2月の節分で販売される「恵方巻」。今年は農林水産省が業界団体に「食品廃棄」の削減を呼びかけたことで、各社の動向が一層注目されている。
ただし、「季節商品」で問題になるのは「廃棄」だけではない。余った商品を従業員に押し付ける「自腹買取」(自爆営業)の問題もまだ残っている。特に多いのは、業界特有の会計手法などがあるコンビニ業界だという。
自腹買取に応じる必要はない。法的には「賃金の全額払いの原則」(労働基準法24条)に違反したり、悪質な場合には強要罪(刑法223条)に該当したりする可能性もある行為だ。
しかし、現実には「周りも買っているから」と断われない雰囲気があるのも事実。相談を受ける労働組合は、証拠を残すように呼びかけている。
●労働組合に未だ寄せられる相談
「コンビニ自腹買取ゼロ!キャンペーン」を展開する「さっぽろ青年ユニオン」は2018年6月、札幌市中心部のコンビニを訪問し、店員に聞き取り調査した。
有効回答があった89店舗のうち、7店舗(8.9%)で自腹買取が「ある」との回答があった。対象の商品は、クリスマスケーキが最多の3店舗で、恵方巻も1店舗あった。
自腹買取は、主に店舗(オーナーや店長)と店員の間で問題になるが、中には店舗を巡回する本部社員から求められる場合もあるようだ。
関西地方の大手コンビニで働いていた元店員は、弁護士ドットコムニュースに対し、本部社員から「仕事ができないんだから、おせちくらい買って」と言われたと証言する。
「オーナーに相談しても、『買えばいいんじゃない』と言われ、仕方がなく、1万円のおせちを買いました」
●「買わないとダメですか」と聞いてみる
ブラックバイトユニオンにも、自腹買取に関する相談が月10件弱寄せられている。渡辺寛人代表によると2014年のユニオン設立から、件数はほぼ横ばいだという。相談主の多くはコンビニ店員だ。
「恵方巻やおせちなど、季節商品の時期になると相談も少し増えます。すごく多いという訳ではありませんが、今も一定数の被害があると考えています」(渡辺代表)
自腹買取は、これまで散々非難されてきたのに、なぜなくならないのだろうか。
「相談では、『みんな買っているから断れない』という話を聞きます。あからさまな強制ではなく、買わざるを得ない空気が問題になることが多い。現実問題として、不利益を受ける恐れがあるから、はっきり断わりづらいですよね」
「空気」で買ってしまうと、「強制」を証明しづらく、代金を取り戻すのが難しくなってしまう。
「買ってしまった後でも、証拠があれば対処できる可能性があります。たとえば、オーナーに『買わないとダメですか』と聞いてみる。『ダメ』とか『シフトに入れないぞ』といった録音が残っていれば交渉の余地はあります。領収書も忘れずに取っておきましょう」
●コンビニ特有の問題
なぜ、ほかの小売店よりもコンビニで自腹買取が起きやすいのか。1つにはコンビニの会計方式が影響していると考えられる。
フランチャイズ(FC)のコンビニでは、粗利益(売上マイナス仕入れ値)を本部と店舗で分配する方式をとっている。ただし、コンビニでは、売れ残った商品は仕入れ値に算入されない(コンビニ会計)。
かつてと違い、現在では売れ残りの仕入れ代金の一部は、本部が負担するようになっている(たとえばセブンイレブンは15%)。しかし、大量に仕入れても本部側のリスクは小さく、店舗側は1つでも売り切りたいという大筋は変わっていない。
食品廃棄がより直接的に店の運営を左右することなどから、コンビニでは他業種に比べて、自腹買取が起こりやすいようだ。
加えて、コンビニ業界にとって、1〜2月は売上が落ちる時期で、恵方巻に関連したキャンペーンは起爆剤として重視されている。
たくさん売上をつくりたい一部の悪質な店舗や、本部から課せられた事実上の販売ノルマに耐えきれなくなった店舗が、より力の弱いスタッフに自腹買取を求めることがあるようだ。
農水省の呼びかけもあった2019年。食品廃棄とともに、自腹買取の被害も減ることを祈りたい。