オーガズム後の男性に鼻水や目のかゆみ、喉や筋肉の痛み、認知障害などさまざまな症状を引き起こす非常に珍しい病気、オーガズム後症候群(POIS)をご存じですか?
※本記事はアメリカにて、ある青年の実体験と有識者による取材を通して作成された記事です。
ディーンは13歳のころ、人生で初めてマスターベーションをしました。
しかし、初めてのオーガズムに達した瞬間、彼は突然強烈な疲労感を覚え、頭がぼんやりしていることに気づきました。
「最高の気分だったのですが、5秒もしないうちにどん底へと突き落とされたような感覚になりました」と、現在24歳になったディーンは「メンズヘルス」に語ってくれました。そして「はっきりと声に出すことが突然困難になった」といいます。また、「途方もなく重いものを持ち上げようとしている感覚」にもなったそうです。
「何らかの構造物が崩壊する様子、たとえば建物の解体工事を思い浮かべてみてください。私が感じたのは、そんな風に何かが頭の中で崩れ落ちていくような思いでした」とディーン。
当初、ディーンはそれが射精後の一般的な反応であると考えていました。
「みんながこんな思いをしているなら、みんなそれを隠すのがとても上手なのだろうと思っていました」と、ディーンは語ります。
しかし、年を取るに連れ、射精後の症状はますます悪化していき、ときには数日間続くこともありました。
思春期のディーンの性欲はこれまでになく高まっていましたが、それを発散すると、体調が極度に悪化するというひどいジレンマに陥ってしまっていたのです。
自分のマスターベーションについて、親と積極的に話そうとは思えなかったディーン。まずは、グーグル検索に頼りました。
彼は取り付かれたようにさまざまな検索ワードを試し、このなかには「オーガズム後/無感情」、「射精後/無感情」、「オーガズム後/ぼんやり」といったワードもありました。
そして、彼が最終的に見付けたのは「オーガズム後症候群(post-orgasmic illness syndrome)=POIS」という、極めて珍しい病気に苦しむ男性たちのための非公式掲示板でした。
「POIS」を発見し、2002年に症例報告を発表したオランダの神経科学者であるマルセル・W・ウォルディンガー氏によれば、「POIS」は射精直後のインフルエンザのような症状が特徴だといいます。
たとえば「POIS」の症状には、鼻水やうっ血、目のかゆみ、頭痛、筋肉や喉の痛み、疲労感、発熱、認知障害、発話障害などがあります。
ここで注意しなければならないことは、「POIS」は「性交後憂鬱」と呼ばれるオーガズム後の気分の急激な落ち込みとは異なります。「性交後憂鬱」は男女両方に起こりますが、「POIS」は主に男性にのみ起こるものです。
この「POIS」研究に関する最新のレビュー論文によれば、「POIS」は医学文献上では、これまで50症例ほどしか報告されていないといいます。この論文の筆頭筆者であるホアン・ミン・グエン氏は、「POIS」の兆候を示すその他の症状について、イラつきや集中力欠如、曖昧な記憶、鬱などを挙げています。
グエン氏によれば、射精直後にこのような症状が1つまたは複数出る人は、少なくとも90%の確率で「POIS」の有力候補と考えられるといいます。
特にこういった症状が2〜7日続いたあと、自然と治まる場合は「POIS」の可能性が高いそうです。ディーンに直接会ったことはないグエン氏ですが、彼の症状について「『POIS』の診断基準に合致するようです」としながらも、「ただし、彼の症状の継続期間はこれまでの症例(ほとんどが2〜7日)よりも長いように思えます」と指摘しています。
これまでの研究では、「POIS」の原因は明らかになっていません。が、いくつかの仮説はあります。
たとえば、脳の化学物質バランスの乱れが原因となっているという説や、精液アレルギーなど自己免疫疾患の一種という説です。
「現在のところ、『POIS』の有効な治療法は確立されていません。このことには、この病気が非常に珍しいものであることも関係しています」と、グエン氏は語ります。このため、この病気を患う男性は自ら症状の緩和に取り組まなければなりません。
「POIS」は診断されないままになることもしばしばです。これは、マスターベーションが恥ずかしいものであるというイメージが主な原因です。
ディーンは14歳のとき、自分の症状を医師に打ち明けようとしました。が、この症状を引き起こす行為について話すのが、「あまりにも恥ずかしく、気まずい」と感じたといいます。
このとき医師は彼を臨床的鬱病と診断し、実際ディーンも「気分の落ち込みや希死念慮が浮かんでくることはある」と語っています。
しかし、彼の精神状態が射精後の症状を生んでいるのか、逆に射精後の症状が彼を鬱にしているのかははっきりしていません。
とはいえ、はっきりしているのは、「POIS」が人の人生を狂わせる病気であるということです。
この病気は患者のスケジュールを台無しにする可能性があるだけでなく、セックスや親密な関係を築く上でのジレンマを生み出し、恋愛関係の維持を難しいものとするからです。
「女の子と付き合うとき、この病気は本当にやっかいなジレンマになります」と、ディーンは話します。
「ティーンエイジャーの若者なら、セックスをしようとするものでしょう。ですが頭のなかでは、『彼女の目の前であの症状が起こったら、最悪なことになる』と心配してしまうんです」とディーンは続けて語ります。
最近ではディーンは抗うつ剤を飲むことで、射精後の症状を抑えることができているそうです。
彼に言わせれば、抗うつ剤を飲めば「次の日にトラックで引かれたような状態になることなく」オーガズムに達することができるといいます。実際、「プロザック」のような抗うつ剤類(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる)が、一部の「POIS」患者に効くという一定の証拠もあります。
また、グエン氏によれば、抗ヒスタミン剤やベンゾジアゼピン(ベンゾとも呼ばれる)、自分の精液による減感作療法(たとえば、患者が自らの精液を自分に注入する方法。これは「POIS」が精液アレルギーによって引き起こされるという仮説に基づいています)なども、治療に有効な可能性があると言います。
しかし、この病気はほとんど知られていないこともあり、医者が特定できなければ、治療に使える手段は僅かです。ディーンはこの病気の認知度が高まり、射精後の原因不明の不調に悩まされている男性たちの病気特定に役立つことを願っているそうです。
※最後までお読みいただき、ありがとうございました。