スポーツでは人気者、育児だとNGのカーリングペアレントとは?
「カーリング」というスポーツをご存知でしょうか? 氷上に投げられたストーンの進む道を、ブルームと呼ばれるブラシでゴシゴシとならし、ゴールでの得点を競う、あのスポーツです。オリンピック中継などで見たことがある方も多いと思います。とてもユニークなスポーツですよね。
見ていて面白いカーリング、でもそれが、「育児」に当てはまると困ったことになります。今、「カーリングペアレント」という存在が問題視されています。スポーツのカーリングでは、”ストーン”の進む道をならしていきますが、カーリングペアレントは、”子供”が進む道をならしてしまうのが特徴です。
ここでは、カーリングペアレントが、子供達に与えうる影響について、子育て心理学の見地からお伝えしていきます。
親が地ならしをしてしまうことで子供が逸する経験
親が先回りして、子供の通る道をゴシゴシ。それによって作られる小石も水たまりもないスムーズな道は、子供達にとっては、なんとも快適です。スルスルっと人生が進むので、周囲にも「万事順調」という印象を与えるかもしれません。しかし、長い人生、ずっとスルスルと行くわけではありません。
親子で一緒に過ごす時間が多い幼少期は、親が先回りして子供の道を平らにすることは可能です。しかし、幼稚園、小学校、中学校……と進むにつれ、子供は一日の大半を親と離れて過ごすようになります。
まっ平な道しか歩いて来なかった子にとっては、小さな石ころもちょっとした段差も、つまづきの原因になってしまいます。そして、大きな岩が目の前に出現したら、もうどうしていいのか分かりません。なぜなら、そんな大きな岩は見たことがないからです。
親が先回りし地ならしをする環境で育った子供達には、次のような経験が欠如してしまっています。
・困難にぶつかる経験
・自分で考える経験
・プレッシャーに耐える経験
・失敗する経験
・辛い思いや不安な気持ちを乗り越える経験
「いや、こんな辛い感情、子供には必要ないでしょ」と思う方もいるでしょう。しかし、「レジリエンス」と呼ばれる”転んでも立ち上がれる力”は、このような経験で培われていきます。
アメリカ心理学会の会長をつとめたセリグマン博士も、『子供には失敗が必要である。悲しみや不安や怒りを感じることが必要である。一時の感情に駆られて子供を失敗から守ってやれば、技能を学ぶ機会を奪うことになる。』 と言っています。
大事な経験を逸してしまうと、その結果どうなる?
親が子供の進む道をならし続け、子供達がすべき経験をできないと、次のような状態に陥ることが考えられます。
主には、
・我慢できない
・待てない
・いざというとき踏ん張れない
・すぐにあきらめてしまう
・自分で考えようとしない
そうです、よく聞く「育児の悩み」へとつながってしまうのです! イギリスの大学が、70の研究を対象に行ったメタ分析では、過保護といじめのリスクの関連性も指摘されています。
※出典:学術誌 Child Abuse & Neglect(2013) 「Parenting behavior and the risk of becoming a victim and a bully/victim: A meta-analysis study.」より
親が過保護に育ててしまうと、子供の自分力が十分に伸びないため、何か問題に直面したときに立ち往生してしまうことが増えます。もし、子供同士の人間関係で発生する諸問題に上手く対応できないと、どうしてもターゲットになりやすくなってしまうのだそうです。先回りして地をならすのは、子供のためにはならないのですね。
親がすべきことは子供の道をならすことではない
親がやり過ぎてしまう傾向は、何も日本だけに見られる現象ではありません。そもそもモンスターペアレントやヘリコプターペアレントも、外から入ってきた輸入品です。アメリカやイギリスをはじめとする諸外国でも、親が手を出し過ぎる傾向は強まっていて、問題視されているのです。現代の育児傾向と言っても過言ではありません。
先日、「フランスの子供は夜泣きをしない」の著者でもあるパメラ・ドラッカーマン氏が書いた「Curling Parents and Little Emperors」というタイトルの記事を読みました。訳すと「カーリングペアレントと小さな皇帝」。非常にインパクトのあるタイトルです。もちろん”小さな皇帝”は、子供達のことを指します。
親にとって、可愛い我が子の存在は、永遠のプリンス&プリンセスであるのは間違いありません。でも、いわゆる「王様状態」にしてしまうと、その子が将来困ってしまうことになります。どんなに可愛いプリンス、プリンセスも、自分の進む道上にある急坂や難所は、自ら乗り越えていかなければいけないのです。
親がすべきなのは、先回りして問題を解消することではなく、
・どう解決したらいいかを教えてあげること
・困難を乗り越える際に、あふれ出た感情を受け止めてあげること
・失敗してしまったときには、次の策を一緒に考えて、励ますこと
このような接し方をすることで、子供たちは「平たんな道」では味わえない経験をし、それがその子の自分力になっていきます。はじめは、先回りをやめることに勇気が要ると思います。でも、お子さんの将来のためだと思って、「親は見守る、子は歩く」の体制に持っていきましょう。
文 : 佐藤 めぐみ