「ファントム オブ キル」(iOS / Android)と「誰ガ為のアルケミスト」(iOS / Android)で知られるFuji&gumi Gamesのプロデューサー,今泉 潤氏。シンプルなカードバトル系RPGなどが主流だった2014年のスマホゲーム市場に,カジュアルさとは真逆を行くコアなジャンル“シミュレーションRPG”を投じ,人気タイトルの一角へと育て上げた人物である。
新設されたばかりの会社で第1弾からタイトルを企画/開発するという重役を任され,すでにレッドオーシャンへと変貌していた当時のスマホゲーム市場に,あえてコアなゲームを投入する。この一見命知らずとも受け取れる挑戦を試みた今泉氏とは,そもそも何者なのだろうか。
氏の経緯を知るには本人から直接聞いてしまおうと思って連絡してみたところ,インタビューの提案に快く応じてもらえたので,その内容をお伝えしたい。
奇跡的な縁からつながったシンデレラ・ストーリー
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。今泉さんのインタビューは他メディアで拝見しておりますが,ご本人について語られていることがあまりなかったように思いまして,今回お時間を頂戴した次第です。さっそくですが,元々はドラマや演劇のプロデューサーを務められていたとか。
今泉 潤氏(以下,今泉氏):
そうですね。
4Gamer:
それはいつ頃のお話なんです?
今泉氏:
えーと,21歳から26歳ぐらいまでだったと思いますね。最初は新卒で企画制作会社に入って。
4Gamer:
大学生時代はテレビ業界志望だったんですか?
今泉氏:
いや,コネ入社です(笑)。僕は大学に落ちて,慶應義塾大学の通信制を卒業したんですが,当時レンタルビデオ屋で深夜アルバイトをしていたんですね。
「私は映画を見て育った」みたいな作家って,とても多いじゃないですか。僕は本を読むけど,映画をまったく見ないという人間だったんです。そこで映画をたくさん見なければと思ってこのアルバイトを始めたんですよ。
当時は,学費を稼ぐために深夜から朝9時までレンタルビデオ屋で,そのあと夕方6時くらいから居酒屋で,ほかにも工場でもアルバイトをしていましたね。
4Gamer:
アルバイトを掛け持ちされていたんですね。
今泉氏:
その頃,僕が受験勉強をしていたときに兄貴が「天体観測」というドラマにすごくハマっていたので,僕も見てみたんです。このドラマでは大学生の楽しい青春が描かれているんですが,「俺にはこんな日々がないんだな……」と羨ましく思っていたもんですよ。BUMP OF CHICKENの主題歌もまた心に響くし。
そして当時,同じアルバイト先にYさんという人がいたんです。その人は昔アメリカで日本のアニメをローカライズする仕事をしていて,MTVの優秀プロデューサー賞を取ったこともあるんです。その人と仲良くなって,テレビ業界のことを話しているときに,たまたま「僕は最近,天体観測ってドラマにハマっているんですよ」と言ったら,「そのドラマのプロデューサーはうちの兄貴なんだよ」と教えてもらったんです。パッケージの裏を見たら確かに名前が書いてあるもんですから,こんな身近にテレビ関係者が存在するのかとビックリしましたよ。
そのお兄さんであるTさんがフジテレビで月9のプロデューサーを務めながら,映画を作るためにアットムービーという会社を立ち上げました。兄のTさんはフジテレビの仕事があったので,弟のYさんがその会社の社長になるんですが,そこで取締役を務めたのがアメリカでYさんのバイト仲間だった國光(現 gumi代表取締役社長 國光宏尚氏)だったんですよ。
4Gamer:
奇妙な縁ですね。
今泉氏:
僕は通信制に通いながら,東京に来るときは,当時は小さなアパートの一室だった事務所に泊めてもらったりしていて。國光とも仲良くなって,「これからはドラッカーを読まないといけない」と19歳のときから言われたりもしていましたね。
のちにYさんがアメリカに帰ってTさんが社長になったんですが,そのとき声をかけられてアットムービーに入社することになりました。僕はそこの現場で,Tさんからプロデュースやものづくりについて学び,國光はその後独立してgumiという会社を立ち上げました。
4Gamer:
ファンからまさかの弟子に。
今泉氏:
Fuji&gumi Gamesが設立された経緯にも人の縁があって。gumiからフジテレビへの依頼には,何らかのエクスキューズを満たさないとならない。そこでゲームのシナリオを作ってほしいという話を,國光が僕に持ちかけてきたんです。
当時,フジテレビのデジタルコンテンツ局の局長を務めていた大多 亮さん(現 フジテレビジョン 常務取締役 兼 フジ・メディア・ホールディングス取締役)という人がいて,Tさんはその人の弟子なんですよ。その関係もあって,僕がアットムービーの人間としてフジテレビでシナリオを書くことになったんです。
そして種田さん(現 Fuji&gumi Games代表取締役社長 兼 フジゲームス代表取締役社長 種田慶郎氏)が僕を気に入ってくれて,Fuji&gumi Gamesという会社ができたんですよ。
4Gamer:
そのシナリオはどういったゲームになったんですか?
今泉氏:
「刑事ハードボイルド」という刑事モノのゲームです。シナリオ重視でゲームであることをまったく意識していなかったので,物語が長くなりすぎましたね……(※)。
※刑事ハードボイルドは2011年にサービスを終了している。
4Gamer:
そこで何らかの確信を得たからこそ,今もゲーム作りを続けていらっしゃるんですよね?
