高校2年生の時に、10代向けのオーディション「閃光ライオット」のファイナリストとなり、2015年12月に1stアルバム『hollow world』でメジャーデビューを果たした、ぼくのりりっくのぼうよみ。心地よくリズミカルで、それでいて真をついた鋭利なリリックとフロウで聴かせ、縦横無尽にジャンルを行き来して多彩なビートをものにしていく貪欲さがあり。飄々とクールで、時に無情にシャッターを切っているような視点と、ほとばしる情熱とを持ち合わせた10代のソングライター、ラッパーとしてデビューから高い注目を浴びたぼくりりが、2ndアルバム『Noah’s Ark』をリリースした。タイトル通りノアの方舟をモチーフに「救い」をテーマに描いたコンセプチュアルな作品となった今作。さまざまなトラックメイカーと作り上げたバラエティに富んだ内容で、重厚でシリアスながらも、壮大なポップ絵巻となっている。彼のクリエイティヴィティの高さと、音と言葉とを使った遊びや実験精神にも溢れたアルバムだ。現在、19歳。その頭のなかは、凄まじく刺激的で可能性に満ちている。
−2月のBUZZ CLIPに「Be Noble」が選出されましたが。このビデオのこだわりや、見所はどんなところですか。
今回は、水を意識したビデオになっていて、後半にはお風呂に浸かったりしているんですけど。あれは、つらく苦しい時間でしたね(笑)。服を着たまま浸かっているので、お湯なんですけど服に熱を奪われてしまって、結構冷たくて。大変でした。
–「Be Noble」は映画『3月のライオン』前編の主題歌に決定しました。この映画のための書き下ろし曲ということですが、そういった曲の書き方はこれが初ですか。
これまで、こっちが勝手に何かの作品にインスパイアされて作ることはありましたけど、ちゃんとオファーをもらって、自分で作るというのは初めてでした。原作の世界観も好きだったので、面白かったですね。例えば、普段iPodやウォークマン等で聴く時は、音楽が主役で、音がすべてというか、音だけの世界じゃないですか。そうじゃなくて、映画の主題歌は、本編が2時間あったとして、その最後の4分間が僕の時間というか、僕がその映画を彩るために用意してもらった時間なので。そこに照準を合わせて作品を作るのはまたちがった作業というか。面白いなと思いました。
–では、改めて2ndアルバム『Noah’s Ark』のお話も伺っていきます。今回はコンセプチュアルな内容のアルバムとなっています。昨年夏にリリースしたEP『ディストピア』からの流れもあると思うんですが、テーマ性やアルバム像はどんな段階で決まったんですか。
タイトルとテーマ自体は一昨年の12月、1stアルバム『hollow world』を出したあたりにはあったらしいんです。もう、僕はちょっと覚えてないんですけど、スタッフの情報によると(笑)。
–その引き金となったことは覚えていますか。
最初は、Noah’s Arkって響きがかっこいいというところからでした(笑)。聖書のノアの方舟のエピソードでは、大洪水が起きて、世界が滅びてというものですけど、水ではないけれど、今、情報の氾濫や情報の洪水みたいなことが起こっているなと思って。そこからどんどんと掘り下げていって、作ったという感じです。
–それは普段の作り方とアプローチとしては同じなんですか。
これまでアルバムを1枚しか出してないので、いつもというわけではないんですけど。今回は最初から、どういう曲があって、どういうアルバムにしようみたいなことが決まっていたんです。こういう曲がこれだけあって、次にこれがきてこう、という設計図があって、それに従って作った感じなので。そこの部分だけは1stと大きくちがっているんですけど、実際に曲を作る段階になるとそんなに変わらないですね。
–2月に発売された作家・伊藤計劃のトリビュート・アンソロジー「伊藤計劃トリビュート2」(早川書房)に、小説「guilty」が収録されました。この小説の内容も、アルバムの世界観と通じていますね。
そうですね、世界観的には共有していますね。アルバムとその小説の世界観がリンクしたら面白いかな、より立体的になっていいかなというのはありました。
–どちらがアイディアとして先にあったというのはあるんですか。
