お金の相談を「売り手」にすることは実は危ないことである
靴を買うとき、靴屋さんで店員に相談することがあるでしょう。ウォーキング用途なのかジョギング用途なのか、あるいは足の微妙なサイズやデザインの好みなど、店員とコミュニケーションを図ることで、納得のいく買い物につながることが多々あります。
ところが、お金の相談を取引相手とすることはあまりオススメできません。銀行員や証券マン、あるいは保険会社の外交員と取引をするとき、相談をするとき、相手はプロですからいいアドバイスをもらえそうに思いますが、これは靴を買うのと「構図」が異なるのです。
逆転、俯瞰といったマネーハックの発想で考えてみるとその理由は明らかになります。
モノを買うのとローンや投資は性格が異なる
モノを買うときお金を払います。金融商品を払うときもお金を払うのは同じです。しかし、モノ(消費財)を買ったとき、基本的に私たちは、そのお金を回収することを考えません。1000円で買った靴をそのあと1000円以上で誰かに売ることはまずないからです。食料品を1000円で買って食べてしまえば、これは当然ゼロです。お金は戻らずあなたの胃袋に消えていきます。
購入したときの価値がそのまま残っているのを原則としつつ、増えていくことを目的としているのは金融商品の特徴です。
ローンを借りて家を買う場合、土地の値段が上昇したりして家の価値がある程度維持されることを期待します。家賃負担がなくなった分と、ローンの利息の損得を考えるとしても、買った家の数千万円をゼロ円になってよいと思う人はいません。
投資をして株式や投資信託を買うとき、その資金がゼロになることを前提としている人もいません。基本的には投資資金は回収し、できれば値上がり益を獲得したいと考えます。銀行の預金も同様です。
モノを買うのと、金融商品はお金を払う目的や性格が異なるわけです。
あなたが買うほど売り手は儲かる構図がある
銀行や証券会社のセミナー、あるいは相談会などでオススメされた金融商品を買う、ということは、あなたがお金を払った一部が、あなたの取引相手である銀行や証券会社の儲けになる、ということです。これは単純で強力な事実です。
これを意地悪に言い換えれば、「あなたが何かを買えば買うほど売り手の儲けは増える」という構図になります。
モノを買う場合にも、あなたが買うほど売り手の儲けは増えますが、消費財である食品や靴の場合、そもそも資金を回収する性格ではないので、「勧められて買ったけど、あまりおいしくなかった。次は買わないことにしよう」「CMで期待したけれど、数回使っただけで二度と使わなかったなあ。ムダだったよ」という結果でガマンすることになります。
金融商品についてはあなたが買った100万円の価値の減少に売り手の儲け(手数料等)が生じますし、市場価値の低下があった場合、さらに価値が減少していきます。「50万円の投資資金が25万円まで値下がりした」というのと「500円のお菓子を半分食べて捨てた」とはまったく意味が違います。
しかし、金融商品の売り手はあなたの将来の資産価値を保証してくれることはありません。そして、あなたが「どうですかねえ」と相談すれば基本的に「やめておきましょう」と言ってくれることはありません。なぜなら、あなたが買ってくれなければ営業成績につながらないからです。
あなたの背中を押すことしかしてくれないとしたら、それは本当の相談相手ではないのです。
オススメを聞くようなことは絶対にしない
モノを買う相談と金融商品を買う相談は「構図」が異なるわけですから、アドバイスの求め方も変えていかなければなりません。
例えば「何がいいでしょうか」という質問を売り手に発するのは完全にムダです。
「今なら○○がよく売れています」という台詞がよく返ってきますが、これは安心でも保証でもありません。人気のお菓子ならそのアドバイスは参考になっても、人気の金融商品のランキングが儲かる保証ではありません。そもそも人気のお菓子だって、売れていることと自分が美味しいと思うかは別なはずですよね。
オススメを聞いたら「私にとってオススメの商品」が示されるのではなく、「売り手側にとってオススメの商品」つまり「売り手側が今一番売りたい商品(それは売り手が儲かる商品とほぼ同義である)」が提示されると考えるべきなのです。
ここは靴屋やスーパーマーケットの魚売り場ではないのです。
最後に対策を少しアドバイスしておきましょう。お金の問題はある程度自分で考え学ぶべきです。自分で学ぶ気がゼロということはカモにされても意味が分からないということだからです。
そして「やめておく」とか「買う金額をもっと少なくする」というアドバイスも出してくれる人を探し、アドバイスを求めるべきです。それを売り手に期待するのは無理なことです。
そのためには少しお金を払う必要がありますが、何十万円の損を回避できるとしたら、数万円の相談料は十分に価値があると思います。中立的なファイナンシャルプランナーも多く存在します。「お金のアドバイスにお金を払う」こともぜひ検討してみてください。
文:山崎 俊輔