今泉氏:
当時,読んでいた本が『20万部のベストセラー! ドラマ化決定!』という風に騒がれていた一方で,自分がシナリオを作ったゲームが50万インストールされているのを見て,「これだ時代は!」と思ったんですよね。
テレビドラマは原作モノでなければキツいと言われてまして,何かを生むためにはどこかに新しい何かを作らなければならないと思っていました。でも,映画「アバター」を見たときに,世界に映像で勝負しても到底敵わないな,と。僕は舞台もやっていたんですが,映像単体で儲けることってなかなか難しいんです。自分の好きなものやオリジナリティあふれるものは作れない,原作と資金を手に入れないとだめだ。そしてお金にもなって,原作モノも売れる可能性があって,世界と戦える場所はどこだ。そう考えた先に出た答えが,モバイルゲームだったんです。
ちょうど國光からも「今のまま深夜ドラマを作り続けてもジェームズ・キャメロンには勝てないぞ」と言われ,「確かにそうだな」と思ってgumiへの転職を決めました。
4Gamer:
ゲーム業界に本腰を入れたという意味では,そのときが初めてだった。
今泉氏:
はい。当時のモバイルゲームは“ポチポチゲーム”なんて馬鹿にされていましたが,僕はドラマ出身の人間なので,やはりシナリオ重視のゲームを作ろうとしました。しかし,モバイルゲームに長過ぎるシナリオというのは相性が良くなかったんですね。
次は,映像としてカッコいいものを作ろうとしたんですが,ユーザーの端末によってはゲームにならないという事態に陥ったんです。その反省を踏まえて「任侠道」(※)というゲームの開発では,ドラマと映像の演出を入れつつ,コンパクトに見やすく作り上げるように試行錯誤しました。システム自体はカードバトルでしたが,ドラマと映像で世界観を作っていくと,ポチポチしていても何か感じるものが作れるんだと,そのときに思いましたね。それからWeb(ブラウザゲーム)量産時代が始まった感じなんですよ。
※任侠道は2011年〜2014年にGREEで提供されていたアプリ
4Gamer:
凄まじい勢いでブラウザゲームがリリースされていましたね,あの頃は。
今泉氏:
カードバトルモノをいくつも出せばどれかは当たると言われていた時代だったんで,gumiでも当時は,「とにかく本数を作れ」「プロデューサーを育てろ」と言われていたんですけど,作り手のパワーが薄くなると,やっぱり当たらないんですよね。各社で起こっていた事態だと思いますが,「こういう感じでやっとけばいいんじゃないの」的な雰囲気が透けて見えているようではダメ。最初のうちは何本か当たったけど,色目を出していくうちに当たらなくなっていく。
そこで1本ちゃんと作ろうとなったタイトルが「ドラゴンジェネシス」で,Webでもネイティブでも対応できるようにイラストやアニメーションを制作していきました。Webからネイティブへの移行が始まっていて,イラストリソースはいっぱいあった。Webとネイティブをあまり切り離さずに,Webライクなネイティブゲームを目指した結果,ある程度の実績は残すことができた
なら今度はフルネイティブゲームをゼロベースで1から作り上げよう,ということになって企画したのが,「ファントム オブ キル」というゲームです。
4Gamer:
「ファントム オブ キル」がリリースされたときは,戦略性とドラマという“ポチポチゲーム”に不要と思われていた要素が前面に押し出されていて,非常に挑戦的なタイトルだと感じました。
今泉氏:
フジテレビとは「映像化できるゲームを作る。ここからIPを生み出すような会社にしよう」と話していて,僕自身もオリジナル作品が好きで,IPモノは基本的にやりたくない人間だった。モバイルから何かを生み出さないと意味がないと考えていて,最終的には「ハリウッド」と思っていました。
でも,それまで「独裁」だとか「今泉の作りたいものしか作れない」とか,やっぱりいろいろ言われていたんです。そういう話が広まっていって,外れるタイトルが出てくると「あいつは当たらないのに何か言ってる」なんて言われることもありましたよ。だったら自分で全部作る! と。なので,「ファントム オブ キル」の開発は,企画,仕様,シナリオ,ディレクション,演出と自分の考えていることを実現するまで徹底的にこだわりましたね。
しかし,開発は初めてのことだらけで,リリースもだいぶ遅れていて,Webと比べてこんなに作りこまなきゃいけないんだと驚きました。たとえば,仕様書でもキャラが歩くときの足音を何個にするかとか。そこまで想像して作らないといけないのか! と。
4Gamer:
ゲームが仕上がってきた段階で,社内ではどんな評価が出ていたんですか?
今泉氏:
ゲーム内容が難しい。時間がかかりすぎる。話が長い。そういった声がありましたが,社員というのは,ユーザーではありません。ある種仕事でゲームをプレイしているという目線だったと思うんですよね。そこで僕は「ユーザーの意見は聞くけど,社内の声は聞かん!」と宣言して開発を進めてました。
おそらく社内ではあまり期待されていなかったと思います(笑)。
4Gamer:
リリースされてからもだいぶ苦労されていましたね。しかし,そもそもなんで“シミュレーションRPG”に決めたんです?
