と休日で運行ルートが異なる。通勤モードと行楽モードの二役
・経由する路線すべての価値を高める看板列車
・このために新型車両40000系導入という意気込み
・通勤電車時はロングシート、S-TRAINはクロスシートの可変座席
・トイレ、無料Wi-Fi、コンセント付き

3月末にデビューしたS-TRAINに乗ってみた

2017年3月25日にデビューした「S-TRAIN」は、西武鉄道、東京メトロ、東急電鉄、横浜高速鉄道が運行する全席指定の列車だ。平日は所沢駅(埼玉県)と豊洲駅(東京都)を結び、休日は西武秩父駅(埼玉県)と元町・中華街駅(神奈川県)を結ぶ。平日は確実に座れる通勤電車として、休日は自然豊かな観光地の秩父と、都市型観光地の横浜をつなぐ。

休日の経路は実に最長113.6km。かつては乗り換えが必要、いや、そもそも乗り継ごうとも思わなかった経路だろう。秩父にはしばらく行っていない。横浜中華街もご無沙汰だ。それが1日で、1本の列車で両方行ける。そんなS-TRAINに乗ってみた。

朝9時、上野発のJR高崎線で熊谷へ。秩父鉄道のSL「パレオエクスプレス」に乗り、三峰口駅に保存されている古い車両を見物し、遅めの昼飯にモツ焼きを食べて、西武鉄道直通電車で西武秩父駅へ。駅ビルの土産物屋を冷やかして、ここから17時05分発のS-TRAIN4号に乗車。乗り換えなしで元町・中華街駅まで乗り通す。到着は19時38分。ちょうど夕飯の頃合いだ。中華街で知人オススメの店で一献して締めくくった。昼間、秩父の山の中で遊び、晩飯は中華街。こんな遊び方、いままで想像もしなかった。

昼間は秩父で遊び、夜は横浜中華街でディナー。西武・東京メトロ・東急・横浜高速鉄道の4社の路線を直通運転するS-TRAINだからできる遊び方だ。

2時間33分の乗車は楽しかった。トイレもあるから安心だ。日の高い時期だから、車窓は秩父の新緑、武蔵野の街の夕暮れ。地下鉄区間の後、東横線区間は夜景だ。座席は2人がけの前向きシート。東急東横線で、指定席の前向きシートに乗れるなんて。東急沿線育ちの筆者にとって、新鮮で感慨深い経験だった。

前向きシートの指定席は、西武鉄道では特急「レッドアロー」で経験済み。東京メトロは千代田線に小田急電鉄のロマンスカーが乗り入れて経験済み。しかし、東急電鉄と横浜高速鉄道は指定席列車の経験がない。この2社の賛同を得るには苦労したのではないか。

S-TRAINを発案したのは西武鉄道だ。どのようにして直通先3社の同意を取り付けたか。そもそも、なぜS-TRAINが企画されたか。運行開始に至るまでの経緯などについて、西武鉄道株式会社、鉄道本部、計画管理部運行計画課 課長補佐の廣田欣史氏に伺った。

前例のない「4社線直通有料指定席列車」

「東急さんだけが初めて、というわけではないんです」

東急電鉄をどう説得したのか、に対する廣田氏の答えだ。

S-TRAINの運行区間。1都2県にまたがり、最長113.6kmを直通運転する。

東京メトロにしても路線ごとに管理されており、副都心線は未経験。東急電鉄は、西武・東武・小田急・京成のような有料特急を持たない。沿線に宿泊型観光地を持たないから、運行する必要がなかったのだ。横浜高速鉄道は実質的には東急電鉄が運行管理している。終点の元町・中華街駅は観光スポットとして魅力が大きい。北の秩父とバランスを取れる目的地として、最も重要な駅の一つだ。横浜高速鉄道の同意なしではS-TRAINは成立しない、といっても過言ではない。西武鉄道にとって有料座席指定列車は経験がある。しかし、自社路線を超えて定期運行した経験はほぼゼロ。例外として秩父鉄道に乗り入れる団体臨時列車や西武秩父駅発のSLパレオエクスプレスがある程度だった。確かに鉄道業界全体で見ても、4社路線直通の指定席列車は前例がない。

「西武鉄道は直通の指定席列車をやる気だ」という観測はあった。2014年3月に朝日新聞が「次期特急レッドアローの横浜発秩父行きを検討している」と報じた。さかのぼると、2008年に東京メトロ副都心線が開通し、西武鉄道の電車が渋谷駅に到達。2013年3月から東急東横線の直通運転も始まった。その1年後というタイミング。直通運転の効果を評価した上での社長の談話を元にした記事だ。

特急レッドアローは車両の更新時期を迎えており、新型車両は地下鉄直通に対応するかもしれない。もし、レッドアローが東急電鉄に直通したら、東急電鉄にとって初めて観光地行き列車を得ることになる。通勤路線専業状態の東急電鉄にとって画期的なことだし、沿線の価値も高まる。

次期レッドアロー用の新型特急車両は2018年度から運行される予定。デザインコンセプトは「都市や自然の中でやわらかく風景に溶け込む特急」

大変だな……でもやってみよう

東京メトロ副都心線を介して直通する会社は5つ。北から西武鉄道・東武鉄道・東京メトロ・東急電鉄・横浜高速鉄道だ。2013年、この5社によるダイヤ編成会議で、ついに西武鉄道が提案する。指定席列車にも、ふだんの通勤電車にも使える専用車両を西武鉄道が用意します。だからやってみませんか、と。「ついにきたか、これは大変だな……」という反応だったらしい。

「西武鉄道内部でも同じ声がありましたよ。直通か、大変だな……って(笑)」(廣田氏)

