いじめ指導をしたら、保護者に「土下座」を強要されたーー。こうした過剰な要求をする親「モンスターペアレント」が教員を苦しめている。
厚生労働省が10月30日に発表した「過労死等防止対策白書」でも、はっきりと数字に表れた。全国の国公私立小、中、高などの教職員約3万5600人へのアンケート調査で、業務に関連するストレスや悩みの内容を尋ねたところ、長時間労働(43.4%)、職場の人間関係(40.2%)に続いて、保護者・PTA等への対応が38.3%と3番目に多い結果となった。
現場で何が起きているのだろうか。今回2人の現役教員に話を聞いたところ、どちらも保護者から「土下座を強要された経験がある」と打ち明けた。
●「どうしても教員に謝らせたいんだろう」
「日々いっぱいあり過ぎて…」と話すのは、近畿地区の公立高に勤める平さん(仮名、30代男性)だ。平さんの勤務校は教育困難校。タバコを持ち込む生徒が多いため、所持品検査を行なっているが、子どもから事情を聞いた親から「ここは警察なのか」「勝手に持ち物を見ていいのか」と詰め寄られた。
親同士のトラブルに巻き込まれたこともある。きっかけは女子生徒が「男性生徒に押された」と話したこと。女子生徒の親から夜電話があり、「どないやつやねん」「相手の子どもやめさせなきゃならんやろ」「相手の親を出してこい」と怒鳴られた。
すると、男子生徒の親も怒り出し、「どこにあざができとんや、きてみぃ」と反論。その地区で起きている大人同士の「縄張り争い」に巻き込まれた。
「あんた子どもいるんか、いないならわかるわけないやろ」「土下座しろ」。自信を失うような言葉を投げかけられたこともある。中には「どうしても教員に謝らせたい」という親もいる。誠心誠意対応をしても、「サービスを受けて当たり前」という雰囲気を感じている。
●「今からお前を殴りに行く」
東北地方の公立高教員である戸田さん(仮名、50代男性)は「大方の先生が困ったことがあるのではないか」と話す。
頭髪指導をしたところ保護者からクレームを受けた。茶色に染めている生徒を注意しても髪色を直さないため保護者に電話した。すると「これ以上直せない」「今からお前を殴りに行く」と怒鳴られた。
生徒同士のトラブルで、加害者側の生徒から事情を聞いて保護者に電話した際には、「自分の子だけが悪いのか」「ちゃんと聞き取りしたのか」と激昂されたこともある。教頭や学年主任など複数の教員で対応し、経緯を説明したが、「学校として、どうしてくれるんだ」「土下座して謝れ」と詰め寄られた。
「たとえ生徒が素直に応じなくても、指導は続けなければならない。怒鳴られた後には、車を運転していてもぼうっとしてしまって、精神的に不安定になりました。それでも授業やHRは毎日ある。授業でもうまく笑顔が出せず、生徒に伝わっているのではないかと不安でした」(戸田さん)
精神的な負担だけではない。戸田さんの勤務校も教育困難校で、毎日のようにトラブルが起きる。年間100件ほどの生徒指導に割かれる時間は非常に多い。
複数人の生徒が関わる場合、対応する教員が足りないため、授業を急きょ自習にして聞き取りにあたる。保護者にどう伝えるか、教員同士の入念な打ち合わせも不可欠だ。保護者には授業が終わった夕方から夜にかけて対応するが、22時過ぎまでかかることもざらだ。
戸田さんは言う。「教育の業務は際限がなく、生徒に関わることはほとんど対応する。もちろんトラブル対応も疎かにできない。日々、綱渡りの対応です」
●当事者同士での解決に限界
教育研究家で、中教審特別部会委員の妹尾昌俊さんは「保護者対応の内容は学校や地域による差も大きく、調査等では総量の把握は難しい側面がある」と前置きしつつ、「一部には理不尽なクレームや過剰要求があるのも事実であり、教員の負担感やストレスは大きく、看過できない問題。保護者と学校側だけで解決させるのには限界がある」と指摘する。
「交通事故で例えると、当事者同士で示談交渉をするようなもの。スクールロイヤーやスクールソーシャルワーカーなど教育委員会とはまた別の第三者が介入・対応できるようにする必要がある。ただし、学校側に反省点がある申し出等に対しては、学校は真摯に対応しなければならない」
また、保護者対応に限らず、教員の仕事の全体量を減らすことも不可欠だと話す。
「教員はあらゆる仕事を任され、日々余裕がなく追い立てられている。忙しくてつい連絡ミスをしたり、丁寧さを欠いた対応をしたりすると、子どもを心配するあまり、保護者は不信感を抱くことにもなる。冷静に対応できるだけの余裕を教員に持たせる必要がある」