cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_046a0a27c225_世界レベルの「AIの知財権」議論始まる。その先進国は日本 046a0a27c225 046a0a27c225 世界レベルの「AIの知財権」議論始まる。その先進国は日本 oa-businessinsider 0

世界レベルの「AIの知財権」議論始まる。その先進国は日本

8月19日から25日までの7日間、オーストラリアのメルボルンで統合国際人工知能学会(IJCAI;International Joint Conference of Artificial Intelligence)が開催されています。このイベントに前後して開催されたワークショップの一つ、「世界最初のAI実用製品の共有と再利用ワークショップ(The First International Workshop on Sharing and Reuse of AI Work Products)」に、筆者も参加しました。その内容をご紹介します。

オーストラリアのメルボルンで統合国際人工知能学会(IJCAI)が開催された。

このワークショップの目的は、AIが実用製品として普及していくときに議論しておくべき内容を明らかにしておくことです。たとえばAIが実用品に組み込まれる時、AIそのものの知的財産権については今のところどの国にも法律上の規定がありません。また、AIによって生成された生成物の著作権についても同様です。たとえば、AIが小説やマンガを書いたりした場合、その権利が誰に帰属するかは明らかにされていません。

日本は「AIの知的財産権」議論の先進国、法律も先駆的
この種の議論に関しては我が国は世界でも一番議論が進んでいる場所のひとつです。昨年も内閣の知的財産戦略本部ではAI生成物やAI創作物をどう扱うかといった議論(「新たな情報財検討委員会」として実施。報告書はこちら)や、学習済みAIになんらかの知的財産権を認めるかという議論が活発に行われていました。

改めて海外でこの議論を始めてみて思うのは、日本は人工知能産業にとって大変「幸運なことに」少子高齢化がもっとも進んだ先進国であることです。これが、若年失業率がもともと高い欧米の先進国で「人間の仕事の一部を機械が代替していく」という議論をすると、まず雇用確保の観点から横槍が入り、社会実装の歯止めになります。しかし、少子高齢化が進み、労働力不足に悩む日本では、こうした「人間にしかできなかった作業の自動化」はむしろ歓迎される傾向にあります。

今回のワークショップの中でも注目を集めたのは、早稲田大学の上野達弘教授による「人工知能と機械学習に関する著作権問題(Copyright Issues on Artificial Intelligence and Machine Learning)」についての講演でした。各国の知財法を比較しながらAIと知的財産の問題について振れています。

たとえばEUの著作権法では、著作物を学習データとして使う場合には「科学研究に限定して」許可が与えられてるのに対し、我が国の著作権法では「広く機械学習全般に対して」許可が与えられているという違いが指摘されました。

早稲田大学の上野教授は「人工知能と機械学習に関する著作権問題」について講演し、注目を集めた。

要するに、EU加盟国では著作物を学習したニューラルネットワーク(脳の神経細胞の繋がりと機能のシミュレーションを目指した数学モデルのこと)は著作者の許可を得なければそのまま産業利用することはできませんが、日本では著作権があったとしても、機械学習したニューラルネットワークを産業利用できることになります。ほとんどのデータには著作権があるうえに、故人の著作などは死後50年経過しないと著作権が消滅しないことを考えると、いろいろな目的の人工知能を作るのに日本の法律は諸外国に比べて極めて先駆的であり、日本国内企業は諸外国に比べて極めて有利な状況にあります。

たとえば、ハリウッド映画の脚本を学習させて、自在に物語をつくるAIを開発するとしましょう。EU加盟国はこうして作った「ストーリー生成AI」を研究目的ではつくれても、実用化することはできず、日本はできるということです。あくまで現行法の運用上の話ですが。

もうひとつ、注目すべき発表は、(専門的な話になりますが)Khronos(クロノス)グループのビクトル・ギネス(Viktor Gyenes)氏による「学習エンジンから推論エンジン(※)に渡すためのニューラルネットワーク交換フォーマット(Neural Network Exchange Format for the Deployment of Trained Networks to Inference Engines)」に関する講演です。

※「推論エンジン」とは、クラウドサーバーなどの莫大な計算資源を使って作られた学習済みのAIをベースに、現実的な環境で物事を処理できるように実装されたAIプログラムのこと。

クロノスグループのビクトル・ギネス氏の講演。

クロノスグループといえば、ゲームプログラミングに欠かせないOpenGLやOpenCLなどのオープン技術を標準化する世界的団体です。これまで主にグラフィックス関連の技術の標準化を進めてきたクロノスグループですが、同じようにGPUを利用する技術として、(人工知能開発に使われる)ニューラルネットワークの標準化も行っていく意向があるということです。

彼らがNNEF(Neural Network Exchange Format)と呼ぶフォーマットは、Python(注:プログラミング言語)ライクな文法を持ち、階層的グラフをサポートすると名言されています。現在は仕様検討中の段階ですが、内部的にはCaffeとTensorFlowのデータには対応できているとのこと。

NNEFがサポートするニューラルネットワークは、典型的な畳込みニューラルネットワーク、および全結合ネットワークと呼ばれるもので、モバイル機器などの推論エンジンに組み込みも意識した設計になっているのが、他のフォーマットとの大きな違いと言えます。

この手のモバイル機器向けのサポートというのは、たとえばアップルiOSの機械学習向け新機能「CoreML」や、グーグルのTensorFlowのAndroid版では既に試みられていて、これ自体がそれほど目新しい技術というわけではありません。ただし、クロノスグループで標準規格が提案されることで、各種フレームワークが独自の形式を作っている現状がある程度は落ち着いてくると、ディープラーニング実行環境のNVIDIA「Digits」やソニーCSL「CSLAIER」などの複数のフレームワークバックエンドを使い分けるGUIツール群や、「Keras」のようなフロントエンドツールが使いやすくなることは間違いないので、リリースに期待しています。

正式版は2018年中旬にリリースの予定なので、この動きの激しい業界のなかにあってどれだけ自由度を犠牲にせずに互換性を担保できるかは、かなり重要になりそうだと感じました。

人工知能組み込み製品や人工知能生成物の知的財産権は、今後必ず問題になってきます。今から準備しても、むしろ遅いくらいでしょう。一刻も早く各国のコンセンサスをとる必要があります。IJCAIは歴史ある人工知能の学会ですが、その半面、研究者コミュニティの側面が強く、なかなか実用化や知的財産権には興味関心が向かない面があります。ですが、こうした知財の議論が国際学会の場でスタートできたことには、一定の意義があります。

(撮影:清水亮)

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cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_6b10bf6622b2_ペプシコCEOが語る、社長になった日に母に教えられたこと 6b10bf6622b2 6b10bf6622b2 ペプシコCEOが語る、社長になった日に母に教えられたこと oa-businessinsider 0

ペプシコCEOが語る、社長になった日に母に教えられたこと

インドラ・ヌーイ(Indra Nooyi)氏が米ペプシコ(Pepsico)の社長に任命されたのは、2001年のことだった。5年後CEOに、さらに2007年には会長の座に就くことになる。

だが社長に任命された日の夜のこと。帰宅すると、たまたま親がやってきた。

同氏はその夜のことを、次のようにLinkedInで回想した。

2001年、ペプシコの社長に任命され、帰宅したときのことを私は決して忘れない。自宅にちょうど母が来ていた。
「すごくいい知らせがある」と私が大きな声で言うと、母は「後で聞くから、ちょっと牛乳を買ってきて」と答えた。
それで私は牛乳を買いに出かけた。戻ったとき、私はかんかんに怒って言った。「いい知らせがあるって言ったでしょ。ペプシコの社長に任命されたの。なのに、牛乳を買ってこいだなんて」
すると母は言った。「待って。あなたはペプシコの社長になるかもしれない。だけど、この家に一歩入ったら、妻であり母であることがあなたにとっての最優先事項。その役割に代わりはいない。だからその王冠はガレージに置いてきなさい」
ヌーイ氏は、時価総額1660億ドル(約18兆円)の大企業を10年間経営して学んだ教訓の一つとして、このエピソードをシェアした。