もちろん、その場で即決ではなかった。解決すべき課題が多すぎる。まず、切符の売り方が違う。西武鉄道はレッドアローに対応した券売機があり、停車駅では有人の窓口もあるが、他社にはない。列車ダイヤはどうか。自社線内で、どの時間帯なら運行できるか。その時間帯は自社の沿線の人々にとって使いやすいか。同じ列車であれば、会社は違えど、お客様に見せるサービスは一つだ。各社の違いを一つのブランドにまとめなくてはいけない。

しかし、「ダメ」と言った会社はなかった。もっともコストがかかる車両は西武鉄道が製造するが、他の会社も券売機の改修や窓口の設置など多少の負担はある。共通項は「お客様のサービス向上になる取り組み」「新しいサービスにつながる」という意識だった。まず、やろう。その前提で課題を解決していこう。S-TRAINに向けた取り組みが始まった。

ちなみに、この5社会議のなかで決まったもうひとつの列車が「Fライナー」だ。こちらは通常の通勤電車で、5社のそれぞれの列車種別のうち、普通運賃で乗れる最も速い列車を直通させている。Fライナーに乗れば、直通先にも早く着く。直通列車は乗り換えなしで速い。わかりやすさと利便性を優先させ、各社の沿線に強くアピールした。

S-TRAINについては、電車の運用、乗客の動向を考えて、平日は西武鉄道と東京メトロ有楽町線、休日は西武鉄道と東京メトロ副都心線、東急電鉄、横浜高速鉄道で固まった。各社の要望をまとめると、西武鉄道は東急電鉄沿線の人々に秩父へ来てほしい、東急・横浜高速は西武鉄道沿線の人々に横浜に来てほしい。東京メトロは都心に住む人に秩父・横浜へ“座って”出かける機会を提供したい、だった。地下鉄は直通列車が多く空席が発生しにくいという宿命を持っている。

各社が希望のダイヤと停車駅を検討して持ち寄り、組み合わせて1つにしていく。せめぎあいは少なく、協力していちばん良いところを探そうという雰囲気だったそうだ。秩父に行きやすいダイヤにすれば、東急電鉄の利用者にメリットがあり、横浜に来てもらいたいダイヤにすれば、西武鉄道の利用者にメリットがある。結果的に、間に入る東京メトロにとっても両方向に都合の良いダイヤになった。

S-TRAIN向けに「40000系」を開発

S-TRAINに使われる電車は「40000系」という。西武鉄道が「もっとも進化した通勤電車」と胸を張る自信作だ。最大の特徴は座席。横向き座席(ロングシート)と前向き座席(クロスシート)を用途に合わせて転換できる。S-TRAINとして使う場合は、着席時の快適性を重視した前向き座席として使い、通常の通勤電車として使う場合はラッシュアワーの乗降動線がスムーズな横向き座席になる。

座席は回転できるクロスシート。S-TRAINとして使う時は前向き(写真)に、一般電車として使う時は横向きのロングシートに変身する。

西武鉄道は今後、地下鉄直通運転用の主力車両として40000系を増備し、旧型車両と置き換える方針だ。西武線内用の新型車両30000系に合わせて、車体色はコーポレートカラーの青。西武鉄道のロゴマークに合わせて水色と緑色をあしらった。今後はこの色の列車が増えて、従来の黄色い電車と入れ替わる。40000系のうち、座席転換するS-TRAIN仕様は今後4編成が追加される。その他は座席転換仕様ではなく、固定したロングシート仕様となるという。

40000系に共通する新要素は、10号車に用意された「パートナーゾーン」だ。座席を設けず床面積を広くして、車イスやベビーカーの利用に配慮している。パートナーゾーンは通勤時間帯に譲り合いの場として機能するほか、S-TRAINとして使用する時は展望車の役割を持つ。10号車は横浜寄りだが、S-TRAINは飯能で進行方向が逆転するため、秩父方面への先頭車になる。

展望室としても楽しめるパートナーゾーン。車イスやベビーカーの利用に配慮している。

パートナーゾーンには大きな窓と手すり、腰掛けがある。

車いす用の固定具。

トイレ、空気清浄機、コンセント、フリーWi-Fi完備

座席指定のS-TRAINは途中駅で降りられない。2時間の乗車となれば必須な設備として、1編成に1カ所トイレが設置された。西武鉄道が特急レッドアローのための水回り処理施設を持っているから可能になった設備である。トイレは通常の通勤電車使用時も利用できるが「あまり知られていないようで、通勤時に実際にご利用なさる方は少ないです」(西武鉄道)。

2時間の乗車となればトイレも必要。関東の私鉄通勤電車でトイレがあるものは珍しい。

最新設備はまだある。プラズマクラスター発生装置を搭載した空気清浄器を1車両につき2~4台ずつ設置。コンセントは2座席にひとつ。さらに無料の通信設備「SEIBU FREE Wi-Fi」も用意した。SEIBU FREE Wi-Fiはメールアドレスを登録するだけで無料で利用可。西武線内だけではなく、他社の区間でも利用できる。

壁際にはコンセントがある。

中吊り広告廃止も大きなトピックだ。車内広告をデジタルサイネージ中心とし、中吊りを廃止した。これは日本の通勤電車として初の事例となった。

中吊り広告を廃止。紙の広告の代わりに、デジタルサイネージを設置している。

特急料金は最長で1060円

指定席料金は、西武鉄道がレッドアローより少し安めの設定で、距離に応じて300円または500円。東京メトロ区間は一律210円、東急電鉄・横浜高速区間は共通で一律350円。各社にまたがる場合は合算となった。この料金も各社が独自に検討したという。結果として、平日は510円均一となり、座れる通勤電車としては他社と比較してもほぼ同じ。休日は最長距離の西武秩父~元町・中華街で1060円となる。

S-TRAINの特急料金。左が休日用、右が平日用。

→拡大画像はこちら

「乗車実績からみて、悪くない値段だったと思っています。ただ、乗り慣れない人、はちょっと高いと感じるようで」と廣田氏。

乗ってみれば価格に見合ったサービスだと思うし、乗り換えなしの快適性、速達性を考えると、むしろもっと高くても良いと思うくらいだ。その代わり、家族割引、敬老割引、回数割引などを検討してはどうか。鉄道の運賃は国土交通省から上限運賃の認可を受ける必要があるが、座席指定券などの付加価値分は鉄道事業者の裁量が認められている。ここもまだまだ工夫する余地がある。

