『「うまくいく夫婦、ダメになる夫婦」の心理(PHP文庫)』(加藤諦三/PHP研究所)
「夫と同じお墓に入りたくない」「一緒の空間にいるだけでイライラする」……テレビ番組などでよく聞く、熟年夫婦の妻のお言葉。果ては「夫、早く死なないかな」とひっそり思っている女性すら存在するという……(怖い)。
しかし、○十年前は永遠の愛を誓って結婚したはずの2人だ。もちろん時を経て恋愛感情なくなるのは分かる。いつまでも恋愛初期のドキドキが続くわけがない。だから夫への想いが「無関心」ならまだ分かるのだが、どうして「憎しみ」「怒り」にまでなってしまうのか。私はそれがずっと疑問だった。
そして、「離婚」がそれほど珍しい(恥ずかしい)という風潮ではなくなり、別れを選択する夫婦が増加の一途をたどる昨今、「どうすれば良好な夫婦関係を維持できるのか」を知りたかった。
そこで『「うまくいく夫婦、ダメになる夫婦」の心理(PHP文庫)』(加藤諦三/PHP研究所)。本書は大学教授であり、半世紀に及びラジオ番組における「テレフォン人生相談」のパーソナリティーをつとめている著者が、「夫婦の心理」に鋭く斬り込んだ一冊である。
夫婦関係がうまくいかなくなり、相手に対して「憎しみ」や「不信感」が生まれる理由を簡潔にまとめると、「心が触れあっていないから」。
熟年離婚をする夫婦は実は長年にわたって仮性コミュニケーションをしてきただけなのである。つまり表面的にはコミュニケーションが行われているように見えるが、心の深いところでの触れあいがない。
例えば「寒いね」という言葉に「冬だからね」と返答するのは情緒的な結びつきの「おしゃべり」ではなく、情報交換に過ぎない。こういった情報交換をいくら行っても、「心が触れあわず」相手を理解することも、または相手が「理解されている」と感じることもなく、夫婦関係には溝ができる。
「心が触れあっていない」相手なのに、「現実の日常生活では物理的にどうしようもなく近い存在」で「それにもかかわらず二人の気持ちは他人である」。その「お互い本性を隠しているのに一緒にいなければならない」という緊張感・息苦しさが、「夫憎し(妻憎し)」、ひいては熟年離婚につながるのだ。
では、そうならないためにどうしたらいいのか。一つの方法は「ケンカをすること」だ。対立した時に「自分が折れることで解決する」のではなく、しっかり話し合い、ケンカは「相手を理解するチャンス」だと考え、その都度「解決」していく。「幸せな結婚生活に大切なのは問題解決能力」なのである。
問題解決能力とは、理屈や正論で相手を納得させることではない。「問題を受け入れる能力」であるという。「夫が家事を手伝ってくれない」「気持ちを理解してくれない」とただ嘆くのではなく、「現実を受け入れて現実を望むように変える努力をすること」その能動性と積極性が肝要なのだ。
具体的な方法としては「日常の小さなことを大切にする」「相手の考えを決めつけずに、話し合う」「言葉を聞くよりも相手の態度を見る」(相手の言葉を文字通り解釈するのではなく、その言葉に隠された本心に注目する)などが挙げられていた。
本書に書かれていることは、けっこう「辛辣」だ。「夫が〇〇なのはあなたが精神的に未熟だから」といった、「これ、グサッとくる人もいるだろうなぁ……」とヒヤヒヤするような表現も。だが、その分納得ができる。そして明快な解決法が書かれているのも、参考になった(実践するのは簡単なことではないけれど)。友人や親しい間柄では率直に指摘できないからこそ、他者の「キツイ一言」も時には必要なのだろう。
自身の伴侶と末永く、良好な関係を続けたいなら、第一歩は「ケンカをおそれない」こと。肝に銘じておこう。
文=雨野裾