更年期に起こりやすい心の変化とストレス
加齢に伴う女性ホルモンの減少により、疲れやすさ、のぼせ、ほてり、発汗、不眠、頭痛、めまいなどのさまざまな体調不良が引き起こされる40代後半から50代前半にかけての「更年期」。
更年期には、体調の変化に伴って憂うつ、苛立ち、不安、あせりなどの感情の乱れも生じ、気持ちが不安定になりがちです。さらにこの時期には、家族の状態もダイナミックに変化していくため、家族関係も危機に陥りがち。まずは、更年期に多い心の変化とストレスからチェックしてみましょう。
その1:疲れや体調の変化で、家事や仕事も思うように運ばない
更年期にはホルモン分泌が乱れることで、自律神経系にも影響が現れ、上に述べたような不快な体調不良が起こります。こうして疲弊した体を和らげるためにたくさんの休息を必要とし、少し動くだけでしんどくなって横になりたくなるものです。
そして気がつけば、家事にも手がつかずソファで寝そべってばかり、昼寝をしてばかりの状態になっていくと、「たっぷり休んでもよくならないのはなぜ?」と落ち込み、「だらけているだけでは? 怠けているだけでは?」と自分を責め、「このままの不調がずっと続くのでは」といった不安に襲われがちになります。
また、仕事をしている女性は、毎朝会社に向かうだけでも重労働に感じられ、仕事が終わったらいち早く家に帰って休息をとりたい、といった気持ちになることも多いでしょう。休日はどこかに出かける意欲も起こらず、ひたすら横になって体を休めたいと思う人も少なくないでしょう。そんな疲れやすい自分に自信を失いがちで、「この先、仕事を続けていけるだろうか」という不安を抱えがちになるものです。
その2:家族のライフステージが劇的に変化
更年期の年代は、家族のライフステージに変化が現れる時期でもあります。夫は、年齢的にも仕事上での難しい立場に立たされることが多く、管理職の重責に悩む人、リストラの危機に不安を持つ人も少なくありません。こうしたなか、夫は仕事上の問題を考えるだけでも精一杯で、妻の健康状態に目を向ける余裕もないのが現実だと思います。さらに、子どもの成長と共に夫婦の会話が少なくなっていくと、夫は妻だけでなく、子どもたちとの関係も疎遠になりやすくなります。
子どももまた、思春期、青年期という難しい時期に突入し、自分自身の自立の問題と格闘しています。そのため感情も不安定になりがちで、家庭でも学校でも、小さなことで葛藤したり、衝突する機会も増えていくでしょう。さらに、高齢となった両親からは、体の不調や高齢期の不安を相談されることも増えていき、介護のプレッシャーやストレスを抱えて憂うつ感が重なっていく人も少なくありません。
その3:周囲の無理解に孤独感が募る
更年期は、体調の変化から感情面でも不安定になりやすいため、周囲のちょっとした言葉に傷つき、苛立つなどして、対人関係の問題に過敏に反応しがちです。体調を思いやれない周囲の人たちの態度に寂しさを感じたり、「ふせってないで運動でもしたら?」といった不用意なアドバイスに無理解や冷たさを感じてしまい、「誰も私のことを分かってくれない」と一人で絶望感を抱えがちです。
そんな憂うつ感の反動で苛立ちも募りやすいため、カチンときた途端に感情をヒステリックにぶつけてしまう人もいます。その感情的な反応に周りが引いてしまうと、ますます自分が疎外されているような気がして、孤独感が募っていく人も少なくないでしょう。
更年期には、このようにさまざまな心の変化が起こりがちです。では、どのような心構えで生活していけばいいのでしょうか?
ヒント1:無理をしない、頑張らない、楽になる治療を
まずは、婦人科などの医療機関を受診し、この時期の体調不良や感情の変調が更年期障害によるものなのかを、把握することが大切です。更年期による症状だと分かったら、症状を緩和する薬(低用量ピルやホルモン補充療法、漢方薬など)を上手に使いながら体調を管理し、無理をせず、頑張らないことが大切です。
そして、「数年前まではあんなに元気だったのに」「私はもともとエネルギッシュなのに」などと、以前の自分と比べないことです。更年期の不調は女性なら誰でも経験するものなのですから、気長にあせらず、無理をせずに生活していきましょう。
家事でも仕事でも、完璧主義にならないことも大切です。どうしてもやらねばならない優先事項以外は、手を抜き、思い通りにできなくてもいいと、受け流していきましょう。ただでさえ、家族のライフステージの変化によって、気を揉むこと、対応することが増えていくのですから、完璧にやろうとするとパンクしてしまいます。
また、昨日は調子が良かったのに、今日はだるくてしんどい――というように、体調は日によって変わることが少なくありません。したがって、毎日のようにハードな予定を入れず、適度に休めるようなゆとりあるスケジュールにしていくことが必要です。
ヒント2:周囲の無理解に落胆する必要はない
更年期には、不快な感情に振り回されやすいもの。ただし、そうした感情に巻き込まれないように、自他の感情の状態を理解していく必要があります。「夫が気にかけてくれない」「子どもにだらしがないと言われた」などと落ち込む方も多いですが、そもそも更年期の不調は、当事者以外には理解しにくいものです。
異性である夫、ましてや子どもには分かりにくい症状なのですから、家族が思うような対応をしてくれないこと、優しい言葉をかけてくれないことに、落胆する必要はありません。自分の症状を伝えながら、理解を促していくといいでしょう。
また、憂うつがイライラに変わり、苛立ちをぶつけてしまうこともあるかもしれません。そうなってしまったとしても、そんな自分に過剰に落ち込まないことです。苛立ちが湧きやすいなら、次の「その3」のように自分の気持ちを分かってくれる人と、定期的に話をする機会を確保することが有効です。
ヒント3:気持ちを理解してくれる人、分かち合える人が必要
更年期の不快な感情は、同じ経験をしてこそ理解でき、共感できるものです。自分の感情を理解してもらい、共感的に受け止めてもらえれば、それまで抱えていた思いがすっと楽になり、浄化されるでしょう。
同世代の友人同士、地域のサークルや勉強会などで知り合った友人などのなかで、すでに更年期を経験してきた人、または、今まさに更年期を経験している人と話をする機会を持てるとよいと思います。同じ経験をしてきた人の話のなかにこそ、生きたアドバイスがあります。当事者間で気持ちを分かち合うだけで、孤独が薄れ、安心感を持つことができます。
――更年期の不調は、長きにわたって続くものです。その期間、少しでも気持ちと体を楽にし、安心して暮らせるように体と心の管理を続けていくことが必要です。
文:大美賀 直子