運行実績から見えてきた「新たな需要」

S-TRAINの列車番号は、休日の秩父横浜方面が1ケタ。平日が100番台の3ケタ。「S-TRAIN1号」は元町・中華街発西武秩父行きで、「S-TRAIN2号」は飯能発元町・中華街行き。これがもっともコンセプトを体現する列車と言える。運行開始から約2カ月が経過し、休日ルートは行楽シーズンもあってほぼ満席。土日の需要を掘り起こせた実感があるという。

その反面、平日については「まだまだPRが必要というところ」とのこと。西武鉄道と東京メトロは7月11日から8月10日まで、「S-TRAIN 快適通勤応援キャンペーン」を実施する。西武鉄道のチケットレスサービス「Smooz」でS-TRAINの指定席券を10回以上購入すると1000円分のICカードチャージ引換券がもらえる。

平日のS-TRAINについては、当初の快適通勤以外の需要も掘り起こせたという。

「春休みの平日のS-TRAINでは、西武鉄道沿線から豊洲のキッザニアに出かけるご家族が多くいらっしゃったそうです」

子どもに人気のキッザニアは朝9時に営業開始。S-TRAIN102号の豊洲着07時24分は早めだが、8時30分の開場時には既に並んでいる家族も多いので、このタイミングがちょうど良いそうだ。

同様のことは、休日のS-TRAINにもありそうだ。秩父で遊んで横浜に帰るという想定のS-TRAIN4号は、筆者が見る限り、西武線内、東急線内の利用者も少なくない。乗客が去った席に、新たな乗客が座るなど、座席の回転率も良かった。

そもそも、秩父と横浜を結ぶというルートは、高速バスも、JRも、マイカー利用者も想定しなかった。S-TRAINは新たなルートを開拓したといえる。S-TRAINと、S-TRAINをきっかけにつくられた40000系は、新たなサービスを生み出す装置になっている。

西武鉄道「S-TRAIN」の企画書

西武鉄道では副都心線直通運転が始まった2008年から有料座席指定列車の地下鉄乗り入れを構想していたという。東急東横線の乗り入れは2002年に決定済みだった。ゆえに横浜方面の乗り入れも視野に入れていた。

S-TRAINは、消費者に手渡す商品ではなく、「座席」という在庫の効かないサービスである。商品であれば「こういうものを作って売りたい」と上司に決済を願う企画書になるが、この企画書は趣が異なる。発案者の西武鉄道から、直通先の鉄道会社に向けて、新たなサービスの同意を求めるという意味合いがある。

「相互直通運転が成功している」という各社の共通認識の上に立って、有料指定席列車の提案にあたり、西武鉄道のレッドアローの実績を提示。そのために製造する新型車両を提案し、各社の沿線の魅力を踏まえて、新たな列車サービスの必要性を説いた。他社の通勤ライナーとは異なり、レジャー向けの要素が強いところも興味深い。

なお、当時、実際に提案したときの企画書では、S-TRAINの名称はなく「直通座席指定列車」のような仮称だったとのこと。停車駅、ダイヤについても試案から現行データに置き換えられている。サービスが始まっている今これを見ると、S-TRAINの紹介パンフレットのようだ。しかし、2013年に初めてこの企画書を見た各社の気持ちを想像すると、「大変なことが始まるなあ、本当にできるのか」と驚いたことだろう。ソフト面、ハード面について、さまざまな課題をクリアした各社に敬意を表したい。

東急沿線の人々が秩父を、西武鉄道沿線の人々が横浜を身近に感じる。それ自体が新しい余暇の開発だ。列車ひとつで生活が変わる。鉄道会社の新たな価値を示した企画書である。

[文=杉山 淳一 撮影=岡崎利生]

外部リンク

転勤ナシと転勤アリの給与は同じでいいか

06.26 08:00 PRESIDENT Online

働く人の半数は限定社員

限定社員。

こう聞くと、何か特別な働き方のように感じますが、実は既に多くの人が限定社員として働いています。

政府は現在、非正規社員を正規社員に転換する政策を進めています。安倍晋三首相は「非正規という言葉をこの国から一掃する」とまで発言しています。その際、有力な受け皿となるのが「限定正社員」です。政府は、「多様な正社員」という表現を使っています。

何が限定かというと、「職種や職務」「勤務地」「労働時間」といった要素を限定した働き方ということです。たとえば、「営業マンとして、○○支店で働きます」「本社管理部で、経理職として、10時から16時まで働きます」といった感じです。

さて、厚生労働省が2012年3月に発表した「『多様な形態による正社員』に関する研究会報告書」によると、約50%の会社が限定正社員区分を導入。また、労働政策研究・研修機構が10年8月に実施した「多様な就業形態の従業員の実態調査」によると、正社員の中で限定正社員の占める人数割合は22%弱となっています。

「何だ、まだ2割じゃないか」と思われるかもしれませんが、あくまで正社員の中での割合です。現在、企業で働く人のうち正社員は約6割。残り4割は、非正規社員ということになります。パート・アルバイトや派遣社員など非正規社員の大半は、限定社員です。パート社員や派遣社員なのに、全国どこに転勤するか分からないケースは稀でしょう。そもそもパートタイムである時点で、時間限定です。すなわち、企業で働く人の約半数は、何らかの「限定」社員ということになります。

一方、非限定の社員とは、どのような人たちでしょうか。

職種、勤務地、労働時間とも、企業の方針によって流動的な社員。「新卒社員は、採用決定時点ではなく、入社前後に勤務地や所属部署を決定する」という会社は少なくありません。まさに非限定の最たるものです。「人材育成のために、部署間ローテーションを行う」「営業拠点活性化のため、定期的に転勤を実施する」といった方針も同様です。

