クリエーティブなコンテンツとサイエンスデータを持つアドビは、2種類のデータを掛け合わせた人工知能を育成している。
アドビのマーケティング向けAI活用が先進的なものであることは、先行して公開した下記記事のとおり。ここでは、Adobe Summitで盛り上がりをみせる人気イベント「Sneaks(スニークス)」の中から、参加者投票でベスト3に選ばれた世に出る寸前の最先端テクノロジーを解説していく。
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Sneaksは、ライトニングトークのような短時間で開発中の機能をプレゼンする場。Sneaks内で紹介された機能は、後に製品化される可能性が高い。
Adobe Summit 2018のDay 2(2日目)に開催されたイベント「Sneaks」は、アドビ社内で目下開発中のツールや機能のデモンストレーションを披露する場だ。Sneaks内で発表された機能は、絶対とは言えないが、翌年のSummitなどで正式発表されてきた。
今回のSneaksでは、広告担当者やサイトマネージャーが今まで直感や人力などに頼って、“属人的”に行ってきた作業を自動化する「Master Plan」「Launch It」「Video Ad AI」の3つが特に好評を得ていた。
1.キャンペーン計画をレコメンドする「Master Plan」
キャンペーンの要件書を入力すると、Adobeの人工知能「Sensei」が、その情報を元にメタデータ(関連するキーワードのような情報)を自動生成する。
メタデータをもとに、現在選んでいる写真より最も効果的とSenseiが判断した写真がレコメンドされる。
さらに、そのキャンペーンをSNSやメールなどの媒体で行うべきか否か、などを教えてくれる。すべて同社のツール内で完結しているのも特徴だ。
2.既存サイトのトラッキング・機能追加が容易になる「Launch It」
ECサイトなどは商品を売るために、購入率など顧客の行動をチェックする必要がある。しかし、その効果測定を効率的にするには、商品毎などに細かい設定が必要で担当者の負担は大きい。Launch Itは、その「面倒」を解消する。
サイトのURLを入れると、Senseiがそのサイトの構造やコンテンツを分析し、トラッキングの設定が完了する。
Senseiはサイトを分析する上で、ECサイトの各商品を理解しているので、カート画面などによくある「あなたにオススメ」などの機能も容易に導入できる。
3.“公開前”にPR動画がSNSでバズるかを予測する「Video Ad AI」
広告の管理・パブリッシングができる「Adobe Advertising Cloud」上であるPR動画を公開しようとしているデモ。担当者はPR動画を配信したいSNSを選択すると、各SNSごとにSenseiが予測した「期待値」が表示される。
今回のデモではインスタグラムでの反応が「期待薄」だった。アップした動画はやや長めだったのでツール上で短くしたり、同社の動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro CC」とシームレスに連携して修正できる。
短く調整したところ、インスタグラムでの「期待値」が高くなった。
Sneaksでは来場者による投票があるが、1位は「Master Plan」だった。
表彰台の中央に立つのは、「Master Plan」のデモを行ったスティーブ・ウイリック(Steve Wiriq)氏。
アドビのAI「Adobe Sensei」の賢さの秘密は155兆件以上の社内外のデータ
Adobeはパートナー企業とともにSenseiを学習させている。
Sneaks以外にも、Adobe Summit 2018ではいたるところで、「Adobe Sensei」(以下Sensei)が話題になった。
Senseiこそが同社のマーケティングツールの肝というわけだが、どのぐらい“頭のいい”AIなのだろうか。
同社広報は、Adobe Senseiを“学習”させるにあたって、「過去4四半期にわたって膨大な量の匿名データの中から155兆件以上のデータ・トランザクションを管理するお手伝いをしました」と説明している。
また、SenseiはAdobe Experience Cloudの商品群を利用すればするほど賢くなる。それは自社データだけではなく、同社のパートナー企業のデータも、アドビを通して匿名性を担保した形で処理されているという。
Senseiはカスタマイズできる
ここで気になるのが、仮にSneaksで発表された機能が製品化した際、業界内で競合する2社が同じタイミングで類似する製品のプロモーションを行おうとしたら、Senseiは2社に対して同じプロモーション方法を提案するのか、という点だ。
広報によると、まったく同じプロモーションをし、パラメータも同じであれば「Senseiは同じ結論を導き出す」という。
ただし、同じパラメータを持つ企業など基本的には存在しない。同社広報は「例えばデータの予測などは、インプットとなるデータは異なるもののため、同様のアルゴリズムを利用していてもその結果は異なります」としている。
企業ごとにせよ、地域ごとにせよ、Senseiにとって“ローカライズ”はひとつの解決すべき課題ではある。写真はSenseiによる顔識別機能で、現在Senseiは米国人を中心に学習しているため、アジア人である筆者を見て「35-45歳」と誤った認識をしてしまった(筆者は現在27歳)。
さらに同社は「(Senseiは)自社の顧客ターゲット層向けにカスタマイズが可能で、その場合はプラスで自社用にターゲットを最適化できます」と話しており、ある程度の“調整”も可能なようで、その作業を担当する専用のコンサルチームも用意している。
AIは「究極のアシスタント」
左からアドビのシャンタヌ・ナラヤン(Shantanu Narayen)CEOと、NVIDIAのジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEO。
なお、同社は会期内に人工知能・機械学習を語る上で避けては通れない半導体メーカー・NVIDIAとのパートナーシップを発表。NVIDIA製GPUにSenseiを最適化し、さらなるパフォーマンスの向上を図るとしている。
NVIDIAのジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEOは、同イベントの基調講演にゲスト登壇し、「AIは究極のアシスタントで、アーティストにとっては魔法のような機能」と述べている。
AIがマーケティングの仕事を効率化する未来は、着実に近づいている。
(文、撮影・小林優多郎 協力・アドビ システムズ)