「自信はあります」。昨年11月下旬から発送される予定だったスタートトゥデイの採寸ボディスーツ「ゾゾスーツ(ZOZOSUIT)」が、約2カ月遅れて1月末から予約者への配送を開始した。製造の段階の課題で遅延したとのことだが、同社の前澤友作代表は構想から実現まで7年をかけたこともあり、満足いく性能に仕上がったと振り返る。この採寸データを活用するのが、初の自社ブランド「ゾゾ(ZOZO)」だ。さらにはゾゾタウンの購入履歴からWEARのコーディネート情報まで、これまでに蓄積されたあらゆるビッグデータとこれから集積される採寸データを取りまとめて研究し、「ファッションを数値化」することに取り組んでいくという。前澤代表はいま何を想像し、創造しようとしているのか。
【ゾゾスーツ 予約数は想定内だった】
ー身体の寸法を測ることができる「ゾゾスーツ」とプライベートブランド「ゾゾ」、どちらのアイデアが先でしたか?
自社でブランドを作りたいという構想が先で、その後にゾゾスーツのアイデアが生まれました。実は7年くらい前から、それぞれの体型にピッタリ合った服について考えていたんです。でもゾゾスーツの開発に時間がかかったので、今ようやく形になりました。
ー当初からサイズに着目していたのでしょうか。
そうです。方法はいろいろと考えましたね。電子メジャーでお客様それぞれに計測して頂く方法や、スマートフォンで撮影した写真を解析してサイズを図る方法とか。でも、ミリ単位で正確に測るためには新しい技術が必要で、最終的にはニュージーランドのソフトセンサー開発企業StretchSense Limited.との共同開発で、ゾゾスーツが実現した形です。
ーゾゾスーツの計測誤差はどの程度なのでしょうか。
誤差はほとんどありません。世界中の人に使ってもらえるように、何度も試作していろいろな体型の人に試着してもらって精度を上げてきました。FASHIONSNAPさんに先行でプロトタイプを取材して頂きましたが、完成版は更にセンサーがアップデートしています。息を吸ったときと吐いた時でも変わってくるので。
ーかなりの精度なんですね。
着用したらリラックスして呼吸をして、その平均値を計測することを推奨しています。でも、お腹を凹ませて測ろうとする方が多いかもしれませんが(笑)。
ーついやりそうですね(笑)。無料提供するということでも話題が広まりましたが、予約数はどのくらいに上ったのでしょうか。
予約開始から10時間で23万件という数字だけ公開していますが、総数は控えさせてください。海外からもたくさんのオーダーをいただいています。
ー「世界中で配りまくる」という発言もありましたが、発表当初より出荷が遅れた理由は数量ですか?
予約の数については僕の中では想定内でした。でも生産面で課題があって遅れていて、ご注文頂いた方には大変ご迷惑をおかけしてしまいました。1月31日から順次配送をスタートしていますので、直に手元に届くと思います。しかしながら、11月中にご予約の方は最大6カ月、12月以降にご予約の方は最大8カ月程度お待ちいただく可能性があります。
ー「まだか」という声が多くありましたが、ようやくですね。心配や不安のドキドキはありますか?
いいえ。自信がありますから。
【究極のベーシックを破格のオーダーメードで】
ー「ゾゾ」も販売開始になります。どんなプライベートブランドになりますか?
人ぞれぞれのボディサイズを反映させたベーシックウエアを提供していきます。第1弾はTシャツとデニムです。
ー約9億円を投資して"究極のフィット感を実現する"とのことでしたが、どういった仕組みなのでしょうか。
ゾゾスーツで計測したサイズに合わせた服を提供します。完全オーダメードだとパターンを引くところからスタートするため時間がかかってしまいますが、ゾゾでは事前に体型予測をして、数千パターンを用意しているのが特徴です。注文を頂き、所有するパターンの中から近いものを選び微調整をして配送するという一連のシステムを構築しました。
ーゆとりのある服も作れますか?
ゾゾスーツの計測結果をもとに、例えば身幅や着丈などは好みに応じてサイズ調整が可能ですね。デニムなどは、サイズによって微妙にステッチ幅が違ったりもしています。
ーゾゾの着用ビジュアルには、堀江貴文さんや本田圭佑選手も隠れていて面白いですね。
本田さんには「人に隠れた写真は初めて」と言われました(笑)。
ー注文から手元に届くまでの期間は?