限定正社員は日本で定着するか

例年行われる大学生の就職希望調査でも、たいてい発表されるのは人気職種ではなく人気企業のランキングです。もちろん新卒社員だけが非限定社員というわけではありませんが、中途採用者に関しては、すくなくとも募集時には一定の条件が提示されます。転職情報サイトでは、たいてい「職種」や「勤務地」で求人を検索するしくみになっています。

次に、給与水準について見てみましょう。

先ほどの厚生労働省の調査では、限定正社員の賃金水準は、非限定の正社員と比較して8~9割程度に設定している企業が多くなっています。この調査の面白いところは、企業側にだけでなく社員側にもアンケートを行っているところです。限定正社員に対して、許容できる賃金水準を聞いたところ、「非限定の正社員と同様の水準」という回答が最も多かったのです。要するに、転勤や職種転換の有無にかかわらず「同じ仕事をしているのだから、同じ給与を支給してもらいたい」という考え方です。

これは、どちらの立場に立つかによって、見解が分かれるところです。

もし、全国転勤可能社員と勤務地限定社員の待遇差が全くなければ、おそらく多くの人が後者を選ぶでしょう。すると、会社が組織を編成する際に、足かせが多すぎて、柔軟な意思決定ができなくなる恐れがあります。

日本の雇用慣習では、人に仕事が張りつくのに対して、欧米諸国は仕事に人が張りつくのが一般的です。たとえば、日本企業では、ある社員が技術部から人事部に異動になっても、基本的に給与額は変わりません。一方、欧米の企業では、このような職種を超えた異動が行われること自体が稀でしょうし、職務が変われば給与額も増減する方が自然です。これが、職務給という考え方です。通常、働く場所もあらかじめ決められています。

どちらの雇用スタイルが優れているという話ではありませんが、時代と共に、企業と社員の関係も変化してきました。長時間労働の是正や多様な働き方の拡大など、非限定正社員という働き方にも見直しの気運が高まっています。

いずれ、限定社員こそ働き方のスタンダード、という時代が来るかもしれません。

[新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口 俊一]

外部リンク

英語スピーチ"丸暗記"が失敗しやすい理由

06.26 08:00 PRESIDENT Online

厄介な英語でのスピーチ。内容を暗記できればいいが、本番では緊張して大失敗に終わるケースも多い。米マサチューセッツ大学MBA講師の齋藤浩史氏は、「大中小の法則を使え」という。日本人に最適化された英語スピーチの極意とは――。

英語スピーチで必ずぶち当たる壁

グローバルな世界に少しだけ慣れてきたビジネスパーソンにとって、最初にぶつかる難題は英語でのスピーチではないでしょうか。ただ、スピーチというとプレゼンのような大勢を前にしたセッションを想像してしまいがちですが、ここでは仕事や会議における発言のことだと思ってください。

ただ、それが仕事の一般的なスピーチであったとしても「日本語でも苦手なのに、外国語でスピーチをするなんて……」とハードルの高さを感じてしまうかもしれません。そこで、多くの人は応急的な英語スピーチを学ぶため英会話スクールに通いはじめるわけですが、そのスピーチが実際に仕事で求められているものは違うことに気づくのです。

英会話スクールで教わるビジネス英語と実際のスピーチでは何が違うのでしょうか。

実際にいくつかの英会話スクールで働いた経験からすると、スクールにとって生徒はお金の出し手で、「お客様」ですから、生徒の英語力の乏しさを厳しくツッコむことはありません。むしろスクール側は生徒を理解しようと努力することになります。生徒は会話を自由に楽しんでいると思っていても、相手は多少の我慢をしてくれているものです。

一方、ビジネスの場になれば、立場は反対になります。営業現場であれば、お金の出し手は取引先です。このためムダな話は極力抑え、要点を明確に伝えることが求められます。これは組織内部のコミュニケーションにも当てはまることでしょう。つねに張り詰めた状態というわけではないと思いますが、端的にわかりやすく話すことは暗黙のルールとなっているはずです。

このように、スピーチは立場や利害関係によって異なってくるのです。

たとえスクールで学んだ英語とビジネスの現場で使う英語が違ったとしても、慣れてくればスピーチも上達すると思われるかもしれません。ところが、「やはりうまくいかない」という声をよく聞きます。立場が逆転するとプレッシャーを感じるのかもしれません。ミスの許されない相手を前にしたときほど、スピーチの途中で話す内容が飛んでしまい、ドツボにはまってしまうのです。これは英語でスピーチするのに慣れている筆者でも経験があることです。

緊張を避けるために、多くの人はスピーチの内容を暗記しようとします。確かに暗記はウソをつきません。しかし、間違いに対して過度に敏感になってしまうと、文章を思い出すことばかりに気を取られてしまいます。このため、いったん間違えるとスピーチ全体が壊れてしまう、というリスクに注意しなければいけません。

「文章を一段落、まるまる抜かしてしまった」とか「文法を間違えた」などと聞くと、日本人の英語に対する内向きさがわかります。こうした「失敗談」がでてくるのは、日本人同士の「内向きの英語」になっていて、スピーチする相手(外側)と向き合っていないからです。このような意識では、英語力の成長は頭打ちになってしまいます。英語は言語であるため“相手に伝える”という外に発信する目的でなければ意味がないのです。

では、日本人が「外向きの英語」を実践するには、どうすればいいのでしょうか。

まずは緊張をとくために、“ある程度”の自由度を許容し、相手と向き合う余裕をつくることです。

英語でも伝わる「大中小の法則」とは

私が教えるビジネス英語研修では、話す内容を抽象度の大中小に従って3つの枠に分けることを教えています。文章を抽象度の高いモノから低いモノへと流れる構成にすると、該当する抽象度の枠内であれば自由に話すことができるので緊張しづらいのです。また、流れが決まっているので最後までスピーチが脱線することもありません。私はこれを「大中小の法則」と名付けて教えています。この大中小の法則は、文章全般に適用できる魔法のようなものなのです。

