今から約10億年後には、太陽は消滅に向かい、外層大気を吹き飛ばし、我々の小さな地球もその高温のプラズマに飲み込まれてしまうだろう。
だが、NASAの双子の惑星探査機「ボイジャー」が、我々の思い出として銀河に残る。
この原子力を動力源とした2機の探査機は、40年前に打ち上げられた。天王星や海王星、それらの衛星や環、その他の太陽系外縁部の物体を近接撮影した、最初で唯一の探査機だ。
そして、ボイジャーは地球上の生命に関する音や画像など様々な情報を収録した「ゴールデンレコード」を運んでいる。いつの日か異星人が発見し、解読するかもしれない、我々の基本カタログだ。
ボイジャーのミッションについては、アメリカの公共放送PBSの「The Farthest」という素晴らしいドキュメンタリー番組の中で、詳しく解説されている(8月23日放送済み、9月13日に再放送予定)。
「50年後には、ボイジャーは20世紀を象徴する科学プロジェクトになっているだろう」ボイジャーの画像解析に携わる科学者ブラッド・スミス(Brad Smith)氏はこの番組の中で語った。
多くの科学者や技術者たちが、最も遠く、最も速く、最も長いミッションで、人類最大の努力の結晶と称賛する理由を見ていこう。
---------------------1972年、NASAは8億6500万ドル(現在の価値にして約5500億円)の予算を投じて、ボイジャーのミッションに着手した。
宇宙を漂うボイジャーのイメージ図。
NASA
出典:NASA/JPL-Caltech, Bureau of Labor Statistics
ミッションの目的は、176年に一度の惑星の並びを利用し、太陽系外縁部を旅することだった。惑星の重力を利用して探査機を加速させることで、少なくともどちらか1機を、天王星と海王星の初探査に送り込む計画だった。
出典:"The Farthest"/PBS
NASAは、木星の放射線帯がボイジャーをショートさせるのではないかと懸念していた。そこで技術者たちは、探査機のケーブルをキッチンで使うアルミホイルで覆い、接地した(実際、効果があった)。
キッチンで使うアルミホイルが、探査機外部のケーブルの保護、接地に役立った。
NASA/JPL-Caltech
出典:The Farthest"/PBS
ボイジャー2号は1977年8月20日に打ち上げられた。多くの人にとって紛らわしいことに、ボイジャー1号はその数週間後、1977年9月5日に打ち上げられている。
NASAのケネディ宇宙センターから打ち上げられるボイジャー2号(1977年8月20日、フロリダ州ケープ・カナベラル)。
NASA/JPL
しかし、これは「The Farthest」に登場した科学者たちが説明したように、長期的な考えに基づいていた。ボイジャー1号は2号よりも速いため、途中で2号を追い抜く。
出典:"The Farthest"/PBS
2機の打ち上げ後、科学者たちは神経をすり減らし続けた。例えばボイジャー2号は、予期せぬロケットの振動により、コンピューターが故障、数日間制御不能となったことも。
ボイジャーのコンピューティング・システムの一部。
Smithsonian National Air and Space Museum
「あの時はどうなることかと思った。ミッションが終わりになってもおかしくなかった」とボイジャーの技術者フレッド・ロカテル(Fred Locatell)氏は番組で語った。
出典:"The Farthest"/PBS
一方、ボイジャー1号では、打ち上げ時にロケットの液体燃料が漏れた。予備燃料で対応できたが、残された推力は時間にしてわずか3.5秒だった。
漏れた燃料の量がもっと多ければ、ボイジャー1号の打ち上げは失敗に終わっていたかもしれない。
「木星に到達するつもりが、"ほぼ木星"になってしまうところだった。その場合は太陽に向かって戻ることになっただろうが、うまくいかなかったかもしれない」とミッションのプロジェクト・マネジャー、ジョン・カサーニ(John Casani)氏は番組で語った。
出典:"The Farthest"/PBS
2機は途中で速度を上げながら、木星の探査に成功。ボイジャーは、これまで誰も見たことのない木星のディテールを捉えた。
ボイジャー1号が捉えた木星の大赤斑(1979年)。
NASA/JPL; Björn Jónsson/IAAA
多くの衛星の姿も捉えている。例えば、氷で覆われたエウロパの地表の下には、地球全体に存在する以上の水をたたえる海が隠れている。
ボイジャー2号が撮影した氷の衛星エウロパのモザイク写真。
NASA/JPL
出典:Business Insider