今泉氏:
僕の中ではゲームって戦略性が重要だと思っているんですよね。考える必要があるし,駆け引きがある。Webの時代はガラケーでAIなどが使えなかったんで,戦略性を生む最終形態がギルドバトルだったんですよ。
その後,ネイティブアプリになってAIを使えるようになり,戦略性が生まれましたし,ドラマも描けると確信しました。誰もが知っている「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」にはドラマがありますし,そういったドラマと戦略性を兼ね備えているのは,僕の中ではシミュレーションRPGだったんです。
4Gamer:
モバイルゲームにおけるシミュレーションRPGというものは,爆死しまくっていたジャンルでしたよね。「ファントム オブ キル」を企画/開発するにあたって,恐怖感みたいなものはありませんでしたか。
今泉氏:
恐怖感がなかったと言えばウソになりますが,別に失敗しても死なないじゃないですか(笑)。とにかく面白いゲームを作るのが難しいですし,アイデアを発言したときにすでに面白いものになっていることのほうが珍しい。自分の想像しているものと,発言したアイデアとのギャップがあって,アルファの段階で大体つぶれることもあると思っていました。
なので,アルファで想像したとおりのものが仕上がってきて,「いける」と思ったんです。僕が面白いと思ったからといって売れるとは限りませんが,少なくとも自分で面白いと思えなきゃ絶対に売れないと考えていたので,そこになんとなく手応えはありましたね。
最初は横画面で遊ぶゲームだった「ファントム オブ キル」
4Gamer:
開発の参考としてさまざまなゲームをプレイされたと思うんですが,その中でもとくに印象に残ったタイトルってなんでしょう。
今泉氏:
「パズル&ドラゴンズ」が出たときは「こんなゲーム作れねえ!」と思いましたね。Webゲームは世界観と演出,システムはカードバトルとある程度決まっていて,そこの延長線上でサッカーならこう,任侠ならこうってどう差別化するか考えていたんですが,パズドラをプレイしたときに「ああ,もうこんな時代か。これは大変だ」と。モバイルゲームはもう手触り感とかを大事にするフェーズになってきたんだなと。
4Gamer:
では,「ファントム オブ キル」の着想を得たタイトルとは?
今泉氏:
現在はgumiのグループでもあるエイリムの「ブレイブフロンティア」が当たったときに「なるほど」と思ったんですよ。世界観を作ったRPGでもこういう形でできるんだなと。
ブレフロってカジュアルに遊べる手軽さがあるじゃないですか。でもしっかりと音楽だったりストーリーも入っている。パズドラは今すぐ作れないかもしれないけど,ブレフロは狙えると思ったんです。
社内でデータも見られましたし,海外でブレフロがヒットしたときも,こういう数字の推移をするんだといったことが分かりました。実は「ファントム オブ キル」以降のアプリも,海外でヒットするにはどうしたらいいかを一応考えながら作っているんです。
4Gamer:
ちなみに,「ファントム オブ キル」の開発コストや期間って当初の想定からどの程度まで膨れましたか。
今泉氏:
コストはそんなに上がらなかったはずですが,期間は半年以上伸びましたね。
4Gamer:
ということは,企画の時点で完成形が今泉さんの中でかなり固まっていて,それを詰めるだけの作業だったんですね。
今泉氏:
そのとおりです。そういえば,「ファントム オブ キル」は最初“横持ちのゲーム”だったんですよ。でもあの時期は縦じゃないかなぁとも思い始めていて,経営会議で國光に相談してみたら「スクフェスもチェンクロも横で売れてるし,横でいいんじゃないか」と言われたので,あえて縦にしたという経緯があるんですよ(笑)。
一同:
(笑)
今泉氏:
僕自身は映像がキレイに見える横でやりたい派だったんですけどね。
横か縦かは,当時エイリムのCEO 早貸さん(現 アイディス 代表取締役社長 早貸久敏氏)にも相談したことがあって,そのときは「絶対まだ縦だよ」と返していただいて。早貸さんには,「ファントム オブ キル」の開発前から「それ絶対当たるよ」と言ってもらえたこともあって,かなり励みになっていますね。
4Gamer:
「誰ガ為のアルケミスト」で横画面に戻したのはなぜなんでしょう。
今泉氏:
もう時期的にいいかなと思ったんです。時代的に,カジュアルに遊ぶものと,没入感があってやり込むものとで分かれてきたので。カジュアルなものは沢山あるので,とにかく深く深くしようと思って横画面にしました。
「誰ガ為のアルケミスト」も最初は縦だったんですけど,プレイすると画面が窮屈で仕方がないんですよ。映像にも力を入れたかったので,縦にしたり横にしたりするのも面倒じゃないですか。
それにもはやカジュアルゲームとは言えない内容ですし,こんなの歩きながらやらないでしょとも思ったんです。
4Gamer:
そこまで映像にこだわる理由をぜひ聞かせてください。
今泉氏:
日本のアニメやゲームってある意味で絶対的なポジションを築いていると思うんです。いわゆるジャパニメーションって,「That's JAPAN」「This is JAPAN」みたいな特異性を感じられるじゃないですか。そういったものをモバイルゲームで実現したいという気持ちがあって。
横画面にしたのは,そのほうが映像をキレイに見られるという側面もあるからですね。
4Gamer:
最初から海外展開を視野に入れてらっしゃるんですね。
今泉氏:
もちろん視野に入れています。でも,日本と東アジアとアメリカでゲーム文化は異なるじゃないですか。日本はガチャ文化だし,中国は消費が早いし,アメリカは戦略至上主義だし。
まず,中国向けに日本人が作るゲームって受け入れられにくいと僕は思っているんですよ。なぜなら中国人の気持ちを知りませんから。同じように,日本人がアメリカ向けのゲームを作るのは難しいと思っています。
僕は日本人の心しか分からないので,まず日本でウケないと意味がありません。そこを前提とするとガチャが入ってくるんですよね。しかし,ガチャは東アジアやアメリカとの相性が悪い。なら3大陸全部で行けるシステムは何だと考えた結果が,「誰ガ為のアルケミスト」の欠片システムだったりします。
ああ,こういうシステムなら日本も東アジアも北米もいけるなって。そこにジャパンライクなストーリーも盛り込もう,そして河森正治さんや押井 守さん,久石 譲さんといった世界で通用するレジェンド的な人物が関わっていれば,日本を代表するゲームみたいなイメージにもなるかと思ったんです。
モバイルゲームは,たまごっち?