「自分が何者であろうと、何をしていようと、家庭の中では誰も自分の代わりになれない」とヌーイ氏は記した。「けれども認めよう。母、妻、従業員など、なりたい人全てに同時になるのもほぼ不可能だ。しばしば取捨選択に迫られる。CEOになりたいなら、なおさら。選択は不可避だ」

LinkedInでヌーイ氏はこう続けた。

それでも分かっている。夫と私は辛い選択を迫られてきたが、それでも私たち家族はとても恵まれていた。アメリカでは、近所に親戚がいて子どもの世話を手伝ってもらえる人や、お金を払って追加のサポートを頼めるほどの給料をもらえる仕事に就いている人は、多くない。
これは至急取り組むべき課題だ。企業として、社会として一致団結し、幼い子どもや年老いた親を世話する労働者を支えていく必要がある。
ヌーイ氏によると、ペプシコは今秋、本社従業員向けの社内託児サービスと、テキサス支社従業員向けの職場付近での託児サービスを始める。

「それは我々のより広範な取り組みの一環にすぎない。子どもや高齢者の世話をしている従業員を可能な限りサポートし、従業員がキャリアだけでなく生活をも築いていけるようにしていく」

[原文:When Pepsi CEO Indra Nooyi got her pivotal promotion, her mother cut off the announcement and sent her out to get milk instead]

(翻訳:まいるす・ゑびす)

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cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_f425dcb8b951_キューバン氏、「ビットコインはバブル」発言から態度一変 f425dcb8b951 f425dcb8b951 キューバン氏、「ビットコインはバブル」発言から態度一変 oa-businessinsider 0

キューバン氏、「ビットコインはバブル」発言から態度一変

著名投資家マーク・キューバン(Mark Cuban)氏は、設立間もない仮想通貨ファンド1confirmationに出資した。ブロックチェーンなどの仮想通貨関連のニュースメディアCoinDeskが報じた。

8月22日火曜日(現地時間)に設立された同ファンドは、仮想通貨関連を中心に投資を行う計画だ。アメリカ証券取引委員会(SEC)への提出書類から分かった。同ファンド創業者ニック・トマイノ(Nick Tomaino)氏は、カリフォルニア州パロアルトに本拠を置く2億7000万ドル(約295億4000万円)規模のベンチャーキャピタルRuna Capitalのプリンシパル。2000万ドル(約21億8000万円)の調達を目指している。

「ニックは業界最高クラスの鋭敏な知性の持ち主だ。今後、ブロックチェーンを基幹技術として世界に変革をもたらすアプリケーションが生まれるだろう」とキューバン氏はCoindeskに語った。

同氏は先週Twitterへの投稿の中で、本人自らがビットコイン・ブームに乗る意向を明かした。

「このブログ記事を全て書き直し、株式をビットコインに換えるべきかもしれない。とうとう、いくらか買う必要が出てきたようだ」

キューバン氏が仮想通貨の世界に本格参入したことは、大きな「転向」だといえる。2カ月前には「ビットコインはバブルだ」と発言していたからだ。6月上旬、ビットコイン価格が2900ドル(約32万3000円)に迫る勢いで急騰した直後、同氏は反発が来るおそれについて警告していた。

「ビットコインはバブルだ。いつ、どれくらい下がるかは分からない。皆がどれだけ簡単に金もうけできるかを自慢している。つまり、バブルだ」

キューバン氏はさらに、批判の矛先を仮想通貨全般に向けていた。

「誰でもどこでもビットコインを買える。ビットコインは金のようなもの。資産というより宗教に近い。もちろん金は素敵な宝飾品になる。だがビットコインは違う」

キューバン氏の「転向」は、アメリカの金融界全体が仮想通貨に対する見方を変えてきていることを意味する。金融機関や機関投資家らは、仮想通貨における利益獲得の可能性に対する意識を強めている。その背景には、ビットコインとその競合通貨イーサが共に史上最高値を更新している状況がある。現在、ビットコインは今年の初値から350%超、イーサは2000%超上昇している。

例えば、ニューヨークを拠点として247億ドル(約2兆7000億円)の資産を運用するVanEckは、ビットコインETF(上場投資信託)を立ち上げようとしている。8月11日付けのSEC提出書類で明らかになった。

また、ゴールドマン・サックスのアナリスト、ロバート・ボルジェルディ(Robert Boroujerdi)氏らは、最近の顧客向けメモの中で、次のように記した。

仮想通貨は現在、全体でおよそ1200億ドル(13兆1000億円)の市場規模を誇るため、機関投資家にとってますます無視できなくなっている。仮想通貨に投資するメリットを信じるかどうかにかかわらず、特に新規仮想通貨公開(ICO)による資金調達が従来の投資を超えて成長していることから、相当の資金が実際に動いており、注目に値する。
ICO(Initial Coin Offering)は、ブロックチェーンを利用した新しい資金調達法だ。フィンテック分析会社Autonomous Nextによると、今年初め以来、ICOで調達された資金の総額は18億ドル(約1968億円)を超えるという。

CoinDeskによると、キューバン氏が出資した1confirmationは、「ICOに先立って、自社のトークンまたは株式を投資家に取得させておきたい企業」に対し、「10万ドル~50万ドルを出資する」としている。

ビットコインの最新価格はこちら(英語)。

[原文:Mark Cuban is backing a new cryptocurrency fund months after calling bitcoin a 'bubble']

(翻訳:原口 昇平)

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カジュアル過ぎ? 11歳のトランプ家三男の服装めぐり論争

2017年8月24日 12:00 Getty

トランプ大統領の三男で、11歳になるバロンくんの服装をめぐり、論争が巻き起こっている。

保守系ブログThe Daily Callerは、バロンくんの服装がカジュアル過ぎると批判する記事を掲載した。

『バロン・トランプは、ホワイトハウスに似つかわしい服装をすべきだ(It’s High Time Barron Trump Starts Dressing Like He’s In the White House)』と題したこの署名記事は、「父親のトランプ大統領はいつも身ぎれいにしており、母親のメラニア氏にいたっては、ファースト・レディとなってからというもの、世界的なファッション・アイコンとして知られている。トランプ家の末っ子に、大統領の息子としての責任はないが、公の場に現れるときぐらいは、その場にふさわしい装いをすべきだ」と主張している。

バロンくんは時折、各地への訪問から戻ってきた大統領一家に混じって、ホワイトハウスの南庭を歩く姿が写真に撮られている。Jクルー(J.Crew)のシャツを着ていることが多く、流行りのハンドスピナーを手に、通学かばんを背負った姿も捉えらえている。

大半の人々は、この様子を子どもらしい振舞いだと考えている。ビル・クリントン元大統領の娘で、ホワイトハウスにいた頃は、今のバロンくんよりも少し歳上だったチェルシー・クリントン氏もまた、バロンくんを擁護している。

バロンくんには、子どもとしての生活をプライベートに送る権利があるわ。メディアと全ての人々は、バロンくんを放っておいてあげるべきよ。
しかし、今日の、全てが計算しつくされたアメリカ政治のあり方を考えれば、大統領専用ヘリ(Marine One)から降り立つバロンくんの服装に、政治的な意図や戦略がないと考えるのは難しい。バロンくんのカジュアルな服装は、彼が庶民的な服装をした、どこにでもいる子どもであることを強調し、今回のDaily Callerの記事のような批判から遠ざける狙いがあると考えるのが妥当だろう。

