よく耳にする「葛根湯は風邪に効かない」ってホント?
「風邪を引いたので葛根湯を飲んだけど効かなかった」と、何人かに言われたことがあります。そのうえ「漢方ってなかなか効かないのよねぇ」と小耳にはさむことも……。国際中医師としては、なんとかこの誤解を解かなければなりません! 「葛根湯」を例に、漢方薬の誤解と正しい使い方のコツについて解説します。
葛根湯が効かない理由と正しい飲み方
「風邪に葛根湯が効かない」理由は大きく分けて2つあります。とってもポピュラーな薬だけに、気になりますよね。葛根湯の効果的な飲み方について、ポイントを押さえておきましょう。
■ポイント1:「風邪の初期症状」のタイミングで飲む
漢方での風邪の治療法といえば、邪気(ここでは風邪ウイルス)はまずカラダの表面に留まるとされるので、この段階で汗をかかせ、内部へ侵入する前に体表から邪気を取り払おうと考えます。しかしこのポイントで対処しないと、次の段階である発熱にと移ります。
これらは一般的にいえば、ウイルスの力を弱まらせるための、自然なカラダのしくみなのですが、その時々の症状にあわせる漢方では、対処するお薬も変わってくるのです。具体的にいうと、
・ゾクゾクっと寒気がする
・首筋や背中がこる
・頭痛や筋肉の痛みがある
このような風邪の初期症状の段階で威力を発揮するのが、葛根湯なのです。このタイミングでお湯に溶いて飲み、消化の良いお粥などを食べ、早く寝れば、じわっと汗をかき、翌日には身体もすっきりとし、「葛根湯」の効果を実感できると思います。
これは「葛根湯」の発熱を助けるという働きと、ウイルスが弱ったことを察知すると、発汗作用によって熱を下げる、という二つの働きからくるもので、言い換えるとすでに汗をかいていたり、熱が上がってきてから飲んでも、正しい効果は出ないということなのです。
■ポイント2:寒さからくるタイプの風邪に使用する
風邪は、大きく分けて二つのタイプがあります。「葛根湯」のように、寒さからくるタイプの風邪(風寒邪=ふうかんじゃ)と、熱感が強いタイプの風邪(風熱邪=ふうねつじゃ)です。
・悪寒より発熱がひどい
・のどが痛い
・口が渇き、冷たいものを飲みたがる
このような症状の風邪タイプには、「葛根湯」は効果がありません。そもそも風邪のタイプが違うので、残念ですが治るはずがないのです。
ちなみに、こういった熱タイプの風邪の代表的な漢方薬に「銀翹散」(ぎんぎょうさん)がありますが、漢方薬局や一般の薬局では取り扱っているものの、この漢方は保険適用外なので、病院などでは処方できないのが現状です。
ヤブ医者? 名医? 落語に登場する「葛根湯医者」
落語のネタに、どんな人にも「葛根湯」を飲ませるヤブ医者を「葛根湯医者」と揶揄する話があります。しかしこの話には、実は漢方薬を自由自在に使いこなす「名医」であるという、まったく逆の意味合いも含まれています。
というのも、「葛根湯」は風邪だけでなく、頭痛、腹痛、鼻炎、関節炎、結膜炎、神経痛などにも応用することができるからです。これは「葛根湯」に限らずいえることですが、別々の症状でもその体質(証)が一緒であれば、処方は同じという漢方の特性からくるものです。
どちらにしても、「葛根湯」は寒さから来るタイプの風邪で、ベストなタイミングで飲めば、即効性が期待できる漢方です。もちろん、見立てが大切ですので、服用したい場合は漢方に詳しい専門家に相談してから購入くださいね。
文 : 杏仁 美友(国際中医師)