音楽が先でしたね。トリビュートのお話をいただいたのは、昨年の9月くらいで。その時にはアルバムもほぼできていた感じだったんです。それをまた違う切り口で小説にしていくという。その試み自体は、前回のEP『ディストピア』を出した時に、小説をつけるということもしていたので。それの拡張版みたいな感じでしたね。
–小説と音楽とで、表現というのはだいぶ違った感覚ですか。
違う作業ですね。例えば、伝えたい世界やメッセージがあるとして、それを音楽の場合は削っていくというか。いろんな部分を、音やメロディに委ねていくことができるので。最終的に、音、歌詞、メロディの全部を含めてのひとつの世界ですけど。小説は文字だけなので、真逆の作業というか。伝えたい世界やメッセージをもっと肉付けしていって、ひとつの世界を作る感覚ですね。
–書くことは、小さな頃からやっていたんですか。
いや、全然です。本は読んでいたんですけど、やってみるかっていう感じで。歌詞を書くのも、自分で書こうとなったのは中3の終わりとか、高1のはじめくらいで、それこそ“ぼくのりりっくのぼうよみ”で活動をし出してからです。だから、まだ3、4年っていう感じなんです。
–その3、4年のなかでも、自分自身でよりこういうところを掘り起こすようになっていった、こういうことが書けるようになったという、変遷はありますか。
歌詞に関していうと、とくに変わったとかはないんです。扱うテーマによると思いますね。でも遊び心という面では、『Noah’s Ark』で増えたかもしれないです。例えば、「liar」では、唐突に《あけましておめでとうございます》というフレーズが出てくるんです。意味は別にないんですけど、ここに急に出てきたら異物感がすげえなと思って入れてみたもので。《しがみつきモード》というフレーズの裏で、“ガチャ、ウィーン”って言っていたり。遊ぶようになったかもしれないです。自分で設定したテーマには縛られないというか、いい意味での寛容さが生まれたというか。こうだから、こういうことは書いちゃダメだとか、わりと自分での言葉のチョイスのいい悪いがあったんです。そういう境界がわりと薄くなってきた感じがしますね。
–今回はより遊びやノリというところも増えたということですが、それはサウンドもそうですね。言葉・テーマ性と音とのバランス感で、重視したことはありますか。
そこは人選が大きかったですね。トラックを誰に頼むかというのがデカいんです。僕はトラックをすべて作ってもらっているので、そこだけは気をつけてやっていましたね。
–音楽的に多彩で、アルバム全体としては壮大なポップミュージックとなってるのは、面白いなと思いました。
ジャンルは、ぐちゃぐちゃですね。それはわざとやったところもあって、ノアの方舟のエピソードって、聖書ではいろんな動物のつがいを一つずつ乗せているんです。それをオマージュしていて、裏のテーマとしてはいろんなジャンルの曲がそれぞれある感じで作りたいなと思っていたんです。ジャンルについては人選の時点でばらけることがわかっていたんですけどね。
–自分での音やサウンド的なブームなどは、ないんですか。
あまりないんです。ずっと同じようなものを聴いている気がします。
–トラックの制作をお願いする時は、どんなふうにオーダーしているんですか。
こういうテーマでこういう曲調でやろうと思っていて、みたいな感じなんです。結構、ぼんやりしているんですよね。BPMがこのくらいでとか。
–それぞれ、お互いに何かしら共通言語みたいなものが多い間柄ですか。
そこは、相手によりますね。あとは参考の曲を投げたりするんです。それが、その人自身の曲なことが多いですね。実際に「Noah’s Ark」だったら、ELECTROCUTICAというグループにトラックをお願いしているんですけど、ELECTROCUTICAの「Reversus」みたいな感じでとか──「Reversus」は、めっちゃかっこいいから聴いてほしいんですけど。それを自分の世界観でやったらどうなるのかなっていう。「Water boarding-Noah’s Ark edition-」は、bermei.Inazawaさんという人なんですけど、Inazawaさんはよくアニソンとか作っている人で、『ひぐらしのなく頃に解』というアニメのエンディングだった「対象a」という曲がめっちゃ好きで。その世界観の感じでやりたいなと思って、お願いしたりとか。
–誰かの曲を聴いた時に、インスパイアされることも多いんですね。