服装によって、政治的なメッセージを発信するのは珍しい戦術ではないが、トランプ一家もまた、彼らの一挙一動が国民から強い関心を持って見られる状況に、慣れてきたのかもしれない。その是非はともかく、政治家の服装が取り上げられ、その裏にあるメッセージが詮索されることは間々ある。

トランプ大統領の長女でアドバイザーとしても知られるイヴァンカ・トランプ氏は今年6月、35ドル(約3800円)でターゲット(Target)が販売しているビクトリア・ベッカムのドレスを着て、ワシントンD.C.のカロラマにある自宅から出てくる写真が話題となった。

オバマ前大統領の在任中は、一家もまた、その服装を取りざたされていた。特にファースト・レディだったミシェル・オバマ氏は、ターゲットやJクルーなどの庶民的なブランドを好んで着ていることを、メディアによって好意的に取り上げられていた。ただ、よりフォーマルな場面では、オスカー・デ・ラ・レンタやグッチの他、マイナーなデザイナーブランドを多用していた。

※バロンくんの母親の名前を修正して、更新しました(8月24日8:00)。

[原文:Barron Trump is being slammed for his casual wardrobe — but it's a brilliant political move]

(翻訳:忍足 亜輝)

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cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_cdb5e6b4f69d_デザイン思考第1人者が語る、働き方改革議論への違和感 cdb5e6b4f69d cdb5e6b4f69d デザイン思考第1人者が語る、働き方改革議論への違和感 oa-businessinsider 0

デザイン思考第1人者が語る、働き方改革議論への違和感

働き方改革の名の下に、長時間労働の是正、労働生産性の向上を目指す動きが続いている。無駄な残業がなくなり、短時間で効率よく成果を出せるのであれば、それは働く人たちにとって悪いことではないはずだ。にもかかわらず、こうした動きに異を唱える現場からの声は少なくない。

現在、推し進められている働き方改革の、どこに根本的な問題があるのか。日本におけるデザイン思考のトップランナーで、さまざまな企業で組織変革を担う、佐宗邦威氏に話を聞いた。

デザイン思考の第1人者、佐宗邦威氏は一律に労働時間にキャップをはめることに疑問を呈する。

いまの議論には前提が抜け落ちている
Business Insider Japan(以下、BI):佐宗さんは、現在進んでいる働き方改革に関する議論について「違和感がある」と発言しています。

佐宗:そんな「世の中に物申したい!」というほどの発言でもなかったのですが(笑)。ただ、違和感というのは、本質にたどり着く一つのきっかけになるポジティブなものだと思っています。

現在働き方改革をテーマにしたプロジェクトに携わったり、20人規模のチームのクリエーティブファームを経営する立場からすると、長時間労働是正、生産性向上という話ばかりが出てくる働き方改革の議論は、「つまらないなあ」と感じてしまうんですよね。

その理由はどこにあるのかと考えてみると、本来、その仕事の成果の性質は何か、どう測るべきかという話があるはずなのに、現状はその部分が抜け落ちたままに議論が進んでいるように思えるんです。

BI:どういうことでしょう?

佐宗:いま、一般に「生産性の向上」という言葉が使われるときには、単位時間あたりにどれくらいのアウトプットが出せるか分かっている前提に立っています。その上で、その効率をいかに上げるかという話になっている。

これは、例えばメーカーが工場でモノを生産するというような、フレデリック・テイラーが「科学的管理法」と言って提唱していた、20世紀型のものづくりのモデルをベースにした発想です。

佐宗:でも、クリエーティブワークというのは、2倍の時間働いたら2倍の成果が出るかというと、そんなことはない。時間をかけたらアイデアが出る場合もあれば、出ない場合だってあります。ある分野に関するアイデアが一定以上溜まった瞬間に、突然ピンッとひらめくような世界です。

それをモデル化するなら、閾値(いきち)を超えるまでは成果がゼロのように見えるけれど、そこから先は無限大になるような、こういう図で表現できるんじゃないでしょうか。

そうだとすれば、いま議論されているように単純に労働時間にキャップをはめるというのは、クリエーティブワークの性質からすると、生産性を上げるどころか、逆に閾値に達しない仕事を大量生産する形に働いてしまう可能性があります。閾値に到達する機会を自ら手放し、アウトプットがゼロになってしまうリスクを抱えるということです。

BI:時間では測れないものを時間で考えようとしていることに、そもそも無理があるというわけですね。

佐宗:そうです。この図のポイントは、横軸が時間ではなく、知識やアイデアの数というところにあります。知識やアイデアというのは、現場での良質なインプットや、異分野の人との対話の中で生まれる可能性が高いです。いま、リモートワークや副業が奨励されているというのには、そうやってたくさんの知識と触れる機会を増やすという意味もあるでしょう。

だから、労働時間をきっちりと区切って、オフィスの中にいる時間だけしか労働時間と見なさないというのも、クリエーティブワークという視点から見ると、アウトプットの効率を下げている可能性があるわけです。

ちなみに、ここでいうクリエーティブワーク=知的生産というのは、僕がやっているデザインやコンサルティングのような一部の仕事だけを指しているわけではなく、本来、企画、マーケティング、生産管理を含めたホワイトカラーの仕事全てを指す言葉です。ホワイトカラーの仕事というのは、クリエーティブワークにならなければ、いずれAIに駆逐されてしまうことになります。

だから、生産性の改革という話をするのであれば、単位時間あたりでアウトプットが増えていく単純作業なのか(これは、AIにより駆逐される可能性が極めて高い)、アイデアの蓄積が一定のアウトプットにつながる知的生産なのか(こちらにシフトすれば、価値が高まっていく)、一体どっちの話をしているのかというのをまず整理してからでないと、おかしなことになると思うし、そう考えれば、全社員に一括して適用するものではないとも思うんです。

集合知を生かしたモデルでの取り組み

佐宗:僕はいま、いろいろな企業のイノベーションの支援をしていますが、こういう仕事をいただくというのは、大企業の既存のビジネスモデルが崩壊しつつあり、新しいモデルをつくることが求められているということです。

新しいモデルをつくるためには、いま動いているビジネスとは別に、新しく何かを実験する必要があります。よく知られるグーグルの20%ルールのように、リソースの20%を使って新しいことにトライする、そのための場をいかにつくるかということを、僕はお手伝いしています。

BI:そこでいう20%というのは、社員一人ひとりの時間の使い方としてですか? それとも組織として20%の人員をそれにあてるということですか?