今回は、大中小の法則を使った具体例をひとつ挙げてみましょう。例えば、以下のような図を説明するとしたらどうするでしょうか。

ほとんどの方が、目に見えるモノをひとつずつ説明しようとするのではないでしょうか。しかし、それでは及第点しかとれません。相手にわかるように伝えるというのは、三次元の世界であり、奥行きのある説明が求められます。そのためにも、まずは全体像を説明し、そこから抽象度を下げて細かく説明していくことが大事です。

刑事ドラマで主役の刑事が現場検証する時、テープレコーダーに現場の様子を録音しているシーンを見たことがあると思います。注意してみると、その時、「事件の概要」、「現場の(その捜査官の)主観的印象」、「細かい点」という順で声を吹き込んでいることがわかるはずです。こうすることで、相手にとって二次元だったモノの存在が、三次元へと変わりその時の情景や形が浮かび上がってくるのです。

では、これをベースに大中小の枠に落とし込んでみましょう。

→拡大画像はこちら

このように文章を構成すると、抽象度が高いところから低いところへと流れていくため聞き手の頭に入りやすくなるのです。あとはシンプルに英語を入れ込んでいけば完成です。以下は実際に英文を大中小の枠に落とし込んだものになります。

This picture illustrates my room image.

(この図は、私の部屋のイメージです。)

Overall monotone color makes my room simple and cool.

(全体的に、モノトーン色が部屋をシンプルにかっこよくしてくれている)

My room has a sofa, indirect light, light and clock.

(部屋には、ソファ、間接照明、ライト、時計があります。)

「完璧な英語」という思い込みとはオサラバ

上記の例はほんの一部であり、すべてではありません。大中小の法則は形を変えていろいろなスピーチで適用することができます。つまり、大中小の法則を意識することで、聞き手にとってスピーチ内容が先読みしやすくなり、また話し手にとっても肩の力が抜けたスピーチになるのです。完璧な英語表現や難解な単語は必要ありません。発音やイントネーションが多少おかしくても、「外向きの英語」でスピーチをすることが重要です。

[マサチューセッツ大学MBA講師 齋藤 浩史]

外部リンク

富裕層に人気「高額保険」販売中止の背景

06.26 08:00 PRESIDENT Online

マイナス金利政策の影響で、生命保険の値上げや販売停止が相次いでいる。特に保険料を前もって払い込む「一時払い終身保険」は影響が深刻。こうした保険商品は、死亡保障が高額で相続対策にも活用できることから富裕層の人気を博してきた。しかし現在、その多くが販売停止に追い込まれている。苦境にさらされる生命保険。その価値に変化は生じているのか――。

多様化する個人の資産形成

今、個人の資産運用が多様化している。そして、数ある投資対象の中で注目されているのが、「NISA(少額投資非課税制度)」だ。NISAとは、金融機関に専用口座を開設し、そこで取得した上場株式等の配当や、上場株式等を売却したことにより生じた譲渡益に対して、通常、20.315%かかる課税を非課税とする制度で、2014年1月から開始された。

NISAは、非課税期間が5年間、非課税投資枠の上限が年間120万円と設定されているが、2017年度税制改正で非課税期間20年、非課税投資枠の上限を年間40万円とする「積立NISA」の新設が決まり、2018年1月から運用が始まる。日本国内の家計が保有する1800兆円もの金融資産のうち、現預金の占める割合は半分以上。政府はこれらを投資に誘導し、経済活性化を図ることを目的に、同制度の導入、拡充を行っている。

2016年12月末におけるNISAの口座開設数は1069万口座、買付額は9兆4756億円となっており、利用が急速に進む。

→拡大画像はこちら

また、「確定拠出年金」の利用の伸びも著しい。確定拠出年金とは、企業や個人が毎月一定額の掛金を拠出して、その資金を自ら運用し、それによって得られた給付金を原則60歳以降に年金や一時金として受け取るもので、運用の結果次第で将来の年金額が変わる。

社会保障費が増大し続け、公的年金の将来性が危ぶまれる中、「自力で老後の資産を蓄えたい」と考える人の増加から、2001年10月の開始以来、企業型、個人型合わせた加入者は約640万3008人を数える(2017年3月末現在)。

確定拠出年金の特長として挙げられるのは、さまざまな税制優遇措置が用意されていることだ。例えば、個人が拠出した毎月の掛金は全額所得控除の対象となる。また、NISAと同じく運用益が非課税なため、利益をそのまま受け取ることができる。さらに、運用成果を年金や一時金として受領したときは、公的年金等控除、退職所得控除を受けることが可能だ。政府としても確定拠出年金を推進する考えで、2017年1月からは個人型確定拠出年金にiDeCo(イデコ)の愛称を付け、加入対象者の幅を公務員や専業主婦などにも拡大した。

投資対象としての魅力が薄れる生命保険

一方、生命保険はどうだろうか。生命保険の保険商品には大きく2種類がある。ひとつは、保険料は高いが、解約返戻金、満期金等を受け取れる「貯蓄型」。もうひとつが、保険料は安いが、保険期間が限定されていて、解約返戻金等がない「掛け捨て型」である。貯蓄型には終身保険、養老保険、学資保険などがあり、保険商品の主力である。契約者に約束する運用利回りである「予定利率」が高いほど、高い死亡保険金、解約返戻金が期待でき、その点で貯蓄型保険は資産運用の対象となりうる。

しかしながら、日本銀行が2016年1月、発表したマイナス金利政策が、貯蓄型保険に激震を走らせている。マイナス金利により、民間の金融機関が日銀に預ける当座預金の一部は、「使わずにいると手数料がかかる」状態となっている。そのため、金融機関の多くが国債などの購入にその資金を充て、2016年7月には長期金利(新発10年国債利回り)がマイナス0.297%を記録した。

