「私の人生ってロクなことがない」「負け続けの人生だ」――気がつけば、そんなため息をついていませんか? しかし、人生をどう捉えるかは、その“人生のストーリーの描き方”次第なのです。
たとえば、一昔前の日本では黙って親や夫につき従うことが美徳とされ、そのような生き方を当たり前と考える女性が多数派を占めていました。ところが現代では、女性も自分なりの考えを持ち、仕事を持ち、意見を主張して生きることが当たり前とされています。
男性も「男は仕事」「男は辛口」「台所仕事は女に任せておけ」などと言われ、それを当たり前と考える男性が多数派を占めていましたが、現代では「イクメン」「カジメン」「スイーツ男子」など、生き方のバリエーションが続々と広がっています。
このように、私たちが「常識だ」「真実だ」と語りあう人生の価値観は、その時代を生きる人々の言葉のやりとりによって、意味づけされたものなのです。時代や環境が変われば、主流となる考え方も変わり、まったく別の価値観が構成されます。こうした考え方を「社会構成主義」と呼びます。
人生の物語を書き換える「ナラティブ・アプローチ」
この社会構成主義によれば、「自分の人生」への捉え方も絶対的なものではなく、周りの人々との相互交流のなかで意味づけられたものだと言えます。絶対的でないのなら、それまでの考えにとらわれ続ける必要はなく、今の自分に合った内容に、いくらでも“書き換える”ことが可能です。
今までの人生の捉え方に息苦しさを覚えるなら、今の自分にあったストーリーに書き換えてしまいましょう。こうした作業を「ナラティブ・アプローチ」(語りによるアプローチ)と言います。
たとえば、「失敗続きの負け人生」というストーリーを、ナラティブ・アプローチによってどう書き換えることができるでしょう? たしかに、その人は数々の「失敗」を重ねているのかもしれませんし、そうした失敗の「出来事」自体を変えたり、なくしたりすることはできません。
しかし、出来事から構成される「ストーリー」を書き換えることは可能です。
「失敗続きの負け人生」が「回復し続ける勝ち人生」に変わる!
たとえば、受験に失敗し、就職にも失敗し、恋愛にも結婚にも失敗したことを嘆いている人がいます。しかし、そもそもこれだけの失敗を経験しているのに、今こうして生きていられるのは、なぜなのでしょう?
それは、その人自身に強い生命力があり、失敗から立ちあがる回復力(これを「レジリエンス」と呼びます)を持っているからだと、私は思います。つまり失敗を重ねている人は、その分だけ「困難からの回復」という勝ち体験も重ねているのです。
「失敗続きの負け人生」のように、自分の頭の中で優勢になっているストーリーを「ドミナント・ストーリー」(支配的なストーリー)と呼びます。そして、このドミナント・ストーリーの裏には、見方を変えて描かれる「オルタナティブ・ストーリー」(もう一つのストーリー)が必ず存在するのです。「失敗続きの負け人生」のオルタナティブストーリーは、「回復し続ける勝ち人生」になるでしょう。
ナラティブ・アプローチでは、カウンセラーと共に自分のオルタナティブ・ストーリーを発見し、そのストーリーを“分厚く”する作業を行っていきます。つまり、自分に合わないストーリーには取り合わず、同じエピソードを別の視点で捉えながら自分に合ったストーリーを作り直し、そちらに注目していこうとするアプローチ方法です。
私もカウンセリングのなかで、この方法をさりげなく取り入れていますが、クライエントは自分が気づかなかったオルタナティブ・ストーリーを発見すると、目がキラリと輝き、顔色が明るく変わっていきます。カウンセリングの手法ではありますが、自分自身との対話でも、あるいは周りの人との会話の中でも、実践することができます。
人生をどう捉えるかは、その“人生のストーリーの描き方”次第です。ぜひ、あなたも自分の人生のオルタナティブ・ストーリーを発見してみませんか?
文:大美賀 直子