佐宗:まずは個人として、次に組織としてです。そう言うのには、もちろん理由があります。

組織の中で20%の余白をつくるというのは、いままでであれば、R&Dなどに集中して余白をつくるモデルで運用されていました。しかし、実際に研究所の仕事をかなりさせていただいていて思うのは、多くのR&D部門は、そもそも距離的に少し離れた場所にあることが多い。

そのため、研究者同士のみのクラスターでの生活になり、タコツボ化してしまって、外のネットワークとつながらなくなっているのです。世の中で起きている課題との接点がなく、新しいものが生まれにくくなっているということです。

では、どうするか。少ない人数で新しいものが生まれないのであれば、組織全体で少しずつ余白をつくって、その中から生まれてきた集合知を拾った方が、正解率が高いのではないか。そういう考え方で、集合知を生かしたモデルでの取り組みが増えてきています。

誰か一人が答えを持っているわけではなく、みんなのどこかに答えがあって、そこにアクセスしようというのは、インターネットの時代ならではの方法論ということができるでしょう。

「本業以外のことをする暇がない!」
佐宗:だから、いま求められているのは、そうした集合知にいかにアクセスしやすいモデルをつくるか、ということ。僕がソニー時代の2013年ごろに取り組んだ「Seed Acceleration Program(SAP)」というのも、まさにそうした例の一つです。

世界でも、IBMやSAP(ドイツに本社を置くヨーロッパ最大のソフトウエア企業)、GEなど、現場にスタートアップやデザイン思考などの方法論を活用しつつ、現場に権限を分散させ、顧客と一緒に共創する企業モデルに変わってきている流れがあります。

いずれを見ても、100に3つの成功しかしないイノベーションの種を仕込んでいくために、企業文化全体として外界の変化へのアンテナを高め、素早く取り込んで自律的に変革していけるようにしようというのが、いまの企業のモデルのトレンドと言えると思います。

このモデルは、現場で実践している感触として極めて機能していたのですが、働き方改革の大波が押し寄せたことで、現場の余白を必然的に奪う流れが起こり、「本業以外のことをやっている暇がないよ!」ということで、大きな向かい風が吹いているというのが現状です。働き方改革の問題が起きてからは、そうやって組織内に広く余白をつくり、アイデアを集めてくるということのハードルが、かなり高くなってきていると感じます。

一方でそれが意味するのは、既存の本業のやり方を変えないで余白だけを奪うと、タコツボ化したモデルが維持され、より外部に対して変化できなくなるという帰結です。

逆に言うと、本業を知的生産型に変えていかない企業は変化に対応できなくなってしまうということであり、変革の分野が組織の余白づくりから、本業の仕事をいかにクリエーティブワークのモデルに変革できるかに変わってきているというのが、現場で感じている課題です。その前提には、既存の仕事を大きく減らしていく、効率を上げていくことも、当然必要になると思います。

BI:そうした難しい環境の中で、どんなことができるでしょうか?

佐宗:一つは、プロトタイピングという考え方が、余白をつくるのにも役に立つのではないかということです。僕のやっているデザイン思考では、考えたことをその瞬間に何かしらの形に起こして、具体的な視点に落としてみるということをします。これがプロトタイピングです。

なぜ、この考え方が余白をつくるのに役立つかというと、大企業の労働生産性が悪い一つの理由は、特に根回し文化の日本企業の場合、コミュニケーションのすり合わせにすごく時間がかかるからです。例えば、ある企画に関する議論においても、8割9割の時間を合意を得るためのコミュニケーションに費やしていて、企画自体を考えている時間は1割にすぎないということがよくあるように感じます。

その点で、デザイン思考の中の一部のスキルである、考えたことを形にするスピードを劇的に上げるラピッドプロトタイピングのスキルを広げていくことは、議論のための議論の時間を減らし、形になったものを元に議論することで手戻りを減らしたり、企画を早く進めたりする効果があります。

さっきの閾値モデルでいうと、大きなカーブで閾値にたどり着くのではなく、小さな閾値の積み重ねを繰り返すことで飛躍的にアウトプットの質を高めることができます。

そうやって本業で形にして考える文化を作ることができれば、その組織のアウトプットは結果的に向上し、余白も生まれるでしょう。

労働時間是正より対話によるすり合わせを

BI: 他にもできることはありますか?

佐宗:組織と個人との目的のすり合わせのプロセスに時間を使うことです。

仕事というものに対する考え方には、大きく2通りあっていいと僕は思っています。あくまで自分が生きるための手段であるという考え方と、仕事自体が人生の目的であり、そこにどれだけの時間をかけてもいいから、好きなことをやりたいという考え方です。

仕事をお金を稼ぐための手段と捉えている人にとっては、たしかに労働時間をやりくりして、余白をつくりだすことが重要になるでしょう。でも、仕事自体が楽しくって、自分というものの全体で何かを成し遂げたいと思っている人にとっては、そもそもどこからどこまでが仕事で、どう時間を配分しなきゃという議論自体が、意味をなさなくなると思うんです。

そう考えると、組織としてまずやるべきは、その人にとっての仕事がどういうものかということを把握し、その上で、組織として目指すベクトルと、その人個人にとってのベクトルとをどうすり合わせるかということでしょう。

キャップをはめて時間をどう配分するかというのは、その次の議論であってほしいと僕は思います。

BI:そのすり合わせというのは、どういう方法が効果的なんでしょうか?

佐宗:最近、ヨーロッパを中心に「Teal型組織」と呼ばれる新しい組織の形が出てきています。組織のあり方には、古くからある身分制度によるヒエラルキー型や、アメとムチの能力主義によるガバナンスなど、いろいろなモデルがありますが、Teal型組織は、企業の目的に共感した人が集まり、その人の働ける範囲だけ貢献するという働き方ができるモデルです。

世界的にはザッポス(アメリカに本拠を構える靴を中心としたアパレル通販小売店)、パタゴニアなどの企業が有名ですが、企業の目的を先鋭化して掲げ、構成員の自律性を高めることで、結果として自由度を高めながらパフォーマンスを上げていく組織にしていこうというモデルです。

企業によっては、売り上げや利益の構造を全社員に公開したり、社員が自分で給料を決めたりする革新的なモデルを持った企業も現れてきています(詳しくはReinventing Organizationという本をご覧ください)。

そうした組織では、会社の目的に合わない人が入ってくるとお互いに不幸せなわけですから、組織としての目的をひたすら発信する形で採用を行うことで、そもそも合わない人が入ってきにくい仕組みを取っています。その上で、個人がしたいことと組織として必要なこととを、頻繁に対話することによってすり合わせていくのです。

上司と部下の評価なしの対話で業績回復
以前、フロー理論のミハイ・チクセントミハイ博士と対談する機会がありました。彼のいうフロー理論とは、難易度とスキルのバランスが取れた仕事をしている限り、人はみな高いモチベーションを保ち、自然と幸せになっていくという考え方です。そして、そのバランスを実現するのが、対話によるすり合わせである、と。

デンマークのある保険会社は、成果報酬を取り入れたことによって一時、社内がガタガタになってしまったのだそうです。しかし月に1回、上司と部下が評価なしの対話をする時間を設け、「あなたがいまやっている仕事はどの程度難しいのか」「それに対してどれくらいのスキルを持っているのか」ということをすり合わせるようにしたところ、一気に業績が回復したといいます。

いまは個人の目的がどんどん変わる時代ですし、仕事自体も明確には定義されない時代です。だからこそ、仕事の内容はある程度フレキシブルなままに保っておいて、このようなフィードバックのシステムを会社の中に持っておくことが、両者をすり合わせる一番の解だと思います。

BI:上司はコミュニケーション能力など、よりソフトスキルが求められますね。

佐宗:そうです。というのも、いま言われている働き方改革の背景にはネットワーク型の社会になり、個人が自由に活動できるインフラが整ってきた中で、会社が法律や就業規則というハードでしばり付けてきた、その反動がきているものだと思います。

その実、こうした状況下でうまくいくかどうかというのは、どんなモデルで価値を出したいかという個人個人の問いかけと、そのための無駄な根回しコストの削減をするためのプロトタイピングスキル、定期的な目的のすり合わせなど、ソフト面をいかに充実させるかこそがカギだと思うのです。

将来のAI化の流れも含めると、企業の仕事の多くはクリエーティブワークになっていくと思いますし、その本質は、結局は人と人のやり取りの中から新しいことが生まれることです。だからこそ、人を機械的に捉える一律のモデルではなく、時にそれはすごく面倒くさいのだけれども、人と人との人間くさい部分がより大事になるということを意味するのではないかと思っています。

知的生産をどう「ほどほどに」保つのか
BI:佐宗さんにとっての働き方改革の課題とは何ですか?