生命保険会社は、契約者から集めた保険料を投資運用することで利益を得ている。運用といっても、顧客からの積立金の目減りを防ぐため、主な運用先は安定した利回りを期待できる国債である。しかし、マイナス金利導入以降、生保各社は国債の利回り低下で予定利率を保証できなくなっており、その結果、貯蓄型保険の多くで販売中止、予定利率の引き下げが発表された。

その中でも、保険料を前もって一括で払う「一時払い終身保険」は影響が特に深刻で、最終的に高額の死亡保険金を受け取れることや、相続対策にも使えることで資産家の人気を博してきたが、その多くが販売中止に追い込まれている。

直近の2017年4月からは、日本生命の終身保険は40歳で契約した場合、男性は22.1%、女性は27.3%、毎月の保険料を値上げ。明治安田生命の月払い学資保険は30歳で契約した場合は9.7%増、住友生命の個人年金保険も30歳契約の場合は男性は17%増、女性は16.5%増となっている。

遺産相続で発揮される生保の力

マイナス金利の中で、投資対象としては、生命保険はその魅力が薄れつつあると言えるが、そもそも、生命保険に加入する目的のほとんどが「ガンや死亡などもしものときの保障」であり、そうした事態への備えとしての機能が、生命保険の最大の価値だろう。

さらに相続が発生すると、生命保険金にはさまざまなメリットが生じる。相続税では「3000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除枠が設けられているが、生命保険金にはこれとは別に「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある。この非課税の適用を受けるためには、保険料負担者と被保険者が被相続人で、受取人が相続人である必要がある。この非課税を適用できれば、例えば、配偶者と子ども3人がいるケースでは、受け取った生命保険金のうち2000万円が相続税の課税対象から除外されることになる。

また別のケースで、被相続人が保険料を負担している生命保険契約で、被保険者が配偶者や子どもなどの相続人である場合、相続発生時には、保険料負担者が死亡したものの、配偶者や子供などに保険事故が発生していない状況が生まれる。このような保険契約は、相続税の課税対象となり(掛け捨て型を除く)、原則として「相続発生時に契約を解除する場合に支払われることになる解約返戻金」相当額で評価される。

一般に、保険料払込期間中は、負担した保険料の合計よりも解約返戻金の方が低く設定されている。相続税では、現金は額面で評価されるのに対し、この場合の生命保険契約は解約返戻金相当額で評価されるため、現金で負担した保険料の合計と解約返戻金の差額分、相続財産を圧縮でき、結果的に節税となるのだ。

こうした保険事故未発生の保険契約は相続財産から見落とされやすく、税務調査で申告漏れを指摘され、発覚することも多い。財産評価のときには、特に注意しよう。

ほかにも、生命保険を利用すれば、相続発生後すぐにまとまった手元資金を用意することができる。相続が発生すると、被相続人の銀行口座は凍結され、引き出しができなくなる。しかし、葬儀費用の支払いなど、相続後にお金が必要となる場面は多い。そうしたとき、手続きを踏むことで迅速に手に入る保険金は、残された家族にとって大きな助けとなる。

さらには、生命保険金は、遺産分割でも力を発揮する。生命保険金はみなし相続財産に分類され、相続財産ではない。つまり、遺産分割の対象とならず、保険金の配分について、相続人は遺留分を主張することができない。通常、遺言があっても、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割が可能であり、被相続人の意思を反映することができない場合がある。しかし、生命保険金は契約者の意思により確実に受取人に受領させることができ、その点、相続について遺言よりも「強力に」作用すると言える。

遺言で保険金受取人は変更できるか

ところで、「生命保険金の受取人を○○に変更する」とする遺言は有効だろうか。これについては、これまで法律上の定めがなく、保険会社によって個別の対応を行ってきた。しかし、2010年4月に施行された「保険法」によって、「遺言による保険金受取人の変更ができること」が明文化された。

この場合であっても、遺言を発見し、遺言の中に保険金受取人変更の記載があった場合は、すぐに、保険会社にその旨を通知しなければならない。万が一、通知がないまま、保険会社から保険契約上の受取人に保険金が支払われてしまうと、遺言で指定された受取人は、保険金を受け取ることができなくなる。

遺言で受取人変更が可能になったといっても、受取人の変更を希望する場合は、遺言ではなく、やはり保険契約上の変更手続きを生前に行っておきたい。遺言による受取人変更は手続きが複雑になるほか、保険契約上の受取人と遺言で指定された受取人が異なる場合、両者の間で法的なトラブルとなる可能性が高いからである。

いずれにしても、生命保険には、ほかの投資対象にはないさまざまな特長がある。生命保険の持っている価値を見極め、例えば、税理士やファイナンシャルプランナーと相談した上で、自分に合った商品を見つけることが、何より大切と言えるだろう。

[フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)代表、株式会社フジ総合鑑定 代表取締役 藤宮 浩 フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)副代表、フジ相続税理士法人 代表社員 高原 誠]

外部リンク

「スガキヤ」に餃子や炒飯がない理由

06.26 08:00 PRESIDENT Online

名古屋が本拠地の「スガキヤ」は、どこのラーメン店にもある餃子や炒飯のような定番メニューがない。一方で低価格の甘味メニューは充実している。それもまたスガキヤの戦略だった――。

愛知県を中心に、静岡県から兵庫県まで約330店を展開する「スガキヤ」は、少し引いた視点で考えると不思議なラーメン店だ。ラーメン以外に低価格の甘味が充実する一方で、競合ラーメン店には必ずある餃子や炒飯といった定番メニューがない。

なぜラーメン店なのに、これらの定番メニューがないのだろうか。

子供も大人も“おやつ感覚”で楽しむ

スガキヤを運営するスガキコシステムズ社長の菅木伸一氏は、「ウチはラーメン屋というよりもヌードル屋だ」と言う。その真意を、伸一氏の子息で取締役の寿一氏が次のように説明する。