4Gamer:
そもそもガチャというマネタイズシステムについて,今泉さんはどういったイメージを抱いてらっしゃるんでしょうか。
今泉氏:
僕自身はすごく楽しいものだと思うんですけど,確率を絞れば伸びるわけでは無いとも思っていて。でも,皆さんに行き渡ってしまうとゲームの経済やレアリティという概念の意味が失くなってしまう。それが今はちょっと行き過ぎていて,社会現象になっています。
お金を払わないと強くなれないというのがガチャの悪として受け取られ,そういう部分は海外だと敬遠されがちですよね。僕はかけたお金とかけた時間って平等だと思っていて,時間をかけてプレイしてくれた人は強くなるべきだと考えています。そのために,いずれは手に入るものとして欠片システムを導入した経緯があるんですが,いろいろ大変です。
でも長い目で見てもらえれば,ガチャもありながら欠片もあるシステムのほうが,プレイヤーにとって絶対に良いと思っています。
4Gamer:
先日実施された「誰ガ為のアルケミスト」のイベントでは,ブレフロのヴァルガスと,ファンキルのティルフィングを手に入れられて,レアリティを最高まで引き上げられて,欠片もマックスにできたじゃないですか。ガチャシステムの否定にも思えたんですが,あれもサービスの一環というお考えなんでしょうか。
今泉氏:
はい。僕らはキャラクターを大事にしていきたいという思いがあって,捨てカードや捨てキャラを無くしていくようにしているんですね。たとえばゲームを今から1年後に始めたとき,誰を育てればいいのか分からないみたいな事態に陥るのは嫌だなと。
4Gamer:
考えれば考えるほど,今泉さんが作るゲームとガチャシステムの相性は悪く思えますね。モバイルゲームにおけるガチャシステムというものが画期的で完成されたアイデアすぎるゆえに,という部分もあるんでしょうけど。
今泉氏:
そうなんですよ。モバイルゲームってたまごっちに通じるものがあって,ちょっと遊んでちょっと成長するというのが結構大事です。キャラを育てていく,愛でていくというような。
でもがっつりゲームするとなると,クエストを繰り返すことになります。同じ面を繰り返すというゲ―ム体験は,大体の人が3か月程度で飽きてしまう。それを解消するためにガチャに新キャラを投入したりするんですけど,欠片システムという“時間をかければキャラが手に入るシステム”を投入しても,結局は「課金ゲー」だと言われるし。
4Gamer:
ニコ生とかでも割と「弱いキャラ使うほうが面白い」なんて意見が見られますよね。
今泉氏:
そうなんですよ。弱いほうが面白いんですよ。ゲームは死んだほうが面白いんですよ。
4Gamer:
スタミナも,負けた場合はスタミナを消費しないようなシステムが採用されていますし。
今泉氏:
いちいち石割ってスタミナ回復もあまりされないですよね? とはいえ,みんなガチャを回してキャラクターが欲しいわけですから,難しいところですね。
4Gamer:
とかく悪く言われがちではありますが,ガチャには一定以上の需要があるんですよね……。
今泉氏:
そうですよね。なので僕は全然ガチャを否定しないです。気をつけたいのは,売上ランキングってユーザーはあまり気にしないと思うんですけど,悲しいことに僕も含めて業界の人達は気にするじゃないですか。
それを本当は気にしちゃいけないんだろうとは思うんですけど,50位以内に入っていないと「このゲームに課金していいのか」「サービス終了するんじゃないのか」とユーザーに思われたりして,信用に関わってくるんですよ。売上も保ちながらゲームをちゃんと面白くしていくというバランスはすごく難しいです。
物語を描き切ることがゲームを面白くする
4Gamer:
今泉氏にとってゲームを面白くする大事なことって何でしょうか?