そうですね、こういう曲をやりたいなと思うんです。僕はそもそも始めた時も、誰かに作ってくださいというよりは、誰かが作ったものに勝手に歌詞をのっけて、こういうのできたんですけど、使ってもいいですかみたいな感じだったんですよ。そもそもの動機としては、自分が聴きたいものを自分で作るっていう感じで、それも人のを拝借して作るという、タチの悪いところからはじまっていたので(笑)。それこそ誰かの曲を聴いて、僕もこんな曲作りたいなっていうのは、原動力になることは多いですね。
–そういうことでは、今回は本当に思い通りの作品じゃないですか。
贅沢の極みという感じですね。自分がやりたい曲を、自分が好きな曲を作っている人に作ってもらえて、しかも自分で歌っていいしという、最高って感じです。
–「after that」を手がけたニコラ・コンテさんは、どのようにアプローチしたんですか。
ニコラ・コンテはYouTubeだったかApple Musicで聴いて、いいなと思ったんです。どんな人なのか、その時は音だけで、見た目もわからなかったんですけど、スタッフの人に、「この人は曲提供とかやってもらえそうな人なんですか」って訊いてみたんです(笑)。そしたら、意外とできそうだぞみたいなことで。たまたま近くに来日公演の予定があったので、それを観に行って、Hello!みたいな感じで挨拶をしました(笑)。
–すごく面白い組み合わせになりましたね。どういうオーダーだったんですか。
実際にお願いをしようかなと思っていたら、その前に10個くらいデモを送ってくれたんです。もともとアルバムの最後の曲でお願いしようと思っていたんですけど、送ってもらったデモのひとつが、これが「after that」だなっていうものだったんです。
–管楽器やウッドベースの入った、明るいジャズサウンドですが、他のテイストの曲もあったんですか。
もっと暗めなものもありました。もともと、僕がニコラ・コンテを好きになったのも、どちらかと言えば暗めな曲で、そういうものをやってもらおうと思っていたんですけど。明るい曲も、めっちゃいいなと思って。
–アルバムの最後の曲としては、この明るさがすごく必要な曲でしたね。
最後はこういう曲調でというのはありましたね。明るいんだけど、明るいだけではない感じもあるぞっていう。
–それぞれ、曲のオーダーに関してはもっと緻密なものなのかと思っていたんですが、そういうわけではないっていうのはすごく意外です。
いちばん大きいのは、自分が作れないからというのもあるんです。人にお願いするものなので、どういうものが返ってくるのかわからないけど、それをうまく料理しようみたいな。だからプロデューサーとかに近いのかなという感じですね。
–話を伺っている感じだと、YouTubeやストリーミングサイトで音楽を聴いていたり、新しい音楽を知ったりと、今の10代らしい聴き方をしていますね。曲単位で音楽を聴いている感じがしますし。
多分、本当にみんなそうだと思うんです。YouTubeを見ない人類なんてほとんど生存してないんじゃないかってくらい。
–自分自身としてもそう言ったリスナーでありつつ、今回、非常にアルバム然としたアコンセプチュアルなルバムを作ろうというのは、面白いなと思うんです。
ああ、そうですね。今回は、こういう1枚で固まったものを作ろうと、最初から決めていたので。やっぱり普段、単曲で聴いているぶん、アルバムでできると嬉しいというのもあって。やってみたという感じなんです。だからと言って、人の曲をアルバムでちゃんと聴くのかと言われると、じつはそうでもないっていう(笑)。
–ひとつの世界観がある作品を作ったことで、何か開けたこと、気づきってありますか。
伝えたいメッセージがあって、その表現の媒体としての音楽の作り方というのがちょっとわかってきたというか。メッセージを伝える上での、音の使い方とか、1枚でひとつのストーリーを作るみたいなことは、すごく面白いなと思いましたね。逆に、小説でも試してみたりもしましたけど、もっといろんな形で試してみたいなっていうのはあるんです。だからどちらかというと、音楽以外のことの方につながっていきましたね。あとは、逆にメッセージのない音楽もやりたいなと思っていたりというのはあります。
–小説も含めて今回は「意志」というワードが多く出ていますね。今それが自分のテーマになっているものでもあるんでしょうか。
自由意志というのは、最近のテーマで。自由意志ってそもそも何だろうっというのは、結構ずっと考えていますね。それを探すために、「NOAH’S ARK」というオウンドメディアを立ち上げたりしたんです。今、わかってきているような、わかってきてないようなという感じなんです。