「スガキヤのラーメンは『お客様が小腹を満たすおやつやスナック感覚で利用されている』という意味です。そもそも、一般的なラーメン店で餃子や炒飯と一緒に食べるラーメンとは、イメージにギャップがあると思います。スガキヤのラーメンは、甘味などのデザートやサラダと一緒に楽しまれるお客様も多いのです」

店内で他のお客の食べ方を見ると、麺類を食べた後にソフトクリームやクリームぜんざいなどを追加で頼む人が目立つ。追加で頼むのは、ラーメンを食べる間にソフトクリームが溶けてしまうからだ。もちろん食べ方は人それぞれで、「スガキヤまるごとミニセット」(ハーフサイズのラーメン+同サイズの五目ごはん+カップソフトクリーム+サラダがつく。590円=以下、価格は税込み)を頼み、一緒に楽しむ人もいる。店では、セットでも食後にソフトを食べたい人にはチケットを渡し、後で現物と交換するそうだ。ソフトクリームで甘くなった口の中を、残ったラーメンスープを飲んで“中和”させる人もいる。

一般的なラーメン店のお客が「ラーメン+餃子」や「ラーメン+炒飯」を楽しむのに対して、スガキヤのお客に「ラーメン+甘味」が多いのは、もともと終戦直後に“甘党の店”として開業し、2年後にラーメンがメニューに加わった生い立ちが関係している(「“シロノワール“の源流はスガキヤにあった」http://president.jp/articles/-/22158 参照)。ラーメン店として創業したのではなく、甘味の店がラーメンを扱うようになったので、一般的なラーメン店とは立ち位置が違うのだ。

商品は庶民価格で、今でも単品の全メニューがワンコイン(500円玉)でお釣りがくる。セットメニューで食事をとる人もいるが、使われ方は“おやつ感覚”だ。低価格なので、中学生や高校生が学校や部活の帰りに利用することも多く、大人もラーメンや甘味を食べに気軽に立ち寄る――といった利用のされ方だ。

麺類も甘味も「定番4品」が基本

現在のスガキヤのメニューを見てみると、麺類は「ラーメン」(320円)、「玉子入ラーメン」(370円)、「肉入ラーメン」(400円)、「特製ラーメン」(450円)から、季節商品の「ぶっかけ冷し麺」(390円)、「冷しラーメン」(490円)、「温野菜ラーメン」(450円)、「豚骨醤油ラーメン」(430円)と、一見多種多彩に見える。

だが実は、かなり商品提供を絞り込んでいるのだ。

スガキヤの麺類メニュー

「麺類は定番商品4品+季節商品3~4品が基本です。店舗レイアウトやオペレーション、お客さまへの提供スピードといった視点からは、現状の商品数がスガキヤにとって適正だと考えています」(菅木寿一氏)

麺類の定番4品とは、前述したラーメンから特製ラーメンまでのことで、それ以外の豚骨醤油ラーメンまでが季節商品となる。定番4品の中身はトッピングの違いなので、実質的にはより絞り込まれたメニューといえる。定番ラーメンのスープを季節商品である「味噌ラーメン」「担々麺」「台湾ラーメン」などに応用して、独自の味を生み出すという。この商品設計は甘味にも応用する。

「甘味も同様に、定番商品4品=ソフトクリーム、クリームぜんざい、チョコクリーム、ベリークリームに加えて、季節商品2~3品を基本としています。定番メニューは基本食材であるソフトクリームのバリエーション展開で、夏季はそれにかき氷を追加します」(寿一氏)

甘味の共通食材は、同じソフトリームなので、訓練を積めばパートやアルバイト従業員でも均一の品質で提供できるようになる。それが寿一氏の語るオペレーションの意味だ。また、店舗レイアウトについて補足すると、道路に面した「路面店」や建物の中にテナントとして入る「ビルイン」であっても、スガキヤ店内の厨房はシンプルで、絞り込まれたメニューを提供しやすい構造となっている。

現在は、全売上高の約1割(夏季は約2割)を甘味が占めるが、スナック感覚で利用するお客が多い店にとって、甘味は欠かせない存在だ。余談だが、同社では新卒・中途入社に関係なく、新入社員研修ではソフトクリームの巻き方を学ぶという。

お客は「凝ったメニュー」を求めない

経営側の視点でみれば、シンプルなメニューは管理がしやすい。だが、お客側の満足は別の話で、マーケティングの鉄則では「消費者はどんどん変化する」だ。舌の肥えた現代の消費者に向けて、スガキヤはどう訴求しているのか。

「基本は、共通食材を用いたスガキヤならではの商品展開ですが、一方でより多くのお客様に興味を持って、飽きられることなく楽しんでいただきたい思いもあります。そこで季節商品では『トレンドを取り入れる』という考えも意識しています」(寿一氏)

スガキヤにおける「トレンド」とは、流行の最先端ではなく、最近の好まれる味ぐらいの意味だろう。そう考えると「ぶっかけ冷し麺」や「温野菜ラーメン」という季節商品の訴求内容が腹に落ちる。寿一氏はこうも話す。

390円で展開しているシンプルな『ざるラーメン』(一部の店舗限定。6月15日から全店で展開予定)

「スガキヤのお客様には、凝った商品より、シンプルな商品の方が受け入れられる傾向があり、たとえば390円で展開しているシンプルな『ざるラーメン』(一部の店舗限定。6月15日から全店で展開予定)は夏の売れ筋商品です」(寿一氏)

筆者が個別にスガキヤ利用者に聞いたところ、「スガキヤは安くて使い勝手がよければよい。餃子や炒飯を食べたいときは他の店に行く」という意見だった。確かに、子供時代からスガキヤを利用してきた筆者も、店に餃子や炒飯がないのを不満に思ったことはない。「スガキヤはそういう店」といえようか。