今泉氏:
最近気づいたのが,広げた物語はとにかく描き切るということですね。なので今回はちゃんと描いていこうと思っています。描き切ったあとに需要があれば2(ツー)的な話をしていこうと。オンラインゲームで続編を別のアプリとして出すというのは絶対に無理じゃないですか。
本当は「ファントム オブ キル」の地上世界編も売り切り制の別アプリにしようと思っていたんですけど,中に入れちゃったんですよね。
4Gamer:
課金額に関係しないシステムですよね。
今泉氏:
そうです。無課金システムですよ。
4Gamer:
いわゆるコンシューマゲームっぽさもありながら,お金を取らないという。
今泉氏:
あれが本来のシミュレーションRPGの遊び方じゃないですか。そういうのを皆さん忘れてるなと思っていて,あとは映像も作りながら,ストーリーを描きたかったんですよね。
4Gamer:
ああ,つまりそれこそが,今泉さんの本当にやりたかったことなんですか。
今泉氏:
「ファントム オブ キル」はネオ東京みたいな見え方にしたかったんですが,中世ファンタジーの世界観がないと広く受け入れられないなと思って,中世の世界で地上世界があるという世界観を構築しました。でも中世の世界で女の子が甲冑を着ててもなぁと考えたので,ジーパンや制服を現代的な要素として取り入れたのが,ロンギヌスやレーヴァテインなんです。
4Gamer:
そういう意味では,「誰ガ為のアルケミスト」が完全に中世風ですよね。
今泉氏:
「誰ガ為のアルケミスト」は本格の王道で行こうと考えていたんですけど,どうやって違和感を出すかというところは“線”なんですよね。映画の「トロン」のようなちょっと近未来的な要素も見た目として分かるようにできるよね,という。
4Gamer:
そして「シノビナイトメア」は打って変わって和風ときましたね。
今泉氏:
「シノビナイトメア」を作りたいと思ったのは,日本人の文化として分かりやすいですし。
やはり手に取ってもらう動機は必要だと思うので,ほかと比べてどうやって違和感を出すかというところから僕は入るんですよ。
4Gamer:
そういえば「ファントム オブ キル」とは違って,「誰ガ為のアルケミスト」と「シノビナイトメア」では,ユーザー自身が主人公として描かれていないのはなぜでしょうか。
今泉氏:
ユーザー自身が主人公というのは,モバイルゲームの悪しき風習の1つだと僕は思っています。ドラマを描きたいと思ったら葛藤を描きますよね。主人公が葛藤して前に進むか,後ろに引くか。そういった葛藤が生まれたときの選択肢がドラマを生むんです。
しかし主人公がユーザー自身だとしゃべりませんし,葛藤が描けなくて,周囲が進めるしかない。そうすると何の成長も描けないし,周りが促していかないと話が進まない。
ドラマが描けない原因は3つあって,1つはこの主人公の葛藤が描けない。
2つめはコンプガチャ問題によって連携スキルが実現できない。たとえば本当ならロギとディオスが連携スキルを撃つべきで,そこにドラマがあると思うんですよね。これが課金キャラ同士だと実現できないので,主人公達は無料で手に入るようにしたかった。
3つめはキャラを殺せない。課金で得たキャラが死んで2度と使えなくなったらまずいじゃないですか。負けて悔しくても最後に勝てるから楽しいわけです。今は1回負けたら諦めちゃうことが文化としてあるじゃないですか。最近はゲームでも漫画でもアニメでも時代による違いを感じますね。ファミコンの時代なんてすぐ死んでたし,僕がやった「ボンバーキング」ってソフトも爆弾置いたら離れないと死んでましたから。「魂斗羅」なんかもすぐ死にましたね。えっ,もう死んだの? みたいな。
そこから,“こうしたら死なないんだ”を見つけていったのに,今は死んだ瞬間にクソゲーと言われるんですよね。
4Gamer:
解決法はガチャ,ということになってしまうんですかね。
今泉氏:
そうなんですよ。やはり全体的に楽というか。でも,そういう時代だから合わせて行かなきゃいけないんですけど,古き良き要素というのを何となくゲームに取り入れています。「誰ガ為のアルケミスト」は,僕がTwitterを通じて「1章の2話で死にます」とつぶやいたのに,「クソゲー」とか「2話がムズすぎる」とか言われまして。
世界観に浸ってほしいという意味でスキップ機能をあえてつけなかったら「リセマラできねえ」って不満がでるし。リセマラしないでどのキャラ育ててもいいんだよと思っていても,やっぱり伝わらないしなぁと思い,スキップ機能はすぐに実装しましたけど。
4Gamer:
そういえばチュートリアルも,ほぼないようなものでしたね。
今泉氏:
プレイしたら分かってもらえると思ったのですが,厳しいご意見をたくさんいただきました……。
4Gamer:
そちらもすぐに対応されましたね。
今泉氏:
ええ,先ほど言ったとおり,ユーザーの言うことは聞きます。作っているときは「スキップ機能なんていらない」と言いながら好きにやるんですけど,ユーザーからの厳しいご意見があれば「申し訳ございませんでした。私が間違っていました」と。
4Gamer:
「ファントム オブ キル」の地上世界編もチュートリアルは作られていませんよね。あちらもクレームが出たら対応されるんでしょうか。
今泉氏:
地上世界編は,無課金モードなんで「クレームは引き受けない」つもりです。ストーリー更新が遅いと言われても,無料なんだから知りません。……とはニコ生などでも言い切っているんですけど,そういうわけにもいかないので(笑)。ちゃんとやっていきます。
4Gamer:
先日実施されたVRイベントは,ファンと直接触れ合う貴重な機会だったと思いますが,終えてみての感想はいかがですか。
今泉氏:
印象的だったのが,ゲームを長く遊んでいるというファンにどのくらい遊んでもらえているのか聞いてみたら,3か月と返されまして。3か月続けることが長いんだと思いましたね。
今のユーザーって,たぶん無料でガチャを引けるまでやって,そこで好きなキャラが出るか,気に入ったキャラをリセマラして出すかできなかったら,諦めて別の新しいゲームに移って無料の範囲を遊んでいく……というのを繰り返しているんですよね。
4Gamer:
男性キャラクターが大きくピックアップされていることも見どころですけど,かなりの冒険だったのではないでしょうか?
