「お店をやめるとき、源泉徴収票を求めたのですが、『うちはそんなものは発行していない』と言われ、断れてしまいました」ーー。
風俗・ナイトワークの女性から確定申告に関する相談が、税理士ドットコムに複数寄せられています。
会社員にはあまり馴染みがない確定申告ですが、収入が別にあれば話は変わってきます。生活のため「夜の仕事」をしている女性は一定数おり、「昼の仕事」が見つかってお店をやめたときに疑問が生じやすいようです。
相談の中には、お店から確定申告をしないよう指示されたという声もありました。店が確定申告に非協力的な場合、どうしたらよいのでしょうか。松本崇宏税理士に聞きました。
●「雇用契約」か「業務委託契約」かでも違う
お店はどうして源泉徴収票を出してくれないのでしょうか。松本税理士は3つのパターンが考えられるといいます。
(1)個人事業主だから
「まずは、自分が雇用契約に基づく従業員等として給与を貰っているのか、業務委託契約に基づく個人事業主としてお金を貰っているのか契約内容を確認してみましょう。よく分からない場合はお店に聞いてみて下さい」
「雇用契約」なら「源泉徴収票」ですが、「業務委託契約」で必要になるのは「支払調書」という書類です。
「個人事業主として契約しているとなった場合には、そもそも『源泉徴収票が存在しない』ことになります。例えばキャバクラで働くホステスさんの場合は『支払調書』となりますので、支払調書でお願いしてみると対応してくれるかも知れません」
●お店の不正が考えられる場合も
(2)お店が源泉所得税を納めていないから(つまみ納付)
「雇用契約であるにもかかわらず、お店が源泉徴収票の発行に応じてくれない場合は、お店が本当に源泉所得税を支払っているのか疑ってみるべきです。
女性の給与等から控除した源泉所得税は、お店が代わりに納付する義務があります。しかし、預かった源泉所得税の一部または全部を納税せずにつまんで懐に入れることもよく起こります。これを『つまみ納付』といいます。
つまみ納付をしている場合は、それが本人(または税務署)にバレてしまう可能性がありますので、お店が出してくれない可能性があります」
源泉徴収していると聞いていたのに、実はお店がすべて懐に入れていた、ということもあるようです。立派な脱税行為で犯罪です。
「なお、つまみ納付をされていた場合であっても、本人が再度源泉所得税を払う必要はありません。源泉所得税の法律上の納税義務者はお店となりますし、本人が知りえない情報ですので税務署に聞かれることも無いのでこの点はご安心下さい。
しかしながら、お店が出してくれた源泉徴収票の源泉徴収税額が少なく記載されていることもあるかも知れませんので、おかしいと思ったら確認した方がよいでしょう」
(3)お店の名前が出るのが嫌だから
「それ以外の可能性としては、単にお店の情報が外に出ることを嫌がっているのかも知れません。このようなお店は無申告である等なんらかの後ろめたい事情があると考えられますので、協力を求めるのは難しいでしょう」
●申告をしないと自分にペナルティが…
でも、お店が確定申告に非協力的だからといって、申告をしないわけにはいかないですよね?
「たとえ、お店が確定申告をしなくて良いと言っても、税務署からお尋ね等が来た場合にお店が代わりに回答してくれる訳ではないと思いますし、罰金を受けた場合に、お店が代わりに払ってくれることも無いと思います。
確定申告に関していえば、本人の問題ですので、税務署の問い合わせは当然本人に連絡が行きますし、罰金を払う義務があるのも本人となります。自分の責任は自分でしっかり義務を果たすべきです。しっかりと自分の意志で確定申告を行いましょう」
●源泉徴収票なしでも確定申告はできる
それでは、源泉徴収票がないとき、どうすればよいのでしょう。松本税理士の答えは、「住所地を管轄する税務署への相談」です。
「税務署は決して怖いところではありません。税務署へ行くことに不安があれば電話で相談してみても良いでしょう。きちんと確定申告をしたいという人を断る税務署は無いでしょうから、親身に相談に乗ってくれると思います。
税務署に相談した場合、『源泉徴収票不交付の届出書』の提出を求められることがあります」
これは読んで字のごとく、「源泉徴収票をもらってませんよ」という届出のことです。
「この届出書を提出した場合には、源泉徴収票がなくても確定申告を認めてくれます。なお、届出書には収入金額と源泉徴収税額を記載する必要があります。
給与明細書があれば添付して金額を集計するだけですが、無い場合は給与が振込なら逆算で計算できる可能性もありますが、そうでない場合は税務署か税理士に相談してみて下さい。なお、お店が潰れている場合も同様の方法で確定申告することが出来ます」
風俗・ナイトワークでは、お店が潰れてしまうことも珍しくないようです。普段から給与明細を保管しておくなどの意識も大切ですね。
なお、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出すると、税務署からお店に「なんで源泉徴収票を出さないんだ」と行政指導が入ります。
「お店に対して個人名を告知しないことは選択できますが、退職した場合はともかく在職中の場合は気まずいかも知れません。
この場合も税務署に相談して他の方法が取れないか相談してみて下さい。給与明細書やメモ書き等で代用して確定申告することを認めてくれると思います」