数年前にこんな記事が海外サイトに出ていました。ロンドンのキングスカレッジのデビット教授によるとリンゴは炭酸飲料に比べて最大4倍も歯にダメージを与えるといった内容です。「リンゴは高い酸のためゆっくり食べると歯にダメージを与える可能性がある。でも一般的に歯に悪いとされやすい炭酸飲料などは歯にダメージを与えるリスクの増加が見られなかった」とのこと。
リンゴは酸性度が高く、食べるのに時間がかかるため、それだけ歯のダメージにつながりやすいといったところでしょうか? しかし、リンゴは体に良い食べ物で、牛乳やチーズなどと一緒に食べれば中和され、食後に水で酸を洗い流すことができるとのことです。
最近は酸性食品は歯に悪いといったイメージが強くなってきましたが、歯に悪い「かも」しれないのであって、体に悪いものではない……というものが多いのも事実。酸性かアルカリ性か?というよりも、栄養成分などのバランスを重視することが大切です。そこで、歯の心配をせずに体に良い物が食べられるよう、酸性食品の歯へのダメージリスク軽減法について考えてみました。
酸性食品と虫歯、歯を溶かす原理は同じ?
人体の中で最も硬い組織は歯です。食べるために毎日使用しても、数十年は使い続けることができます。しかし、最大の敵は酸。虫歯も虫歯菌が出す酸で歯を徐々に溶かして穴を開けていきます。酸で溶けた穴の内部にプラークがたまっていれば、どんどん内部を溶かして穴が深くなっていきます。
このように歯が溶けることを「脱灰」と呼びます。酸性食品も歯を溶かす原理は同じですが、下記でその違いについてまとめてみます。
■虫歯
・プラーク(虫歯菌)が原因
・細菌が出す酸によって、プラークの接触面の歯を溶かし内部に穴を開ける
・細菌の栄養は糖など
・食事の開始3分以降に、プラークの直下から脱灰が始まる
■酸性食品
・酸性の食品が原因
・歯の表面が酸にさらされるため、歯の全面が溶ける
・食べ始めてすぐに歯が酸の影響を受けて脱灰が始まる
考え方としては、虫歯はプラークが存在しなければ進行しないが、酸性食品は歯に触れている時間だけ歯を溶かします。しかし、虫歯はプラークが除去されずに長期間付着していることが多く、放出される酸の影響を局所的に長時間受けます。そのため、穴が開きやすく、酸性食品よりもダメージが大きいことが多いようです。
酸性食品を摂取しても、短時間であれば唾液の成分が中和してくれるため、それほど影響があるとは考えにくいでしょう。しかし意識的に酸性食品を長時間口の中に放置しておけば、虫歯よりも歯が溶けてしまう恐れがあります。
酸から歯を守るポイント
■自己修復の範囲内であれば問題なし
歯が一度溶けたとしても心配はいりません。食事のたびに唾液の成分によって中和と修復を繰り返します。しかし、唾液の分泌が減少した高齢者などは、なんらかの対策が必要になります。
■修復時間を作る
歯の修復のための時間を作るため、3~4時間程度食事の間隔をあけましょう。また、酸性の強い食品を食べた後は、すぐに歯磨きをしないようにしましょう。
■ストローを利用する
酸性の飲料などを飲む際は、ストローを使用して、なるべく歯に触れないようにしましょう。
■衝撃を加えない
脱灰が起こっている最中に硬いものを噛んだり、歯ぎしりをするなどの咬み合わせの衝撃によって、歯にひび割れが起こりやすくなったり、ひびの内部が脱灰されダメージが広がります。歯に受ける衝撃を最小限にしましょう。
■プラークは脱灰を加速
酸性食品とプラークが組み合わさると、最速で歯を溶かす可能性があります。日頃からしっかりとブラッシングを行うことは、酸性食品のダメージを最小限にすることにもつながります。
■水やアルカリ食品で中和
虫歯の原因の酸は、プラークの内部で進行するため、水で洗い流した程度では内部まで浸透せずに中和は困難です。しかし、酸性食品などの表面的ものであれば、洗い流すことでダメージを最小限にできる可能性があります。
歯のために酸性食品を遠ざけるのではなく、食べる前後のちょっとした対応を心がけることをおすすめします。
参考:「An apple is worse for your teeth than a fizzy drink」 Mail Online
文:丸山 和弘(歯科医)