今泉氏:
結局,男性を描かないと,マーケティング的見地でいくと萌えゲーだと思われるんですよね。もっと「AKIRA」みたいな世界があるのに……。
ちゃんと押井 守さんのムービーでも地上世界をパッと見せるようにしていたんですけど,やっぱりキャラクターのほうにばかり目線が行ってしまった。
支えてくださってるユーザーの期待を裏切るわけにもいかないので,男性キャラの出し方にはとても気を使いましたね。なのでちゃんと出そう,描こうと考えてプロジェクトZEROという形で発表しました。
4Gamer:
藤原竜也さんを起用されたのも,ファンの年代に合わせた形でしょうか。
今泉氏:
そうですね。とにかく「誰でも知っている人」というのが1つの勝負所だったので,加えて「アニメっぽい人」かつ,僕は演劇プロデュースもやっていたんで「芝居がしっかりしている人」じゃないと嫌だ。そこで誰だろうと考えて,藤原竜也さんにたどり着いたんです。やってくれるかなと心配しながらオファーを出してみたら,引き受けていただいて。
4Gamer:
ゼロはレーヴァテインの兄ということですが,これは元々あった設定なんでしょうか。
今泉氏:
あとから足した設定ですね。地上を描きたいと思ったときに地上世界の構想はあったんですが,じゃあキル姫のルーツをどう描くのかというときに,1個のサンプルとしてあった兄妹愛を交えるのが,すごく印象に残りやすくて分かりやすいと思ったんです。
4Gamer:
メインヒロインだと思っていたティルフィングがちょっとかわいそうですが。
今泉氏:
レーヴァテインが1番人気なのもあって意図的な部分はあるんですが,ティルフィングは,地上世界編でもセリフがありますし,重要なストーリーテラーとしての役割を持っていますよ。
4Gamer:
決してないがしろにされていないようで安心しました。
今泉氏:
ティルフィングは特別な意味を持つキャラなので,そうじゃないキャラというとレーヴァテインが1番描きやすかったんですね。
4Gamer:
せっかくですので,「誰ガ為のアルケミスト」のキャラクターもちょっと掘り下げてみたいと思います。あちらも特徴的で,死後の世界から仲間を召喚しているという設定なんですよね。
今泉氏:
あの設定もいろいろ考えていて,各ユニットはあの大陸のどの時代でいつ死んだのか,いつ召喚されたのかというのを大切にしています。召喚されるのは,生前の魂レベルが最高だったときの姿なんですが,記憶は最初から最後まで持っていて,自分がどう死んだのか分かっているんです。
この時代のあの人はある騎士団の団長で,そのライバルがこの人で,ここと戦争してこうなって,どうやって最後を迎えたのか。複数のキャラストーリーからそういう部分が見えてくると,物語が立体的になると思うんですよね。
4Gamer:
実装が予定されているキャラクタークエストでは,そういった面がより詳しく明らかにされるんでしょうか。
今泉氏:
はい。主人公を作ってしまった手前,主人公を好きになってしまう人が多くなるので,ほかのキャラクターをどう掘り下げていくかというのが課題としてあります。キャラクタークエストがその役割を担うというのは分かりやすいですし,世界観を補完する意味のあるものになればいいなと思っていますね。
4Gamer:
性能面でクロエとヴェテルが比べられると,ヴェテルは魔法剣士のジョブがあるから優秀だという話になりがちですが,今後の差別化は考えているんでしょうか。
今泉氏:
マスターアビリティなどで個性を出していければと思います。ほかにも,特定のジョブで装備できる「武具機能」というものを先日実装し,装備面でもキャラの個性を引き出せるようにしましたが,これまた波紋を呼んでいます。
4Gamer:
新しい試みを理解してもらうにはもう少し時間がかかりそうですね。
今泉氏:
息の長いタイトルにするべく,そういった機能を盛り込んでいるんですが,ユーザーからは短期的に見られてしまいがちです。「誰ガ為のアルケミスト」は,ちょっとガチャゲーっぽくないところもあって,それは良いことなんですけど,事業としてはセールス面の波をつくることも意識しなければならないので,どうしたらいいんだろうと悩んでいます。
4Gamer:
マルチプレイも非常に魅力的なコンテンツだと思うんですが,こちらが本格的に拡張されるのはもう少し先でしょうか。
今泉氏:
もちろん僕はギルドやレイドなどいろいろほしいんですけど,武具の実装までが初期の構想で,今はようやく機能が整ってきたところです。どういうのが求められているのかを僕が把握しきれていないのと,不具合やAIがイケてないといった対応すべき点も多いので,これからという感じですね。
「シノビナイトメア」のインスピレーションはアニメから?
