現代のママと、昔のお母さんが置かれている状況は全く違う
ワンオペ育児が辛い原因について考えてみたいと思います。「ワンオペ育児」とは、主に女性が一人で(ワンオペレーションで)育児・家事を担当することを指した言葉ですが、実体験がないとそれがなぜ辛いのか分からないかもしれません。
急がば回れ。まずは社会的な時代背景をサラッと解説するので、ぜひ「現代のお母さんの気持ち」を追体験してください。
男性は働き、女性は子育てと家事を担当するもの
この「家庭内分業」がスムーズに受け入れられ、またそれが効率良かった昭和時代。今のママたちの親世代であるアラ還以上の世代の多くが、意識的・無意識的に取っていた方針だと思います。
この分業が成り立つことができたのは、景気が上向きで雇用は正社員がデフォルトであり、年々お給料が上がっていた終身雇用システムに依るといわれています。今より庶民の格差がなく、「ふつうにコツコツ働いていれば」、結婚でき、子供をもうけ、マイホームとマイカーを持つことができた、物質的には幸せな時代です。
前述したように、私たちの親世代はこの価値観で生き、子育てをしました。
一方、現代の家庭は共働きが約6割。労働市場全体で非正規雇用者が約4割。終身雇用は過去のものとなり、「勤めていれば階段状にお給料が上がっていく」のは公務員や一部の企業、という現状です。
また、私たち世代(現アラサーからアラフォー)が就職したのは雇用機会均等法が施行された後のこと。オモテ向きは、就業において女性も男性も平等に扱われることになり、女性にとってのゴールが結婚一択ではなく、キャリア形成であったり、仕事上での自己実現であったりと、いわゆる価値観が多様化した世代でもあると考えられています。
女性が子供を生んだあとの違和感
こんな風に、時に男性と張り合いながら働いてきた女性たちが、結婚・出産したあとに、ふと気づく違和感があります。
それは「どうやら育児界では、母親の責任が岩より重い」こと。
そして、それに同調している人が圧倒的に多く、反発するのはせいぜい同世代の母親くらいだと。出産という行為は女性しかできないことですが、子供を育てる行為は一定の大人であれば万人ができるはずです。
しかし、家庭内分業でうまくいっていた団塊世代(人口が多い)の成功体験からか、私たちの実母さえ、「育児=母親の仕事」という概念を強く持って疑いません。
その世代の「父親の背中を見て育って、パパになった男性」も、「育児=妻の仕事」という意識・無意識が根強く、残っています。本当に根強く。また、時には団塊世代の母親の背中を見て育った女性も、同じ概念を持ちます。実は私も出産する前は、育児はお母さんの仕事でそれが当たり前のことだと思っていました(後述しますが、これは一種の呪縛です)。
しかし、自分が実際に就業し、仕事に打ち込み、自己実現のため、そのレベルを上げていく過程で、「出産」という本来喜ばしいことをしたはずが計算違い。
「母親たるもの主な育児者にならなくてはならない」という世間と実母から受け継いだ呪縛、そして母親は自己犠牲をすべきで、それが愛情だと解釈されるという、なんとも泥臭く、湿度の高い風潮が立ちはだかります。
なんでも外国と比べるのは気が引けますが、ヨーロッパ諸国と日本の育児観のギャップがすごい。あちらではフツーの「子供を預けて夫婦で外食」なんてしようものなら、炎上騒ぎになりかねません。
産後の肉体的危機と情緒不安定
さて、以上のような社会的背景のもと、いざ出産!すると、肉体と精神がガタガタであることが分かります。いわずもがな、高齢であるほど疲れは取れず、ホルモンの異常による人格不安定、昼夜続く授乳と下の世話による慢性的な睡眠不足。
赤ちゃんの命を守るため24時間体制で危険察知アラートが発動、ブラック企業もかくやという働きっぷりで、身体と心のスイッチを「オフ」にするヒマがありません(産後うつになるのも納得)。
次に「ワンオペ育児の肉体的・精神的辛さ」と「パパができる対策法」について考えます。
ワンオペ育児の肉体的な辛さ
さて、これまで説明してきた状況がすでに辛そうですが、次は具体的にワンオペ育児の肉体的な辛さをみてみます。
・慢性的な疲労(昔は産後の疲労で亡くなる人続出)
・睡眠不足(私は言葉が出なくなりました)
・腱鞘炎(私は1年くらい指輪ができない)
・ぎっくり腰、ぎっくり背中、手足のしびれなど
ワンオペ育児の精神的な辛さ
次に育児を一緒にしてくれる人がいない精神的な辛さを具体的にみてみます。
1. 未知なるものの怖さ
初めての出産、育児の場合、どう子育てしていいか迷う。この世に生まれた「命」を一人で背負っているかのような重さ。
2. 実母と比べて戸惑う
昔の母親たち(アラ還以上)は専業主婦が多く、主に育児を担当していた。実母はできたのに、私は辛いと感じるのはなぜ?という戸惑い。
(原因→アラ還世代は、今よりご近所の結びつきが強く、子供も多かったので、地域で子育てができたから。また経済状況が良く、育児に何かしらの見返りがあったからだと考えています。例:高級化粧品をフルセットでそろえる、セットアップを買うなど)