–それがどういうふうに着地するのかも、楽しみでもあります。EP『ディストピア』、そして今回のアルバム『Noah’s Ark』、ノアの方舟の後ということで、次のテーマも気になるところですね。
そうなんですよね、規模感がどんどん大きくなっているので、次は宇宙に行こうかなとか(笑)。わからないですけどね。でも3枚目もいろんなことをやりたいなと思ってますね。
–3月からツアーがスタートしますが、新たな試みはありますか。
頑張るぞという感じですね(笑)。今までは、僕とキーボードとDJの3人編成でのステージだったんですけど、そこにパーカッションとドラムが入って、5人でやろうと思ってます。だいぶ華やかになると思いますね。ライブはまた制作とはちがった作業というか、面白いなと思いながらやっていますね。カバーもやっていたりするので、今いろいろと準備中です。
Interview + Text: 吉羽さおり
衣装: Kazuki Nagayama(ESTEEM PRESS 03-5428-0928)
スタイリスト: DAISUKE Hara
リリース情報
■2nd ALBUM『Noah’s Ark』 2017年1月25日Release
・完全生産限定盤[CD/特殊パッケージ](再販商品)
VICL-64689/4988002725540/¥2,800+税
・通常盤[CD](再販商品VICL-64690/4988002725557/¥2,500+税
1. Be Noble (映画『3月のライオン』前編主題歌)
2. shadow
3. 在り処
4. 予告編
5. Water boarding -Noah's Ark edition-
6. Newspeak
7. noiseful world
8. liar
9. Noah's Ark
10. after that
【完全生産限定盤】
・豪華特殊パッケージ : 漫画家 坂本眞一 描き下ろしイラスト掲載 7インチEPサイズジャケット仕様
・ぼくのりりっくのぼうよみLIVE TOUR チケット先行抽選予約シリアルナンバー封入!
・ハイレゾお試しダウンロードクーポン封入! : 対象楽曲「Water boarding -Noah's Ark edition-」
(ダウンロード期間:2017年1月25日(水) 0:00~2017年4月24日(月)23:59)
【通常盤初回プレス分】
・ぼくのりりっくのぼうよみLIVE TOUR チケット先行抽選予約シリアルナンバー封入!
・ハイレゾお試しダウンロードクーポン封入! : 対象楽曲「Water boarding -Noah's Ark edition-」
(ダウンロード期間:2017年1月25日(水) 0:00~2017年4月24日(月)23:59)
■Single 「Be Noble」 2017年3月8日Release
VICL-37252 / ¥1,200+税
映画『3月のライオン』前編主題歌
1. Be Noble
2. Be Noble (re-build)
3.孤立恐怖症
4.Collapse (Hello,world! LIVE ver.)
■映画『3月のライオン』オリジナルサウンドトラック
2017年3月8日Release
2017.3.8 on sale \2,500+税 / VICL-64762
ライブ情報
ぼくのりりっくのぼうよみ LIVE TOUR
3月22日(水) OPEN18:00/START19:00 名古屋CLUB QUATTRO
3月23日(木) OPEN18:00/START19:00心斎橋BIG CAT
3月26日(日) OPEN17:30/START18:00福岡DRUM Be-1
3月27日(月) OPEN18:30/START19:00セカンドクラッチ(広島)
3月29日(水) OPEN18:30/START19:00高松DIME
4月4日(火) OPEN18:30/START19:00仙台darwin
4月6日(木) OPEN18:30/START19:00札幌 cube garden
4月15日(土) OPEN17:00/START18:00赤坂BLITZ
チケット代金:スタンディング¥4,300-(税込・ドリンク代別・プレゼント付き)<後援>CONNECTONE