ファントム オブ キル4Gamer:
3作目の「シノビナイトメア」についても,あらためて詳しくお聞かせください。今作はシミュレーションRPGではなく,ダンジョン探索型RPGなんですね。
今泉氏:
ドラマを描くにはRPGが1番良いので,そこは外さなかったんですが,中でも戦略性が高いRPGといえば,僕にとってはダンジョン探索型RPGだったんです。ここでアイテムを使って良いのか,ボスまでどれだけ歩かなきゃいけないのか,宝箱を取るのか取らないのか,遠回りするのかしないのか。要は運用ですよね。ダンジョン内でのマネジメントというのがゲーム体験として面白いと思うんです。
4Gamer:
ローグライク風のRPGという認識で大丈夫そうでしょうか。
今泉氏:
そうですね。戦いと探索の両方に運用という戦略性があったら面白いよね,という発想から生まれたゲームです。
スキルを発動させるためのチャクラというリソースが,ギミック満載のダンジョン内に散らばっていて,遠回りしてでも回収するか,最短ルートでボスを目指すかといった判断を求められたり,敵の弱点を突くと有利になるというお決まりのバトル要素を派手に演出したりしています。
僕は,シミュレーションゲーム,とくに“マス”のあるゲームばかりが好きで,そういった意味では,ローグライクゲームのダンジョンにもマスがありますからね。「シノビナイトメア」は1年以上前から開発しているんですけど,バトルだけではありふれたゲームだったので,ダンジョンという要素を新たに盛り込んでみたんです。
4Gamer:
今泉さんは,少年時代からゲームに没頭されていた……みたいな人物に見えませんが,わりとコアなところを攻めてますね。
今泉氏:
でも僕はそんなにゲーマーじゃないと思うんですよね。外でよく遊んでいたし,プレイするゲームも限られていましたし。アニメも「ドラゴンボール」や「ドラえもん」なんかは見ていましたけど,コラボをするために真面目にアニメを見始めたのが,昨年からですもん。
4Gamer:
雰囲気的にそうなんじゃないかと,正直疑っていました。
今泉氏:
dアニメストアに入会して,そこから初めて「化物語」など,いわゆる今風のアニメをいろいろ見始めましたね。「魔法少女まどか☆マギカ」や「PSYCHO-PASS サイコパス」みたいな虚淵さん系とか,あと「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」とか「心が叫びたがってるんだ。」とかも参考になっています。
4Gamer:
今泉さんから見ても,そういったものは映像作品として面白いんですか。ほら,アニメの面白さって世間一般的には理解されがたいものじゃないですか。
今泉氏:
いや,面白いですよ。ただアニメの設定も,やっぱりゲームっぽいですよね。
4Gamer:
昨今はネトゲを題材にしたアニメも多いですよね。
今泉氏:
多いですよね~。ビックリしたのが,完璧な主人公像が最初から描かれているんですよね。
4Gamer:
まさにジェネレーションギャップといったところでしょうか。
今泉氏:
僕のアイドルは浅倉 南ちゃんなんで,見てないふりしてずっと好きでいてくれみたいな気持ちがあるんですが,やっぱ昭和的なんですよね。カッコいい男性像も冴羽リョウだったりするんで。
4Gamer:
タガタメのアガサも今風のヒロインではないですもんね。
今泉氏:
そうなんですよね。作家も昭和の人間ですから(笑)。
4Gamer:
主人公になびくわけでもなく,自分の信念で動いていますし。
今泉氏:
やっぱり魔獣やおじさん,イケメンといった男性がいて女性が引き立つというのが王道だと思うんですよね。「ファントム オブ キル」は,女の子ばかりだったんで男性キャラが入ってどう見られ方が変わるんだろうと期待しています。
ファントム オブ キル
4Gamer:
某アイドルゲームで男性キャラのユニットがお披露目されたときは会場の空気が凍りつきましたが,結果としては成功を収めたと思うので,そういう変化が必要なのかとは思います。
今泉氏:
「ファントム オブ キル」でもやっぱり最初は皆さん引いてましたよね。「えー,男性キャラがいる。大丈夫なの!」って。
4Gamer:
とくにファンの声が辛辣だと,胃が痛くなる毎日ですね。
今泉氏:
そうなんですよ! Twitter(@imaizumijun)とかでも書かれるわけですよ。イベントでファンと撮った記念写真がアップされると,「遊んでるだけで金がもらえるなんて,お前はホントにクズだな」とか言われますが,まあまあ辛いぞこの毎日はと(笑)。
4Gamer:
はっはっは(笑)。
今泉氏:
僕なんかは出してるばっかりで枯れていく一方なんで,インプットする時間も必要だなと思いますね。
4Gamer:
この業界でアウトプット(ゲーム開発)を続けられて大分経ちますが,この業界に飛び込む前と飛び込んだ後でどんなイメージの変化がありましたか。
今泉氏:
映像制作も辛いですし,ゲームにはまた別の辛さがありますが,ドラマとゲームのものづくりで生まれる過程はある意味一緒だったりするなぁと思うんですよね。シーンやテーマを思いついたときに,こういうシチュエーションでキャラをどう動かして,どういった台詞を発するのかといった部分は共通しているとも言えなくないんです。ただし,ゲームは作って終わりではないので,頭をリセットする瞬間がありません。
4Gamer:
リリース後も重くのしかかりますね。
今泉氏:
そうなんです。数学を一日中やったあとみたいに,脳みそがすごく疲れます。チョコがめちゃくちゃ食べたくなりますし。
でも終わらないからこそ嫌いになれない。置いといたままにしておけないから,あれどうしよう,これどうしようとずっと考えています。
メジャー感がゲームの段階を引き上げる
4Gamer:
映像とゲームの関わり合いについて,今泉さんはどういったお考えなんですか?
