都道府県別の殺処分率ワースト上位になってしまった奈良県。しかしそれには、「猫の幸せ」を願うがゆえの理由が。奈良県宇陀市にある、動物愛護センターを取材しました。※記載内容はすべて平成29年4月10日時点のものです。
人と動物の共生をめざし9年前に新設
JR奈良駅から車で1時間ほど南に行ったところにある、うだ・アニマルパーク(以下、「パーク」)。ヤギやウサギなどを飼育していたり、乳製品を作る体験教室などを開催しているパークは、動物との触れ合いを通して次世代を担う子供たちの育成することを目指して、平成20年に開園しました。
そのパークの敷地内に、同年に開設されたのが、奈良県中和保健所動物愛護センター(以下、「センター」)。保護猫・保護犬のお世話をメインに行う一方で、従来の「保健所」のイメージとしてつきまとう殺処分もやむを得なく行っている施設です。センターとパークは今、県の抱える深刻な問題をどうにかすべく、一丸となって解決に取り組んでいます。
センターの外観。パーク内にあるので、近くには遊具が。親子連れも親しみやすい環境が、来場者数につながっています
「譲渡しても殺処分が減らない」。県が抱える問題に立ち向かう
奈良県は、2年前に、犬猫の殺処分率で全国ワースト1に。「その年は、保護した犬猫の93・5%が、殺処分になりました。酷なことですし、もちろん殺処分数は減らしたい——。しかしこれは、県が抱える問題を解決するためにどうしても避けられない“苦肉の策”がゆえの結果なのです……」と話すのは、センター所長の本岡直樹さん。
センターには、日々多くの猫が持ち込まれますが、それはノラ猫だけでなく、中には「虐待や無計画な繁殖など、飼い主の意識の低さゆえに、『不適正飼育』を受けた猫も。…殺処分率上位という汚名を返上するには、譲渡率を上げるのが一番ですが、単に人の手に渡るだけでは、猫は幸せにはなれないのです」(本岡さん)。
また、譲渡率が上がらず、多くの猫が処分に至ることについては、県内に民間の保護団体がほぼないことにも起因します。「全国の行政機関では、民間団体と協力しながら、基準をクリアした飼い主さんへ譲渡できることが多いのですが、奈良県はそのルートが乏しく、適正な譲渡先が見つかりにくいのです」(本岡さん)。
こうした状況を受けて、センターはまず、譲渡の「質」を上げることに重きを置いているそう。たとえば、このセンターでは、譲渡時に飼い主の審査と飼い方の講習会を設けています。また、譲渡の前後には、スタッフが新しい飼い主さん宅へ訪問し、飼育環境をチェックしています。猫たちを安心して託せるよう、あえて譲渡の敷居を高く設けているのです。
また、「飼い主になった人が安心して飼える猫であることも大切」ということで、猫の管理の徹底にも努めます。このセンターでは、猫を2段階に分けて管理。まず保護直後は、病気の蔓延を防ぐため、隔離された棟で健康診断をします。その後、猫が病気や人に危害を加える心配がないことが確認できると、別の棟に移され、譲渡が決まるまでそこで飼育されます。
「『飼ってみたら攻撃してきた』などの理由で“出戻り”がないよう、性格面でも猫を見るようにしています。そしてさらに、県民の方たちに、センターの現状などに関心をもってもらう機会が増えるよう、数年前から新たな試みも始めました」と本岡さん。
譲渡対象になった猫は、広めのケージで飼育されます。猫が運動できるように段差があったり、ホットカーペット(写真の白いコード)があったりと、スタッフの配慮が感じられます。
出典:「ねこのきもち」2017年6月号『猫のために何ができるのだろうか』