キーワードは”エストロゲン依存性”
女性の体には女性ホルモンというホルモンがあり、妊娠、出産、月経などをコントロールしています。
そして女性ホルモンにはプロゲステロン(黄体ホルモン)、エストロゲン(卵胞ホルモン)の2つがあります。この2つのホルモンが上手く組み合わさって、月経周期や妊娠が成立します。『エストロゲン依存性』の病気というのは、『エストロゲンだけが高い状態だと進行してしまう病気』ということです。
そして、月経周期の一時期にエストロゲンだけが高い状態の時があるので、つまり、生涯に経験する月経の回数が多い=妊娠、出産回数の少ない人ほどエストロゲンだけにさらされている時間が多くなるということになります(妊娠中は、エストロゲン、プロゲステロン両方が高い状態になります)。
ちなみにこう書くとエストロゲンが悪者のようですが、エストロゲンには強い抗酸化作用があり、動脈硬化を防いだりしていますし、骨をもろくしない作用もあります。食欲を抑制し、天然のダイエット作用もあるといわれていたりもします(排卵前に食欲が減る方、わりといらっしゃると思います)。色々な作用があるのですね。
産まない人のリスクが上がる病気
■その1:乳がん
年間1万人が命を落とすとされている乳がん。その数は年々増加中です。エストロゲンにさらされている期間が長いと乳がんのリスクが上がると言われています。つまり、妊娠・出産回数が無い、少ない人や、初潮年齢が早い人などは注意してくださいね。
その他、乳がんになりやすい人は「肥満」「家族に乳がんの人がいる」などといわれています。
早期発見、早期治療が大事です。例えば、ごく早期に発見できれば、なんとほぼ95%が治る可能性があるとも言われています。30歳を過ぎたら定期検診を心がけましょう。乳がんの発生は20歳過ぎから認められ、年を追うごとにだんだん増加し、40歳代後半から50歳代前半にピークを迎えます。
■その2:子宮体がん
ややこしいのですが、子宮がんには2種類あり、妊娠、出産していないひとがかかりやすいのが「子宮体がん」です(下の図の『体部』というところに発生します)。50~60歳代の方に多く発症します。
典型的な症状としては『閉経しているのに、ちょっとだけど、だらだらと不正出血がある。しかもオリモノに膿が混じっているような気がする……』という感じです。
■その3:子宮内膜症
子宮内膜症は『子宮内膜という子宮の内腔を覆っている赤ちゃんのためのベッドとなる膜が、子宮の中以外で増えてしまう病気』です。
これもまたエストロゲン依存性の病気です。月経がある数が多ければ多いほど(つまり妊娠・出産が減り、初潮年齢が早くなるほど)発育してしまいます。ですから、患者数も急増中&若年化中。なんと昭和40年代に比べると患者数は3倍にも増えているといわれています。一番多いのは30代の女性ですが、20代くらいから注意が必要です。
「年々ひどくなる生理痛」や「性交痛」「不妊」が特徴です。
■その4:子宮筋腫
子宮筋腫というのは、簡単に言ってしまうと「子宮の内外にできる良性のコブ(=腫瘍)」です。良性なので命にはかかわりませんのでひとまずご安心を。
ただし、本来ならないものがあるので「ひどい月経痛」「月経血の量が多い」「貧血」などの症状をひきおこします。
子宮筋腫もエストロゲン依存性なので、妊娠、出産の回数が減っている現在、患者さん数も増加していており、なんと、30代女性の4人に1人が子宮筋腫をもっていると言われています。
治療には大きく分けると手術をしない方法(経過観察、ホルモン療法)と手術がありますが、ケース・バイ・ケースなのでお医者さんとよく相談してくださいね。
■その5:卵巣がん
実は卵巣がんのリスクははっきりしていません。ただ、遺伝が関係しているといわれているので『家族で卵巣がんの人がいる』方は要注意。
また、40~60歳くらいで最も多く発症しますが、10代から高齢の方まで可能性があります。年々増加しており、排卵の回数が多い(妊娠・出産の経験がない、少ない女性)ほど発生率が高いという説もあります。
文:山田 恵子(医師)