睡眠に関する悩みで、「眠れない」という悩みも辛いですが、「起きられない」という悩みも、社会生活を送る上では大きな問題になります。寝起きの悪さを気合いの問題で片付けず、その背後に隠れている原因を明らかにしましょう。
ここでは、睡眠医療認定医である、むさしクリニック院長・梶村尚史先生が監修された『起床術』から、起きられない10の原因と対処法、症状の見分け方をご紹介します。明日の朝から手軽に対策できる原因もあれば、医療機関への受診が望ましい原因もあります。
「朝起きられない」を克服するための10の原因と症状一覧
■1. 睡眠不足型
朝、なかなか起きられない原因で、最も多いのがこれです。仕事やプライベートで忙しいからと、睡眠時間を削っていれば、睡眠不足になるのは当たり前。長期間、睡眠不足が続くと、日中の強い眠気や身体のだるさ、疲れやすさがひどくなり、頭の回転も鈍ってしまう。最善の解決法は、自分に必要な時間だけ、ぐっすり眠ること。この際ぜひとも、睡眠の大切さを再確認しましょう。
■2. 悪い生活習慣型
睡眠障害の2大原因は、生活習慣の乱れと不適切な睡眠環境です。例えば、夕方以降に長時間の居眠りをしたり、深夜に消化の悪い食事や飲酒をしたりしていませんか? 夜遅くに明るい場所へ出かけるだけでも、睡眠ホルモン・メラトニンの量が減ってしまいます。生活習慣を変えるのは大変なことではありますが、できることから始めてみましょう。
■3. 体内時計故障型
徹夜仕事が続いた後や、長い休暇から元の生活に復帰したとき、この状態が起きることがあります。睡眠と覚醒のリズムが不規則になり、さらに体温や血圧、ホルモン分泌など、他の生体リズムも狂ってしまうからです。不規則勤務の方も、要注意です。
生活習慣を規則的にすることが基本ですが、極端な宵っ張りの朝寝坊になる睡眠相後退症候群などでは、高照度光療法やビタミンB12の内服、時間療法などの治療が必要となることがあります。
■4. 緊張型
強いストレスにさらされていると、夜中に何度も目覚めたり、眠りが浅くなったりします。これは、ストレスのために、脳からアドレナリンが出て、覚醒のレベルが上がってしまうからです。しかも、眠れないことが更なるストレスになってしまうことも。そんなときは、就寝前の1時間を、リラックスタイムにしましょう。自分の好きなことをしたり、ぼーっとしたりして気持ちを楽にすると、寝つきが良くなります。
■5. 現実逃避型
悩みがあるときには、1日の始まりが憂うつに感じます。そのため、目が覚めても、なかなか布団から出られません。朝になると、頭やお腹が痛くなって会社や学校を休む人も、このタイプです。内向的な性格で、他人からの批判に過敏な人は要注意。さらに、回避型人格障害になると深刻化しやすいので、カウンセリングを受けたり、職場や学校とよく相談したりして、早めに手を打ちましょう。
■6. 抑うつ型
憂うつな気分や沈んだ気持ちが強くて起き出せない人は、抑うつ状態が原因です。早朝に目が覚めてしまう、寝つきが悪い、これまで興味があったことを楽しめなくなる、などに当てはまる場合はうつ病の可能性があります。
また、秋から冬にかけて睡眠時間が長くなり、食欲が旺盛で、体重増加が著しいときは、季節性うつ病かもしれません。うつ病のタイプによって治療法が異なりますから、早めに専門医の診察を受けましょう。
■7. 窒息型
睡眠時無呼吸症候群という、睡眠中に呼吸が止まる病気があります。この病気では、息苦しさのために熟睡できず、睡眠不足となって、朝の目覚めが辛くなります。いびきをかく人や肥満で首が短い人がなりやすく、昼間の強い眠気や目覚めたときのノドの渇きや頭痛も、よくあります。
減量や横向き寝、うつ伏せ寝、マウスピースで、呼吸が楽になることがありますが、それでもだめなら呼吸器の専門医療機関で検査を受けて、きちんと治療を受けましょう。
■8. 寝過ぎ型
寝過ぎが原因で、目覚めが悪くなることがあります。休日に平日の睡眠不足を取り戻そうとして、いつまでも布団にしがみついているのは考えものです。睡眠の深さと覚醒度の高さは、反比例の関係にあります。ぐっすり眠ればスッキリ目覚められますが、ダラダラ眠っていたのでは、目覚めが悪いのは当然。
二度寝は気持ちよいものですが、休日でも平日の起床時刻の2時間以内には、布団から出ましょう。それでも眠いときには、短時間の昼寝をすれば睡眠量を確保できます。
■9. 女性ホルモン型
男性と違って女性では、月経の周期に合わせて、眠れなくなったり、逆に眠気が強くなったりすることがあります。これは、月経随伴睡眠障害と呼ばれるものです。また、妊娠の初期にも、眠気が強くなる人がいます。これらは、月経前や妊娠中に増える黄体ホルモンの作用で、体を休めて受精卵や胎児を守るためと、考えられています。
自然な眠気のリズムとはいえ、時には婦人科系の病気のこともありますから、眠気が異常に強かったり、長引いたりするときには、一度、婦人科の診察を受けてください。
■10. 昼間も眠い型
どれだけ眠っても眠気が取れない、あるいは、眠ってはいけないときにも眠ってしまう。そんなときには、過眠症の可能性があります。寝入りばなに幻覚を見る、よく金縛りにあう、笑ったり驚いたり怒ったりすると体の力が抜ける、という症状があれば、ナルコレプシーかも知れません。
また、寝覚めが悪く寝ぼけがひどい、日中に眠ると起こそうとしても1時間以上目覚めない、居眠りの後もスッキリした感じがしないときには、特発性過眠症の疑いがあります。規則正しい生活をしても朝、起きられないときには、睡眠障害専門医の受診をおすすめします。
その他、身体の痛みや痒み、貧血、前立腺肥大症、膀胱炎、起立性調節障害などの人も、朝が苦手です。それぞれの病気にあった治療を行うと、多くの人は目覚めが良くなりますから、心配な方は医療機関で相談してみましょう。
文:坪田 聡(医師)