佐宗:働き方改革は、プライベートと仕事の境界線を持たずに、目的に合わせてフロー状態でやるのが良い人と、生活のバランスの一部に仕事を位置付けたい人で課題が根本的に異なると思います。

今僕がやっているようなクリエーティブファームだと前者のスタイルになるんですが、その場合の課題は際限なく仕事や情報処理の量が増えてきて、それをどのように「ほどほどに、ちょうどよく」保つかということだと思います。

人間は機械じゃないし、ずっと知的生産を日々続けるマシンとして生きたくないです。でも、情報も集まってくるし、機会も集まってくると取捨選択が難しく、結局ずっとプライベートと仕事を分け目なく働いてしまうことを止めるのは難しい。

そういうジレンマに直面しているクリエーティブワーカーは多いんじゃないかなと思います。クリエーティブワーカーは、ある程度の余白を作れた方が結果的にパフォーマンスも上がるので、

余白(4)=最低限出さないといけないアウトプット(1)ーアウトプットを出すまでのプロセス(2)/かけた時間(3)

という図式がしっくりきます。この前提としては、

・最低限出さないといけないアウトプットを明確に定義する。
・(その人やチームにとっての)アウトプットを出すまでのプロセスや環境を効果的な形で設計する。
・アウトプットを作成するための生産性をあげる。
・そもそも、自由や余白を持った時にそれを、どのように使って、自分の日々を味わい深いものにするか。
働き方というのは、(1)-(2)/(3)の変数をいじっていることが多いのですが、時間資源とは一番稀少で1日24時間しかないので、何を楽しみに働くかという良い人生の4の余白を味わうことを先に定義した方が、やりたいというモチベーションが生まれてよりパフォーマンスの高く、より良い働き方になるのかもしれないなと思います。
これは、人生のステージやタイミングによっても変わってくるので、なおさらこのようなテーマで対話をする機会を作ることが重要になってきている気がします。

(撮影:今村拓馬)

---------------------佐宗邦威(さそう・くにたけ):biotope社長兼チーフイノベーションプロデューサー。イリノイ工科大学デザイン学科修士課程。東京大学法学部卒業後、P&G入社。その後、ソニークリエイティブセンターで新規事業創出プログラム(SAP)を立ち上げに携わる。独立し、多くの企業の新規事業プロジェクトに関わっている。

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若者の「胸」への関心低下 谷間売り物のフーターズに試練

2017年8月24日 12:00 Gil Cohen Magen/Reuters

ミレニアル世代は、それより上の世代に比べると、女性の胸にそれほど関心がないようだ。

アダルトサイトPornhubが利用者の検索傾向を分析したところ、18歳から24歳の世代は同サイト内で「胸」について検索することが、他の年齢層に比べて、19%低いことが分かった。

一方、Pornhubの55歳から64歳の利用者が胸に関連する検索を行う比率は、他の世代より17%高いという。

ロバートゴードン大学(Robert Gordon University)のコミュニケーション・メディア学部教授サラ・ペダーセン(Sarah Pedersen)氏は「現在、大きな胸への関心は薄れているが、巻き返しはあると確信している。古い時代への回帰はよくある」とPlayboyに話している。

もちろん、フーターズ(Hooters)やTwin Peaksといった、ブレストラン(胸を意味する「ブレスト」と、「レストラン」を掛け合わせた造語)チェーンにとって、胸への関心の低下は、良くない傾向だ。業界レポートによると、アメリカで展開するフーターズの店舗数は2012年から2016にかけて、7%減少し、売り上げも停滞しているという。

フーターズは2017年前半、露出のない制服を採用した新レストラン・チェーンHootsをオープンした。
Hoots

フーターズに限らず、カジュアル・レストラン業界は全体的に下降気味だ。どこよりも過激な体験を約束するというブレストラン・チェーンTwin Peaksとの苛烈な競合を続けるフーターズだが、この上、ウェイトレスの胸の谷間が、そもそも客を取り込めないとあっては、弱り目にたたり目だ。

フーターズはここ数年間、ミレニアル世代の取り込みを模索してきた。2012年には、装飾を変更し新たなメニューを導入することで、イメージを刷新し、ミレニアル世代と女性客の増加を図っている。

食品産業コンサルTechnomicのダレン・トリスターノ(Darren Tristano)氏は2012年に「長年、彼ら(フーターズ)はジェネレーションX(アメリカで1960~1970年代に生まれた世代)に客層を絞ってきた。しかし、現状打破には、ミレニアル世代の取り込みが必要だ」とTimesに話している。

女性の胸への関心の低下を受け、フーターズは宅配サービスを前面に押し出し、露出のない、男性ウェイターも働く新形態のレストランを展開している。

[原文:Millennials have a new attitude about cleavage that's forcing 'breastaurant' Hooters to close locations and change its strategy]

(翻訳:忍足 亜輝)

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cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_142a6ff286be_イーロン・マスクの「ハイパーループ輸送」数百年の歴史 142a6ff286be 142a6ff286be イーロン・マスクの「ハイパーループ輸送」数百年の歴史 oa-businessinsider 0

イーロン・マスクの「ハイパーループ輸送」数百年の歴史

テスラおよびスペースXのCEOのイーロン・マスク氏は2013年、真空チューブ内を超高速で走行する磁気浮上式ポッド(列車)を考案した。ハイパーループと呼ばれる高速次世代輸送システムだ。

同氏は調査報告書において、ハイパーループの将来性を描き、他のテック企業に商用化へ向けた開発を提案した。現在のところ、2社のスタートアップ、シャービン・ピシェバー(Shervin Pishevar)氏率いるハイパーループ・ワン(Hyperloop One)とダーク・アールボーン(Dirk Ahlborn)氏率いるハイパーループ・トランスポテーション・テクノロジーズ(HTT)が、実用化に向け最も近いポジションにいる(マスク氏は7月に、ワシントンD.C.~ニューヨーク間を結ぶトンネル建設の「口頭による政府承認を得た」とツイートし、自身のプロジェクト始動をほのめかしている)。

しかし、空気圧を利用した輸送システムを提案したのは、マスク氏が初めてではない。ブログメディアのio9が指摘するように、ハイパーループの起源は、17世紀後半に世界で初めて人工的に真空状態を作り出せるようになって以後数十年をかけてたどり着いた、空気力学(加圧された空気)を応用した「地下高速輸送システム」というコンセプトにある。

マスク氏をハイパーループ構想へと導いたテクノロジーの歴史を振り返ってみよう。

1799年、発明家のジョージ・メドハースト(George Medhurst)氏が、空気圧を利用し鋳鉄パイプを通じて荷物を運ぶシステムを考案。1844年、同氏はロンドンに乗客の荷物専用の駅を建設。このシステムは1847年まで利用された。

ブルネル・ジョリーセイラー鉄道の乗客用駅と荷物専用の駅(1845年)
WIkipedia Commons

出典:io9

%s
1850年代半ばにかけて、ダブリン、ロンドン、パリでも圧縮空気を利用した鉄道が建設された。ロンドン・ニューマチック・ディスパッチ(London Pneumatic Despatch)の地下鉄は小包輸送のためのシステムだったが、人が乗ることも可能だった。1865年、開通を記念してバッキンガム公爵が乗車した。