今泉氏:
僕自身が映像業界の人間だったから感じる部分もあるんでしょうが,映像における注目度の力というのは,すごいものだと信じています。人間って知りたいものしか知ろうとしないので,能動的に取りに行かなければならないメディアから情報を得られる人って,実は少ないんですね。
だからIPは分かりやすいんです。たとえばサッカーゲームであれば,「メッシ」のカードはレアだと何となく思いますよね。メッシは現実世界で活躍できている選手だし,メッシのカードを使ってゴールを決めれば,いつかのメッシが現実世界で決めたゴールの風景が頭の中に思い浮かぶじゃないですか。
それと同様に,「ドラゴンボール」なら「悟空」のカードが強い,そして「親子かめはめ波」のカードはレアで,セルを倒したときのシーンを思い出せる。これは,映像や漫画といった,ゲーム画面以外のところで補完されたものがあるからなんです。
ストーリーや文脈が存在すれば分かりやすいですが,オリジナルはこういったところから生み出すべきです。ひと目でキャラクターが分かったり,世界観からドラマ性を感じたり,キャッチコピーなども含まれますが,僕がビジュアルに気を使う理由はここにあったりします。
4Gamer:
おっしゃるとおり,映像の力はゲームにも大きな影響を与えると思います。しかし僕からすると,映像というのは,ニコニコ動画やYouTubeにいいようにやられている印象を受けます。たとえば,テレビというメディアを使うにしても,そんな中でどうやって戦っていくのかが,とても気になっているんです。
今泉氏:
僕もテレビ業界の人間ではないので好き勝手に言うと,ニコニコやYouTubeってある種のマイナーというか,インディーズ的な文化です。そして人と人とのコミュニケーションや,共演者とのコミュニケーションがコンテンツになっているところがあると思います。
一方でテレビというのは,メジャー的である種の「これが俺だ」という押しつけができるメディアです。コミュニケーションというよリ,作品という側面があると思っていて,そこが両者の違いじゃないでしょうか。
コミュニケーションって1つのエンターテイメントだと思うんですけど,それがかつて「月9ドラマを見ていないとクラスで話に入れない」だったのが,今は「同じゲームを遊んでいないとクラスで話に入れない」みたいなことになっている。そうなってしまったのがなぜなのかは,単純な話ですよね。ゲームは時間に縛られないし,いつでもあるからです。
テレビは,その辺りの対処というのは難しいでは……とは思うんですけど,でもテレビにしか実現できないことは間違いなくあって,たとえばテレビCMとモバイルゲームの相性はすごく良い。やっぱりメジャーなものには強みや価値といったものがあるんですよ。
今回,「ファントム オブ キル」のプロモーションで藤原竜也さんを起用して,メジャー感が大事だなと僕も強く思いました。藤原竜也さんが出ているゲームというだけで「すげえ!」となるんですよ。この辺をうまく使い分けていくことが,仕事のヒントになっていたりはしますよね。
4Gamer:
ゲームもエンターテイメントの1つなのに,ドラマや映画に比べるとずっと下に見られがちですよね。これを引き上げてくれるのも,実はテレビなんじゃないかと思っているんです。
今泉氏:
そうなんですよ。やっぱり,メジャーなコンテンツにすることだと思うんですよね。僕は,ゲームをコミュニケーションツールから1つの作品に引き上げなければと思っています。モバイルゲームからオリジナルコンテンツを生み出すことが使命だと思っていて,僕はそれを狙いたいんです。
だから世界観はちゃんと作りたいし,ちゃんとしたスタッフで作りたいし,オリジナルにこだわります。アニメなどを通じて知った人から「元々はゲームだったんだ」と言われるような作品にしたいですね。
モバイルゲーム原作のストーリーって,物語も主人公もユーザーの趣向を狙いすぎていると思います。コンテンツとしてちゃんと成立させて,オリジナルとして広がっていって,今度はこのオリジナルが英語圏の世界で勝つ。それがモバイルゲームの価値というか,日本がステップアップするために必要なことだと思います。マイナーではなく,メジャーにしなければならない。そういった意味ではテレビの力も借りながら,海外に発信できたらいいなと思います。
でも,これは狙って達成できるものではなく,「当たるかどうか」なんて分かりませんが,「外れないだろう」というものを作り続けて収益を上げる。そして,たまたまヒットしたり,暴風警報で風に煽られてホームランになったりしない限り,大ブレイクなんてのはありえないので,とにかく作り続けることが大事ですね。当てに行って当てたことないですし。
4Gamer:
もはや精神力との戦いですね。
今泉氏:
そうなんですよ。とにかく持久力。「SHIROBAKO」とかには励まされますよね。
4Gamer:
話が若干脱線しますが,SHIROBAKOのどこに共感されましたか?
今泉氏:
半年間,ずっと3Dで車輪しか描かせてもらえなかったり,私の未来は夢に近づくのか遠ざかるのか分からなかったりといったシーンがあって,僕も映像業界に居たのですごく共感しましたね。エンディングテーマの,毎日を必死に頑張るしかないみたいなメッセージに「そうだよなぁ」と思ったりもして。
4Gamer:
……このままアニメ談義にも華を咲かせたいところなんですが,そろそろお時間のようなので,最後の質問とさせてください。もし3作品とも落ち着いたら,今度はどんなタイトルを作ってみたいですか。
今泉氏:
僕の作るゲームって,あれだけメジャー感が大事だと言っておきながら,どれもマイナーなんですよ(笑)。なので次は,子供向けのゲームを作ってみたいですね。できれば老若男女が遊べるノスタルジーな作品を作れればいいなと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
──2016年4月18日収録
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