そして、ここがハイライトかつ最重要ポイント。
3. 夫への嫉妬・うらやましさ
・育児・家事に携わらないのに、子供を持てたことへの疑問
・キャリアに支障がない(母親は復職時に元のポジションには戻れないことが多く、マミーズトラックに陥ったり、正社員からパートなどに切り替えることが多い)。
・会社に行って仕事をすること。自由な通勤時間があって、おいしいランチを食べて、仕事ができてお金をもらえるなんて贅沢だと思える
・自己犠牲がなく、独身・子なし時代と変わらない生活を続けて、人生の主役が自分のままでいられること(飲みに行く等)
・妻がワンオペ育児をしていても、上司や友人や親や世間から何も文句を言われないこと(夫がワンオペ育児をしていたら世間からの風あたりは強いと推測)
4. 夫への絶望
・産後の身体の不調を分かってもらえないこと
・家事や育児が女性の仕事だと思われること
・助けてほしいのに、伝えられないこと、伝わらないこと
・家事育児をしっかりこなしたいものの、心身共に限界で実現できないもどかしさはあること
・パパから見た赤ちゃんと、ママから見た赤ちゃんの存在は違うことを理解してもらえないこと。
(例:泣いていたら、ほっておけばいいパパ、気になっておちおちトイレもゆっくりできないママ。その差は「命がけで守らなくてはいけないモードがスイッチオンになっているから」)
・ずっとワンオペ育児をしていると、ブラック企業に勤めているような奴隷感が日常化し、人生が少しも楽しくないこと。それを理解してもらえないこと。
・「子供が欲しかったのはおまえ(妻)だろ」「じゃあなんで生んだんだ」と言われること。
→子供を持つことは自己責任ではなく、夫婦の選択であるはずなので、これは責任の押し付け。そしてワンオペの辛さを最初に知っていたら生まなかったかも? そして結婚もしなかったかも?
・子供と遊んでいるだけでラクだなと思われること。なんなら、交代してほしいこと。
・共働きだと、出産前分担していた家事が、育休中にほぼ妻の役割になり、復職後もそのまま、妻のやることが多めになってしまうこと。
・「俺より稼げないくせに」と言われる。
→男性の平均年収は女性の約2倍。悲しいかな、日本社会の未熟さもあり、ママの自己責任ではない場合も。
パパ必読! 切羽詰まっているママの助け方
洗いざらい旦那さんへの恨み節を吐露したところで、どうかその関係を解決してもらうべく、助け方をご紹介します。
・ママのメンタル・フィジカル状態は異常事態。生む前とは別人と心得ること。
・ママへのヒアリングの過程を省いて解決策を提示すると、冷たいと思われるので、クライアントに接するごとく、話に耳を傾けること。
・ママによってやってほしいことは違います。「おれは、どうしたらいいかな?」と聞いてください。ママによっては家事・育児に参加してほしくなく、ねぎらわれるだけでいい、という人もいます。(反対に、同情はいらないから家事をやってほしいという人も)
・ママから「自ら考えて動いて」と言われてもそれは愚痴ととらえ、具体的な方法を辛抱強く聞いてあげてください。
・ママに「ありがとう」、「おつかれさま」を言うこと
・ママの赤子用アラートが発動しないように、ママだけ一人の時間を作ってあげること。赤ちゃんと離れたくないママもいるので、そこは様子をみながら。
・ママをゆっくり寝かせてあげたり、お風呂に入らせてあげること。
・家事代行やシニア人材派遣、ファミリーサポートなどを使って、家事・育児をアウトソーシングしてもOKとすること(ママによっては抵抗がある人もいますが、私はお金さえあれば大歓迎です)。
パパへのメッセージ
日々おつかれさまです。仕事でがんばっているのに、育児や家事もと要請される世の中となってきました。とりあえずあなたの「おやじの背中が語っていたこと」は江戸時代同様、過去のものだと割り切りましょう。
ママたちは出産後~幼児時期に体験した辛いことを一生覚えているものです。おそらく50年たっても色あせません。逆にいえば、この時期に家事・育児に参加すれば、一生円満にいけるかもしれない。これは人生の投資です。
あくまで私の考えですが、家庭におけるパパとママは、会社の共同経営者のような関係だと思います。どちらかが不満を持てば破綻する、軌道に乗せる方が難しいナマモノです。ママによっては「子供が〇歳になったら離婚しよう」と考えている人もいるので、一寸先は闇かもしれません。
ママとなかなか話し合う時間も取れないでしょう。子供を持った喜びもそれほどではないかもしれません。でも親となったからには、ママと同様の責任があることを覚えていてほしいと願います。自分の人生は、家族の人生とともにあることを理解すれば、家族から人気のあるパパになると思います。
パパ、ママ、ふんばりましょう! きっと子供はすぐ自立してくれる……はずです。
文 : 斎藤 貴美子(子育てガイド)