子宮腟部びらんは病気ではない
婦人科の診療時、「子宮腟部びらんと言われたことがあるのですが……」と不安そうにおっしゃる患者さんは少なくありません。結論から言うと、子宮腟部びらんは病気ではないため、心配する必要はありません。成熟女性の80%程度にびらんは見られます。
びらんは特に症状を伴わない限り、病気とは見なしません。また、炎症を合併しておりものの増加や、性交時出血を繰り返さない限り、治療の対象にもなりません。
子宮腟部びらんとは
子宮腟部とは、子宮の下端である頸部が腟内に突出した部分をいいます。びらんとは、表皮が欠損した状態で、ただれていることをいいます。すなわち、真の子宮腟部びらんとは子宮腟部表皮が欠損し、ただれた状態のことをいいます。しかし、このような子宮腟部の真のびらんは、外傷や炎症などによって一時的に生じることはありますが極めてまれです。
一般的に子宮腟部びらんという場合は、子宮頸部の粘膜部分が子宮口より外側に外反しているため、その部分が肉眼的にはびらんのように赤く見えるので子宮腟部びらんと言っているにすぎません。子宮腟部にただれが起きているわけではないのです。この状態は、とくに閉経前の女性では多く認められ、生理的なもので病的なものではありません。
しかし、この部分は子宮頸がんが発生する部分であり、子宮頸がん検査を行っていない場合は「がん」の検査が必要となります。
子宮腟部びらんの原因
月経が始まる前の思春期以前では、子宮腟部は重層扁平上皮という皮膚と同じ組織におおわれています。月経が始まり思春期になると女性ホルモン(エストロゲン)の作用によって子宮腟部がふくらんで内側の円柱上皮と呼ばれる部分が外側にめくれてくるのです。子宮頸管の円柱上皮は毛細血管がきわだって赤くただれているように見え、これを「びらん」といいます。
びらんのほとんどはこのようにしてできるのですから、びらんは病的というより生理的といえます。したがって更年期以降に女性ホルモンが減少すると、この赤く見えるところは次第に頸管内に退縮していき、子宮腟部は再び重層扁平上皮におおわれるようになり、びらんもなくなります。
子宮腟部びらんの症状
びらんを持っていてもほとんどの女性が無症状で過ごします。しかし分泌物の多いびらん面が大きいと、それだけでおりものが増えます。また、びらんの部分は感染に対しても抵抗力が弱くなるため炎症を起こしやすく、子宮頸管炎などの感染症が起こりやすくなり、黄色のおりものが著しく増えて不快なものになります。そして、びらんは刺激に対する抵抗力が弱く、タンポンの使用や性交時の接触による刺激で出血しやすいのも特徴のひとつです。
子宮腟部びらんの治療法
子宮腟部びらんは子宮頸がんの初期と見分けがつかないこともあるので、診断は必ずがん検診を受けて「がん」かどうか確かめます。検診の結果、良性だった場合やびらんが大きくない場合は、とくにひどい症状がなければ治療は必要ありません。ただ、おりものの症状が気になるとき、性交の刺激による出血を繰り返すなどの症状がある場合は治療をする方がいいことになります。
治療する場合には2段階で考えます。まずびらんがあると炎症が強くなり、おりものが多くなったりしますので、びらんそのものの治療をするのではなく、腟の洗浄や、抗生物質の腟錠を使うことによって炎症をとると、症状は軽くなります。この治療によっても症状がよくならない場合は、びらんそのものを治療する方法として、冷凍療法、レーザー療法、電気凝固法などによりびらんを取り去り、そのあとに健康な上皮が形成されるのを待つ方法もあります。
いずれも治るまでには1~2カ月を要し、完全治癒のためには治療を繰り返し行う場合があります。
子宮腟部びらんという情報は医療サイドでは重要
子宮腟部びらんは、日常生活ではあまり重要ではありませんが、医療サイドでは重要な意味を持っています。
産婦人科では、子宮腟部の観察をよく行いますが、びらんは初期の子宮頸がんと肉眼的に似ているため、細胞診で「がん」でないことを確かめることが重要です。したがって診察した後のカルテ記載事項のひとつとして、びらんの情報は大きな意味があるわけです。そのため、診察でびらんがあった場合、特に治療の必要がなくても、患者さんに子宮腟部びらんがあることを伝える産婦人科医は多いようです。
これに対して、患者さんは、びらんがあっても症状がなければ全く意識される必要はありません。この子宮腟部びらんは病気ではありません。すなわち子宮腟部びらんは単に子宮腟部の状態を表している言葉であって、病名ではないのです。ご安心ください。
文 : 藤東 淳也