サイズによってはスピード配送も可能になるので、当日〜約2週間の予定です。
ーデザインチームなどは社内なのでしょうか。
そうです。パタンナーやデザイナーなど多くの専門職スタッフが在籍しているチームで、もしかするとアパレルブランドよりも恵まれた環境にあるかもしれません。これだけサイズバリエーションを豊富にそろえるブランドは前例がないと思うので、細かい部分が詰められるよう内製にこだわっています。
ーここにあるTシャツとデニムのサンプルは「made in China」と書かれています。実際の生産国は?
Tシャツとデニムは中国製です。今後、アイテムによっては世界各地の工場で生産していきます。全てが初めてのことなので、管理面でいろいろと大変ですが。
ーTシャツは1,200円、デニムは3,800円で、これらがオーダーメードと考えると破格です。利益は出せるのでしょうか。
そもそも店舗や販売員がいらないし、裾上げの必要がないので生地の無駄が出なかったり、コストが抑えられます。また基本的に受注生産のような販売スタイルなので、在庫を積む必要もありません。更に、セールの値引き販売を想定せずに最初から正直な限界プライスで値付けをしています。これまでのファッション業界の常識を覆すことで、この価格帯に設定することができました。
ー今後はスーツなども?
いずれは作りたいですね。シャツやカットソーなどは展開していく計画です。
【ゾゾタウンを超えるゾゾ】
ーシンプルな服こそ、万人に合わせる難しさもありそうですが。
服はバランスが大事なので、ただサイズデータ通りに作るだけでは良い服にはならないんですよ。計測したボディデータとどの商品が合うかというマッチングには、AIを活用しています。
ーパターン展開を突き詰める役割をAIが担っている。
そうですね。社員をはじめ外部の試験者の方や海外の方にも着用して頂いたり、AIの精度を高めることを今も続けています。お客さんの「気に入った」「気に入らない」といった声も反映させていけば、もっと良いものを作れるはず。
ーいま着用されているのもゾゾなんですね。
もう何度も着ていますよ。特にこのデニムを履いてからは、他のブランドのデニムを履かなくなって。僕は背が高くないので、サイズが合うということがファッションにおいてこれほど大事なことなんだと痛感したんです。
ー前澤さんは以前の取材時なども「トム ブラウン(THOM BROWNE)」を着用されていたので、ハイブランドのイメージがありました。
もちろんデザイン性が高い服も好きです。元々はパンクロッカーでハードコア好きなので、最近発表された「ディオール オム(DIOR HOMME)」のコレクションは個性が強くていいなと思ったり。
ーゾゾタウンに出店している数千ブランドとも、ゾゾは共存していくのでしょうか。
ベーシックウエアだけのブランドは今のところゾゾタウンには出店していないんですが、出店ブランドさんの邪魔にはならないようにという意識はしています。あくまでもベーシックですから、ディオール オムのジャケットにゾゾのデニムを合わせてもいいんですよ(笑)。
ーユニクロなどもベーシックで、かつセミオーダー感覚のウエアの展開を増やしているので、競合になるのでは?
いやいや服づくりについては大先輩なので、背中を見させて頂いています。他にもオーダーシステムのメーカーがあるかもしれませんが、我々はゾゾスーツによるサイズ計測が強みになっていければと。
ーゾゾの売上目標は?
数字は非公開ですが、将来的にはゾゾタウンの規模を超えたいですね。これは世界中の人に着てもらえる服だと思うので。
【服が人に合わせる時代だ】
ー新たに、身体や商品データなどを研究するためのプロジェクトチームが発足しました。
ボディサイズをここまで大掛かりに集める企業というのは、恐らく世界初なんじゃないかと思っています。我々が持つこの膨大なデータを世界中の人達のために使っていく必要があると考えていて、責任も感じています。そういった管理や活用をしていくために、社内に研究所を設けました。
ーどんな活用が考えられますか?