Air Tube Systems UK

この頃、フランスの小説家ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)氏が、大西洋を横断するチューブ列車を描いた同氏初のSF小説、『二十世紀のパリ(Paris in the 20th Century)』を出版している。


1860年代半ばには、南ロンドンが、クリスタル・パレス・パーク内を走るクリスタル・パレス空気圧鉄道を建設。直径22フィート(約6.7m)のプロペラで進んだ。復路ではプロペラを逆回転させ、列車をトンネル内に吸い込み、後進させた。

Wikipedia Commons


1870年から1873年にマンハッタンで運行されたビーチ・ニューマチック・トランジット(Beach Pneumatic Transit)は、ニューヨーク最初の地下鉄の前身だった。アルフレッド・エリー・ビーチ(Alfred Ely Beach)氏が設計。1両列車で、停車駅も1つ。圧縮空気を利用し乗客を運んだ。

Museum of the City of New York

出典:The Atlantic


19世紀末までには、主要都市のほとんどが、郵便物やその他メッセージの輸送に空気圧チューブを利用していた。今日でも、銀行、病院、工場などで残っている。

ニューヨークの郵便局の空気圧チューブ(20世紀初頭)
Museum of the City of New York

1960年代、NASAはオフィス内のコミュニケーションツールとして空気圧チューブシステムを採用していた。また、ミネソタ州イーダイナのマクドナルド(現在は閉店)では、2011年まで、ドライブスルーで注文された商品を客に提供するのに利用していた。


1910年、アメリカにおけるロケットのパイオニア、ロバート・ゴダード(Robert Goddard)氏が、ボストンーニューヨーク間をわずか12分で移動できる列車を設計。実際の建設に至らなかったが、真空トンネル内で磁気浮上する設計だった。

Wikipedia Commons


20世紀、科学者やSFライターたちはハイパーループのようなシステムを想像するようになった。例えば、SF小説家のロバート・A・ハインライン(Robert Heinlein)氏は1956年、『ダブル・スター(Double Star)』の中で「vacutubes」(真空を意味するvacuumとチューブを意味するtubeの造語)を描いている。

Flickr/x-ray_delta_one


1990年代初め、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究員たちがニューヨークーボストン間を45分で結ぶ真空チューブ列車を設計。マスク氏のハイループ同様、磁気の線路を必要とした。

MIT


2000年代初め、輸送スタートアップET3が空気圧と磁気浮上を利用した列車を設計。このデザインの特徴は、高架方式のチューブを走行する車サイズのポッドだ。

ET3


2010年に発表されたフードチューブズ(Foodtubes)も、同様の構想だ。ただし、チューブは地下にあり、輸送するのは食品。食品の入った容器が、時速60マイル(約96 km)の速度でチューブ内を移動する。イギリスでの建設には1マイル(約1.6 km)あたり約800万ドル(約8億8300万円)の費用がかかる(ただし、まだ構想段階)。

FoodTubes

出典:Ars Technica


その3年後、イーロン・マスク氏が57ページにおよぶハイパーループ構想の概要を「白書」にまとめた。同氏の設計によると、チューブを高速走行するポッドは28人乗り。ニューヨークとワシントンDCは29分で結ばれると同氏は最近ツイートした。

Tesla

出典:Business Insider


マスク氏がハイパーループ建設を提案しているスタートアップの1社HTTは2016年、カリフォルニア州クエイ・バレーにおいて5マイル(約8 km)のテスト・トラック建設に着工、現在進行中だ。同社は列車の速度が時速760マイル(約1200 km)に達することを目指している。

Hyperloop Transportation Technologies


もう1社のスタートアップ、ハイパーループ・ワンは2017年7月、ネバダ州に同社が建設した本格的なテスト・トラック「DevLoop」でのテスト走行に成功した。磁気浮上を利用し、列車の速度は最高時速70マイル(約112 km)に達した。同社は今後、時速250マイル(約400 km)を目指す。

ネバダ州ノースラスベガスで行われたハイパーループ・ワンの公開テスト走行の様子(2016年5月11日)
Reuters/Steve Marcus

出典:Business Insider


中国のある科学者グループは、水中の空気圧列車を構想している。2017年、中国科学院の研究員は潜水艦鉄道を提案。理論上、マスク氏のハイパーループを大きく上回る、時速1240マイル(約1984 km)での走行も可能としている。

中国科学院の潜水艦鉄道の構想図
Chinese Academy of Sciences/Chinese Academy of Engineering

出典:China Money Network


いつの日か、これら全ての構想が一体となり、輸送に革命を起こすハイパーループが実現するかもしれない。

HTTによるハイパーループ完成予想図。
Hyperloop Transportation Technologies


[原文:The design behind the Hyperloop dates back long before Elon Musk — take a look at its evolution]

(翻訳:Ito Yasuko)

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cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_8ef273f5f705_パンダの世話にビール飲み歩き 本当にある夢のような仕事 8ef273f5f705 8ef273f5f705 パンダの世話にビール飲み歩き 本当にある夢のような仕事 oa-businessinsider 0

パンダの世話にビール飲み歩き 本当にある夢のような仕事

2017年8月24日 12:00 Feng Li / Getty Images

テレビゲームで遊んだり、ビールを飲んだり、テレビを見たり……これが仕事だったら、どんなにいいことか!

そんな夢のような話が、現実に存在する。

信じられないような9つの仕事を紹介しよう。

1. チョコレート・サイエンティスト

Koichi Kamoshida/Getty Images

この仕事は、科学とチョコレートへの探究心を必要としている。

「チョコレート・サイエンティスト」はケンブリッジ大学が2014年に募集したもので、Fast Companyの報道によると、「暖かい気候の中でチョコレートを溶けさせず、美味しさを保つ方法」を研究する。

間違いなく博士号レベルの職業だが、チョコレートと一日中戯れていられることは間違いない。

%s甘いものに目がない科学者なら、こうした仕事のチャンスを伺ってみるのも悪くない。


2. 旅をしながらビールを飲む仕事

Matt Cardy / Stringer / Getty Images

旅をしながらビールを飲むだけで給料がもらえるというのは、おとぎ話にしか聞こえないかもしれない。

だがINSIDERの報道によると、これはスミソニアン博物館が2016年、実際に募集をかけたポジションだ。

何か落とし穴がありそう? ある意味、それは正しい。このポジションにつくには、歴史学者もしくは研究者でなければならない。

とはいえ、アルコール好きの歴史学者にとって、ビールを飲みながら6万4650ドル(約710万円)の年収を手にすることができるのだから、悪い話ではなさそうだ。


3. ウォータースライド・テスター

Ilia Yefimovich / Stringer / Getty Images

新しい仕事に飛び込みたいなら、プールやその関連施設が求人を出していないか確認してみよう。

Fast Companyによると、ある幸運な大学生は2013年、3万ドル(約330万円)の給料をもらいながら、トルコやエジプトを旅して周り、スプラッシュワールド・リゾートのウォータースライドのテストを行った。もちろん、旅費も無料。


4. レゴのマスタービルダー

Leon Neal / Getty Images

レゴのマスタービルダーになるのが夢なら、練習を始めるべきだ。だが、マスタービルダーは狭き門だ。Fast Companyによると、世界にはわずか40人ほどしか存在しない。