2機は、土星の非常に詳細な画像の撮影にも成功し……
ボイジャー1号が撮影した、土星の着色像(1980年)。
NASA/JPL-Caltech
衛星の姿も捉えた。中でもタイタンは、その大きさ、かすんだ大気、大量の炭素の存在から、多くの科学者が「地球の祖先」だと考えている。
ボイジャー1号が捉えた、かすんだ大気に包まれる土星の衛星タイタン。
NASA/JPL
ボイジャー2号は、天王星付近を通過しその姿を撮影した、最初で現在のところ唯一の探査機だ。この惑星がどういうわけか横に傾いていること……
ボイジャー2号が撮影した、天王星の未着色像(左)と着色像(右)(1986年末)
NASA/JPL-Caltech
多数の衛星があること……
ボイジャー2号が撮影した、天王星の衛星ミランダ。
NASA/JPL-Caltech
氷と塵でできた環があることを発見した。
ボイジャー2号が撮影した天王星の画像(1986年)を加工、衛星と環が見えるようにしたもの。
NASA/JPL-Caltech
ボイジャー2号は、太陽から最も離れた位置にある海王星に接近した唯一の探査機で……
ボイジャー2号が捉えた海王星の着色像。メタンガスの霧は赤色だということが分かった。
NASA
巨大な大黒斑を発見し……
出典:"The Farthest"/PBS
大きな氷の衛星トリトンの、地表から窒素を噴出させる間欠泉の姿も捉えた。
ボイジャー1号が撮影した、海王星の衛星トリトンのモザイク写真(1989年)。
NASA/JPL/USGS
両機とも、主なミッションは数十年前に終えているが、まだ議論の分かれる太陽系の縁を越え、恒星間空間へ入ろうとしている。
太陽系を飛び出すボイジャーのイメージ図。
NASA/ESA/G. Bacon (STScI)
ボイジャーは現在も、106億マイル(約170億キロメートル)以上離れたところから定期的に地球と交信しており、作動中の機器でどのようなデータが収集可能か報告している。
オーストラリアの首都キャンベラにあるディープスペースネットワーク(DSN)のアンテナは、定期的にボイジャーからの信号を受けている。
NASA
打ち上げから40年以上が経過した今でもボイジャーが活動できるのは、プルトニウム238をその動力源としているためだ。これは冷戦時代の核兵器の生産過程で生まれた放射性副産物である。
自らの熱で光る二酸化プルトニウム238。
Department of Energy, via Wikipedia
特殊な物質で覆われたプルトニウムは、放出された熱を電力に変換することができる。それぞれのボイジャーには、3つの原子力電源があり、打ち上げ時には合わせて420ワット(電子レンジの約半分)を発電した。
ただし、プルトニウム238の半量が87.7年で崩壊するため、現在ではその4分の3程度しか発電することができない。
しかし、原子力電池が使えなくなっても、探査機は地球の景色や音を記録したゴールデンレコードを運び続ける。
それぞれのボイジャーに積まれたゴールデンレコードとアメリカ国旗。
NASA/JPL-Caltech
それぞれのレコードのカバーには、レコード針を使ったデータの読み方が、詳しく記されている。しかしそれは英語ではなく、高度な知的能力を持つ異星人が解読できるであろう数学的表現で書かれている。
Nasa
「長い目で見れば、これは我々が存在したことを示す、唯一の証拠となるかもしれない」とゴールデンレコード・プロジェクトに従事した(また、銀河系に星間通信できるような文明がどれくらいあるかを推定する「ドレイクの方程式」を考案した)フランク・ドレイク(Frank Drake)氏は番組で語る。
アポロ11号がとらえたアフリカ大陸(1969年7月20日)。
NASA/Flickr
探査機を発見するであろう誰か(または何か)に向けられたメッセージの中で、最も未来を予見するような内容だったのは、おそらくジミー・カーター元大統領のものだろう。「これは小さな、遠い世界からの贈り物です。我々の音、科学、画像、音楽、思想や感情の証です。我々の過ごした時を、あなた方に残すことができればと思っています」
ジミー・カーター元大統領(1977年1月31日)。
Wikipedia; Library of Congress
[原文:Why NASA's twin Voyagers probes are the most important spacecraft ever launched — and could be the last evidence of humanity's existence]
(翻訳:Ito Yasuko)