創業翌々年の1948年にラーメンが加わり、店名が「寿がきや」となった当時は1杯30円だった商品価格は、2016年3月から320円となった。このご時世に320円でラーメンを提供できる秘訣は、これまで紹介したように、麺を自社で一括製造し、メニューを絞り込むなど、徹底してコスト管理をしてきた名古屋流経営の成果だ。

競合店にはない、スガキヤらしさとは「ラーメンと甘味の組み合わせ」「誰もが利用しやすい低価格」「子供から高齢者まで利用できる、店の敷居の低さ」といえようか。

当連載の最後に、「2006年に首都圏から撤退して以来、関東地方には店舗がない。再進出を考えているのか」とも質問した。同社の答えはこうだった。

「お客様からも『関東への再進出を希望します』といったご意見を日々いただいており、うれしく思います。今後の日本国内の人口推移でも、関東(首都圏)の市場には魅力があると考えます。まずは中京地区のさらなるドミナント化が最優先ですが、次のステップとして関東再進出というチャレンジを視野に入れて、今後慎重に検討を続けたいと思います」

いつか、スガキヤ関東再進出という日が来るかもしれない。

[経済ジャーナリスト・経営コンサルタント 高井 尚之]

外部リンク

凶悪犯の口も割らせる「刑事の交渉術」

06.26 08:00 PRESIDENT Online

警視庁捜査第一課といえば、殺人や強盗など、凶悪事件の捜査にあたる花形部署。その62代目課長が久保正行氏だ。無数の犯罪容疑者と取調室の中で向き合い、犯した罪を自供させるという難しい交渉に、体を張ってきた。

まず大切なのが挨拶だ。おはよう、こんにちは、と取調官のほうからきちんと口に出す。「どこか具合が悪くないか」「昨夜は眠れたか」と相手の体を気遣う言葉や、自分の所属と役職を伝える自己紹介も不可欠だ。たとえ犯罪者だとしても、相手を見下したら、交渉はそこで終わってしまう。服装もスーツにネクタイが必須だ。「年上の場合は、『○○さん』と言い、『君(くん)』付けは生意気に聞こえるので厳禁です。同世代や年少者は逆に相手との距離を縮めるため、名前を呼び捨てにすることも」。

当然、しゃべらないタイプが一番厄介。凶悪犯なだけに、自供したら死刑になる確率が高いので、しゃべらなくなるのももっとも。しかも、黙秘権が憲法で保障されている。そこをどう突破するのか。

「話さない原因を、探っていきます。過去に裏切られた経験があり警察を信頼できない、組織からの報復が恐ろしい、共犯者がいる、とにかく罪から逃れたい、といった理由が多い。視線、唇の乾き具合、顔色、表情、皮膚や手足の動きをチェックし、一つ一つ検証していきます」

そのとき、肝心なのがこちらの視線だ。自分の両目で相手の片目を見据えるのだ。実際、久保氏に相対し実演してもらったところ、すごい迫力だった。この人の前では一言も嘘はつけない、絶対見破られる、と縮み上がってしまった。

しゃべらない側も実は苦しい。自供して早く楽になりたい、と多くの犯罪者が思っているという。「犯罪者には必ず泣きどころがあるので、そこを探し、それを基点に相手を理解してあげる。この人になら話しても大丈夫だ、これ以上黙っていても意味がない、と相手に自然に思わせることが重要です」。

その際、大きな武器になるのが、幼少期にタイムスリップさせること。「容疑者の故郷の自然や町並み、実家、墓、出身校などの写真を目の前で見せることもある。『子どもの頃は親思いで、ひとり親だった母の手伝いをよくしていたんだってな』と実の母から聞いてきたエピソードを示す場合もある。純朴でけがれていなかった当時を思い出し、『そうなんだよ、警部さん』、と話し出したらしめたもの。『じゃあ、なぜこんな事件を起こしたのか』、と問いかけると、『実は……』と真相を話し始めます」。

久保氏は容疑者が「落ちる頃合い」がわかる。そういうときは、わざと真正面ではなく、椅子をずらして隣に座る。「男が女を口説くとき、隣に座って話すでしょう。あれと同じです。そのうえで、ここで落ちる、ここで落とそう、と思う瞬間がやってきたら、立ち上がって、横から肩を触ることも。それだけで、何人もの容疑者が自供しました」。刑事ドラマのような世界は本当にあるのだ。

【交渉テク】

・親や故郷の話で、無垢な童心にかえす
・真正面ではなく、隣に座って落とす

[撮影=市来朋久]

外部リンク

「空飛ぶ車」実用化。普及するのか?

06.26 08:00 PRESIDENT Online

今年4月、米配車アプリ大手のウーバーは2020年までに「空飛ぶタクシー」の飛行試験を行うことを発表し話題を集めた。自動運転の実用化を進める同社のタクシーは、さらに進化を遂げそうだ。

世界中で複数企業が開発を進める空飛ぶ車には、2つのタイプがある。1つは翼を持ち、滑走を要する飛行機に似たもの。スロバキアのエアロモービル社が市販化を発表しているが、価格は120万~150万ユーロ(1億5000万~1億8700万円)と高額だ。もう1つはウーバーが用いようとしている垂直離着陸機(VTOL=Vertical Take-Off and Landing)。VTOLは米軍の航空輸送機オスプレイに使われている技術で、公道を走るオスプレイの小型版と考えていい。自動車評論家の桃田健史氏は「現在のオスプレイに見られるように安全性についての課題はまだあると思うが、基本的な技術は十分に研究されていると思われる」と話す。推進力を生み出す小型ローター(回転翼)のコスト削減がなされれば、量産化も可能だという。

空飛ぶ車はどのように普及していくのか。「基本的には一般顧客の所有機ではなく、商用による旅客運送が主体になるはず。軍需利用を考えている中国と、脱石油の新産業として注目している中近東で早期の量産化の可能性がある」(桃田氏)。

[相馬 留美 写真=AFLO]

外部リンク