だが、この仕事を射止めることができれば、あらゆる巨大作品を製作したり、レゴランドのセットのデザインを手掛けられる。


5. 猫カフェのオーナー

Scott Barbour / Stringer / Getty Images

猫カフェは日本全国で大流行している。

毛むくじゃらの猫が集結する店を始めたいなら、今がチャンスかもしれない。


6. テレビゲーム・テスター

David McNew / Stringer / Getty Images

テレビゲームは今やビッグビジネスだ。VentureBeatによると、ゲーム業界は2016年、世界で910億ドル(約9兆9400億円)を売り上げている。

だとすれば、ゲームを実際にプレイし、テストを行う人がいても不思議はない。

Fast Companyによると、この仕事は品質保証テストの一環として行われる。

ゲームをひたすら楽しむというほど単純なものではなく、真面目にプレイし、バグやエラーなどを探り出すことが求められる。


7. 犬にサーフィンを教えるインストラクター

David McNew / Stringer / Getty Images

英語では「老いたる犬に新しい芸を教えることはできない」(編集部注:人に新しいことを教えたり、その人の習慣や性格を変えることはとても難しいことを意味する)ということわざがあるが、例外もあるようだ。

どうやらこの世の中にはサーフィンができなくて困っている犬が数多くおり、レッスンを待っているらしい。Business Insiderの過去記事でも紹介したように、サーフィンのインストラクターの中には、犬と犬の飼い主を相手にレッスンをしている人たちがいる。犬のみのレッスンもあるようだ。


8. テレビ鑑賞士

Marcel Mettelsiefen / Stringer / Getty Images

この仕事に就けば、テレビの前で長い時間を過ごすことに二度と罪悪感を感じずに済むだろう。

この職業はテレビ番組やニュース番組に雇われることが多い。彼らの任務はあらゆる番組に目を通し、特定の番組にとってふさわしい動画クリップを探し出すことだ。


9. パンダの赤ちゃんの世話係

China Photos / Stringer / Getty Images

日本でも大人気のパンダ。Fast Companyによると、パンダの赤ちゃんの世話係というなんともラッキーな仕事が世の中には存在している。

中国四川省にある成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地では、過去に、丸々一年間、パンダと生活を共にし、パンダの「喜びや悲しみを」分かち合える人材を募集したことがある。


[原文:From panda nannies to traveling beer-drinkers, here are 9 dream jobs you probably didn't know exist]

(翻訳:まいるす・ゑびす)

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cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_f92ffaec5d13_バノン氏が狙う極右テレビ局立ち上げと「全面戦争」 f92ffaec5d13 f92ffaec5d13 バノン氏が狙う極右テレビ局立ち上げと「全面戦争」 oa-businessinsider 0

バノン氏が狙う極右テレビ局立ち上げと「全面戦争」

「Fire Bannon(バノンをクビに)」

「No Bannon(バノンはいらない)」

反トランプ派のデモで、必ず見られる看板だ。極右サイト「ブライトバート」の前会長、スティーブ・バノン氏が首席戦略官として、ホワイトハウスのオーバルオフィス(大統領執務室)に出入りしているのは、リベラル派にとって「身の毛がよだつ」(デモ参加者)事実だった。

トランプ氏が大統領選に当選した直後から、反トランプ派のデモではバノン氏を非難する看板が並んでいた/2016年11月、シカゴで。
vnews.tv / Shutterstock

トランプの敵と「全面戦争」宣言
8月18日、ホワイトハウスは、「ジョン・ケリー首席補佐官とスティ―ブ・バノンは、お互いに今日がスティーブの最終日になると合意した」と発表。リベラル派の悪夢が終わるかと思いきや、バノン氏は数時間後、ブライトバート会長へ復帰し、右派にでさえ「全面戦争」を宣言した。バノン氏の復帰で、極右派がますます勢いを得そうで、アメリカは1960年代の公民権運動以来の不穏な情勢になりそうだ。

バノン氏はブルームバーグ・テレビに対し、「戦争」の内容を語った。

「自分はトランプのために、トランプの敵と戦争を始める。キャピトル・ヒル(連邦議会)やメディア、アメリカ経済界にいる、トランプの敵とだ」

アメリカでは1週間前、南部のバージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義者や極右が人種差別反対派の市民らと対立し暴動に発展。女性1人が、命を落とした。直後に、トランプ大統領が「『いろいろな側』を非難する」として、白人至上主義、クー・クラックス・クラン(KKK)など人種差別主義を特定して否定しなかったことで、アメリカ国内はさらに騒然となった。

移民国家としての成り立ち、公民権運動などの歴史から、大規模な集会など開けなかった日陰の身のはずの白人至上主義者、KKK、ネオナチなどが、シャーロッツビルのような平和な大学街に集結したことですら大きな衝撃だった。一方の、白人至上主義者らにとっては、シャーロッツビルに集合できたことが「大きな成果」だ。今後も各地で、彼らが集会を開く可能性は大きい。

そこに、ホワイトハウス首席戦略官と、極右の思想家としては最高位に上り詰めたバノンが、下野してくる。絶妙のタイミングだ。

米メディアによると、バノン氏は、保守系テレビFOXのさらに右、つまり極右のテレビネットワーク局を設立する計画を友人に漏らしているという。

ホワイトハウスで、バノン氏はトランプ氏に極右的な考えを進言してきた。
Chip Somodevilla / GettyImages

バノン氏はホワイトハウスで、移民・難民の排斥、人種対立を煽る考えを進言し、トランプ氏に影響を及ぼしてきた。逆に、穏健派でグローバリズム、グローバル経済を支援する長女で大統領補佐官のイヴァンカ氏、その夫で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏と対立を繰り返してきた。実際にブライトバートは、夫婦ら穏健派を「ホワイトハウス・グローバリスト」と非難している。

連邦議会ではジョン・マケイン上院議員など共和党穏健派の重鎮らがバノン氏やトランプ氏の壁となり、オバマケア(オバマ前大統領の医療保険制度)の改廃などトランプ氏の公約が次々とほごにされている。バノン氏がテレビ局を作ってまでも伝統的で穏健な保守派を否定したいと闘志を燃やすルーツがここにある。

マイノリティーがホワイトハウスに
バノン氏がホワイトハウスに在籍したことは、アメリカ社会にとって想像以上の影響がある。かつて政権を取ったブッシュ氏など共和党大統領が、決して支持を得られなかった極右の支持者を、つなぎとめることができたことだ。バノン氏はマイノリティーと見なされてきた極右を、ホワイトハウスに影響を及ぼす地位にまで引き上げることに成功した。

トランプ氏の支持率は30%台、不支持率が60%台という悲惨な状況だが、極右の間での支持率は90%前後。バノン氏が今後これらの有権者と容易に接することができるようになるのは、極右にとってあまりにも都合が良すぎる。

一方で、ホワイトハウスの混乱は続く。イヴァンカ氏やクシュナー氏と対立するバノン氏がいなくなっても、トランプ氏自身が「異常な」ホワイトハウス運営を続けており、かつてないホワイトハウスの「混沌」が続くのは間違いない。

シャーロッツビル事件に対するトランプ氏の反応を受け、大統領の諮問会議メンバーである企業の最高経営責任者(CEO)らが相次ぎ辞任し、トランプ氏を見限った。これに対し、トランプ氏は、ツイッターで「製造業評議会と戦略・政策フォーラムで、企業経営者にプレッシャーをかけるより、2つの会議を解散する」と逆ギレのようなコメントを発した。

著名投資家カール・アイカーン氏も18日、大統領特別顧問を辞任すると発表、トランプ氏はますます「裸の王様」状態になりつつある。

ニューヨークで行われた反トランプデモでは、トランプ氏を乗せた車が到着すると怒号に包まれた。
lev radin / Shutterstock

トランプ氏が就任後初めてニューヨークのトランプタワーに戻った14日は、人種差別やナチズムを糾弾するデモが起き、トランプ氏の車列が怒号に包まれた。バノン氏が解任された翌19日は、反人種差別を訴える集会がボストン、テキサス州ダラス・オースティン、ルイジアナ州ニューオーリンズなど各地で開かれ、ボストンは約4万人が集まった。