例えばヘルスケアの分野ですね。まずはファッションの分野からこのデータの可能性を研究していきますが、ボディサイズをデータ化することで、将来的には社会を良くして、いずれ世界人類に貢献したいと思っています。
ー他社にデータを提供することも視野に入れているのでしょうか。
極めてプライベートな情報なので、簡単に売ったり提供はしません。ただすでに他の分野からお声がけを頂いていて、そういったパートナーと組んで、我々がデータを管理しつつ何かに活用していくことは考えられますね。
ー2017年には、データ解析の領域で知見を持つ九州工業大学発ベンチャーのカラクルを買収しました。
博士号を持つ優秀な方々が在籍しているので、ビッグデータを調理して欲しいと考えて子会社化に至りました。
ー同年に買収しているヴァシリー(VASILY)はAIで着こなしの解析などを行っていますが、やはりこの研究所に関わるのでしょうか。
はい。プロジェクトリーダーはヴァシリー代表の金山裕樹君が兼任していて、研究所ではまず"カッコイイ"や"カワイイ"と言われるファッションを数値化していくことから目指していきます。
ーおしゃれは感性だと思っていましたが、定量化することができると。
例えば車だとデザインの黄金比をもとに作ったりしていますが、ファッションは人ぞれぞれ身長も体重も肌の色も違うのでパーソナルな部分に左右されてしまいます。服のシルエットが良いというだけではだめで、どういった人が着るか、つまりどういったボディサイズなのかが分からないと判断することができない。僕たちはゾゾスーツでそのチャンスを得たので、これまで不明瞭だった"ファッションそのもの"を解明していきいたいと考えています。そこには主観だけではなく、人がその服を着てどう思うかという客観評価も含みます。コーディネートデータが蓄積されている「WEAR」も展開しているので、どういった人がどういったスタイルに「いいね」を押すのかといったデータも活用できると考えています。
ー"ファッションそのもの"について、前澤さん自身はどのように捉えていますか?
人それぞれだと思いますが、僕の考えはゾゾのテーマでもある「be unique、be equal」がそれに近いかと。個性を尊重しながらも皆がイコールというか、ファッションを通じて人々が繋がっていくというような未来を想像しています。
ー人と人を繋ぐツールとしてのファッションが「be equal」だとしたら、「be unique」の考え方は?
これまでのファッション業界では、ユニークについて真剣に考えてこなかったのではないかと思っていて。作り手側が良いと思うものをデザインし、販売していくというスキームが主になっていると思うんですが、僕たちは真逆の考え方です。常に着る人が基点。着ることで自信を持ったりコミュニケーションを取りたくなるような、人を軸にした服を作る。人が服に合わせるのではなく、服が人に合わせる時代。これが、僕たちの考えるユニーク=個性を尊重するということです。
【ビッグデータでファッションを科学する】
ー2017年には「ゾゾタウンを作り変える」と発表しました。
サイトを快適に利用して頂くためにリニューアルをします。セール時には重くなるということもあったので、安定性などを高める予定です。
ー今回はゾゾスーツの発送に合わせて、ゾゾタウン内に「自分サイズ検索」を導入しています。
膨大な数のアイテムの中から、自分のサイズに合った商品のみを検索することができる機能です。ゾゾスーツで計測して頂くことが必須にはなりますが。
ーファッションECの改善すべき点は他にもありますか?
物流業界が逼迫している中、試着と返品を前提に何着も注文するというような買い方は良くないと思っています。返品のコストも商品に織り込まれてしまいますから、それでは顧客の満足度は高まらない。返品の必要がない商品を提供していくことが大事だと思いますし、返品しない人ほど損をするというこの状況を改善するための取り組みを、ゾゾタウンでやっていきたいですね。
ーアマゾンも近年はファッションECやPBに力を入れているようですが。
他社も気にはなりますが、メディアで報じられている以上は知りませんね。我々のように全身ミリ単位でアプローチできるところがあるかどうかも。
ー昨年はエンジニア、そして今年は研究者といった人材を集めています。
全ての分野でまだまだ成長の余地があると思っているので、幅広くスペシャリストに参加して頂けたら。
ー今後のM&Aの可能性は?
キャピタルゲインを狙った投資はないですが、事業シナジーを生み出せる相手だったら積極的に取り組んでいきたいと考えています。
ーファッション分野以外の企業も?
あり得ますね。
ーこれからのスタートトゥデイにとって、やはりビッグデータが鍵になっていくのでしょうか。
そう思いますね。ゾゾタウンも10年以上運営しているので、集まった商品データや購買データとゾゾスーツで集めたボディデータなどを分析し、ファッションを数値化する、ファッションを科学する、ということに真剣に取り組んでいきます。
(聞き手:小湊千恵美・芳之内史也)