「退職する際に有休消化を希望すると、あっさり却下されました」。公立病院で看護師をしていたという女性が弁護士ドットコムニュースの「LINE@」に情報を寄せました。
女性は2年ほど前、約29年勤めていた公立病院を辞めました。それまで年次有給休暇(有休)を消化したことがなかったため、退職時に希望したところ、上司から「労働者の権利を乱用するな。うちには退職前の有休消化はないから」と門前払いされました。
普段も人が少ないため、有休を使える状況ではなく、たとえ病気で休んでも月のどこかの公休と交換されました。女性は「皆そうだったので、あえて騒がない職場だった」と振り返ります。
「有休消化して退職したい」という労働者と「退職前の有休消化はない」という上司。法的に正しいのは、どちらなのでしょうか。大西敦弁護士に聞きました。
●法的に正しいのは、どちら?
「労働者は、6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると、有給休暇を使用する権利を取得します(労働基準法39条1項)。使用者(雇用主)側は、労働者が請求した時季に、有給休暇を与えなければなりません。
しかし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に与えることができます(労働基準法39条5項但書)。これを『時季変更権』と言います」
事業の正常な運営を妨げる場合というのは、どういった場合でしょうか。
「日常的に業務が忙しい、人手不足で代わりの者がいないといった事情では、『事業の正常な運営を妨げる場合』に該当するとは言えません。
このような場合に、時季変更権を認めてしまうと、忙しい職場、人手不足の職場では有給休暇を取ることができなくなってしまうからです。加えて、使用者は、労働者が請求した時期に有給休暇が取れるよう配慮する義務を負うとされています。
今回の事例でいえば、有給休暇を取得したい理由は、退職する前に有給休暇を消化したいというものです。そもそも、取得理由と事業の正常な運営を妨げるかどうかは関係のない問題です。従いまして、法的に正しいのは、『有給休暇を取得してから辞めたい』と願う退職者ということになります」
●書面やメールで証拠を残して
会社側が有休取得を拒んだ場合、どういう対応を取ればいいのでしょうか
「重要なことは有給休暇取得を求めたことを明確にしておくことです。例えば、書面やメールといった証拠が残るような形で求めることが重要です。
その上で、会社が拒み続けるということであれば、労働基準監督署や弁護士に相談することが考えられます。
『働き方改革』が掲げられる近年、労基署は会社側に対し厳しく対処する傾向がありますし、弁護士から通知が来てまで、有給休暇取得を認めないということはあまりないと思います」