デモの現場には、白人至上主義者や極右が自らの意見を主張するために現れる。各地の警察は、シャーロッツビルのような衝突を避けるため、反人種差別派から遠ざけるように、白人至上主義者らを隔離し警護している。

ホワイトハウスというガラス玉の中にとどまっていた「混乱」が、バノン氏が一般人に戻ったことで、外に波紋が限りなく広がっていく。バノン氏がホワイトハウスに在籍した200日は、極右にとって誇りだ。極右はバノン氏の解任で、むしろ活気づいている。それが、アメリカのさらなる混乱につながるようで、先行きが恐ろしい。

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cat_11_issue_oa-businessinsider oa-businessinsider_0_616de1906779_横浜200万人動員のポケモンGO、住民トラブルはどうする 616de1906779 616de1906779 横浜200万人動員のポケモンGO、住民トラブルはどうする oa-businessinsider 0

横浜200万人動員のポケモンGO、住民トラブルはどうする

8月9日から15日まで、横浜で「ピカチュウだけじゃない! ピカチュウ大量発生チュウ!」が開催された。2016年7月に公開され、大ヒットしたスマホゲーム「Pokémon GO」に関するイベントだ。配信開始から1年が経過し、「当初の勢いはなくなった」などと言う人もいるが、イベントはきわめて活況だった。イベントの中心地域であるみなとみらい地区には、累計200万人以上が訪れ、1億2千万匹以上のポケモンが捕まえられたという(主催者調べ)。

一方で、大規模な集客が行われたこと、Pokémon GOというゲームの特質上の課題も色々と見えてきた。

会場周辺で撮影。年齢層が幅広く、まさに子供から高齢者までが参加する、家族で楽しめる大規模イベントだった。

海外のポケモンイベントのような通信障害は発生しなかった、が……。
「ピカチュウだけじゃない! ピカチュウ大量発生チュウ!」は株式会社ポケモンが主催し、Pokémon GOを開発・運営しているナイアンティックのサポートにより展開されたイベントだ。

株式会社ポケモンは2014年から、横浜みなとみらい地区で「ピカチュウ大量発生チュウ!」というイベントを夏に開催している。ピカチュウがみなとみらい地区をジャックして、パレードやステージイベントが行われる。今年は初めて、公式にPokémon GOと連携する形のイベントとなり、来場者の規模が一気に拡大した。

筆者は取材を兼ね、開催2日目の8月10日(木)に訪れた。熱気はすさまじいものだった。にわか雨の伴うあいにくの天気のなか、皆がPokémon GOを立ち上げたスマホを見ながら歩いていた。しかも家族連れから高齢者まで、年齢が幅広い。Pokémon GOの人気と受容度がいまだ大きいもので、スマートフォンアプリとしては特別な存在であることがよく分かる。

ソフトバンクの移動基地局。イベント対応用だとわかる、バナーを車両につけているのが印象的だ。

こちらはドコモの移動基地局。日本の通信キャリアはコミックマーケット(コミケ)をはじめ大規模イベントの対策ノウハウができており、そのためポケモンGOのような局所的なユーザー増にも大きな通信トラブルを起こさず対応できたようだ。

運営もかなり大規模なものだった。経路の交差点毎に誘導員が配置され、人員誘導もしっかり行われていた。

モバイル通信の絡むイベントだけに特徴的だったのは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった大手携帯電話事業者が移動基地局を配置していたことだ。Pokémon GOは通信ができなくてはプレイできない。約3週間前の7月22日にアメリカ・シカゴで開催された「Pokémon GO Fest Chicago」では通信の混雑が原因で、イベント会場でほとんどプレイできないというトラブルが発生したのとは対照的だ。

日本の携帯電話事業者は、この種の大規模イベントでの混雑対策ノウハウを多数持ち合わせており、完璧ではないものの、「通信を軸にしたイベントを成立させる」状態を維持できていた、といっていいだろう。

慢性的な大渋滞、夜間も続く“ポケモン捕獲”、重くのしかかる地域住民トラブル
とはいえトラブルもあった。特に不満が大きかったのは、開催地である横浜周辺住民からの声だ。みなとみらい地区を中心に、会期中は周辺に慢性的な渋滞が発生。交通が麻痺した。また、夜間にもPokémon GOプレイヤーが地域に滞在した結果、夜間の静穏も失われた。

赤レンガ倉庫周辺。時折の降雨でも来場者が大きく減る気配はない。まさにみんなポケモンGOを夢中で楽しんでいた。

ここには、Pokémon GOというゲームの特性も大きく影響している。一般的なイベントであれば、その開催時間が終われば人はいなくなる。だが、Pokémon GOは、ポケモンが出現し続ける限り、昼夜を問わず、ずっと「イベントは開催中」なのだ。

Pokémon GOのような「滞在型の位置情報ゲーム」では、イベントの社会的影響を、一般的なイベントと同じようには計れない。累計200万人という多数の人々が訪れた理由は、もちろん人気があってのものだ。だが一方で、「何度も来る人」「長時間滞在する人」がいる。Pokémon GO特有のルールが及ぼす社会的影響について、開催側も参加する側も、無自覚な点はなかったか?

開催時のトラブルについて、主催側である株式会社ポケモンとナイアンティックに状況を問い合わせたところ、以下のような回答が得られた。

8月9日から15日まで開催された「ピカチュウだけじゃない!ピカチュウ大量発生チュウ!」に関しては、株式会社ポケモンが主催しました。その中で開催された「Pokémon GO PARK」および「Pokémon GO STADIUM」に関しては、『ポケモン GO』の運営会社であるNiantic, Inc.も連携しておりました。今回のイベント開催にあたり、各方面から様々なご意見を頂いていることは両社とも真摯に受け止めております。

(特に主催者である株式会社ポケモンとして)「ピカチュウ大量発生チュウ」全体として、今後に課題を残す運営であったと認識しております。来年度以降のイベント開催については未定ですが、イベントの主催者である株式会社ポケモンとしては、横浜市様とも協議を重ねながら、検討を進めてまいりたいと思っております。

Pokémon GOについては、プレイヤーと地域の摩擦が、いくつも指摘されている。ナイアンティックを中心とした運営側が考えるべきことは多数残っているのは間違いない。

Pokémon GOと同じトラブルは、一般的な観光地などでも起きうる、(このシステムの)普遍的な問題だ。受け入れる側(住民)と訪れる側(ポケモンファン)、そしてそこで利益を得る人々の間での相互理解が欠かせない。ブームで売り抜けるのでなく、長期的なビジネスを指向するならなおさらだ。

一方で、プレイする側が「そこに人が住んでいる」ことに、無自覚なことも否めない。一般的な住宅地はもちろん、商業地域であると認識されているみなとみらい地区であっても、地域の「生活」がある。それを忘れがちな人々にきちんと周知する、時にはシステム的に、ルール的に抑制することも必要ではないか。

イベント取材中、来場者の表情は明るかった。特に親子連れの満足度は高かったようだ。その笑顔には大きな意味があると思うし、そこには商圏もある。横浜に住む人々にとっても、マイナスばかりではないはずだ。

「位置情報ゲームに人が集まることで起こるトラブル」だけを見て、ポケモンを悪者にしてはいけない。このゲームの歴史は浅く、だからこそ今年の状況から、運営側もユーザーも多くのことを学べるはずだ。

■関連サイト

イベント公式サイト「ピカチュウだけじゃない! ピカチュウ大量発生チュウ!」

外部リンク